情報収集
僕は看護師らに見送られ、めでたく退院という日を迎えられた。
僕の家はどうやら病院の近くにあるそうで、白髪の少女について行くかたちになりながら今自宅へ向かっている。
「それでね、白がダメでしょって注意してあげたの」
「そうなんだ」
愛想笑いも随分慣れたものだ。
向かう最中、よく話題が出てくるなと感心するほどに少女は僕に話していた。昨日見たテレビの話、学校の話、勉強の話、今朝見たニュースの話など話題は様々だ。僕はそれに対して、肯定し続けた。笑みを浮かべながら。
「孝太郎、どこに行くの?もう着いたよ」
「あ、ごめん。ぼーっとしてて」
「しっかりしてよね」
少女はため息をつくと階段を上り始めた。
どうやら僕はアパートに住んでいるらしい。白い外壁にコンクリートでできた階段、2階建てのようだ。至ってシンプルだ。
「えっと、鍵は…… 」
瀬崎と書かれたプレートの横にあるドア。ここが僕の家か。
「あら、白ちゃんに孝太郎君!? 」
声のした方へ目を向けると、そこにいたのは茶色に染まったショートヘア、Tシャツにジーンズといったラフな服装をした女性だった。ビニール袋を持ちながら、こちらへ歩み寄ってくる。
僕の名前を知っているということは、僕とこの女性は知り合いなのか?
「愛美さん、こんにちは」
「こんにちは、白ちゃん。孝太郎君、退院おめでとう。元気そうでなによりだわ」
「ど、どうも」
優しそうな人だ。
「退院祝いというわけでもないんだけど、良かったら受け取ってほしいのがあるの。ちょっと待ってて」
彼女はそう言うと、隣の部屋に入っていった。
どうやら彼女とはお隣さんらしい。それなら名前を知っていてもおかしくないよな。
「孝太郎、先に部屋に入ってたら?久々に外歩いて疲れたでしょ」
「いや、僕はーー 」
「お待たせ!ちょっと重いから気をつけて」
ドアが開くと同時に、彼女の明るい声が僕の言葉をかき消した。
彼女が持ってきたのは大きなビニール袋だった。
一体何が入っているのだろうか?少女の反応を見る限りでは、このようなことは普通といった感じだ。
「白ちゃん大丈夫? 私が持とうか? 」
「いえ、大丈夫……このくらい白はーー 」
「いいよ、僕が持つ。だから鍵開けてくれないか? 」
見るからに重そうな袋。こんなか細い腕で持つのは厳しいだろう。そう思い、僕は少女に代わって荷物を持つことにした。
「あ、ありがとう」
「顔が赤いけど大丈夫ーー 」
「うるさい! 」
少女はカバンの中から鍵を出しドアを開けた。
「孝太郎君、お大事に。あと、お幸せにね」
「は、はい? 」
なんだか嬉しそうな楽しそうな笑みを浮かべて、愛美さんと呼ばれた女性は家に帰っていった。
ドアを開けた先には玄関、そこから廊下が数メートル続きまたドアがある。
本当に僕の家なのか?そう思うほどに何も思い出せない。
僕は靴を脱ぎ、少女が入っていったドアの扉を開けた。
「孝太郎、お腹すいたでしょ?白が何か作ってあげる」
白い髪を1つに結い、黄色いエプロンをつけた少女は台所に立っていた。
辺りを見回すと、どうやらこの部屋はリビングらしい。
「何食べたい?チャーハン?オムライス? 」
「えっと、じゃあオムライスで」
「オッケー」
少女は鼻歌を歌いながら料理をし始めた。僕はその隙に部屋を出て、他の部屋を調べることにした。
「まずはこの部屋を見てみるか」
リビングから出て右側にあった部屋に入った。中には洗濯機、洗面所、そしてシャワーに浴槽。ということはこの部屋は風呂場か。
そして隣の部屋に入ると、トイレがあった。
「次は風呂場の前の部屋を見てみるか」
そこは女の子のものをぎゅっと集めましたと言わんばかりの部屋だった。
白い机にピンク色の椅子にクローゼット。イチゴ柄の布団が敷かれたベットの上には天蓋カーテンがつけられている。そして可愛らしい動物の人形が飾らせている。
もしや、この部屋はーー
「孝太郎、勝手に白の部屋を覗いて如何わしいことでも考えてるの? 」
やっぱりこの子の部屋だった。
「いや、部屋を間違えてしまって…… 」
「ボケてるの?まあ、いいや。オムライスできたよ」
そういえばご飯を作ってくれたんだっけ。自分から作るって言ったからには、さぞ美味しいのだろうーー
「って……うっ」
正直に言って美味しくない。一言でいえば不味い。卵はパリパリでご飯にかけられてない。真っ平らだ。ご飯もケチャップの味がするか怪しい味付けがほどこされている。
「どう? 美味しい? 」
満面の笑みを浮かべて、こちらを見る少女。こんな顔を見てしまったら、美味しくないって言えないな。
「美味しい」
さて上手く笑えただろうか?
そう言えばこの白髪の少女は何者なんだろう。同居してるということは僕の妹か?歳もぼくより下っぽいし。なら瀬崎 白かな?
「ねぇ、白たち付き合って1年になるけど何もしないの? 」
「えっ…… 」
つ、付き合ってたのか!?ということは僕は彼女と同居中?こんな若いのに?
「じゃあ、お祝いする……か? 」
「う、うん。じゃあ白ケーキ買ってくるね」
「ありがとう」
僕は少女が出かけているうちに部屋の詮索を開始した。
「あの子部屋の隣は……僕の部屋か? 」
先ほどの部屋と打って変わって、茶色の机に椅子。そしてシンプルな白を基調としたベット。
僕は部屋に入り、机の引き出しを調べることにした。
「ん?これは何だ? 」
白い封筒が1つ入っていた。やけに重い。一体中に何が入ってるのだろうか。
開けて見るしかない。僕は封筒を開けた。
"君の予想通りの展開だった。やはり彼女は黒だ。写真を入れといたから見てくれ。あとこれは私からの忠告だ。彼女は危険すぎる。君も気をつけて。だって君が一番の標的だからね。島 由紀治より"
「ひ、標的!? 」
"君"って僕のこと?命でも狙われているのか?そしてこの島 由紀治って誰だろう。
あ、そう言えば写真って書いてあったよな。それを見られば何かが分かるかもしれない。僕は封筒の中をもう一度開いた。
「っ! 」
封筒の中にビニール袋があった。その中に会ったのは目、綺麗に抜きとられた2つの目玉。
「なんでこんな物が僕の部屋にあるんだよ」
気味が悪い。とりあえずこれは捨てておこう。他に何か情報となるものがあるか探そう。
隣の引き出しを開けた。
「プレゼントだ」
青い箱。いかにも高級品といった感じだ。開けて見ると指輪が入っていた。そして箱の下に手紙があった。
"お誕生日おめでとう!プレゼントは気に入ってくれたかな?本当は直接渡したかったよ。最近、コウ元気ないみたいだけど大丈夫?いつでも相談のるからね。だって私はいつでもコウの味方だから"
「 "二階堂 世奈より"って、そう言えばメールに書いてあったよな」
まさか誕生日プレゼントが指輪って。普通こういうのは男があげるものじゃないのかな。
「あと何かないかな」
僕は適当に辺りを探ってみた。すると一冊のアルバムが出てきた。
そうだ、これで記憶が戻るかもしれない。そう思い、ページをめくるこたにした。
さすがに幼少期時代は分からないな。そして何枚かめくった先に1人の少女が出てきた。センター分けされた前髪、癖っ毛の髪を横に結った少女。あの子じゃない。顔立ちが違うし、髪色も違うからな。じゃあ誰だ?
そして二枚めくった先には、制服を着た僕と見知らぬ女の子がいた。きっとこの子はさっき写真にいた子だ。その女の子はこの先のページにも写っていた。
「うっ」
失礼な言い方だが、女の子の顔を見ていると気分が悪くなる。決して顔立ちがとかではない。むしろ可愛い方だと僕は思う。なんだろう、胸の奥から何かが湧き上がってくるような感覚に襲われる。
「ただいま〜 」
あの少女が帰ってきた。
そういえば最後のページまでめくったけど、白髪の少女は写ってたなかったな。彼女なら1枚くらいあってもいいとは思うけど。
「おかえり…… 」
やっぱり少女の名前が出てこない。
「プリンわさび生クリームチョコケーキ買ってきたよ」
なんだよ、そのケーキは。辛いのか甘いのかハッキリしろと言いたくなるような味だ。
「あとは料理だけだね。白がーー 」
「いいよ、僕がやる。お昼に作ってもらったからね」
お礼という意味もあるが、あの料理を阻止するためでもあった。
僕は台所に行き、料理をし始めた。不思議と料理のことは記憶していた。
そして2時間が経ち、料理は完成した。ハンバーグにマッシュポテト、コンソメがきいたスープ。うん、我ながら完璧だ。
「早く食べよーよ、孝太郎」
「そうだね、食べよう」
僕と少女は向かい合う形となって、夕食を食べ始めた。
本当に記憶を取り戻せるのだろうか?ふいにそんなことを考えてしまう。昔の写真を見ても全く思い出せない。というか拒絶されているような気がした。誰だったのだろう、あの子は。あぁ、ダメだ。思い出そうとすると吐き気がする。
「大丈夫、孝太郎? 」
「あ、あぁ大丈夫」
夕食を済ませたら、他に情報となるものがないか探そう。
「顔青いよ?そんなんで、明日の学校大丈夫なわけ? 」
え、学校?
「まさか、忘れてたの? 」
今日の日付は8月31日。つまり夏休み中だったのか。って、大変じゃないか。友達なんて覚えていない。そんな中、話しかけられて記憶がないのばれて、大ごとになったら……想像もしたくない。
「まあ、何か困ったら綾瀬さんに聞くといいよ。あの人、頼りになるし」
綾瀬さん?
「ごちそうさまでした。孝太郎も早く食べてよ。ケーキが待ってるんだから」
「うん」
明日の学校が不安でしかない。
翌朝。僕は目覚ましの音と同時に目を覚まし、学校へ行く支度をした。
白いワイシャツに青と白のストライプのネクタイ、そして灰色のズボン。至って普通の制服だ。
さてここで問題なのが、僕は一体何の学校に通っているからだ。あの子に聞いてもいいが、絶対に怪しまれる。だとしたら……
「そうだ、生徒手帳! 」
僕はハンガーにかけられたブレザーから生徒手帳を出した。
「北高等学校 瀬崎孝太郎」
さすがに生徒手帳に高校の地図は載ってないか。仕方がない。携帯で調べるか。
あれから1時間後、僕が通っているらしい高校に着いた。さてまたもや問題発生だ。
クラスが分からない。いや、たしか生徒手帳に所属するクラスが書かれていたような……
「おはよう、瀬崎君。綾瀬だけど分かるかな? 」
校門の前に立つ僕に話しかけてきたのは、やけに胸が大きい女の子だった。