第一章 / 転落からの上昇①
地球の皆さん、こんばんは。アラフォー女、早川雲母です。いわゆるお局様だけど、意地悪じゃないよ。ダメなことをダメって言うだけ。
だから、まさか会社帰りに、駅のホームから突き落とされるとは思わなかった。
いやー、ああいう時は声も出ないもんだね。身も心もぎゅっと縮まって、直後、車両がドカンときた。衝撃だけで痛みを感じず、後のことは覚えてないのが救い。
気付いたらふよふよ浮いてた。眼下には、大忙しの駅員や、野次馬たち。あえてホーム下は見ない。
取り押さえられてる女は、見も知らん人だ。彼女の言によれば、人違いで私を突き落としたんだって。ごめんなさい? ふざけんなって話だが、この時の私は、ほっとしちゃったんだよね。新人の山瀬君、私よりベテランの三上さん、一瞬だけど疑ってごめんよ。
もちろん、やらかした本人が悪いに決まってるんだけど。量産品で適当にコーディネートしてたのもよくなかった。うん。来世があるなら、個性を大事にしよう。
女子高生の地縛霊、高坂ちゃんが言うには、魂の回収は月曜日と木曜日とのこと。私らゴミか。
幸か不幸か、今日は金曜日。暇に飽かして、十体以上の霊と話をした。ほとんど聞き役、赤べこ状態。だって、ほら、ジャッジするのもされるのも嫌じゃない? まあ、霊にもいろいろあるもんだ。
合間につらつら考える。両親には申し訳ないな。でも、死んでしまったものはしようがない。自分のことに限れば、案外この世に未練はなかった。びっくりだ。
まあ、アラサーだったら、大変だった思うよ? 実際、あの頃は結婚相談所に大金つぎ込んでがんばってたし。自分がおかしいのかなーなんて悩んだり。
最近はあきらめも入ってたけど、けっこう満足してた。仕事を抜きにすれば、自分の時間を自由につかえる。
おかげで、映画もドラマも見つくした。小説も漫画も読みつくした。ゲームもやりつくした。もう、目新しいものはそうそう出てこないだろう。
あまり根に持たなかったせいか、私の体(?)は簡単に風に流されてしまう。
駅からも離れ、学校の体育館裏とか、商業ビルの屋上とか。キャッチボールよろしく、あっちの地縛霊から、こっちの幽霊へと吸い寄せられてるうちに、月曜日の朝が来た。そして、天使がきた。




