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2話

マリー

「それじゃ、ここが、その場所よ。覚えた?」


「ぁ、ああ・・・多分な」


マリー

「地図と携帯も渡しておくから、迷ったら連絡をしてくれればいいわ」


「おう、わかった」


マリー

「・・・緊張してる?」


「・・・少し、な。いきなり明日行けっていうのも、すげーけどな」


マリー

「善は急げ、よ」


「はぁ・・・んじゃ、今日はこれでいいか?」


マリー

「ええ、おつかれさま」




ボブ

「ま、それでも音楽を捨てられなくて、路上で弾いてたってわけだ」


ロゼット

「ボブさんも、色々あったんですね」


ボブ

「そうかぁ?俺はこいつらに比べれば、全然だとおもうぜ?」


ジェシー

「そうかしら?・・・それでも夢を諦めなかったんだからすごいわよ」


アンナ

「そうだよ」


ボブ

「・・・これしか、なかったからよ・・・」


ロゼット

「わかるような気がします、わたしにも、これしか無いなって、思いますから・・・」



マリー

「みんな、話はおわったかしら?」


ボブ

「お?そうだな大体話したな」


ジェシー

「そうね」


アンナ

「うん」


マリー

「そう、よかったわ。それで、ロゼットさん、もう遅い時間だけれど、大丈夫かしら?」


ロゼット

「えっ!?あっ・・・もうこんな時間、すいません、こんな遅くまでお付き合いしていただいて・・・」


アンナ

「ロゼットさんみたく可愛い娘になら全然いいよ!」


ロゼット

「かっ、可愛いだなんて、その・・・」


ジェシー

「・・・アンナ?」


アンナ

「えっ!?」


ジェシー

「・・・・・・」


アンナ

「え、あ、ジェ、シー・・・怒ってる?」


ジェシー

「ええ、アンナってそんなに浮気者だったのね」


アンナ

「そっ、そんなことないよ!わたしはジェシーだけが!」


ロゼット

「あ、あの、えっと、その・・・」


ジェシー

「・・・なぁ~んて、冗談よ」


アンナ

「よ、よかった・・・」


ロゼット

「で、ですね・・・びっくりしました」


ボブ

「もう入って良いかぁ~?・・・とりあえず、あれだ、今日はここまでって事か?」


ロゼット

「そう、ですね、すいません」


マリー

「いいのよ、気をつけて帰ってね」


ロゼット

「はい!あ、あの、マリーさんと子供さん達にも、お話を伺いたいんですけど・・・また別の日に来てもいいですか?」


マリー

「ええ、いいわよ、遠慮しないで。来る前に連絡をくれさえすれば、大丈夫だから」


ロゼット

「ありがとうございます!では、今日はこれで失礼いたします!」


ボブ

「おう!気をつけて帰れよ~」



アンナ

「可愛い娘だったね」


ジェシー

「・・・アンナ、今日は する のよね?」


アンナ

「え、う、うん、ジェシーがよければ・・・」


ジェシー

「そう、じゃあ、今日は私がタチをするわ」


アンナ

「え、あの、、激しいのは、その・・・ね?」


ジェシー

「・・・大丈夫よ、少し、そう、少しだけ痛いくらいにしておくから」


アンナ

「うっ・・・その顔、嘘ついてるときのジェシーの顔だ・・・」


ジェシー

「へぇ~・・・信じられないんだ?私のこと」


アンナ

「っ・・・わ、わかった、よぉ・・・」


ジェシー

「じゃあ、行きましょうか?ね、アンナ」


アンナ

「・・・ぐすん」


ボブ

「・・・あぁ~・・・どんまい!」


マリー

「お盛んね、私達はどうする?」


ボブ

「どうするって?」


ジョシュア

「ただいまー!」


マリア

「ただいまーその2!」


ボブ

「おっ!帰ってきたか!ちょうどいいタイミングだな」


マリア

「あら?インタビュー終わっちゃったの?」


マリー

「ええ、ちょうど今ね」


ジョシュア

「ちぇ~、ボク達も話に混ざろうと思ってたのに~」


マリー

「また、今度来るとき、私の話と、あなたたちの話も聞きたいって言ってたわよ」


マリア

「ほんと!?」


ジョシュア

「うーん、でもいざ考えてみると、話すことなんてあるかなー?」


マリア

「そうねぇ~、私達が連れて来た人で問題を起こした人はいないものねー」


ボブ

「ま、そんとき考えればいいんじゃねーか?」


マリー

「わたしは、あなたとの事を話すわ」


ボブ

「え、、マジかよ・・・こっぱずかしいぜ・・・」


マリー

「聞かれたら、ね。ふふ、さ、ご飯の支度しちゃうわね」


ボブ

「おう!腹減ったな~」




「んでもって、あっと言う間に、その日の朝なわけだが・・・はぁ、さて、行くかね~」


「っと、その前に、電話しておくか・・・」


マリー

「おはよう、今から行くのね」


「ああ、今から出るぜ」


マリー

「わかったわ、それじゃあお願いね。それと・・・こっちの都合の良い日を伝えておくわ」


「・・・おう、わかった、そういっておくぜ」


マリー

「ええ、気をつけてね」





シルフィリア

「おはよう、テオくん」


テオ

「おはようございます」


シルフィリア

「朝ごはんの用意するね」


テオ

時計もない、電話も無い。まるで中世のまま、時が止まったような場所・・・。

それが、不思議とすごく落ち着いた。

それに子供の賑やかさも、なんだか、いいな。



シルフィリア

「出来たよ」


テオ

「あ、運ぶの手伝いますよ」


シルフィリア

「ありがとう、テオくん」


テオ

「あの、シルフィリアさん」


シルフィリア

「ん?なに」


テオ

「テオで、いいですよ。みんなそう呼ぶし」


シルフィリア

「うん、わかった」



「さて、と・・・ここか、しかし、こりゃブドウか?すげー数だな。ま、いっか、どれ・・・」


シルフィリア

「はい」


「あ、おう・・・打ち合わせつーか、連絡つーか・・・」


シルフィリア

「ごくろうさまです。入ってください」


「ぁ、ああ」


テオ

「シルフィリアさん、誰か来たの?」


シルフィリア

「うん」


シーリア

「だれ~?」


ルイ

「お客なんて、珍しいね」


ロナ

「人が来るって言うと、ワインの変わりに、食べ物を持って来る人くらいかしら?」


ルイ

「後は、お医者さんと患者さんくらいだね」


ウルフリック

「まぁ、ねーちゃんって、たまにどっか出かけるからな」


ガキがいるとかいってたけど、、5人も居るのか?

てか、どいつもこいつも、それなりにでけーじゃねーか・・・。

特に、こいつなんて・・・。


テオ

「なに?おじさん」


「ぁ?いや、お前ら、こいつの子供、なんだよな?」


ルイ

「そうだよ」


「ぁ~・・・一体幾つで産んだんだ?」


ロナ

「自分で生んだ以外の事は考えなかったんだ?」


「あん?」


ウルフリック

「おれは捨てられて、ここを見つけたんだ」


ロナ

「わたしも、小さいときに、ここに置き去りにされたわ、親が教会と間違えたみたい」


ルイ

「ぼくは、DVされて、逃げてきた」


「ああ、孤児院みたいなもんか・・・」


シルフィリア

「みんな・・・」


「なんで、お前らがそれを知ってるんだよ?・・・お前、話したのか」


シルフィリア

「・・・・・・」


「そういうことは普通隠すもんじゃねーのかよ?」


ルイ

「おねぇちゃんを責めないでよ。自分から聞いたんだよ」


ロナ

「自分でも、おかしいって思うでしょ?・・・それに、小さくてもなんとなく、覚えてたもの」


ウルフリック

「おれの場合は先にここにきてたからな、他の奴らがここに住むようになったの見てるからな」


シーリア

「あたちも、、捨てられたの・・・?」


シルフィリア

「みんな、もうその話はやめよう?ね?」


「そうだな、そんなことをする為に来たわけじゃねーんだった」


シルフィリア

「そこに座ってください、いま、お茶をもってきます」


「おお・・・。よっと・・・」


テオ

「見事にやり込められたね、おじさん」


「ほんとにな、、お前もそうなのか?」


テオ

「・・・おれは、数日前に来たばかりだから」


「そうか、ま、人それぞれあるわな」


テオ

「まぁね」


「ぁ~、ところでよ、お前、こん中で一番年上だろ?」


テオ

「そうだね」


「10歳くらいか?お前」


テオ

「12だよ、おじさん」


「そっか、、あいつも16だよな」


テオ

「シルフィリアさんの歳は聞いてないから、知らないよ」


「俺は聞いたんだよ」


テオ

「女の人に歳を聞くなんて、おじさん、モテないでしょ?」


「うるせーな。でよ、聞きたいんだけどよ、お前、あいつと居て、何にも感じねーのか?」


テオ

「お前じゃなくて、テオって名前があるんだけど?」


「なんでもいいじゃねーか、で、どうなんだよ?」


テオ

「おれは・・・」


「他のガキはどうかしらねーが、お前は最近まで外にいたんだろ?ならわかるだろ?

 あいつが、そこらへんに居るような女じゃ太刀打ちできねーくらいなのは」


テオ

「それは・・・」


シルフィリア

「お待たせしました、はい、どうぞ」


「おお、ん、こりゃ・・・アプリコットか?」


シルフィリア

「そうです」


「んっ・・・うまいな、自家製か?」


シルフィリア

「そうです、お口にあってよかった」


「なぁ、お前さ」


シルフィリア

「はい」


「あー、なんだ、タメ口でいいぜ?俺がそうなんだからよ」


シルフィリア

「そう、ですか」


「だから、タメでいいって、」


シルフィリア

「あの・・・」


「あん?」


シルフィリア

「タメ口って、どんなのですか?」


「んあ?・・・あー、まぁ、そうだな、同じ目線の相手と話すみたいな、って、まぁ、俺よりはましな言葉使い程度でいいってことだよ!」


シルフィリア

「・・・わかった」


「おう、それでいい。俺もそっちのが話しやすいからな」


シルフィリア

「それで、歌のことなんだけれど」


「おう、お前んとこは、いつでも良いんだろうから、こっちが大丈夫な日を伝えておくぜ」


シルフィリア

「お願い」



「・・・と、まぁ、この日なら大丈夫だ」


シルフィリア

「わかった、それじゃあ、その日の、お昼くらいでいいかな?」


「昼、だな・・・OKOK、わかったぜ」


シルフィリア

「お願いね」


「おう、っと。もう一杯もらって良いか?」


シルフィリア

「まってね、今もって来るから」



「さてと、んじゃ、邪魔したな」


シルフィリア

「・・・一つ、だけ、言わせて。みんな、わたしの大切な子供たちだから」


「なぁ、誰かに手伝ってもらうとか、したほうがいいぜ?」


シルフィリア

「・・・そう、だね」


「みたところよ、テレビも無ければ、なんにもねーじゃねーか?世間に出ていけねーぞ、これじゃ」


シルフィリア

「・・・12歳くらいになったら、学校に行かせようって話はしてるから」


「その前の勉強とかは、どうするんだよ?基礎ができてねーと、入れるわけねーだろ」


ルイ

「おじさん・・・まぁ、いいか」


ロナ

「馬鹿にされてるわね~」


ウルフリック

「おっちゃんさ、二次関数ってわかる?」


「・・・はっ?」


ルイ

「ウルはまだ、わかってないけど、ぼくはできるよ?あと、ハイスクールで習うくらいの文学史とかね」


ロナ

「わたしも、ある程度できるわよ?ルイが一番だけれど」


「・・・マジかよ」


ウルフリック

「おれは、全然だけど、ルイなら説明できるから、聞くかー?」


「いや、正直、聞いてもわけわんねーからいいや」


テオ

「また、やり込められたね、おじさん」


「やれやれ、形無しだな・・・。にしても、すごい数のブドウだな」


シルフィリア

「ワインを造ってるから」


「ワインか、いいな、よかったら飲ませてくれよ」


シルフィリア

「・・・車、だよね?」


「ああ、そうだった、な」


シルフィリア

「よかったら、もって行く?」


「お、いいのか?じゃあ数本もらうぜ」


シルフィリア

「はい、どうぞ」


「おう、ありがたく貰っとくぜ。ところでよシルフィリア」


シルフィリア

「なに?」


「ぎこちないのな」


シルフィリア

「ぇ?」


「しゃべりかた、だよ」


シルフィリア

「・・・そう、かな」


「ま、慣れだな、そんじゃーな」


シルフィリア

「んっ・・・」


ウルフリック

「ねーちゃんの頭を気安くポンポンすな!!このダメおやじ!!」



ルイ

「それで、おねぇちゃん。ここに誰かを呼ぶの?」


シルフィリア

「小さな世界っていう建物があって、頼んだら歌を歌ってくれるんだって、だから、お願いしてみたんだ」


ウルフリック

「うたかぁ~、面白そうだな!」


シルフィリア

「楽器とかも弾いてくれるっていうから、みんな楽しみにしててね」


ロナ

「へぇ~、それは楽しみね」


テオ

「あの、シルフィリアさんって、歌とか歌うんですか?」


シルフィリア

「え?・・・うん、たまに歌うよ」


ウルフリック

「・・・ねーちゃん、歌、すげーうまいぜ?」


ロナ

「ウルが音痴すぎるのよ」


ルイ

「他の人のは、聞いたことは無いけれど・・・ぼく達も歌ってみたけど、全然違うよ」


テオ

「それは君達がまだ子供、だからじゃない?」


ロナ

「そうかしら?・・・テオは歌とか聞くんでしょ?」


テオ

「まぁ、テレビとかで聞いたことはあるよ」


ウルフリック

「じゃよ、そのテレビってのに出てる奴と、どっちが上手いか、お前聞いて決めてくれよ!」


シルフィリア

「もう、みんな・・・じゃあ、寝る前に、歌うね」


シーリア

「おうたーおうたー!」




「おう、戻って来たぜ」


マリー

「あら、おつかれさま。どうだった?」


「・・・この日の昼に来てくれってよ」


マリー

「わかった、ボブ達に伝えておくわ」


「なぁ、10歳いかないくらいのやつが、二次関数って、できるのか?」


マリー

「普通は、無理よ・・・どうかしたの?」


「いや・・・シルフィリアの所のガキに、な、勉強とかどうすんだ、ったらよ・・・やり返されてな」


マリー

「なるほどね、シルフィリアちゃんが教えてのね、きっと」


「そうだろうな・・・。ったく、形無し感、半端なかったぜ?」


マリー

「あらあら、よかったら、二次関数のほかにも、ベクトル解析とかルベーグ積分とかあるけど・・・聞く?」


「あー、やめてくれ、頭がイカレる」


マリー

「ボブにもそういわれたわね、ふふ」




シルフィリア

「みんな、ベットに入ったね。それじゃあ、歌うね」


テオ

シルフィリアさんが歌ったのは、アメイジング・グレイス。

力強い、なのに、クリスタルのような響きをもった声。

綺麗に伸びる声、綺麗に震える声、感情の入り方も、、すごかった・・・。


ウルフリック

「どうだ~?テオ~」


テオ

「・・・比較にならないよ」


ルイ

「ん?それって、どういう意味?」


シルフィリア

「ぁ、ごめんね、だめ、だった?」


テオ

「違います、逆です・・・。すごすぎて、比較にならないです」


ロナ

「それって、有名な人よりも上手いってこと?」


テオ

「うん、すぐにでも、プロになれるよ、絶対・・・」


シルフィリア

「ありがとう、テオ。さ、みんな、もう寝よう」


テオ

そういって、シルフィリアさんは、みんなが寝るまで、そこに居て、自分の寝室にいった。

おれは、眠れないでいた・・・。

シルフィリアさんの歌は、それだけ、すごかった。




マリー

「はい、小さな世界です。・・・あ、ロゼットさんね」


ロゼット

「はい、あの、少し遅くなってしまいましたけど、、マリーさんの話をお聞きしたくて」


マリー

「ええ、いいわよ、この日なんてどうかしら?」


ロゼット

「はい、わかりました」


マリー

「あ、だけど、その日は、みんな用事があるから、私と、子供たちしかいないのよ。だから、受付が見える位置になっちゃうけど、いいかしら?」


ロゼット

「はい、全然いいです!」


マリー

「わかったわ、それじゃあ、気をつけてきてね」


ロゼット

「はい!」




テオ

あのおじさんに、シルフィリアさんのことを聞かれてから・・・。

おれは、それを意識している自分が居るのをはっきりと、感じていた。

こうやって、一緒に寝ているときなんて、特に・・・でも、おれはそうやって寝ることが出来るのが嬉しかった。


シルフィリア

「テオ、眠れないの?」


テオ

「ぁ、だ、大丈夫です」


シルフィリア

「本当に?」


テオ

「は、はい・・・。シルフィリアさん、気にしないで寝てください」


シルフィリア

「うん、ごめんね、じゃあ、先に寝るね・・・」


テオ

おれは、静かな寝息をたてはじめたシルフィリアさんの顔を見ていた。

綺麗なピンク色の唇、すごく整った顔。

流れるような金色の髪・・・。

おじさんの言ったとおり、勿論そんなこと当たり前に気がついていたけど、

シルフィリアさんは、美人とか、可愛いとか、そんな一言では片付けられないくらいだ。


テオ

「シルフィリア、、さ・・・。ん、シルフィリア・・・」


シルフィリア

「んっ・・・」


テオ

聞こえないのをいいことに呼び捨てにして、その体を抱きしめた。

・・・柔らかくて、暖かくて、落ち着いて・・・。


テオ

「って、おれは、、なにしてるんだ・・・ね、寝よう!」




「っと、んじゃ、用意はいいか?」


ボブ

「おう、いいぜ」


ジェシー

「いいわよ」


アンナ

「わたしも」


マリー

「それじゃ、みんないってらっしゃい」


ジョシュア

「いってらっしゃーい」


マリア

「いってらっしゃーい!その2!」


ボブ

「んじゃ、運転頼むぜ!」


「おう」


ジェシー

「事故らないでよ?」


「わかってるって」


アンナ

「ふふ、ねぇ、これから行くところって、どんなとこなの?」


「白い教会みたいな建物だな、ガキが5人とシルフィリアってのが住んでるぜ」


ジェシー

「でも、電話も無いのよね?不便じゃない?」


「まぁなぁ、、それは、俺も思ったぜ」


ボブ

「マリーから聞いたけどよ、すげーかわいいんだろ?そのシルフィリアって娘」


「ああ、驚くと思うぜ」




ロゼット

「マリーさん!来ました!」


マリー

「いらっしゃい、こっちに来て」


ロゼット

「はい!・・・えっと、それじゃあ、いきなりなんですけど、マリーさんの過去とか聞いても、いいですか?」


マリー

「そうねぇ、わたしは、生活保護を受ける前は、普通に働いていたのだけれど、長続きしなかったのよ」


ロゼット

「そう、なんですか?なんででしょうか?」


マリー

「セクハラされたら、平気で上司に平手打ちをしたりね」


ロゼット

「それは、相手が悪いと思います、けど・・・」


マリー

「それに関してはね。でも、他でも長続きしなかったのよ。仕事を覚えるのはそれなりだったんだけれど、、なんでかしらね。ふと虚しくなるというか」


ロゼット

「虚しく、ですか・・・」


マリー

「ええ、どうして、私、こんなことしてるんだろう?無理してがんばって仕事覚えて、、何になるんだろう?なんて、そんなことばかり考えちゃってね」


ロゼット

「私も、そんなこと考えたことがあります・・・だから、こうやって好きな事をしだしたんです」


マリー

「いいことよ。でね、それから、仕事をやめて、貯金を崩して、使い切って、生活保護を申請して・・・とんとん拍子にダメになっていったわね」


ロゼット

「・・・ダメなんでしょうか?」


マリー

「誉められたものじゃないわね、で、何もしないのもいけないなって感じて、ボランティアを少しずつ始めてみたのよ」


ロゼット

「ボランティアですか、いいですね!」


マリー

「そっちは、不思議と続いたのよね・・・金銭が発生しない分、無理せず出来たのもあるのかも」


ロゼット

「お金ですか・・・確かに、それは、あるかもしれないですね」


マリー

「そうね・・・。っと、そろそろあの子達も、来ると思うんだけれど・・・」


ロゼット

「子供さんたちですね、お話を聞きたいです!」


ジョシュア

「あ、もうきてたんだね、ジョシュアです、よろしく」


マリア

「インタビューの人ね!マリアよ、よろしくね!」


マリー

「来たわね、呼びに行こうとしてたのよ」


ロゼット

「ロゼットです。よろしくおねがいします!」


ジョシュア

「どんな話をしてたの?」


マリー

「私の過去のことね」


マリア

「パパのプロポーズとかは?」


マリー

「そこは、まだよ」


ロゼット

「それ、聞きたいですね!どうやって、結婚までいったんですか!?」


マリー

「あ~あ、聞かれちゃった」


ロゼット

「あ、ダメ、でしたか?」


ジョシュア

「元々話すつもりだった癖に~」


マリー

「ふふ、そうね」


ロゼット

「なら、きかせてください!」


マリー

「いつもボランティアに行く道があったんだけれど・・・」


マリー

「そこで、ある日から、ボブがギターを弾きはじめたのよ。最初は、素通りしていたわ」




マリー

(またあの人、ギター弾いてるわ)


マリー

(今日も、弾いてる・・・)


マリー

(今日も・・・)


マリー

「いい音楽ね」


ボブ

「おう、ありがとな」


マリー

「あー、もっと聞いてみたいけど、これから行くところがあるから」


ボブ

「またぜひ来てくれよ!」




ロゼット

「マリーさんから声をかけたんですね!」


マリー

「ええ、そうよ。その後も、何度か声をかけて・・・。名前を教えあうようになって・・・」



ボブ

「お、また来てくれたのか、マリー」


マリー

「ねぇ、ボブ、よかったら、家に来てみる?ご馳走するわよ」


ボブ

「お、いいのか?悪いな!」



マリー

「はい、ステーキとサーモンのマリネ、と、オニオンスープよ」


ボブ

「おお、こいつは、、豪華だな!」


マリー

「お肉が安かったから、さ、食べて」


ボブ

「おう、貰うぜ!」



マリー

「・・・ねぇ、いつもあそこでギターを弾いているけれど、仕事とかしてないの?」


ボブ

「あー・・・無職だな」


マリー

「そう・・・どうやって暮らしてるの?」


ボブ

「仲間と暮らしてるぜ」


マリー

「仲間?」


ボブ

「牧師さんと、ジェシーとアンナと、俺の4人で一緒に住んでるんだ」


マリー

「そうなの、その、牧師さんって、クリスチャンの人?」


ボブ

「いや、違うな。俺と同じ無職だし、多分、無神論者だ。金は牧師さんの生活保護から、出してもらっているんだ。だから牧師さんってのは、まぁ、あだ名だな」


マリー

「生活保護、なのね・・・」


ボブ

「ああ、牧師さんだけな。だから、俺は、少しでも稼げるようにこうして、ギター弾いてるんだけどな、まぁ、一回の飯代がいいとこさ」



ロゼット

「家にもマリーさんから誘ったんですか!?」


マリー

「ええ、そうよ」


マリア

「パパのどこがよかったの?」


マリー

「ふふ、そうね、子供みたいなところかな」


ジョシュア

「それって、いいところ?」


マリー

「悪い子供みたいなのなら、相手になんてしないわよ」


ロゼット

「そうですよね」


マリー

「そのあとも、何度かあって・・・。泊まって行くようにもなって」




ボブ

「マリーも、生活保護だった、よな?」


マリー

「ええ、そうよ、話したとおり」


ボブ

「なぁ、俺の仲間を紹介したいんだ」


マリー

「いいの?」


ボブ

「ああ、その・・・」


マリー

「なに?」


ボブ

「愛してるとか、ガラじゃねーけどよ・・・俺、お前が好きだ、愛してる」


マリー

「ふふ」


ボブ

「・・・お前は、どうだ?」


マリー

「好きでもない男と寝るような女に見える?」


ボブ

「ぁ、それって、つまり・・・」


マリー

「イエス、よ」


ボブ

「ほ、本当か!?」


マリー

「本当よ・・・」


ボブ

「お、おう!・・・っしゃーーー!!」


マリー

「ふふ、ね、もう一回しましょ?」


ボブ

「ぉ、おうっ!」



ロゼット

「うわぁぁああストレートですね~、しかも、その、、えっと」


ジョシュア

「セックスの時に、でしょ?」


マリア

「もう!兄様デリカシーないわ!レディーたちの前なのに」


マリー

「そうよジョシュア」


ジョシュア

「ごめんなさーい!」


マリア

「でも、パパとママが結婚したのって私達が小さい頃よね?」


マリー

「そうよ、覚えてるの?」


ジョシュア

「4歳くらいの時だからねぇ・・・後で写真見て、薄っすらとあったかなーくらいだね」


マリア

「わたしも、そのくらいよ」


ロゼット

「結婚したのは、遅かったんですね」


マリー

「そうなのよ、生活保護のままじゃ、ね・・・。ボブから告白された後、あの人を紹介されたわ」


ロゼット

「牧師さん、ですね」


マリー

「ええ・・・あの人は、そうね、優しかった」


マリア

「アリとキリギリスの話をしたのよね!」


マリー

「ええ、そう」


ロゼット

「アリとキリギリスですか?その話なら、私も知ってます」


マリー

「そう、でね、わたしは言ったのよ、あの人に、あなたはミツバチなんじゃないかって」


ロゼット

「ミツバチですか?」


マリー

「ええ、アリでもキリギリスでもなく、ミツバチ・・・」


ジョシュア

「一見なんの役にも立たないことをしているミツバチだけれど、ミツバチが居なければ、草花の種は運ばれず芽吹かない。だよね」


マリー

「そうよ」


ロゼット

「へぇ、なんか良い話ですね」


マリー

「他にも、色々な話をしたわね、ベーシックインカムとかの話とか」


マリア

「わたしは、パパから善きサマリア人の話を聞いたわ!」


ロゼット

「善きサマリア人、クリスチャンなら誰でも知ってますよね」


ジョシュア

「うん。でも、それを実行できる人って、どれくらい居るかな?」


ロゼット

「ですよね・・・私がその立場になったら・・・考えちゃいます」


マリー

「そう、あの人は、それが出来た人。私達に子供が出来たときも、募金をしてお金を集めてくれたわ」


ロゼット

「すごい、人ですね」


マリー

「あの人は、そうは思ってないでしょうね」


ロゼット

「でも、それってすごいことですよ?」


マリー

「あの人はそういう人よ」


ロゼット

「前に来た時は、聞けなかったですけど・・・。ジェシーさんの歌を聞いて、なんとなく、察しました・・・もう、その人は・・・」


マリー

「ええ、居ないわ、この世のどこにもね」


ロゼット

「事故か、なにかだったんですか・・・?」


マリー

「いいえ、殺されたのよ」


ロゼット

「っ!・・・え・・・?」


マリー

「ちょうど、募金をしていた場所だったわ」


ロゼット

「・・・そう、だったんですね」


マリー

「ええ、良い話では無いわね。でも、あの人の死が、私達がここを作るきっかけになったのよ」


ロゼット

「・・・きっかけにしては、重すぎます、よ・・・」


マリー

「あの人が死ぬことによって、やっと、動けるようになった・・・あの人は・・・」


マリア

「ママ」


マリー

「平気、大丈夫よ」


ロゼット

「すいません、辛い話を、させてしまって・・・」


マリー

「いいのよ」


ロゼット

「ぅ・・・っ・・・。だからボブさん、たち、牧師さんの事、最後まで話すことを、避けて、いたんですね」


マリー

「ふふ、察しがいいのね。それに感受性もすごく高いのね。はい、ハンカチ」


ロゼット

「ありがとう、ございます」


マリー

「さ、あとはあなた達の番よ。この空気が吹き飛ぶような話とかあるかしら?」


ジョシュア

「うーん、やっぱり、話すことってなんかあるかなー?」


マリア

「そうね~、人を選ぶ秘訣!みたいなのとか、どうかしら!」


ロゼット

「っ・・・。いいですね!聞きたいです!」



「うっし、着いたぜ」


ボブ

「ここかぁ~」


アンナ

「静かでいいところだね」


ジェシー

「ここは一面、ブドウ畑、ね」



「おーい、きたぜー!」


シルフィリア

「あ、ごくろうさま」


ボブ

「・・・こいつは、確かに、、可愛いな!」


シルフィリア

「え?」


ジェシー

「ぼーぶ?」


アンナ

「いきなりそんな事いったら、びっくりするよ」


ジェシー

「驚かせてごめんね」


シルフィリア

「ぁ、はい、大丈夫です」


ジェシー

「でも、、すごく可愛いわね、貴女」


シルフィリア

「あ、あの・・・」


アンナ

「・・・ジェシー?」


ジェシー

「あら、アンナもそう思うでしょ?」


アンア

「思うけど、さ・・・。ほんとに、私じゃ勝ち目、ないよ」


ジェシー

「わたしも勝てないわね」


シルフィリア

「あ、えっと・・・」


テオ

「ん、その人たちがそうなの?」


アンナ

「わたしはアンナよろしくね」


ジェシー

「ジェシーよ」


ボブ

「俺はボブってんだ!よろしくな!」


シルフィリア

「あ、ごめんなさい、どうぞ入ってください」


シーリア

「おうたー!」


ロナ

「楽しみね!」


ルイ

「そうだね」


アンナ

「ほんとだ、子供が居るよ。かわいいね、ジェシー」


ジェシー

「そうね」


ウルフリック

「よっしゃ!歌が楽しみだぜ!」


シルフィリア

「ここで、演奏とか出来そうですか?」


ボブ

「おお、十分十分」


ジェシー

「そうね」


アンナ

「うん、じゃあ、準備しちゃうね」


シルフィリア

「はい、お願いします」



ボブ

「よっしゃ!んじゃいくぜー!」


アンナ

「うん、いいよ!」


ジェシー

「いいわよ」



ウルフリック

「おー!!」


ルイ

「演奏って、かっこいいね」


ロナ

「そうね!」


シーリア

「おうたー!」



テオ

そのまま、次の曲へと続いて、4曲目の歌がおわった。

・・・確かに、上手いけど・・・。


ボブ

「少し休憩挟むか」


アンナ

「そうだね」


ジェシー

「そうね」


シルフィリア

「あ、お茶、用意しますね」


「おう!俺の分も頼むぜ!」



シルフィリア

「お待たせしました」


アンナ

「ありがとう、これ、ブルーベリーのいい匂いがするね」


シルフィリア

「そうです。ブルーベリーの香りを付けてみました」


ボブ

「お、いい匂いだな。飲ませてもらうぜ!」


ジェシー

「そうね。わたしもいただくわ。・・・美味しいわね」


シルフィリア

「よかった」


「今回のも美味いな」



アンナ

「歌、どうだった?」


ウルフリック

「よかったぜ!」


ルイ

「うん、楽器の演奏とか、いいなって思ったよ」


ボブ

「おっ!そうか、いいだろ!お前等も、やってみるといいぜ!」


ロナ

「いつか、ね」


シーリア

「おうたー、おねぇちゃんも、うたえるおー」


ジェシー

「そうなの」


ボブ

「おっ!そいつは聞いてみたいな!」


テオ

「・・・シルフィリアさんの方がうまいよ」


シルフィリア

「ぇ、テオ?」


テオ

「ほんとのことだよ」


ジェシー

「・・・それなら、聞かせてもらいましょうか?」


シルフィリア

「あ、えっと・・・」


アンナ

「ジェシー」


ジェシー

「なによ?わたしは聞きたいだけよ」


ウルフリック

「そうだな!この人たち、ぷろ?なんだろ!じゃあ、聞いてもらおうぜ!」


ルイ

「そうだね、ぼくも正直、おねぇちゃんのが上手いと思ったよ」


ロナ

「わたしは、嫌いじゃないわよ?ジェシーさんの歌、でも・・・」


ボブ

「子供は辛辣だな、おい」


「本当にな、得にここの奴等は・・・」


シルフィリア

「みんな、そんな事言ったらダメだよ・・・折角きてもらったのに・・・」


シーリア

「おねぇちゃんの、おうたーきくー」


ジェシー

「歌うの?歌わないの?」


シルフィリア

「ぇ、あ・・・歌って、みます・・・」


ジェシー

「歌は、オリジナル?それとも、何かの曲?キーボード持ってきてるから、ある程度なら、弾けるわよ」


シルフィリア

「あの、それじゃあ、さっき歌ってもらった歌の、歌詞とか書いてあるのを貸してもらっていいですか?」


ボブ

「ああ、あれ歌うのか?」


シルフィリア

「あの、すごく、よかったので、実際にあった話ですよね?」


アンナ

「うん、そうだよ」


「おんなじの歌うとか、喧嘩売ってる感じだな、おい」


シルフィリア

「ぇ、あ、そ、それなら、、あの、別の、でも・・・」


ジェシー

「いいわよ、別に。はいこれ、歌詞」


シルフィリア

「ごめんなさい、ありがとうございます」


ボブ

「っと、準備はいいか?」


シルフィリア

「はい、大丈夫です」


テオ

曲が始まって、シルフィリアさんが、歌う。

ギターとキーボード、そして、ベースの音。

それにも全然負けていないくらいの声量で、歌う。

みんなが歌に耳を傾ける。

歌も中盤に差し掛かったとき、バン!という大きな音がして、音楽と歌が一斉に止まった。



シルフィリア

「あ、あの・・・」


ジェシー

「・・・っ・・・ごめんなさい」


アンナ

「ジェシー?」


ジェシー

「・・・完敗よ、というか、それだけ歌える人は、プロでも中々いないわよ?」


ボブ

「・・・やばいよな」


ジェシー

「アンナ、レコーダー、もってきてるかしら?」


アンナ

「え、うん、あるよ」


ジェシー

「ねぇ、別の歌なんだけれど、よかったら、撮らせてくれないかしら?」


シルフィリア

「ぇ?あ、はい、歌を撮るんですよね?」


ジェシー

「そうよ、録音させてもらうわ」




ロゼット

「今日もありがとうございました」


マリー

「こっちもありがとう」


ジョシュア

「あー、面白かった」


マリア

「そうね!」


ロゼット

「あの、また来ても、いいですか?」


マリー

「ええ、いつでも来てね」


ロゼット

「はい、では今日はこれで!ありがとうございました!」




シルフィリア

「ありがとうございました。あの、良かったら、晩御飯、食べていってください」


「だってよ?勿論食ってくよな?」


ボブ

「おう!貰うぜ!」


ジェシー

「ええ、いいなら頂くわ」


アンナ

「うん、わたしもお腹すいちゃった」


シルフィリア

「あの、お酒、呑める人はいますか?」


「俺は、車の運転手だからなぁ・・・また、貰って行ってもいいか?」


アンナ

シルフィリアちゃんが出してくれた料理は、ビーフシチューとフランスパンとポテトサラダだった。

あとは、運転をする彼には悪いけれど、ワインを1杯貰うことにした。


ボブ

「家のマリーのも美味いけど、これも美味いな!」


「確かに、美味いな、また食いに来てもいいか?」


シルフィリア

「いいですよ」


「おい、俺のときは、そうじゃねーだろ?」


シルフィリア

「ぇ?・・・いいよ」


「そうだ、それでいい」


ボブ

「お前は何を言わせてるんだよ・・・」


「堅苦しいのは苦手なんだよ」


ボブ

「ま、それはわかるけどな」


ジェシー

「ねぇ、貴女、、プロとかになる気はない?オーディションに出るとか・・・」


シルフィリア

「あの、そういうこと、よくわからないですから・・・」


アンナ

「もったいないよ」




ボブ

「んじゃ、ご馳走様だったぜ!」


アンナ

「美味しかったよ、ご馳走様」


ジェシー

「ねぇ、あなたのこの歌、、勝手に使わせてもらっても良い?」


シルフィリア

「え?えっと・・・はい・・・」


「んじゃ、帰るか」


シルフィリア

「あ、まって・・・はい、これ」


「おっ、そうだったな、貰ってくぜ」



テオ

その後も、そのおじさんは、何度もここにやってきた。

シルフィリアさんとも、子供たちとも仲良くなっていった。

正直、すこし、嫉妬した。


テオ

「おじさん、仕事しなくていいの?」


「ああ?これも仕事だぜ?」


テオ

「ほんとに?」


「さぁてな・・・。あいつ、いるか?」


テオ

「自分で探しなよ」


「あーいよ」


テオ

「・・・シルフィリアさんに会いたいだけじゃないか・・・」



「お、いたいた。なぁ、ちょっと、いいか?」


シルフィリア

「なに?」


「テオいるだろ?あいつ、貸して貰っても良いか?」


シルフィリア

「・・・どういうこと?」


「ああ、俺が今居るところでな、俺の手伝いに使いてーんだ」


シルフィリア

「わたしは、テオがいいって言うなら、いいよ」


「おう、そのかわり、何か手伝って欲しいことがあったら、テオに伝えておいてくれ、車があるからある程度はいけるからよ」


シルフィリア

「うん、わかった。ありがとう」



「おう、テオ」


テオ

「話はおわったの?おじさん」



「まぁな、所でよ、俺が手伝いさせてもらってるとこ、来てみるか?」


テオ

「え?いきなり、なんで・・・?」


「お前12だろ?あいつも言ってたろ、12になったらって、だから、まぁ、自立の為って言うかな・・・。社会化見学だ」


テオ

「でも、おれ・・・」


「それによ、ここの奴らにも紹介できるかも知れねーだろ?お前が先発隊ってことでな?どうだ?」


テオ

「・・・うん」




ロゼット

「そんなこともあったんですね!」


マリー

「そうなのよ、、あ、そうだわ、もう一人新しく、ここを手伝ってくれる人が居るのよ」


ロゼット

「そうなんですか?あってみたいです!」


マリー

「口は悪いけど、ボブとは違った意味で、ガキ大将みたいな人よ。似てるからかしらね、ボブは特に気に入っているみたい」


ロゼット

「あはは!あ、、今日はもう行かないと、また話を聞かせてください!」


マリー

「ええ、また来てね」




「うし、ついたぜ」


テオ

「でも、やっぱり・・・」


「今更なんだよ?頼れるところは多いほうがいいぜ」


ロゼット

「あれ?今の人・・・どこかで・・・。気のせいかな?」




「てなわけでよ、よかったら、こいつを、まぁ、俺の助手で使っても良いか?」


マリー

「それは、シルフィリアちゃんに言うべきことじゃない?」


「あいつの許しは得てるぜ」


テオ

「そう、なの?」


「ああ、お前がよければ、だけどな」


テオ

「・・・おれ、何していいかわかんないよ?」


「いや、それは、俺も同じだ。つい最近入ったばかりだからな」



ボブ

そうやって、あいつが連れて来た、このテオとか言う坊主。

話してみると、意外と生意気なことがわかった。

あいつによると、シルフィリアの前では、大人しいんだそうだ。

言われてみると、女の前では大人しいかもしれねぇな・・・。


テオ

おじさんに言われて、おれはこの小さな世界を手伝うことになった。

ジェシーさんやマリーさんにアンナさんの手伝いもしたりした。

この施設にいる人たちとも、話をしてみたりした。

色んな世界があるんだなぁ・・・。


アンナ

ボブや彼の前では、結構生意気らしいけど・・・。

わたしやマリー、ジェシーとか女性の前では生意気な面はみせない。


ジェシー

それがなぜなのか・・・。なんとなく分かった。

きっと、テオには母親が居なかったのだろう。


俺とテオの仕事は、主に、シルフィリアの造ったワインを配りに行ったりとかだったが。

小さな世界の仕事も勿論あったが、ボブ達を演奏する場所に連れていくような送り迎えだ。

暇なときは、テオを色んな所に連れて行ったりした。



テオ

「シルフィリアさんとも一緒にきたかったな」


「お?なんだ、俺とじゃ不服だってか?」


テオ

「あたりまえだよ、おじさん」


「ったく・・・。ま、でも、確かに、あいつも連れていきてーな」


テオ

「みんな連れてきちゃえば、いけるよね」


「そうだな、シーリア・・・あいつがもう少し大きくなったら、そうするか」


テオ

「そうだね」


テオ

「ねぇ、おじさん」


「あん?」


テオ

「なんで、おれを助手にしたの?年齢以外で」


「そうだな・・・なんとなく、似てると思ってな」


テオ

「おじさんと?」


「ああ」


テオ

「・・・そっか」


「んじゃ、また頼むぜ」


テオ

「うん、おじさんもまたね」


シルフィリア

「おかえり、テオ」


テオ

「シルフィリアさん、ただいま」




ユライプ

「テオー・・・ここにいたのかぁ・・・。だめじゃないかぁ、家出して、こんな所でぇ・・・あの女がおいたをしたんだねぇ」




テオ

それから数日後、今日は、病気の人たちが来て、診断と治療薬の注射を受ける日だ。

医者も勿論来ていて、特に何の問題なく終わった。

患者さんからお礼を言われたりして、少し、戸惑ったけど・・・。

おれとシルフィリアさんにお礼を言ってその医者も最後に帰っていった。


テオ

「結構、遅くなっちゃいましたね」


シルフィリア

「そうだね、ごめんね、遅くまで」


テオ

「いいんです」


シーリア

「・・・おちっこ・・・」


テオ

「シーリア、起きちゃったのか、トイレだね、いこっか」


シーリア

「うん」


シルフィリア

「下のほうの片付けしてくるね・・・シーリアのこと、お願いね」


テオ

「はい、シーリアが寝たら、手伝いに行きます」


シルフィリア

「うん、ありがとう」


テオ

患者の注射針とか普通は医者が処分する物のはずなのに、

シルフィリアさんにとってはいつものことなのだろう、片付ける為に下へと降りていった。



シルフィリア

「ここは、これでいいかな・・・」


シルフィリア

消毒液に漬けられた注射針を怪我をしないように丈夫な袋の中に入れていく。

・・・そのなかに、使ってない針と、消毒液に漬け忘れた針が数本あった。

そんなことは初めてだった。お医者さんも疲れているんだろうな。

そう思っていたら、部屋の扉が開く。


シルフィリア

「・・・テオ?」


ユライプ

「おまえかぁ~、テオを連れて行ったのは」


シルフィリア

「ぇ・・・っ、テオのお父さん、ですか?」


ユライプ

「そうだよ?君が連れていった、テオの父親だよぉ!!」


シルフィリア

「!?」


ユライプ

「綺麗だな・・・そうかぁ、そうかぁ!!」


シルフィリア

「・・・っ」


ユライプ

「テオは、どこだぁ?ここにいるんだろう?」


シルフィリア

「いまの、あなたには、会わせられません」


ユライプ

「生意気な女だなぁ・・・だが、確かに美しいなぁ・・・」


シルフィリア

「っ・・・!」


ユライプ

「形の良い胸だなぁ・・・もっとよくみせておくれ!!」


シルフィリア

「ぁうっ!!」


ユライプ

「あはは、きれいだなぁ・・・。お前達をずっとみてたからなぁ・・・わかってるんだぞぉ?」


シルフィリア

「・・・テオには、会わせられません」


ユライプ

「良い眼だ、綺麗だなぁ・・・。それで息子を誑かしたんだな!!!」


シルフィリア

「っ・・・!!」


ユライプ

「ぁあ、すまない、女性を殴るなんて、いけないよなぁ・・・。でも、お前が悪いんだぞ?」


シルフィリア

「!!やめ、、てっ・・・」


ユライプ

「なんだぁ~?テオともしたんだろう?父親のわたしもいいじゃないかぁ~」


シルフィリア

「あなたは、っ!」


ユライプ

「あは、あはははは!ひゃははあははーーー!!!・・・ぐふぉ!?」


シルフィリア

「・・・っ・・・」


ユライプ

「・・・いけないなぁ・・・大人を蹴るだなんてぇ、痛いじゃないかね?ふひっ・・・お仕置きが必要だなぁ」


シルフィリア

「可哀そうな、人・・・」


ユライプ

「ぁあ?何か言ったかねぇ?・・・ん~?これは注射針かぁ~、いいねぇ~、これだぁ、これを使おう」


シルフィリア

「ぅ・・っ・・」


ユライプ

「まずは、一本・・・」


シルフィリア

「くっ!・・・っ・・・」


ユライプ

「2本・・・」




シルフィリア

「ぁ!・・・・ぁぁぁ、っ・・・」


ユライプ

「綺麗な胸が、針の山になってしまったねぇ~」


シルフィリア

「っ!!・・・っ・・・」


ユライプ

「なんだぁ?まだそんな眼で見るのかぁ?・・・このまま握りつぶしてやろうなぁ、痛いだろうなぁ・・・」


シルフィリア

「ひっ・・・っあぁぁあああああああ!!!」


ユライプ

「良い声だぁ・・・感じてしまうじゃないかぁ、もっと聞かせておくれぇ」



テオ

「ひ、めい?シルフィリアさんっ!!」


ユライプ

「・・・テオぉ、だめじゃないかぁ・・・ずっと探していたのにぃ」


テオ

「と、う、さん・・・」


シルフィリア

「・・・ぅっ・・・テ、オ・・・?」


テオ

「とう、さん・・・っ・・・」


ユライプ

「この女に、無理やり監禁されたんだろ~?さぁ、おいで、悪い女へのお仕置きは済んだからね・・・」


テオ

「・・・!!シルフィリアさんから、離れろ!!」


ユライプ

「なんだぁ、父親にむかっt」


テオ

「離れろよ!!でないと、でないと、お前を殺してやる!!!」


ユライプ

「・・・ころすぅ?いけない子だなぁ、テオぉおおお!!」


テオ

「ひ・・・う、うぁあああああ!!」


シルフィリア

「っ・・・だめっ!テオっ!!」


ユライプ

「ぐっ!!テオォォオォオオ!!!」


テオ

「うあっ!!・・・ぐぁ!!」


シルフィリア

「・・・っ、やめて!!!!」


ユライプ

「・・・ぁ~?」


テオ

「はぁ、はぁ・・・」


シルフィリア

「・・・あなたも、帰って、ください・・・テオは、今のあなたには、渡せません」


ユライプ

「また、その眼かぁ・・・にがてだなぁ・・・強い奴の眼だなぁ・・・」


テオ

「・・・このっ!!シルフィリアさんっ!」


ユライプ

「ぅっ・・・ぁぁ。痛い、痛いなぁ・・・。あいつも・・・そんな眼をする、女だった、、なぁ・・・」


テオ

俺に突き飛ばされた父さんは、立ち上がると、何かを呟きながらフラフラと出て行った・・・。


シルフィリア

「ごめんね、大きな声だして・・・怖かったよね」


テオ

「怖くなんて、ないです!!」


シルフィリア

「よかった・・・」


テオ

「シルフィリア、さん・・・っ!、胸の、それ、血ですよね!?」


シルフィリア

「・・・平気」


テオ

「で、でも!!」


シルフィリア

「・・・ごめんね、少し、まって、て・・・」


テオ

シルフィリアさんは胸元を隠しながら、おれに背を向ける。


シルフィリア

「・・・んっ・・・っ・・・は、、んっ・・・」


テオ

部屋は薄暗くて、シルフィリアさんは背を向けているから、よくわからなかったけど、苦しそうな声が聞こえる。

おれの方に振り向くまで、暫く、押し殺したような声が聞こえた。


シルフィリア

「・・・ごめん、ね・・・」


テオ

「ごめん、なさい。おれの、おれの、とう、さん・・・が・・・」


シルフィリア

「私は、大丈夫、大丈夫だから・・・」


テオ

おれを抱きしめて、そういうシルフィリアさんの体は、震えていた。


シルフィリア

「ぁ、顔に、ついちゃった、かな・・・?ごめんね」


テオ

「っ・・・うっ・・・ぐず・・・」


シルフィリア

「・・・。みんなには、内緒・・・ね?」


テオ

耳元で囁かれたその言葉に、おれは黙って頷いた。



シルフィリア

「みんな、おはよう」


テオ

「おは、よう・・・」


ロナ

「あれ・・・?おねぇちゃん、お顔どうしたの?」


シルフィリア

「ぇ?あ、ちょっと、ぶつけちゃったの」


ルイ

「本当に?」


シルフィリア

「本当は違うの・・・ごめんね、嘘ついちゃった」


ウルフリック

「言いたくないなら、いいぜ!」


テオ

「ぅ・・・」


シーリア

「おねぇ、ちゃん、どうかちたの?」


シルフィリア

「ううん、なんでもないよ、大丈夫」


シルフィリア

「洗濯物、干してくるね」


シーリア

「あたちも、いくー」


シルフィリア

「うん」



ウルフリック

「・・・お前、何か知ってるだろ」


テオ

「知らない、よ」


ロナ

「おねぇちゃんから、言わないでって言われたんでしょ?」


テオ

「っ!」


ルイ

「おねぇちゃんと同じで、嘘が下手だね」


テオ

「・・・ごめん」


ルイ

「それじゃ、しょうがないね」


ロナ

「そうね。さて、わたしも洗濯物、手伝ってくるわ」




「おう、手伝いに来たぜ」


シルフィリア

「ありがとう、それじゃあ、それ、運んでもらっていい?」


「おう」


テオ

日に日に、シルフィリアさんの顔色が悪くなっていく・・・。

みんなの前でも隠そうとしてるけど、無理をしているのがわかる。



ルイ

「おねぇちゃん、大丈夫?顔色、悪いよ」


シルフィリア

「ぇ?大丈夫、ごめんね、すこし気分が良くないみたい」


ウルフリック

「ほんとうかー?無理はだめだぞ?」


シルフィリア

「うん、ごめんね、ありがとう」




シルフィリア

「っ・・・はぁ、はぁ・・・くっ」


シルフィリア

(・・・みんなには、みせ、られないな・・・心配、させちゃう)




「なぁ、あいつ、時々苦しそうな顔してないか?」


テオ

「っ・・・そ、そう、、かな」


「・・・いや、気のせいならいいんだ」


シルフィリア

「・・・みんな、ごは、、ん・・・」


「お、おい!!」


テオ

「シルフィリアさん!?」


子供たち

「おねぇちゃん!?」


「ちょっとまて、電話・・・ちっ、圏外かよ!!」


テオ

「ど、どうしよう」


「俺が運んで病院に連れて行く!車もあるからな!」


テオ

「まって、おれも!!」


「お前は、このガキ共をみてろ!後で迎えに来る!」




シルフィリア

「・・・っ、、ぁ・・・わた、し・・・」


「おう、気がついたか・・・待ってろ。今病院に連れて行くからな」


シルフィリア

「・・・倒れ、たんだね・・・わたし・・・」


「ああ、まぁ、病院にいきゃ、なんか、わかるだろ・・・」




シルフィリアを病院に連れて行った後、医者の話を聞いた。

俺は電話をかけて、全員を呼んだあとで、そのことを話した。


テオ

「言わないでって言われたけど・・・けどっ!」


テオ

おれは、あの時に何があったのか全部話した。


テオ

「きっと、そのときに、父さんに、なにか、されたんだ・・・」


ジェシー

「・・・エイズ患者の注射針を刺されたんだわ。それしか、考えられないわ」


ボブ

「エイズって、そんなに早く発症するもんじゃねーだろ!!」


「医者から聞いたんだ、新種なんだとさ・・・発病から発症まで、あっと言う間で、発症してから死ぬまではもっと早いらしい」


アンナ

「それって、治らないの?」


「・・・あぁ、普通のエイズは治る可能性はあるみたいだが、これはダメらしい。感染したら、終わり、なんだとさ・・・」


テオ

「おれの、おれの、せいだ・・・おれが、もっと早く、みんなに、いって、病院に・・・」


「言ったろ?感染したらもう終わりなんだよ」


テオ

「なんで、そんなに冷静なんだよ・・・シルフィリアさんのこと、好きだったんじゃないのかよ」


「・・・俺にも、わかんねーよ」


マリー

「シルフィリアちゃんの家の子供たちをどうするか、考えないといけないわね・・・」


アンナ

「こっちに連れて来る事って出来ないの?」


マリー

「ええ、それは考えているわ」


ボブ

「その間は、、俺達が面倒を見るか」


マリー

「そうね・・・でも、今のままだと長くは無理だろうから、そういう機関にも手伝ってもらえないか、連絡してみるわ」


アンナ

「そっか・・・うまくいくといいけど」


「で、お前はどうする?」


テオ

「おれ、もう、あそこには帰れないよ・・・」


「そっか・・・なら俺の家に来いよ」


テオ

「・・・うん」


「落ち着いたら、ちゃんと戻って訳を話せ。・・・きついけどな」


テオ

「・・・うん」



テオ

そうやって、おじさんの家に住むことになった、小さな世界の手伝いを一緒にしながら。

暫くたった頃、家に帰った後で、二人で話をしているとき、お互いの家族の話になった。

おじさんの過去の話も、おれの過去の話もしあった。

その話をするうちに、名前の由来についての話をすることになった・・・。




「俺の名前の話なんだけどよ」


テオ

「うん」


「昔な、飛行機事故があったんだ。エア・フロリダ90便墜落事故 っていってな」


「極寒の川に生存者の6人が投げ出された。雪のせいで交通も麻痺してたらしくてな、救助隊が来るのが遅れたんだ」


「レスキュー隊が遅れる中、公園管理の警察パトロール隊が吹雪の中20分かけて、そこにたどり着いた」


「それから救助ヘリは6人に向かって、ロープを投げた」


「弱っていた奴から救助されていった。そいつは2番目にロープを投げられたんだ」


「だけどな、他の奴に譲っちまった。救助のヘリの奴もなんで譲ってしまうんだ?と思ったらしい」


「最終的にそいつは、5人全てにロープを手渡した」


「6人目のそいつを救助するヘリが戻ってきたときは、そいつの姿はもう無かったらしい」


テオ

「人のために、自分を犠牲に出来る人だったんだね」


「ああ、そうだ。けどよ、そいつの名前をもらった俺はどうだ?情けなくてよ、その名前で呼ばれんのが嫌になったのさ」


テオ

「そうだったんだ・・・」


「でもよ、ここでこうやってると、そんなに考えすぎなくてもいいかなって思えてきちまうぜ」


テオ

「いいんじゃないかな」


「ちっぽけなことで、悩んでたんだな~、俺・・・。母親から貰った名前、好きだったのにな」


テオ

「・・・じゃあ、おれの名前の由来も話すよ」


テオ

「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホって知ってる?」


「ああ、あの有名な、、画家だろ?」


テオ

「そう。それで、おれの名前はテオドルスのテオからとられたんだ」


「テオドルス?」


テオ

「テオドルスっていうのは、テオドルス・ヴァン・ゴッホっていってね、ヴィンセントの弟だった人なんだ」


テオ

「自分は結婚もして、家庭を持っているのに、画家を目指してふらふらしている兄に尽くした人で・・・」


テオ

「奥さんが止めるのにもかかわらず、兄の描く絵は僕の誇りなんだ、みたいなこといって、援助し続けた」


テオ

「ヴィンセントが無職で画家を続けても、大丈夫だったのは弟のおかげだったんだ」


テオ

「弟のテオドルスは兄である、ヴィンセントを早くから認めていたみたいでさ、いつか認められるって」


テオ

「テオドルスの絵を見る目は確かだった見たいで、画商として売っていた絵は モネ、ルノワール、ゴーギャン、ドガ、ロートレック、ルドン がいたみたいだよ」


テオ

「上司にはくだらない絵って言われてたみたいだけれどね」


テオ

「でも、ヴィンセントが生きているときに、売れた絵って、実は一枚だけなんだよ。売れ出したのは死んでからなんだって」


テオ

「兄が死ぬと、テオドルスも希望をなくしたように衰弱していって、その次の年に死んだんだ・・・墓は、同じところにあるらしいよ」


テオ

「でもさ、おれの家系は、こんなだからさ、頼れる家族とか欲しかったな」


「じゃあ、俺が兄貴になってやるよ」


テオ

「なんだよ、それ」


「ああ、やっぱりあれか?こんな兄貴は嫌だとでもいうつもりか?」


テオ

「そんなことないけど・・・まぁ、しばらくはおじさんね」


「可愛げの無いやつだなぁ」


テオ

「・・・ねぇ、明日、シルフィリアさんのお見舞いに連れて行ってくれない?」


「ああ?いつも行ってるじゃねーか」


テオ

「そうじゃなくて、二人だけで、話したいから・・・」


「ぁあ?・・・しょうがねーな」




テオ

「じゃ、おじさん、お願い」


「おう」



「ついたぜ、俺はここで待ってるからよ」


テオ

「ありがとう、おじさん」


「おう、ほれ、行って来い」




テオ

「シルフィリアさん」


シルフィリア

「テオ、いらっしゃい」


シルフィリア

「・・・みんな、大丈夫かな」


テオ

「ボブさん達が、面倒をみてくれるから、平気だよ」


シルフィリア

「そっか・・・今度来てくれたときに、お礼、言わないと」


テオ

「・・・シルフィリアさん」


シルフィリア

「うん、どうしたの?」


テオ

「抱いても、いいですか?」


シルフィリア

「え?」


テオ

「・・・なら、前、見たく、抱きしめてください」


シルフィリア

「ぁ、うん、いいよ」



テオ

「ん・・・シルフィリアさん、おれも、男ですよ?」


シルフィリア

「テオ?」


テオ

「一緒に寝てるときとか、我慢、してたんですよ・・・?」


シルフィリア

「・・・テオ・・っ・・んっ!!んんっ・・・っ!!」


テオ

「ぐっ!・・・っ、おれは!おれは、シルフィリアさんの事が好きです」


シルフィリア

「はぁ、はぁ・・・駄目・・・駄目、テオ」


テオ

「・・・・・・」


シルフィリア

「ごめんね、怪我、してない?」


テオ

「抱きしめないでよ、そんなことしないでよっ!嫌いなら、そうだって言ってよ!!なんでそうやってっ、勘違いさせないでよ!おれは好きなんだよ!本当に!病気でもなんでもいいから!一緒に死ねるならそれでも、いいから、いいから・・・っ・・・うぅぅ」


シルフィリア

「ごめんね・・・」


テオ

「謝らないでよ・・・おれに未練のこさせるつもり?」




「おう、戻ってきたか」


テオ

「・・・・・・」


「どうしたぁ~?元気ないな」


テオ

「別に・・・なんでもないよ」




マリー

「シルフィリアちゃん、具合は、どう?」


シルフィリア

「マリーさん、そんなには、苦しくないです」


ジョシュア

「へぇ、おねぇさんが、シルフィリアさんかぁ。ボクはジョシュア」


マリア

「はじめまして、マリアです」


シルフィリア

「よろしくね」


マリー

「あなたの子供たちの事が心配だったから、ボブ達を行かせたんだけれど、あなた、ちゃんとやっていたのね。もう手伝いの人が来ていたわ」


シルフィリア

「ご迷惑をお掛けして、ごめんなさい」


マリー

「いいのよ」


ジョシュア

「その人たちって、信用できるの?」


シルフィリア

「できます」


マリア

「そう。なら、わたし達の出番はないのね~」


シルフィリア

「そんなことはないです、テオの事もそうですけれど、すごく助かってます」


マリア

「それなら、いいのだけれど・・・」


シルフィリア

「テオのこと・・・子供たちのこと、お願いします。」


マリー

「ええ、できるだけのことはするわ」


シルフィリア

「ありがとうございます。・・・子供たちのこと、よろしくおねがいします」



ジョシュア

もう一度、そういった、シルフィリアさんの瞳は、慈愛に溢れた母の瞳だった。

・・・ボクは、その瞳に恋をした。


マリア

お見舞いに行って、少しだけ話をした。

たったそれだけの、こと・・・。

でも、わたしも兄様もわかった。

シルフィリアさんは、とっても強くて、優しい人だって。

わたし達、人を見る眼は、あるの。

だから、間違いないわ。




シルフィリア

「・・・いきなり電話してごめんね。・・・お願いがあるんだけど、いいかな?」


シルフィリア

「・・・もう、そろそろ駄目かもしれないから・・・。うん、だから・・・もっと大きな病院?・・・ありがとう、でも自分のことだから、わかるよ」


シルフィリア

「だから、その時は、みんなに連絡して欲しいの。うん、ごめんね」


シルフィリア

「そんなこと言わないで・・・。それに私がお願いしたことだから」


シルフィリア

「ごめんね・・・子供達の事、お願いね・・・。私の家?・・・そう、だね。必要な人にあげて欲しいな」


シルフィリア

「それと、小さな世界って知ってるかな?・・・うん、できるだけ力になってあげて欲しいの」


シルフィリア

「・・・やり方は任せるよ。うん、ありがとう、お願い」



テオ

おれが、告白をしたときから、数日、あの時は、歩くことはできたのに・・・。

もう、シルフィリアさんは、ベットから起き上がることも出来なくなった・・・。


「・・・今度は、俺がお前に頼んでいいか?」


テオ

「なに?おじさん」


「お前と同じことさ。あいつと、二人で話したい」


テオ

「・・・いいよ、行ってきなよ、ここで待ってるから」




「苦しいか?」


シルフィリア

「・・・だい、じょうぶ・・・」


「辛いときは、そう言って良いからな?」


シルフィリア

「心配、かけさせちゃって、ごめん、ね」


「謝るなよ、お前は別に何も謝ることなんかしてねーよ」


シルフィリア

「そう、なのかな?・・・テオにも、あなた、にも、謝って、ばかり、だった、ね」


「なぁ、こんな時に、なんだけどさ・・・。俺、お前の事が好きだ、愛してる」


シルフィリア

「・・・ごめんなさ、い・・・」


「答えはNO・・・か」


シルフィリア

「ありがとう、その気持ちだけ、でも、本当に、嬉しい」


「嬉しいとかいうなよ、未練が残るじゃねーか」


シルフィリア

「ご、めんね・・・テ、オにも、おなじ、こと、いわれちゃっ・・・た・・・」


「そっか、まぁ、それがお前の・・・。・・・おい?」


シルフィリア

「・・・・・・」



「っ!お、おい!おいっ!しっかりしろ!おい!シルフィリアっ!」



テオ

その後、みんなが呼ばれて集まった。

だけど、シルフィリアさんは、そのまま、二度と目覚めることはなかった・・・。


テオ

「・・・シルフィリア、さん」


「おう、大丈夫か?」


テオ

「・・・・・・」


「大丈夫なわけ、ねーか」


ジェシー

「もう、あの歌声は聴けないのね」


アンナ

「うん・・・でもさ、ほら、録音、しておいたから・・・遺って、るよ」


ボブ

「なんで、だろうな・・・。牧師さんが死んだときは違って、なんか、な・・・」


マリー

「まだ、この娘のこと良く知らなかったもの・・・」


ボブ

「そうじゃなくてよ、なんか、こう・・・。怒りじゃなくてよ、すげぇ、なんていうかな・・・」


アンナ

「どうしてなんだろう、なんで、こんな娘が・・・そういうやるせない感覚と・・・駄目だ、わたしもうまく言えないや」


ジョシュア

「ボク達は、シルフィリアさんのことをあまりよく知らなかった、だから、これくらいですんでるんだろうね」


マリア

「・・・兄様、でも、わたし、涙が・・・でてきちゃって・・・っ・・・」


ジョシュア

「優しいね、マリアは」


ジェシー

「私達にとっては、人事ひとごとかも、しれないけれど、あの二人は・・・どうかしらね。それに、子供達も・・・」


アンナ

「人事、かもしれないね、、でも、泣いてるじゃん、ジェシー」


マリー

「覚悟をしていたかどうかの違い、よ・・・それでも、駄目なものは駄目だけれど」


アンナ

「あの子達に、なんて話そう・・・」


ボブ

「・・・もう、会えないって、そういうしかねーだろう」


マリア

「呼んであげたほうがいいと思うの」


ジョシュア

「ボクもそう思う」


ジェシー

「そうね、年齢の割にはしっかりしてるから・・・大丈夫よ、きっと・・・」


ジョシュア

「ボクちょっと、外の空気吸ってくるね」


マリア

「わたしも行くわ」


ジョシュア

「ごめん、マリア、すぐ戻るから・・・」


マリア

「・・・うん」



マリア

・・・兄様が出て行ってからすぐに、私はその後を追った。

病院を出て、少しだけ歩いた所でお兄様は足を止める。 誰も居ない、静かな場所。そこにあった木の根元に縋り付く様にうずくまって・・・。 ・・・兄様が泣くのを見るのは、初めてだった・・・。


ジョシュア

「・・・っ・・・・ぅ、、ぅっ・・・・」


マリア

「兄様・・・」



テオ

その後、孤児院のみんなを連れて来た。

シーリアは、泣き叫んだ。

ウルフリックも、ルイも、ロナも、泣いた・・・。

おれは、、みんなの顔が見れなかった・・・。


アンナ

シルフィリアちゃんの葬式には、本当に色んな人が来ていた。

政界の人や財閥の人も居たかもしれない。

テオから聞いた医者も・・・。その人は責任をすごく感じていた。

あの時に自分がちゃんと針を処理していればって・・・。


ジェシー

そしてこれは、ルイから聞いた話。

その医者は免許こそもっていたけれど、そっちの世界での評判は良くは無いみたいだった。

正確に言えば、爪弾き者。

自分で開発したワクチンを病気の人に打っていた。

だけど、人を治したいという思いは本物だった。

患者も、それを承知の上で医者の所に通っていたみたい。

だからシルフィリアおねぇちゃんは場所を貸していたんだって。


マリー

一体シルフィリアちゃんが、どんな世界で生きていて、どんな人脈を持っていたのかはわからない。

生まれた場所も、どんな風に育ったのかも知らない。確かなのは、これだけの人脈とそれだけ慕われる生き方をしていたということだけ・・・。

私達が思っているよりも、ずっと、あの娘はすごい娘だったのだろう。




「葬式もすんだし・・・これで終わったな」


テオ

「本当に、冷静だね・・・」


「自分でも驚いてるな」


テオ

「人を殺したことがあると、感じ方も変わるのかな」


「あ?・・・さぁなぁ」


テオ

「今のは、殴ってもいいと思うよ」


「そんなの散々いわれたからな、慣れてきたよ」


テオ

「ごめん。たださ、悲しいときって、さ・・・。強ければ、こんな気持ちにならないですむのかなって・・・」


「それは、強さなのか?」


テオ

「わかんないや」


「・・・ほれ、悲しい時は泣けよ」


テオ

「っ・・・子ども扱い、するなよ」


「実際、ガキだろうが」


テオ

「・・・やっぱり、泣けないや」


「そっか・・・」


テオ

「みんなが来るまで、シルフィリアさんと二人で居たんだよね?ずるいや」


「あぁ・・・でもな、フラれちまったよ」


テオ

「そっか、じゃ、仲間だね」


「なんだ?お前も告ったのか?あぁ、あん時か・・・。まぁ、好きなんだろうとは思ってたけどな・・・。んじゃ、フラれた者同士、仲良く二人で呑むか?」


テオ

「おれ、まだ子供だよ?おじさん」


「わかってるよ、だからみんなには内緒な?・・・それにアルコール度数は低いやつだ、まぁ、付き合えよ」



テオ

「でさ、無理やりキスしちゃった・・・」


「ああぁ?無理やりだぁ?そいつはいけねーな!」


テオ

「あだっ!・・・勢いで・・・さ」


「ったく・・・っと、そうだ」


テオ

「どうしたの?」


「ほれ、これ、お前に渡しておくぜ」


テオ

「これ、シルフィリアさんのワイン?」


「ああ、まだワインの味なんてわかんねーだろ?・・・分かるようになったら呑んで見ろ、美味いぜ」


テオ

「・・・うん」


「ま、いまはこの酒で我慢しろ、ほれ、もっと呑め!」




テオ

「うぅ~、なんだか、フラフラしてきた・・・」


「ははっ!酔ったのか?ほーれ、あーんしろ、食わせてやるよ~」


テオ

「こ、子ども扱いしゅるなよな!」


「げひゃひゃ!噛んでやんの!しゅる~だって、可愛いね~!」


テオ

「う、うるしゃいな!!」


「ははっ!・・・ま、もう普通の飲みもんにしたほうがいいな」


テオ

「・・・お母さんみたいだったんだ、シルフィリアさん・・・」


「そんなものかもな、男は母親に恋をする、女は父親に恋をする。ま、円満な家庭なら、だけどな」


テオ

「おれ、母さんのこと良く知らないから・・・」


「俺は、親父をまったくしらねーな」


テオ

「やっぱり、似てるね、おれたち」


「はっ!・・・ふぅ、そうだな」


テオ

「・・・悲しいね」


「そうだな」


テオ

「・・・おれが、悪いのかな・・・」


「あん?」


テオ

「シルフィリアさんの所に、逃げ込まなければ・・・」


「お前のせいなんかじゃねー・・・ん?」


テオ

「どうしたの?」


「いま、窓に人影が・・・っ!」


テオ

「お、おじさん!」


「くそっ!やっぱりだ、覗いてやがったあいつ!」


テオ

「と、とうさん!?」


「ああ、まちがいねー!追いかけるぞ!」




ユライプ

「ひっ!!」


「追いついたぞ、こら!」


ユライプ

「テオ、あぁ、テオ・・・そんな危険そうな奴といないで、私と、、なぁ、テオっ!」


テオ

「っ!・・・も、もうやめてよ!父さん!」


ユライプ

「だめじゃないか、、テオ、、父さんの言うこと聞かないと、、だめだろぉおお!!」


「っ!この野郎!?っ、父親なら、父親ならなぁ!!」


ユライプ

「ヒッ!!・・・ぐあっ!」


「もっと、息子を見てやれよ!?愛してやれよ!!」


ユライプ

「グっ!・・・がっ!・・・」


テオ

「もう、もういいよ!おじさん、父さんが死んじゃうよ!!」


「ちっ、しょうがねぇなぁ」


ユライプ

「・・・アイシテイル、トモ・・・アイシテ、あい・・・」


テオ

何かをつぶやきながら、父さんは、ゆっくりと立ち上がった。

・・・破裂するような、乾いた音がした・・・。


「あ?・・・っ・・・」


ユライプ

「愛しているとも、愛して、アイして・・なぁ、テオ・・・」


テオ

「とう、、さん・・・」


ユライプ

「あひゃ・・・ヒッ、、ヒヒャヒャヒャァァアアアーーー!!」


テオ

「と、とうさんっ!!・・・っ!お、おじさん、大丈夫!?」


「へへ、撃たれ、ちまったよ・・・。あちゃー、こりゃ駄目かも、な・・・」


テオ

「だ、大丈夫だよ、駄目なんかじゃないよ!」


「ちっ・・・あいつと同じところだ・・・因果応報って、やつ、かね・・・」


テオ

「アーランドっ!!駄目だよ、すぐに、すぐに救急車呼ぶから!だから!」


「あっち、では、あいつが、待っててくれてるだろうからな、、お前より、先に、モーション、かけ、とく、ぜ・・・」


テオ

「兄さんっ!兄さ・・・っ・・・。なんでみんな・・・こんなの・・・。おれ、なにか悪い事したのかよ・・・なんっ!?」


テオ

父さんが走っていった方から、続けざまに、さっきと同じ音がした・・・。

銃声を聞いて駆けつけた警官隊に、父さんが撃たれた音だった・・・。


マリー

警察から、連絡があって、テオが連れて来られた・・・。


ボブ

「あいつは、どうなったんだ?」


マリー

「その場で、死亡が確認されたって・・・」


ボブ

「マジかよ・・・っ!テオは・・・どうした?」


アンナ

「こっちに、いるよ」


ジェシー

「けど・・・」


テオ

「ボク、ガ、イキ、てる、から・・・」


マリー

テオの心は壊れてしまっていた。父親、初恋の人、そして、兄弟の様になった親友を一度に失って・・・。


テオ

「イラ、ナイ、コ・・・ナ・・ン・・ダ」


アンナ

言葉もうまく喋れなくなった。


テオ

「ボク・・・ガ・・・ダカラ・・・イタインダ・・・ツラインダ・・・」



ボブ

あいつは、縛りつけてでもおかないと、フラフラと歩いて行っては高い場所を探して飛び降りようとした。

俺達がギリギリで見つけて捕まえたり、そうでなくても、ここにいる仲間達や、みつけた奴が通報してくれたり、止めたりしたお陰で助かっていた。

それを止めるために部屋に閉じこめて見張っていたらいたで、舌を噛み千切ろうとするわ、ガラスを割って首を掻き切ろうとするわ・・・。

その度に、俺達は力ずくで止めていた。



アンナ

最初は、力ずくで止めると、急に元気が無くなって、座り込んで大人しくなっていた。

けど、、すこし言葉が戻ってきた頃から、思いっきり抵抗して暴れるようになった。


ジェシー

それからも付きっきりの日々が続いた。小さな世界のみんなも手伝ってくれたりするけど・・・。

暴れて怪我人が出ることもあった。

テオを殴りつける人まで出てきて、精神状態が不安定になってしまう人も居た。

マリーはそんな人たちには自分の事を考えてと言ってテオから離れさせた。



ジョシュア

「・・・しばらくボク達は休業、かな」


マリア

「そうね、テオが良くなるまで、見てなくちゃ」


マリー

「ええ、お願い。病院にも連れて行かないといけないかもしれないわね」


アンナ

「・・・きっと、監禁病棟に入れられちゃうよ」


ジェシー

「そうね、けど、そうでもしないと・・・」


マリー

「みんなの意見は?」


ボブ

「俺は・・・ここで見るほうがいいと思うぜ」


アンナ

「わたしも、そう思う」


ジェシー

「・・・簡単じゃないわよ?わかってる?」


アンナ

「でもさ、嫌だよ・・・私なら、嫌だよ・・・」


ボブ

「俺だって、嫌だぜ」


ジェシー

「何かあったら、どうするの?」


マリー

「・・・そうならないように、見張っておきましょう、交代で・・・」


ジェシー

「手、縛ったりしたほうがいいわよ」


アンナ

「ジェシー!・・・そんなの駄目だよ」


ジェシー

「アンナ、今までのテオを見たでしょ?」


アンナ

「そう、だけど、さ」


ボブ

「・・・いや、確かにそのほうがいいかも知れねぇな・・・暴れられた時とかよ、俺ならいいけど、お前達じゃ危ないだろ?」


マリー

「・・・気が進まないけれど、そうね」


マリア

「かわいそう・・・」


ジョシュア

「今のテオは動物みたいなものだよ、猛獣は縛り付けておかないと」


マリア

「兄様、動物は言いすぎよ」


ボブ

「俺達も、暫くは休業かもな」


ジェシー

「そうね」


アンナ

「うん」


マリー

「・・・あなた達にはしてほしい事があるのよ」


ボブ

「お、なんだ?」


マリー

「シルフィリアちゃんの住んでた家のことなんだけれど」


ジェシー

「あの家ね」


マリー

「ええ、引き取り手が居ないから競売にかけられるかもって・・・だから、私達が引き取ろうかって思ってるのよ」


ボブ

「なるほどな、白亜の家、か。そういえば、子供達はどうしたんだ?」


マリー

「・・・ここには子供が少ないから、前に話した通りに、子供を引き取ろうかとも思ったの・・・けど、駄目だったわ」


アンナ

「じゃあ、別の施設に・・・?」


マリー

「ええ・・・だから、その子達が戻ってこられるように、大きくなったら、戻ってこられるように、しておきたいのよ」


ボブ

「はぁ、面倒を少し見たくらいじゃ、ダメってことか」


マリー

「そうね、ちゃんとした孤児院じゃないからって・・・。シルフィリアちゃんと、約束、したのに・・・」


ボブ

「お前が思いつめることじゃねーよ・・・それにその新しい所も、シルフィリアの奴が頼んでおいたんじゃねーか?」


マリー

「ええ、そうね、そうよね・・・」


ジェシー

「家は、なんとかなったのよね?・・・それなら、いいじゃない。それこそ、歌を歌ったりするのに使えるでしょうし」


ボブ

「そうだな。まぁ、使い方は後で別に、考えるとして・・・俺達も数える程度しかいってねぇからなぁ・・・。荒れてるのか?」


マリー

「いいえ、全然・・・ただ、ブドウ畑とかワインを作る道具とかあるらしいのよ」


ボブ

「ワイン、、そりゃまたすごいな・・・」


ジェシー

「ボブも呑んだでしょ?」


ボブ

「え?あぁ、、もしかして、あんときに飯と一緒に出てたワインがそうか!」


アンナ

「そうだよ」


ボブ

「普通に市販されてるワインかとばかり思ってたぜ」


ジェシー

「美味しかったものね・・・ていうか、ボブ、あなた、地下室とか行かなかったの?」


ボブ

「あ、ああ、子供のこと見るので、手一杯でな」


アンナ

「え?そんなに手のかかるような子達じゃなかったはずだけど?」


ジェシー

「そうよね、それに他のお手伝いの人も来ていたでしょ?時間は作れたはずだけれど?」


ボブ

「いや、意外と、そのな・・・。遊んでくれって言われてよ、ギターも教えてたし・・・。それに結構、やり込められたぜ・・・」


ジェシー

「・・・親とか大人、とかじゃなくて、同じ子供仲間だと思われてたんじゃない?」


ボブ

「まぁ、それでも別に良いけどよ」


マリー

「・・・si vales valeoシー・ウァレース・ウァレオーそれがワインの名前よ」


ボブ

「ラテン語だな・・・あなたの幸せこそが私の幸せ、か」


アンナ

「なんだか、あの娘らしいのかも」


ジェシー

「かも、じゃないわ・・・あの娘らしいのよ」


アンナ

「うん、そうだね・・・お葬式のときも、沢山の人が来てたもんね」




ロゼット

「もしもし、ロゼットです。ご無沙汰してます」


マリー

「ぁぁ・・・ロゼットちゃん・・・」


ロゼット

「どうかしたんですか・・・?すごく、その、疲れた感じがしてます、けど」


マリー

「そう、ごめんなさいね。・・・いまちょっと大変なの。だから、インタビューは暫くは無理よ」


ロゼット

「そう、なんですか・・・。あの、なにかあったんですか?・・・あっ!すいません、私ったら!」


マリー

「いいのよ・・・じゃあ、すこし、話を聞いてくれる?」


ロゼット

疲れた声をしたマリーさんから、話を聞いた。

きっと、マリーさんからこういう話をすることは滅多にないんだと思う・・・。

テオ君という少年にあった出来事・・・それをきいた。


マリー

「そういうわけなの、だから、ごめんなさいね」


ロゼット

「いえ!こちらこそすいません・・・」


マリー

「いいのよ、聞いてくれてありがとう」


ロゼット

「・・・あの、その、撃たれた人って、、もしかして・・・」


ロゼット

私は思い出したように、あの時にすれ違った、二人のことを聞いてみる。


マリー

「ええ、その子がそうよ」


ロゼット

「あの、一緒にいた・・・人の、名前って・・・なんていうんですか?」


マリー

「・・・アーランドよ」


ロゼット

「その人・・・わたしのっ・・・」


マリー

「どうしたの?」


ロゼット

「きっと、そうです。私のスクールのときの、初恋の人・・・名前が同じ・・・」


マリー

「・・・そう、あの時のインタビューの内容は、ボブ達から聞いたわ・・・そう、だったのね」


ロゼット

「・・・はい、おかしいな、ニュースとかでみたはずなのに・・・」


マリー

「大きな記事には、なってないもの・・・」


ロゼット

「です、ね・・・。あの、彼は、彼は・・・っ」


マリー

「素晴らしい人だったわ、ええ・・・とても・・・私達にとっても、そして、あの子にとってはもっと、もっと・・・」


ロゼット

それから、少しだけ話をして、マリーさんとの電話を切った。

その後、うずくまる様にベットに入った・・・。


ロゼット

「私の初恋の人は、一人の少年のヒーロになって、逝きました」


ロゼット

「物語的・・・すぎるよ、だけど、こんなの・・・っ・・・・うわぁぁああああああああんん!!!!」


ロゼット

私は声を上げて泣いた・・・初恋なんて、ずっと昔の話なのに・・・。

なのに、なのに・・・涙が溢れて止まらなかった・・・。




ボブ

「おう、戻ったぜ」


マリー

「おかえり。彼の家、どうだった?」


ボブ

「ふぅ・・・特になにもなかったぜ、綺麗なもんだった」


マリー

「そう・・・」


ボブ

「あいつと呑んでたんだろうな・・・酒の呑み残しがあったくらいだな」


マリー

「あらあら、未成年にお酒、ね・・・」


ボブ

「・・・それ、と、これがあったぜ・・・」


マリー

「これ・・・」


ボブ

「ああ・・・ほとぼりが冷めたら、あいつに渡してやるつもりだ」




ジョシュア

それから、何日かたった時のこと。

ボク達は買い物をした帰りにパパ達と会った。でも、マリアは先に帰るとはしゃぎながら走っていった。



マリア

「ただいまー」


マリー

「おかえりなさい、マリア・・・。あら、ジョシュアは?」


マリア

「途中でパパ達にあったから、一緒に来てるわ。私は料理の材料を持ってたから先に帰ってきたの、全部じゃないけれど」


マリー

「そうだったの、ご苦労様」


マリア

「今日はビーフシチューにするでしょ?ジャガイモとか人参とか、固いものは先に茹でるかなって思ったの」


マリー

「ふふ、そうね、ありがとう」


テオ

「・・・・・・」


マリア

「テオ・・・」


マリー

「いまは大人しいから、平気よ」


マリア

「怖いとかじゃないわ、ママ」


マリー

「そうね、それじゃ、料理を作ってる間、テオのこと見ててくれる?」


マリア

「わかったわ」


テオ

「・・・・・・」


マリア

「今日はビーフシチューなの、美味しいわよ?」


テオ

「・・・・・・」


マリア

「お腹すいてるでしょ?みんなが作ってくれてるから、できたら持って来るわね」


テオ

「・・・・・・」


マリア

「もう、なにも反応してくれないとつまんなーい!」


テオ

「っ・・・!」


マリア

「あ、反応した!でも、そんな怖い目で見られるのは嫌だわ」



ジョシュア

「マリア、もうすぐご飯できるよ」


マリア

「あ、兄様」


ジョシュア

「ボクが見ておくから行っておいでよ」


マリア

「お願いね、兄様」


アンナ

「マリア、テオ、どうだった?」


マリア

「うーん、少しだけ反応してくれたけど、その後は全然なのよー」


ジェシー

「まだ、かかりそうね」


マリア

「私が折角、お話してあげてるのに、失礼しちゃうわ!プンプン!」


マリー

「さ、出来たわよ」


マリア

「テオに料理が出来たら持っていくって言ったから、持って行くわね」


マリー

「ええ、お願いするわ」


マリア

「はーいっ!」



ジョシュア

「マリア」


マリア

「兄様!テオ、どう?」


ジョシュア

「全然、なにも変わらないね」


マリア

「そう、じゃあ、ご飯食べさせてあげなくちゃ!」


ジョシュア

「そっか、じゃ、ボクも一緒に見ておくよ」


マリア

「うーん・・・でも、人が少ないほうが食べやすいと思うの、兄様もまじまじ食べてるところ見られたら、恥ずかしいでしょ?」


ジョシュア

「まぁ、そうだけど・・・」


マリア

「最近は暴れたりしないから、平気よ!」


ジョシュア

「なら、いいけど・・・」



テオ

「・・・・・・」


マリア

「ごはんよ、お腹すいてるでしょう?」


テオ

「・・・いらない」


マリア

「兄様は行ったわ。ここには私とあなたしか居ないから、恥ずかしがらなくても平気よ?」


テオ

「・・・いらない」


マリア

「でも、もう何日もちゃんと食べてないわ・・・」


テオ

「・・・いらない」


マリア

「あ、手を縛られてるものね、今ほどいてあげる、乱暴しちゃ、嫌よ?」


テオ

「・・・・・・」


マリア

「これで食べられるわよね、はい、スプーン」


テオ

「・・・いらない」


マリア

「でも・・・。ほら、わたしが食べさせてあげるから、あーん、して」


テオ

「いらないって・・・」


マリア

「テオ?」


テオ

「いらないっていってるだろっ!」


マリア

「きゃっ!!」


テオ

「何が食べさせてやるだ!このっ!少し年上だからって!」


マリア

「痛いっ!痛い!やめてっ!」


テオ

「なんだよ?そんなにボクが気になるのかよ!?ならっ!」


マリア

「ぇ!?いやっいやぁ!!」



ジェシー

「遅いわね」


マリー

「そうね」


ジョシュア

「ボク様子みてくるよ」


ボブ

「ああ、そうだな、頼む」



テオ

「ボクだって、ボクだって大人だっ!子ども扱いするなよ!なんだよ、なんなんだよ!みんなして!」


マリア

「いやぁっ!!兄様!ママ!パパ!」


テオ

「家族を呼べば助けてくれるっていいねっ!ボクなんか、ボクなんかっ!!」


マリア

「誰か!だれかっ!!」


テオ

「あははっ!ボクのじゃなくて、いっそこのパンを捻じ込んでやろうか!?」


ジョシュア

「!?マリア!っ!この!!」


テオ

「あぐっ!」


ジョシュア

「く、ボクが押さえてるから、みんなを呼んできて!」


マリア

「っはぁ、はぁっ・・・。え、えぇ!」



マリア

「ママ!パパ!テオがテオが!」


ボブ

「マリア!どうしたその顔!血が出てるぞ!?それに、その服・・・」


マリア

「え・・?ぁ・・・っそんなことはいいの!テオが暴れて、いま兄様が押さえてるけど、早くしないと!」


マリー

「えっ・・・」


アンナ

「早く行こう!」


ボブ

「ああ!!」



マリア

「兄様!・・・大丈夫?」


ジョシュア

「いっっ、大丈夫だよ」


マリア

「良かった・・・でも、口から血が・・・」


ジョシュア

「大丈夫、ボクも殴ったからお互い様」



マリー

「テオ!テオ!落ち着くのよ!落ち着きなさい!」


ボブ

「ぐっ!毎度毎度、ガキの癖に力あんな、くそっ!」


テオ

「死なせろ!死なせろよっ!!」


アンナ

「ジェシーそっち押さえて!!」


ジェシー

「わかったわ!っ!テオっ、あんた、ねっ!!」


テオ

「しなせろぉぉおお!!」


マリー

「っ!きゃあ!!」


ボブ

「ぐおっ!!」


アンナ

「マリー!ボブ!」


ジョシュア&マリア

「ママ!パパっ!」


ジェシー

「っ大丈夫!?」


テオ

「はぁ、はぁ・・・」


アンナ

「大人しく、なった・・・?」


マリア

「マ、ママ・・・大丈夫?」


マリー

「はぁっ・・・ええ、大丈夫よ、っ!でも、ちょっと手首捻ったみたい」


マリア

「パパも、腕から血が・・・」


ボブ

「ん?・・・ああ、ほんとだ、まぁ、少し切れただけだ気にすんなよ」


テオ

「し、な、せて・・・よ」


ジェシー

「あんた、いい加減にしなさいよっ!?」


ボブ

「ジェシー!・・・あんなことがあったんだ、と・・・」


アンナ

「いまのテオくんを、二人に見せたい?・・・同じだよお父さんと」


ボブ

「お、おい!アンナまで!」


テオ

「う、、る、、っ、五月蝿いな、お前らに、お前らに何がわかるんだよ!!おれなんていらない存在なんだよっ!!」


ジョシュア

「・・・いいたいことはそれだけ?」


テオ

「っ!?なんだって!?」


ジョシュア

「ここには色んな人が居るの知ってるよね?」


テオ

「・・・・・・」


ジョシュア

「女性が乱暴されたとき、どれだけショックを受けるかも知ってるよね?」


マリア

「っ・・・」


ジョシュア

「大丈夫だよ、マリア・・・もう離れないから。ボクの妹に手を出そうとしてたよね、殴るとかじゃなくてさ」


ボブ

「あ?マジか?」


マリー

「本当なの?」


マリア

「・・・・・・」


ジェシー

「・・・本当に、父親と同じね」


アンナ

「いいの?それで・・・」


テオ

「そうだよ、ボクは、最低な奴だ・・・だから、もういいだろっ!?」


マリー

「っ!」


テオ

「がっ!・・・なんだよ、殴りたいなら、好きなだけ殴ればいいじゃないかよ!」


ボブ

「・・・なぁ、お前、このまま終わったら、本当に最悪な奴でおわるぞ?」


ジェシー

「ほんと、あの子達がいたら、なんていうかしらね?・・・もしかしたら、見てるかもね」


ボブ

「おい、それはもう、やめてやれ」


テオ

「・・・・・・」


ボブ

「俺もこの際だ、はっきり言わせてもらうぜ、今のお前には殴る価値は無い」


テオ

「っ、、っ・・・・」


ボブ

「お前がその状態から抜け出したら、一発殴らせてもらうぜ・・・。だからよ、ちゃんと覚えておけよ」



ジョシュア

それからは、暴れることも自殺しようとすることも無くなった。


マリア

でも、それからが長かったわ、本当に、本当に・・・。

テオにご飯を持って行って、食べさせる。怖くなんてない、そう思っていたのに、その度に手が震えた・・・。

テオも気がつくと、悲しい顔をする、自分を責めている顔・・・。

私の存在は、彼を傷つけるだけかもしれない・・・でも、私は逃げないから・・・ごめんなさいね、テオ・・・。


ジェシー

食べ物を食べても、吐いてしまったり、生きる気力、それが枯渇してしまった。

辛く当たるのは逆効果だ、そんなことはわかっていた。

でも、彼に対しては、私は、あの二人のことを考えて欲しいと思ったから、それとなく言っていた。

その度に、ボブには止められたけれどね、彼は優しいから、その優しさはもう少し後で必要になるだろう。

だから、いまは・・・。


マリー

テオの耳に伝わる言葉は、きっと・・・ジェシーの言った言葉だけなのだろう。

彼女のきついけれど優しい言葉が、テオの胸を打つだろう、私達は、壊れたテオが元に戻るまで、出来ることをするだけ。

彼が、心を取り戻すまで・・・。


ボブ

ジェシーのきつい言葉に、俺は何度か、思うところがあった。

だが、テオが反応を示すのは、その言葉のときだけだった。

マリーもアンナもそれを見つめているだけだ。

俺には、どうすることも出来ない。

それでも、見捨てたりなんかしねーからよ・・・。

だからよ、早く戻って来いよ?生意気なクソガキによ・・・。


アンナ

十年数年・・・そう、彼が自分の足で歩けるようになるまで、自分の心を取り戻すまで、十年数年もかかった。

わたしも、似たような状態になったことがある。だから・・・待った。


テオ

「にい、、さん・・・アーランド・・・」


テオ

「シルフィリア、、さん・・・おれ・・・おれ・・・どうしたらいいの?」


ジョシュア

「・・・・・・」


マリア

「兄様・・・テオ、どうかした?」


ジョシュア

「いや、別に、なにもないよ」


マリア

「ん・・・?」


ジョシュア

あの日、思い詰めているテオをみてから・・・。 更に数ヶ月後・・・。やっと戻ってきた。


テオ

「ごめんね、マリア、ジョシュア、みんな・・・」


マリア

「いいのよ!テオが元気になってきただけで」


ジョシュア

「やっと、戻ってきたみたいだね、どう?負け犬くん」


テオ

「負け犬の遠吠え、聞かせてやるよ」


ジョシュア

「ふ~ん、それは楽しみだ・・・。長い間待たせたんだ、早く僕に追いつけよ?」


アンナ

その言葉に、みんなが笑う。

やっと、テオが戻ってきた・・・。

でも、少し心配、かな・・・。


アンナ

「みんなに迷惑かけたからって、頑張り過ぎたら、駄目だよ?」


テオ

「うん、ありがとう」


マリア

それから、テオは一生懸命だった。

でも、無理をしないように、それだけは言い聞かせていた。

そしてまた、数年の歳月が過ぎた・・・。



テオ

「ただいま」


マリア

「おかえりなさい。色々聞かれなかった?」


テオ

「聞かれたよ」


アンナ

「怒られちゃった?」


テオ

「いや、全然。ウルには何か言われると思ったけど、あいつが一番大人になってたな」


マリア

「そう、よかった」


テオ

「みんな僕のほうから来るのを、ずっと待っていてくれていたんだ」


ボブ

「仲直りできたってことか?よかったじゃねーか!」


テオ

「・・・やっと、踏ん切りがついたように思うよ」


ボブ

「おっ、やっーとテオ坊主帰還ってとこか?」


テオ

「うん、本当に長い間、ごめんなさい」


ボブ

「OKOK、んじゃ、一発いっていいか?忘れてねーよな?」


テオ

「うん!思いっきりお願いします!」


ボブ

「ちゃんと歯、食いしばっとけよ?・・・ふんっ!!!!」


テオ

「っつ~~~、へへ、これで元通りだね」


ボブ

「へへへ・・・ま、そういうこったな」


テオ

「それと、もう一つ大事な話があるんだ」


ボブ

「お、なんだ?」


テオ

「父さんって、呼んでもいい?」


ボブ

「あ?ああ、勿論いいぜ、なんだよ今更・・・」


マリア

「そうじゃなくてね、パパ」


マリー

「私のことも母さんって呼んでくれるのかしら?」


テオ

「勿論だよ、母さん」


ボブ

「えっと、ああ、、ん?」


テオ

「では、改めて・・・娘さんを僕にください!」


ボブ

「へ?・・・あぁ!?」


マリア

「実は、パパ、もうお腹の中に、居るの」


ボブ

「お腹?ま、まさか、ガキか!?」


マリア

「うん」


ボブ

「て、てめぇ!!いつの間に娘を孕ませやがった!?」


ジョシュア

「ああ、やっと告白したんだ?僕の妹は健気に何年も待ち続けていたよ」


ボブ

「はっ!?お前知ってたのか?」


ジョシュア

「もう、僕を妹離れできない兄だと思わないで欲しいな~」


ボブ

「あ、あぁ」


マリア

「パパのほうが娘離れできてなさそうね」


ボブ

「まぁ、その、な」


ジェシー

「鈍いわね~」


アンナ

「わたしもなんとなく気がついてたよ」


マリア

「兄様も所帯を持てばいいのに」


ジョシュア

「本気になるとモテてモテてかなわんのだ、妹よ」


ジェシー

「本当にね、テオもそうだったけど、ジョシュア宛ての手紙も、ものすごかったものね」


アンナ

「ね、もう、すごいよね、こことは関係ない手紙って、大体テオかジョシュア宛のラブレターなんだもん」


ボブ

「俺にはないのかー」


マリー

「あなたには私が居るでしょ?」


ボブ

「おう!照れるじゃねーか!もっと言ってくれよ!」


マリー

「あら?いいのかしら?」


ボブ

「ああ、いや、その、やっぱり照れくさいからいいぜ!あ、でも、そのなんだ、二人っきりの時は、いいぜ」


マリー

「それなら、あなたも言うのよね?歯の浮くような台詞」


ボブ

「ま、その、少しは、、な」


ジェシー

「相変わらず、ラブラブね~」


アンナ

「わたしとジェシーみたい」


テオ

「でも、どちらかというと、ジェシーとアンナが歳をとるにつれて落ち着いていったのに、父さんと母さんは逆だね」


マリア

「そうね~、私達が大きくなったから羽目を外しちゃった?」


ボブ

「ちっ!からかうなよ~!」


マリー

「いつまでも、元気でいてね 私の永遠の少年 」


ボブ

「ん、、お、おう」


ジョシュア

「ははは!まぁ、これでテオは手紙の呪縛から開放されるかな?」


テオ

「そうだね、手紙をくれるのはありがたいけれど、少しは減ってくれるといいね」


ジェシー

「二人とも律儀にちゃんと返事書いてるものね」


ジョシュア

「テオはそうかもしれないけど、僕は違うよ?本気だなってわかった人にだけ」


アンナ

「そういうストイックに冷たいところとかも、モテる秘訣なのかもね」


ボブ

「いや、俺が言うのもへんだけどさ、冷たいだけじゃそこまでモテないぜ?」


マリア

「兄様のことをちゃんと見ている人なら、それだけじゃないって気がつくわ」


マリー

「ジョシュアは自信たっぷりだから、見合った女性が現れるといいんだけど」


ジョシュア

「そうだね、それは自分でも思うよ」


テオ

「ジョシュアは、どんな人ならいいと思う?」


ジョシュア

「うーん、よく知らないけど、テオが好きだったシルフィリアって人みたいな女性なら、、もしかしたら」


テオ

「ははは、シルフィリアさんのような人は、そんな簡単には居ないよ」


ジョシュア

「それはわかってるよ。だからこそ、ね」


アンナ

「人生は長いようで短い、けれども、我が道を行こう、それが私の誇りであり、私の生き方だ。だから友よ、何度でも言おう、後悔はしていないと」


ジェシー

「ジョシュアの事みたいね」


アンナ

「フランク・シナトラのマイ・ウェイって言う曲の歌詞がそんなだったよ」


ジョシュア

「そうだね、後悔は、したくないから・・・」


テオ

「後悔して後悔して、それでも、前に進むのも辛いしきついけれど、悪くないって思えるときも来るさ」


ジョシュア

「それは君の生き方・・・だろ?テオ」


テオ

「ああ、そうだ。けど、間違いじゃないし、間違いであってもいいんだ」


ジョシュア

「負け犬の遠吠え、か・・・。随分と威勢のいい鳴き声だ」


テオ

「ジョシュア・・・。兄さんって呼んでもいい?」


ジョシュア

「・・・兄さんと呼んでくれるの?」


テオ

「駄目かい?」


ジョシュア

「馬鹿な、勿論いいさ・・・。本当に吹っ切れたみたいだね」


テオ

「吹っ切れたというか、踏ん切りがついたというか・・・。本当は、自分でもよくわからないんだ」


マリア

「ふふ、さ、あなた、兄様、今日のご飯は鳥のハーブ焼きとコーンポタージュよ、あと、美味しいパンがあるわ」


ボブ

「お、そいつは楽しみだな!・・・っと、ああ、悪いテオ、口、しみるかもしれないな」


テオ

「大丈夫だよ、父さん。暖かい痛みさ」


ジョシュア

「そうだ、どうだった?テオの描いた彼女の絵を、持っていったんだろ?」


テオ

「ああ、喜んでもらえたよ。それなりに、よく描けたと思うし、母さんほどじゃないけれどね」


テオ

そしてその日の夜、話があると、父さんに呼ばれた。


テオ

「話って、なに?父さん」


ボブ

「おう、渡したいもんがあってな」


テオ

「この、ワイン・・・」


ボブ

「・・・あいつがお前に渡したんだろうと思ってな、もって来ておいたんだ」


テオ

「ありがとう、父さん・・・」


ボブ

「おう、存分に感謝しろ」


ボブ

「娘のこと、頼むぜ・・・」


テオ

「・・・任せてよ、父さん」




ジェシー

落ち着いたときに、わたしは、録音したあの娘の歌を、音楽業界に送りつけた。

・・・今では、彼女の歌声は、至る所で聞くことが出来る。

わたし達が作った曲と一緒に・・・。でも、それを歌う彼女は、もう、この世界のどこにも居ない・・・そう、どこにも。

たった一曲だけの歌を遺して、16歳で時が止まったあの娘は、天使になった歌姫と呼ばれている。


アンナ

そして、あの時の医者は新種のエイズウイルスを完璧に治すワクチンを作り出し・・・。

それをほぼ無料で世界中に配り、救世主だと言われている。

でも、私は思う。多分、シルフィリアちゃんもその医者も、そんな風に呼ばれるのは好きじゃないのかもって・・・。


ジョシュア

「テオ、ちょっといいかな?」


テオ

「兄さん、ああ、ちょうど手が空いた所だよ、どうしたんだい?」


ジョシュア

「・・・二人だけで話したいことがあるんだ」



テオ

「それで、話ってなんだい?兄さん」


ジョシュア

「シルフィリア、彼女のことだよ」


テオ

「シルフィリアさんの話・・・?」


ジョシュア

「・・・僕も、君と同じでね、テオ、彼女に恋をしたんだ」


テオ

「兄さんも?」


ジョシュア

「彼女が死んだ時、僕は、一人で出て行っただろう?」


テオ

「ああ、マリアは、後から着いて行ったけどね」


ジョシュア

「そうか・・・あの時、僕は、外で泣いていたんだ」


テオ

「そうだったのか・・・」


ジョシュア

「君達の手前ね、僕は、一度会っただけで、あの娘に恋をしたから・・・」



テオ

「・・・兄さん、ちょっと待っていてくれ」


ジョシュア

「ん?・・・ああ」



テオ

「お待たせ」


ジョシュア

「お帰り、それは?」


テオ

「アーランド兄さんがくれたんだ、酒の味が分かるようになったら呑めってね」


ジョシュア

「あのおじさんが・・・。君の兄なら、僕の兄でもあるからね」


テオ

「ああ。あの後、マリアをくださいといった日の夜、父さんがくれたんだ。アーランド兄さんの家から持ってきてくれていたらしい」


ジョシュア

「そうか・・・じゃあ、貰おうかな」



テオ

「美味しいな、優しい味だ。ほんのりとした甘さに、しっかりとした味わいがある」


ジョシュア

「それだけじゃないね、この少しの酸味と渋さも・・・。これは、si vales valeoシー・ウァレース・ウァレオー?・・・はじめてみる銘柄だね」


テオ

「シルフィリアさんが造っていたワインだよ」


ジョシュア

「これが・・・なるほどね」


テオ

「ウル達にも持っていったから、これが最後の一本なんだけどね」


ジョシュア

「男同士で呑むには・・・上品過ぎるワインだね・・・。なのに不思議としっくりくるな・・・。彼等はワインは造っていないのかい?」


テオ

「名前は違うけれど、造っているよ。だから、持っていったんだ」


ジョシュア

「今度、そっちも呑ませて貰えると嬉しいね」


テオ

「お互い忙しいからね。でも、今度持って来るし、ウル達にも兄さんの事を紹介するよ」


ジョシュア

「楽しみにしているよ。そういえば、彼女がいなくなった後からなんだよね、定期的に援助してくれる人が増えだしたのは・・・」


テオ

「そうらしいね、僕も母さんから聞いたよ。偶然かもしれないって言っていたけれどね」


ジョシュア

「僕はなにかあると思っているけれどね。野暮な話、だね」



テオ

「・・・兄さんは、シルフィリアさんの・・・」


ジョシュア

「瞳だよ」


テオ

「兄さんは、瞳か」


ジョシュア

「そう、強い強い、母の瞳に、僕はやられた」




ロゼット

あれからも、小さな世界の取材を時折している。

テオは人の話を聞き、悩みを聞き、それに答えている。

世界中の人の悩みを、兄であるジョシュアと共に。

そして、あの白亜の家は、シルフィリアちゃんの子供たちが・・・。

大人になった子供たちが、もう一つの小さな世界として孤児院をしている。


ロゼット

「ねぇ、ルナ。あなた、小さな世界に興味があるっていってたわね?私の代わりに、取材、いってみる?」


ロゼット

私の言葉に、ルナは顔を輝かせて答える。

・・・テオのことにすごく興味がある感じだけれど、恋愛感情とも違う、知りたいという欲求・・・。

私達にはその探究心が大切だからね、多少グイグイいけることも大事。

それに、あの娘なら、気がつくだろう、小さな世界にある、そこにいる人たちの、小さな優しさに。

闇を一度見つめた人たちの、強さと愛に・・・。


ロゼット

「一回や二回じゃ無理だろうけれど・・・テオから、あの娘のことを聞き出せたら、一人前だぞ。そこまでの、あなたの言葉、あなたの文字を期待してるからね、ルナ」



マリー

「あら、いらっしゃい。何の御用かしら?」


ルナ

「あ、あの!初めまして!取材にきた、ルナと申します!よろしくお願いします!」


マリー

「ああ、あなたがロゼットの話していた・・・こちらこそよろしくね」


ルナ

「は、はい!よろしくお願いします!」


マリー

「ふふ、そんなに畏まらない(かしこまらない)でいいわよ」


ルナ

「は、はい!」


マリー

「ここを利用している人たちとは、もう話した?」


ルナ

「あ、いえ、、まだ・・・」


マリー

「そう、もしよかったら、みんなとも話してあげてね」


ルナ

「はい!次に来た時はそうしたいと思います!」


マリー

「ふふ、さ、ここが談話室よ。みんなを呼んでくるから、少し待っててね」


ルナ

案内された場所には、施設の利用者さんもいた。

今度話を聞いてみよう。

そうやって見渡していると、一人の男の人が声をかけてきた。


ジョシュア

「ん?君がロゼットの代わりに来た人、かな?」


ルナ

ロゼットさんから取材する人の写真は見せてもらっていたけれど・・・。

ジョシュアさんだよね、実際に見ると、すごくかっこいいかも・・・。

って、いけないいけない!私はテオさん一筋なのです!ふんす!


ジョシュア

「母さんから聞いてるよ、僕はジョシュア、よろしくね、ルナさん」


ルナ

「はい!ルナと申ちまっ!!・・・うぅ、すいません、噛みました・・・」


ジョシュア

「へぇ~、可愛いね」


マリア

「もう、兄様ったら」


ルナ

「あ、うぅぅう、・・・。あの、それで、みなさんにお話を伺いたくて!」


ボブ

「おっと、あんたが、ロゼットの、最初に来た時のあいつより若いな。っと、俺はボブってんだ、よろしくな」


マリア

「私は、マリア。ジョシュアの妹なの、よろしくね」


ルナ

「ルナと申します!よろしくお願いします!・・・・あの、そんなに若く見えますか?」


ボブ

「お?ああ、高校生くらいに見えるぜ?」


ルナ

「うぅぅう、やっぱり、この眼鏡と、髪型がいけないのかなぁ・・・」


ジョシュア

「僕は可愛いと思うけどね」


ボブ

「俺も、良いと思うぜ?」


ルナ

「うー、こう見えても、もう22なんですよぉ」


ジェシー

「あら、あなたがルナね、私はジェシーよ、よろしく」


アンナ

「ふふ、あんまり緊張しないでね。あ、私はアンナ、よろしくね」


ルナ

「はい!よろしくお願いします」


ジョシュア

「これで全員揃ったね」


ルナ

「あ、あの、テオさん、、は?」


ボブ

「あいつは、、今日中には帰ってこれるって言ってたんだけどな・・・」


マリア

「そのうちに帰ってくると思うわ」


ルナ

「そ、そうですか・・・」


ジョシュア

「君の目当てはテオ、かな?」


ルナ

「えっと、そうと言えばそうなんですけど・・・すいません」


ジョシュア

「ふふ、相変わらずファンがいるみたいだね。まぁ、彼が戻ってくる前に、聞きたいことがあったら聞いてよ、その間に帰ってくるさ」


ルナ

「はい!・・・では、その、この小さな世界が作られることになった経緯いきさつとか、聞いてもいいでしょうか?」


マリア

「その話なら、ママ達の出番ね」


マリー

「そうね、けど、一番は・・・あなたね、ボブ」


ボブ

「そうだな、まぁ、もう20年以上前の話だ」


マリー

「あ、ルナさん、録音とか大丈夫?」


ルナ

「あっ!?・・・っとと、これで、、だ、大丈夫です!」


ボブ

「お?OKか?んじゃ、始めるぜ」


ルナ

ボブさんが 彼 との出会いを話す。

路上で倒れていたときの、出会いの話を。

ボブさんが彼を牧師さんと呼ぶ理由を・・・。


ジェシー

「それから、図々しく、私達の間に入ってきてね」


アンナ

「そうだね・・・でも、あの人がいたから」



ルナ

ジェシーさんとアンナさんからも、言葉が紡がれる。

心中しようとしていたときの出会い・・・。

その話が終わった時、赤ちゃんの鳴き声がした。


マリア

「・・・あ、ミルクの時間、ちょっと行って来ますね」


ルナ

「お子さんがいるんですね」


マリー

「ええ、私達の孫になるわ」


マリア

「あ、リナさん、この子達のこと見ていてくれてありがとう」


ルナ

「施設を利用している人たちにも、色々手伝ってもらっているんですね」


マリー

「そうなのよ、受付も、私の代わりにしてくれる人がいるの」


ジョシュア

「最初は人が少なくて大変だったんだけどね。今では定期的に援助金を送ってくれる人もいるし、ボランティアで来てくれる人も多くなったよ」


ジェシー

「そうね、すごく助かっているわ」


アンナ

「みんな、必要とされたがっているんだよ」


ボブ

「そうだな、社会にはでれないかもしれないけど、俺達みたいなことを出来る奴はいる」


マリー

「ええ、そうね、小さなことの積み重ねが大事だって言うなら、小さな助け合いだって、大切よ」


ルナ

「そうですよね・・・。でも、忙しい中で、みんな忘れてしまうのかもしれません・・・」


マリー

「そう、そうなのよ・・・。社会をつくっているのは、その人ひとりひとりなの、大変なのはみんな同じだから、そこで止まってしまうの」


ボブ

「人それぞれのペースってのがあるからな」


アンナ

「私達みたいなことを、してしまう人も居る、それは、とても寂しいことなんだ・・・」


ジェシー

「その分、仲はもっともっと深まったけれどね」


マリー

「ふふ、次は私達の出会いね、ボブが彼を紹介してくれたときの話」



ルナ

マリーさんはボブさんとの間に子供が出来た時の事

そして、彼と一緒にした、募金のことを話してくれた。


マリー

「その後にね、ジョシュアとマリアが生まれたのよ」


ルナ

「それで、その人は今はどこに居るんですか?」


ジョシュア

「ロゼットは話してないんだ」


ルナ

「あ、は、はい・・・自分で聞いて来いって言われて・・・」


ジェシー

「・・・殺されたわ」


ルナ

「・・・え?」


ボブ

「冬の日に、な。募金をしていた場所と同じところだった」


ルナ

「そんな・・・」


アンナ

「あの人のパソコンの中に、書いてあったよね。死の美学っていうのかな?そんなような事」


ジェシー

「そうね、かっこつけすぎだって思うけどね」


ボブ

「でも、牧師さんが死んでなかったら、多分、この小さな世界はなかったと思うぜ」


マリー

「そうね、今でも思い出すわ、鳥のハーブ焼きとミネストローネ、、美味しいって言ってくれた時の彼を・・・」


ジェシー

「そういう意味では、あの人の思い通りになったんじゃない?」


ボブ

「遺されたほうは、たまらねーけどな」


ルナ

「あの、もしかして、そこに飾ってある絵って・・・その人ですか?」


マリー

「ええ、そうよ、私が描いたの」


ルナ

その絵からは、優しい感じと 少しの影 を感じた。


ルナ

「すごい人だったんですね・・・」


ジェシー

「普通よ」


ルナ

「え・・・?」


ジェシー

「普通よ。社会に適応できなくて、そんな自分を嘆いて・・・。ただ、一つだけ違ったのは、あの人は手を差し伸べることが出来た人」


ルナ

「それって、すごいことなんじゃ、、ないですか?」


ボブ

「それが特別なことであってはならないんだ、みんながみんな、誰かに手を差し伸べられる人であって欲しい・・・。牧師さんが言っていた言葉さ」


マリー

「ええ、そう、そうよ。私達は彼を知っている、みんな、彼に助けられた。だから、自分達も助けることを学んだのよ」


アンナ

「でも、時々、助けるとか、救うとか、私はなんか違うような気がするんだ。なんだか、上から目線な気がして・・・」


マリー

「そうね、彼なら、なんていったかしらね・・・」


ボブ

「それこそ 手を差し伸べる でいいんじゃねーかな?」


ジェシー

「手を差し伸べて、その手を誰かが掴めば、それは手を繋ぎ合う事になるわ」


アンナ

「ふふ、いいね、そのフレーズ」


ルナ

「あ!そうです、ボブさんとジェシーさんとアンナさんは歌を歌っていると聞きました!」


ジェシー

「ええ、歌っているわね」


ルナ

「よかったら、聞かせていただけないでしょうか?」


ボブ

「俺はかまわないぜ~」


ジェシー

「いいわよ」


アンナ

「ルナちゃんは、どんなジャンルの音楽が好き?」


ルナ

「えっとぉ~、そうですね。意外と激しい曲が好きだったりします!」


ボブ

「激しい系か・・・。あ、ここにいる奴らは大丈夫かな?激しいの」


ルナ

ボブさんがそう言うと、周りから、構わないよ!やれやれ!という声がする。


マリー

「ああ、無理に聞きたい人に合わせなくていいからね、聞きたくない人は、数分離れていてくれればいいわ」


ボブ

「っても、みんな聞く気満々だな、よっしゃ!ギターとアンプをっと・・・」


ルナ

「そのギター、すごいその、年代物ですね!」


ボブ

「ああ、さっき話した、牧師さんのギターなんだ」


ルナ

「そうなんですか、すごい年季がはいってます!」


ボブ

「まぁなぁ、このSG、牧師さんが若いころに買ったとか言ってたからな、40年か50年はたってるかもな」


ルナ

「私の年齢の倍以上ですね、、SGっていうんですか、そのギター」


ボブ

「ああ、ギブソンのSGだな」


アンナ

「わたしはOKだよ」


ルナ

「あっ!それベースですか!」


アンナ

「そうだよ、フェンダーのカスタムジャズ、、まぁ、名前は長いからいいよね」


ジェシー

「さ、それじゃ、行きましょうか」


ボブ

「ちょっとまってな・・・よし!OKだぜ!」



///////////////////上に同じ、ジェシーが読むなり、テケトーに歌うなり、飛ばすなり、好きにしてくださいませ////////////////


掴んだその手を離さない あなたが例え 私達を拒んでも


私達は あなたを見捨てない 例え貴方が それを拒んでも


あなたにとってそれが優しさでなくても あなたにとってそれが苦痛でも


私達はその手を離さない いつかきっと あなたは戻ってくる


そう 信じてる・・・。



貴方が残骸の様に崩れ落ちても 優しい言葉は届かなくても


あなたを信じた人が居るから 私達も信じる


あの人たちの面影を追いかけて


戻ってきて 本当のあなた 傷ついた心を癒せる事を 私達は知っているから


信じてなんて言わない けれど温もりの香り この手の暖かさを感じて欲しい


あなたは 独り じゃない


////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////


ルナ

「わぁ!!すごいです!」


ジェシー

「ふぅ、どうだったかしら?」


ルナ

「メタル系の曲なのに、すごく優しい詩で、、ジェシーさんの歌もボブさんのギターもアンナさんのベースも、みんなすごくよかったです!」


アンナ

「ふふ、満足してもらえたみたいだね」


ルナ

「はい!ありがとうございました!」


ジェシー

「ロゼットの時も、こうだったわね」


アンナ

「そうだね」


ジョシュア

「父さん達の音楽は、誰かを楽しませるためにある、僕はそう感じているね」


ルナ

「そうですね、、やっぱり音楽っていいなぁ~」


アンナ

「ルナちゃんも、何か楽器、弾けたりするの?」


ルナ

「えっと、実はキーボードを少し・・・」


ジェシー

「へぇ~、私と一緒ね、今度ボブと一緒に弾いて見ない?」


ルナ

「いいんですか!?ぜ、ぜひ!あまり上手くないかもですけど・・・」


ボブ

「いいってことよ!」


ルナ

歌を聞かせてもらった後で、テオさんの昔の話と、現在の話になった。

明かされるテオさんの過去・・・。

そうだったんだ、私がテオさんに親近感を覚えた理由がわかった気がした・・・。

私も、昔、お父さんに・・・。


ボブ

「でよ、あいつ、牧師の資格とったんだぜ」


マリー

「ええ、それにジョシュアは弁護士・・・ここには必要だろうからって」


ジョシュア

「僕に出来ない事はないからね」


ボブ

「まぁ、俺達の子にしちゃ出来すぎだわな。お前に似たのかも」


マリー

「あら?そうかしら、あなたに似たところもあるわよ」


ボブ

「あぁ・・・うーむ、そうか?性格と言いなんといい、俺には似てないような・・・」


マリー

「あら?料理が壊滅的な所とか、怒ったら意外とすぐに手が出る所とか、そっくりよ」


ジョシュア

「ちょっと、母さん、最近はそんなにすぐには手を出さないよ、言葉で十分勝てるし。まぁ、料理は、その、ね・・・」


ボブ

「駄目なところばっかりじゃねーか!」


マリー

「そうかしら?言い出したらテコでも聞かないところとか、そっくりよ」


ボブ

「そうかぁ?俺、結構人に言われて、変えちまうことあるぜ?」


マリー

「そういう事を言ってるんじゃないのよ」


ボブ

「?」


ジョシュア

「芯の部分だよ、父さん」


ボブ

「芯、、かぁ・・・」


ルナ

「あ、あの、ジョシュアさんは弁護士って言ってましたけど、どんなことをしてるんですか?」


ジョシュア

「そうだね、ここだけじゃなくて、いろんな人の仲介をしたりしてるよ」


ボブ

「そうだよな!それだけじゃなくてよ、こいつ、殆どむ・・・」


ジョシュア

「やめてよ父さん、そういうことは、ひけらかすものじゃないでしょ?」


ボブ

「まぁ、それもそうか」


アンナ

「ジョシュアって、自信満々なのに、天狗にならない所がすごいよね」


ジェシー

「そうかしら?自信が顔に出てるわよ」


ジョシュア

「自信はあるからね・・・。それにしてもテオ遅いな」


ルナ

「そうですね・・・。もう、日が傾いちゃいましたね」


ジェシー

「時間、大丈夫?」


ルナ

「大丈夫です!いざとなれば車の中で寝ます!」


マリー

「若い女の子なのに危ないわよ?よければ、泊まっていくといいわ」


ルナ

「え、でも・・・」


テオ

「ただいま」


ジョシュア

「っと、帰ってきた」


ボブ

「よぉ!牧師!長旅ご苦労さん!」


テオ

「その呼び方はやめてってば、ここでは、ただのテオなんだから」


マリー

「ふふ、おかえりなさい、この人が話していたインタビューの人よ」


ルナ

「あ、、初めまして!ルナって言います!」


テオ

「ああ、君が・・・ご苦労様、疲れてないかい?」


ルナ

「いえ!大丈夫です・・・それに、テオさんに話を伺いたくて来たので!寧ろ元気百倍です!」


テオ

「ははは!そうか、それならよかった」


ルナ

「えっと、それで」


マリア

「はいはーい、パパのおかえりでちゅよ~」


ルナ

「わぁ、かわいい!」


ジョシュア

「寝てたね?」


マリア

「寝かしつけていたら、一緒に寝ちゃった」


テオ

「はは!ああ、私の子供達だ、双子の男の子でね。兄のアーランドと弟のユライプだ」


ルナ

「え・・・ユライプって・・・あの、テオさんのお父さんだった」


テオ

「嫌いだった父さんの名前をつけたのが、不思議かな?」


ルナ

「え、、あ、はい、ご、ごめんなさい!」


テオ

「気にしないでいいよ、そうだね・・・。昔、私が妻に乱暴をしたときを思い出して、思ったんだ・・・。ああ、父さんも私の一部なんだなって・・・」


ルナ

「一部、ですか?」


テオ

「そう、血筋っていうのかな、父さんの駄目な部分も私に受け継がれている。そして思ったんだ、父さんも寂しかったんだろうって・・・」


ルナ

「寂しい、、ですか・・・」


テオ

「私を最期にみた父さんは、笑ってたんじゃなくて、泣いていた、からね」


ルナ

「私には、難しいです・・・。けど、けど、なんででしょう、なんだか、とても優しい気持ちになりました」


テオ

「ふふ、さて、それを知っているということは、私の話はもうあらかた聞いたかな?」


ルナ

「は、はい!」


テオ

「じゃあ、これからの事を話そうか」




ジョシュア

僕達が連れてくる人たちは、犯罪歴があったり、独りで生きていて、狭い狭い、けれど、頑丈な壁を持った。

そんな人も多い。暴力的でどうしようもない、そんな人も居る・・・表向きはね。


マリー

どうにもならない人も、確かに居る。テオの父親の様に・・・でも、もしかしたら・・・誰かが手を差し伸べていたら、その手を掴んであげられていたら・・・。

私達は、そのもしかしたらを信じている。


ボブ

あいつは人から感謝されて、すごい人だとか、神様のようだといわれるが、その度にこう答えている。

「自分はそんなにすごい人じゃない、偉い人でもない、ただ、出来ることをしているだけだ」ってな。


アンナ

全然タイプは違うのに、穏やかに話す様子は、まるで、そう、あの人を見ているみたいだった。

救える人が居たら救いたい、ううん。救うって言ういい方は違うかもしれないけれど・・・。

表面だけじゃなくて、その人の内側を見せてもらいたいから、きっと、本当にダメな人なんて、そんなにはいないと思うから。


マリア

小さな世界は広がっている。けれど、今も、そして、これからも、変わらない、幸せを探す場所。

その場所を作った、彼と、私達の物語。


ジェシー

もう一人の彼と呼ばれているテオと、その仲間達の物語。

辛いけれど、悲しいけれど、これは、希望の物語・・・。

パンドラの箱、その中に出来た、小さな世界の物語。

小さな小さな幸せの話。


///////////////あとがき/////////////////////////////////


いやぁ、バッドエンドじゃないよね?大丈夫だよね?相変わらず死ぬけどさ・・・。


シルフィリアというキャラは、自分の中で本編といっている世界のメインキャラです。


どっかで見ることもあろう、セティルとかアレスとか絶影とかアヴェイユとかもそうなのですが・・・。


まぁ、この本編の話は、いつか死ぬまでに書ければいいかな、と思っています。


さて、そのなかで難点なのはこのシルフィリアのお嬢さんなのです。


見かけとか性格は決まっているのですが、いかんせん、なんかイメージがつかめません。

かなりお気に入りのキャラなのですが、よわったことに、うまく書けません・・・。


目で語る、仕草で語るようなキャラを、戦闘シーンなどもそうですが、戯曲的に書くのは難しいですね~。苦手分野でござります。


このシルフィリア・ファインシルツ、慈愛の聖少女と呼ばれている彼女を、絵と台詞とで納得がいく具合にかけるようになったら、私の創作冒険は一区切りつけるかもしれません。


まぁ、エイズのくだりとかは、色々考えると、現実的ではありませんが、許してください。

本当にこういう病気の人は大変というか、そういった言葉だけでは足りないものでしょうから・・・。


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