深夜二時の暴虐的行為
時刻は午前二時を回ろうとしていた。
シンプルな黒枠に白地の壁掛け時計がカチコチと秒を刻む。いつもだったら気にならないそれも、今の私にはなんて耳障りなことだろう。手に持っている携帯電話に映し出されてた写真を再度眺めて眉をひそめる。心なしか胃痛までしてきたような気がして腹部に手を置いた。
どうすれば溜飲が下がるのかなんて明白だ。けれどその行為がいかに暴虐的であるかも重々承知の上で、だからこそ私の腰はこんなにも重い。手を出して仕舞えば最後、きっと後悔することなんて分かりきっているのに脳裏にまで張り付いた画像がこびりついて剥がれないのだ。
「……ヒロくんが悪い」
悔し紛れの独り言は霧散した。でも悩んで小一時間、ようやく覚悟を決め立ち上がる。胸まで伸ばした髪を頭頂で一纏めにし腕をまくる。戸棚から取り出した包丁は夜半のせいか妖しく見えた。
「ヒロくんが悪いんだ」
誰にも伝わらないこの恨み言はどこへ届ければ良いのだろう。震える手で冷蔵庫を開ける。週末仕込んだばかりの自家製チャーシュー。一緒に漬け込んだ半熟煮卵。スーパーの人が切ってくれたパックの刻みネギ。セールに丸々ひと玉を買ったものの使いきれていない少し萎びたキャベツ。そして、ストックしてあったインスタントラーメン。
携帯電話には『ここの坦々麺チョー美味い!』というメッセージと共に送られた写真が雑誌顔負けの美しさ(誤謬ではない。湯気も艶も全て艶やかに写されている様はまさに芸術的に美しい)を抱えて私を殴りにきている。昨今無駄に画質が良いから尚ムカつく。本当、なんて鬱陶しい。
「この時間に飯テロすんじゃないわよ!」
鍋に湯を沸かしてキャベツを刻む。レンチンで火を通して(今思ったけどレンジなのに“火を通す“とは如何に)バットに置いておく。沸騰したら乾麺を鍋に放り込んで、茹でる間にチャーシューを肉厚に切る。大事なことだからもう一度言う。肉厚に切る。
スープはケトルで沸かしたお湯で作っておいて、硬めに茹でた麺を優しく浸す。そうしてキャベツ、チャーシュー、丸ごと煮卵をのせて、スーパーの人が切ってくれたネギを散らせば喉はごくりと無意識になっていた。
インスタント。されどインスタント。写真とは違って湯気が直に頬にあたる。鼻腔を抜けるその香りがたまらない。つやっつやのチャーシュー。箸で割るととろけるたまご。シャキシャキのキャベツ。濃い目のスープを絡めた麺。あぁ、なんて至福……!
ひとり部屋で食べるのにマナーなんて気にしない。ズルズル音立てて、口いっぱいに放り込んで、空になったどんぶりの写真を彼に送り返してようやく、私は温まった胃を撫でほっと息をついた。
サッポ□ラーメンは塩派です。




