転落からの上昇②
「えー、早川雲母さんですよね? お迎えにあがりました。お待たせしてすみません」
自販機の脇で遊んでいたら、声を掛けられた。猫は霊が見えるって、これ本当。
「は? いえいえ」
話には聞いてたけど、いざとなると混乱する。幽体は一体一体、お姫様だっこで運ぶ決まりだそうな。老若男女問わず。
うっわー、はずかしい。でも、ちょっとうれしいかな。
純白の六枚羽、金髪碧眼の天使様は、私と同年代に見える。ギリシャ系の美形。
それだけだったら受け入れ難くて、がっちがちに固まってたと思う。
ただねぇ。男性型、もしくは無性と思われる彼(?)は、目の下に濃い隈をつくり、生え際が少々あやしい。その上、無地のネクタイがよれていたりすれば、気を許さずにはいられない。
「お忙しいところ、お手数をおかけします。よろしくお願いします」
思わず、深々と頭を下げていた。
「いえ、仕事ですから。お気になさらず」
男にしては高い、女にしては低い声。平坦だけど、悪意は感じない。働き過ぎて無感動になるの、わかるわかる。
よっこいせ、と抱え上げられる。そんなに重くはないはずだけど。なにせ幽体だし? でも、疲れてる時は、思わぬところで腰にくるからなぁ。
心配しつつ、私はちょっと眠くなってきた。ほわほわと温泉に入っているようなあったかさに包まれて、上へ上へと昇って行く。
もっと若かったら眼下を眺めて、わぁっと感激したり。老境に入っていたら人生を振り返って、さめざめ泣いたりしたかもしれない
私は、はぁーやれやれ。何はともあれそれなりにがんばったよ私、と自分を全肯定。死後三日間、オール徹夜ではっちゃけてた反動もあり、うとうとしだした。