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第9話 じゃじゃ馬ライダー

 スーパーの中に入り、カートを一台取ってそこにカゴを二つ乗せる。もはやこの地点でたくさん買う気満々である。エミリアさんが見せた一万円札も幾分かは焼き鳥代でなくなっているものの、その大半はまだ健在であった。それだけあればかなり豪華な晩御飯にできる。


「コーラ、コーラ……」

「本当にコーラが好きなんだな……」

「コーラはアメリカ人の血です! コーラがないとアメリカ人は死にます!」

「おおっ、すっごく大胆な発言……」


 実際すべてのアメリカ人がそうであるかはともかくとして、少なくともアマンダとエミリアさんにとってコーラは非常に特別な飲み物らしい。勿論俺も大好きだ。コーラをカゴの中に「五本」入れた彼女たちが次に向かったのは冷凍食品売り場だ。


「ダーリン、いっぱいあるです……!」

「こういうのはアメリカも凄いって聞いたけど……」

「おおっ、私、これ気になります! この黒くてピカピカしてる……」


 そう言ってアマンダが指さしたのは冷凍チャーハンだった。それも、冷凍チャーハンの中でも高級品に部類する物で、文字が金色にピカピカ光っていて「私はそこら辺の奴らとは違うのだ」と語りかけているようにも見える。

 ちらとエミリアさんの方を見たが、彼女が特に何か言うことはない。沈黙は肯定。アマンダはそれに従い、その高級冷凍チャーハンをカゴの中に入れた。


「結構食べるんだね」

「食べるよー。焼き鳥じゃ半分もお腹膨れないよー」


 ご機嫌に小さくスキップしながらアマンダはそう答えた。スキップのせいで彼女の胸がたゆんたゆん揺れてしまっていて、ついそちらに視線が動いている。おそらく食べることによって得られた栄養は全部そのおっぱいに向かってるんだろうな……


「だ、ダーリン、あんまり見られると恥ずかしいです……」

「大和、すけべぇですね?」

「あ、ああっ、これはその」


 しどろもどろになっている俺の耳元にエミリアさんが口をそっと当てた。


「大和みたいな人、英語で『pervert』って言うよ。スケベって」

「っ……!?」

「Pervert, pervert, Yamato is pervert♪」

「Emilia, what are you doing…?」


 耳元でそう何回もささやかれて顔を真っ赤にしてしまう。アマンダも何か様子がおかしいことに気が付いたのか慌てて抗議を入れていた。

 そのあと何回か同じネタでいじられながら店を回っていると、今度はエミリアさんが肉の加工食品売り場で足を止める。そして商品棚から何かを手に取った。


「Oh, ピザあったよ」

「ピザ?」

「薄いけど安いー」

「ピザソースとチーズあれば大丈夫?」


 姉妹でピザを巡って言葉が交わされる。図らずも蚊帳の外になってしまった俺を差し置いて二人はピザに関する熱い議論を始める。果たしてこのスーパーで売っているピザはピザと呼ぶことが出来るのか。ピザと言えばもっと生地が分厚くて大きいのでは……と。


「食べるならホンモノを注文したいよー、エミリア」

「安いから、いっぱい食べられます」

「あらがえない魅力、だね」


 どうやら、このピザを何枚も食べるかちゃんとしたピザ屋のを買うかという議論になっている。だが考えてみて欲しい。今の俺たちは既に焼き鳥という物を買っているのだ。もっともこの姉妹がどれだけ食べるかは知らないけど……


「チャーハンも食べたい」

「ピザ、少しだけ?」

「少し。他のもいっぱい食べたいよ」

「OK」


 どうやら二人の間で結論が出たようだ。俺とエミリアが持っていたカートのカゴに冷凍ピザが二枚投入される。二枚。さっき「少し」って言っていなかったっけ……?


「少し……?」

「そうだよ。焼き鳥、チャーハン、ピザ……えへへー」

「アマンダ、ポップコーンない」

「Ah, 忘れてたよー!」

「どれくらい食べるんだろう……」


 二人に聞こえないくらいの声でぽつりと呟く。

 エミリアさんがお代を持っているから俺の財布は何も痛まないけど……もし仮に出歩く機会がまだあるとするなら、食事代を奢るなどとは簡単に言わない方がいいかな。多分このペースで食われたらしんでしまいます。





 重いビニール袋を手に提げ、俺はアマンダとエミリアさんの後ろをついて歩いていた。ビニール袋を持つ代わりに俺が持ってきていた通学用のバッグをアマンダに持ってもらってるけど、もしかしたら買い物袋の方が重いんじゃないのか?


「ぐ……」

「ダーリン、大丈夫」

「こ、これくらいなら。一応俺も男だし」

「大和、無理、良くないよ?」


 そう言ってエミリアさんがウインクを飛ばしてくる。手伝ってもらいたいけど、なんか、エミリアさんには簡単に貸しを作ってはいけないような気がした。アマンダがジト目でエミリアさんの事を見ているから、多分妹である彼女には姉が何を考えているか分かるのだろう。


「あ、焼き鳥食べながら映画見るよー!」

「映画? いいね」

「焼き鳥食べながら見るから、日本の映画だよー!」


 俺のバッグを両手で抱えているアマンダはくるくる回りながら歩く。少し遠い所からエミリアさんはWashooooooi言いながら回り続けるアマンダを微笑みながら見つめていた。


「ありがとう、大和」

「エミリアさん?」

「アマンダ、こっち来る前、心配で泣きそうだったよ」


 それを聞いた時、今まさにエネルギー全開ではしゃいでいる彼女の姿が更に輝いて見えた。それはもしかしたら、故郷を離れた異国の地で自分の居場所を作ろうとしている彼女がそう見せたのかもしれない。


「私のジョーク、謝るけど、ボーイフレンドなってくれて、ありがとう」

「……いえ、お礼を言うのはこちらです」

「ダーリン!」


 遠くからアマンダの声が聞こえてくる。もう彼女は家に着いたのだ。

 向こう側から元気に手を振っている彼女の元に一刻も早く辿り着くよう、俺は重い荷物を抱えながらも少し早足になった。

 少しスーパーに寄っただけだったけれど、それでも結構な時間を外で過ごしていたらしい。二人の家に着いた頃には既に午後六時になっていた。夏が控えているから少しだけ明るいけれど、もう夜と言ってもいいだろう。


「ダーリン、焼き鳥の準備するよ!」

「準備って、電子レンジで温めるだけでいいのに」

「初めての焼き鳥だもん……ダーリンと一緒に準備したいのー」


 半ば泣き顔とも取れるような表情でアマンダは俺の顔を覗く。流石にこれを断ることができる程俺は鬼ではないため、先程屋台でニイチャンから買った焼き鳥を皿に移してそれを電子レンジに乗せる。結構な量だったが、アマンダの家にある電子レンジはアメリカナイズされている物だった為案外楽に入れることが出来た。

 そして、電子レンジで温めている間にテーブルではエミリアさんがコーラなどの準備を始めている。ピカピカに拭かれたテーブルの上には空のグラス三つと散々買い溜めたボトルコーラ一本。そして、今日見る予定の映画のDVDボックスだ。


「今日は何見るんだ?」

「日本のサムライが悪い奴をとっちめる映画です!」

「アマンダに言われて、がんばった、探したよー」


 他にも映画定番のポップコーンを映画館っぽい円筒状の箱に入れたり、さっき買ってきた冷凍チャーハンをフライパンで調理したりと頑張ること数分、焼き鳥が温まり、それから少し経った後にチャーハンも完成した。

冷凍ピザは次の映画を見る時に作ることになり、とりあえず俺たちはポップコーン、焼き鳥、チャーハン、コーラと様々なバリュエーションの料理が載ったテーブルの前に座った。この姉妹は本当に映画が好きなのだろう。そうでなければ映画を見るのにここまですることなんて出来ない。


「それじゃ、映画始めますよー!」


 アマンダの言葉にエミリアさんが拍手で答える。そして、アマンダはプレーヤーにサムライの映画のDVDを挿入した。


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