天上界④
自分にお迎えがきた時、お姫様だっこにうきうきしてたのに、途中から丸っこい玉になって、大事そうに両手で捧げ持たれてたなんて、なんかショックだ。
もっとも、私がそれを客観的に認識できたのは、こうなってからだから、魂たちは気付いてもいないっぽい。
きっちり波長を合わせれば、その記憶や考えを読むことはできるけど、そうでもしなければ、喜んでるな、嫌がってるなって、うっすら感じる程度。私もそうだったけど、彼ら、半分寝てるようなもんだからね。
それでも、いくらこちらの使い勝手がいいからって、せっかくのお姫様だっこからの、採集コンテナはないんじゃないかって、ふと思った。
ええ、指示したのは私です。しかも、気付いたのが、溜まりに溜まってた魂の洗濯も、大分すすんでから。す、すみません。
文句の一つも上がってきてるんじゃないかって、天使たちに確認したけど、意外に、魂たちは嫌がってないらしい。
そう? なら、別にいいのかな。考えてみれば、収穫物はとっても大事なものだもんね。
そう、君らはとっても大事だよ。まん丸のツルツルちゃんたち~。
まあ、私は、亜神になってからは基本人型で、自分の意志で姿を変えることもできるから、下界で寝てる体の成長に合わせて、健康だったらこんな感じって格好をしてるけどね。
なんか、あんまり肉!って感じがしないんだよね。神々みたいにビカビカしてないし、薄ぼんやり燐光を放つ、いかにも精神体って感じ。
でも、やっぱり、私は私なんだよね。
魂の転生がスムーズにいくようになると、今度は別の山が気になる。そう。魂を溜め込んでた神々が、書類を溜めてないはずがない。
なんじゃこりゃぁぁぁぁ!再び。
さすがの神々だって、各世界の隅々まで見てる暇はなかったわけだし、私は多くの世界を把握できないから、現場のことは、天使に報告させるに限る。ここまではよい。
でも、せめて、書式は統一しようよ。
最先端の文明を見る機会もあるはずなのに、不便を選ぶのは、なんでだろうね?
ちらっと聞いてみた感じ、熟れきったものが落ちるのをくり返し目にしてきて、多少の忌避感はあるようだけど、ぜったいに原始的なやり方を変えてなるものか!って、強固なかんじでもない。
ただ、なんとなく、現状を変えることに罪悪感を持っている。仕事が終わらないのは自分のせいだと思い込み、せめて目の前のことくらいは、なんとかこなさなくてはと励んでしまう、その姿勢。
神々や天使たちが、ゆったりした空気を醸し出してるから、勘違いしそうになるけど、これはあれだ。ブラックな職場で使い潰される人特有の思考と行動だ。
うわっ、いーやーだー! 天上界に、夢も希望も休暇もないなんて。
もちろん、私だって、なんでもかんでも合理化すればいいとは思ってないよ? あんまり便利すぎると、あちこち萎えるし、勘も働かなくなるからね。
でも、いまは皆が本調子じゃないし、ちょっと工夫するくらいいいんじゃないかなぁ。お姫様だっこで遊覧飛行は、ぜひ、続けてほしいけど、魂を迎えにいく行きは《転移》するとか。
神様のお許しさえ出れば、それはありがたいけど、天使の力では一日にそう何度も《転移》できない? じゃあ、魔法陣描くよ。
幸い、世界は早々移動しないし、っていうか、天上界から見れば、どの世界も、まったく同じ方角の、同じ距離にある。ただ、次元が違うだけ。
天使は、軽く次元を越えられるけど、目的の世界に行くまでに、百八十回羽ばたかなきゃならないらしい。
えっと。それって、どれくらいなの? バサバサバサが一回で五秒? ああ、羽が三対あるから。十五分程度とも言えるけど、回数を重ねれば結構なロスだよね。
丸覚え、しといてよかった、魔法陣。こちらとあちらは「転生の穴」で繋がってるから、これで《転移》できるはず。
もちろん、ミスリル板も、魔法陣用のインクも、魔球もナノ製で。うん、いけるね。
近頃、地上の某王国で開発された、空気からの魔力自動充填式にするか迷ったけど、それだと魔法陣が大きくなりすぎるから、一部を書き換えて魔球で稼働できるようにした。
下界では、重量と強度の問題で自壊しちゃうサイズの魔球も、ここではつくり放題。
なんなら「転生の穴」を通って行ってもいいんじゃないかと思うけど、飛ぶより時間がかかる上、うっかり転生でもされちゃったら困るので、それは却下。それでなくても、人手不足なんだからさ。
次元には、それぞれ番号が振られてて、実験してみたところ《転移》先の設定は、方角と距離の後にその番号を入れれば、それで問題なくいけることがわかった。
ただ、《転移》先でも、担当区域によっては、結構、移動距離があるんだよね。座標、じゃダメか。くぁっ! 亜神になったからって、距離計算できちゃう自分が嫌だ。できるイコール、面倒に感じないわけじゃない。
まあ、世界が微動だにしないのが救いかな。地球でいえば、確かに自転してるんだけど、天上界から見ると、あくまで周りが動いてるの、オーケー?
ここにも、天使たちの手元にも、物語にあるようなリストなんてものは一枚もなくて、目についた魂を片っ端から回収してるって、衝撃の事実!
天使の権能で、生前の記憶を覗けるから、名前も功罪も一目瞭然なんだ。まあ、後者は魂の濁り具合をみれば、一発だけど。




