魔法の授業①
魔法については、私も、大いに興味がある。まず知りたいのは、できない実践ではなく、その理論。
第一王女が、基本だけ教わって、あとの授業はぶっちしてると聞いたので、代わりに教えてもらいに行った。
白髭のおじいちゃまは、かつては凄腕だったらしいが、戦場で負傷して、目が見えない。
室内訓練場の一角でぽつねんと立ってる姿は、仙人様みたい。
大人っぽい声色で、姉のふりをしてみた。もっとも、彼女が先生に対してどんな話し方をするのかわからない。こちらに教わる気がありますよと伝えたい、ようは気持ちの問題だ。
「先生、質問をしたいのですが。よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
嫌な顔ひとつせず、ものを知らぬ子供にも丁寧に答えてくれる。
「先生。そもそも、魔法とは、どういう現象なのですか?」
「おお、現象ときましたか。私の解釈でよろしいでしょうか、王女様?」
先生が言うには、魔力っていうのは、前世でいう酸素のようなもの。空気中にまんべんなく散らばっていて、命あるものはすべて、それを吸い込んでエネルギーに変えている。
体の維持に利用するだけでおわるのが普通で、それを原料に異変を起こしたものが魔法なんだって。
「先生、動物もできます?」
「それができる動物を魔物と、私たちは呼びます」
肺だけじゃなくて、手のひらや髪の毛、極論、訓練すれば全身どこからでも、魔力は吸収できるらしい。
「でも、先生。それでは、魔法の規模には限界がありますわね?」
なぜか、うれしそうに笑う老師。
「王女様は、鳥に砂袋という器官があるのはご存じですか?」
ああ、あのこりこり。おいしいのよね。じゃなくって。
「餌と一緒に食べてしまった砂を溜めておいて、餌を砕くのに使うと習いました。魔力用のそういう器官が、私たちの体にはあるのですか?」
先生の笑みがますます深くなる。
「その通りです。そして、それは成長期にどれだけ正しく使うかで、大きさが決まるのです」
「正しいとはどういうことですか?」
「魔法は、神様の加護と言われています」
「それは。神様のご意向に沿うということですか?」
「そうなりますな。ただ、人の身でそれを慮るのはなかなかに難しいことです。一歩間違えれば、私のようになります」
重いことをさらっと言うなぁ。たぶん、第一王女じゃないってバレバレだと思う。
《火》魔法の説明は一通り、ほかの魔法についても一つ一つ説明してくれる。
「他人の使う魔法についても、学ぶのはよいことです」
茶目っ気もあるのかな。けしからんって怒ってもいいのに、知らんぷりをしてくれる。ついでに、自分の逃げ道も用意している、なかなかに素敵な先生だね。




