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第8話 だいじょばない……?

「ダーリン、身体硬すぎだよー」

「畜生……まだ骨が痛む……」

「大和、運動、必要だね」


 五時間目が終わった後の日本史では見事に昼寝をしてしまい、隣のアマンダからたびたび心配されながらも俺は今日の授業を全て乗り切った。皆の前でのアマンダとの関係バレ発言からよくここまで生き抜いたものである。

 だが、ここでほっと一息つくことが出来る訳ではない。俺とアマンダの間柄目当てにクラスメイトやちょっと俺を知っているレベルの人たちが度々俺たちの様子を物陰から伺っていることがあるのだ。そして、大変なのはエミリアさんも一緒である。


「エミリアさん、ちょっと大丈夫ですか……?」

「Sorry, I’m busy now」

「し、失礼しましたー!」


 放課後、家に向かっている俺たちの所に男子生徒が駆け寄ってはエミリアさんに玉砕して帰っていく、という光景が見られるようになってしまった。最初は優しい笑顔で応対していたエミリアさんだったけど次第に疲れたのか不機嫌な顔に変わっていく。


「エミリア、大変だね」

「Mm…」

「怒ってる?」

「怒ってるよー」


 そんなことを言いながら歩いていると、少し離れた所からなんだかいい匂いが漂ってきた。近くのスーパーの前にいる焼き鳥屋の屋台がその元凶だった。そして、それにエミリアさんが反応する。


「Oh…これは何ですか?」

「ああ、焼き鳥ですね」

「焼き鳥? 聞いたことあります!」


 アマンダが「焼き鳥」という言葉で嬉しそうに飛び跳ねる。そのせいでセーラー服を持ち上げている胸がたゆんたゆんと揺れた。ついでに彼女の首元から柑橘系の香りもふわりと漂ってくる……


「日本の映画でよく出ている料理ですよね!」

「あ、ああ。よく知ってるな」

「大和。焼き鳥、美味しいですか?」


 エミリアさんも興味津々といった目で俺の事を見て尋ねてくる。ふむ、こうなってしまったからには二人に焼き鳥を食べさせてあげなければいけないか。二人暮らしだと言うし、彼女たち二人が食べたいと言っているのならそれを間食や夕食にしても問題ないだろう。


「屋台の奴はとっても美味しいですよ。買いに行きましょうか」

「やったー! ダーリン大好きー!」

「焼き鳥、気になる、です……!」


 そして二人を連れて少し歩き、近場のスーパーマーケットに到着。そこの前にある屋台で売っている焼き鳥を見てみると、案の定とても美味しそうであった。波乱に満ちた午後を過ごしていたせいで腹が減っていたのもあるだろう、今の俺たちにはこの焼き鳥がとても魅力的にしか見えないのだ。

 アマンダとエミリアさんに興味をひかれたのだろう、屋台の所にいたニイチャンは明るくはっきりとした声でトークを仕掛けてくる。


「いらっしゃい! お、二人は外国の方かな?」

「アメリカから来ました! おすすめ教えてください!」

「ほー、アメリカから! おすすめはな……そうだな、これとかどうだ?」


 そうして焼き鳥屋のニイチャンが次々とおすすめを紹介していく。ねぎま、かわ、レバー、砂肝……と紹介していくうち、遂に彼は全ての商品を紹介してしまった。


「お、やっちまった、これじゃあ全部がおすすめ商品じゃないか!」

「エミリア! 一本ずつ食べたいです!」

「大和も食べる? 私、払うよ?」


 エミリアさんは財布から万札を取り出すと俺の顔を見てニヤリと笑った。い、いや待て、この焼き鳥屋で売っている物を一種類一本ずつ食べるとなると、それは相当な金額になる。しかもそれを三人分だ。エミリアさんの負担も大きくなる。流石に自分でも払えない。

 だが、俺も焼き鳥を食べたい……! こんな物を目の前に何も買わずに帰るだなんて……それに、エミリアさんの厚意を無駄にするわけにもいかない。と、考えていると。


「全部三本ずつ、くださいです」

「お、分かったよ! ちょっと待ってな」

「え、エミリアさん!?」

「ダーリン、黙ってるのはオーケーのサインですよ」

「えぇ……?」


 どうやら彼女たちの間ではそう言うことになっているらしい。結局、俺がうんともすんとも言わない間に全部の焼き鳥を三本ずつ買ったエミリアさんはとても満足したような顔でビニール袋を受け取るのであった。


「まいどありー!」

「ありがとですー!」

「アマンダ、コーラ無いよ」

「それじゃコーラ買って帰るねー。ダーリン、手伝ってくれる……?」


 甘えるような声でアマンダにそう聞かれてしまう。そこまでされてしまったらこちらも断れないよ……


「もちろん」

「終わったら遊びに来て、ダーリン!」

「買い物終わったら家に来るとイイよー、焼き鳥ある!」


 エミリアさんも親指を立ててOKを出してくれた。となると、これはやはり行かなければいけないだろう。宿題もアマンダと二人で協力してやればまぁ問題ないだろうな……


「あ、ちょっと電話するね……親に帰りが遅くなること言わないと」

「わかったよー、ダーリンのダディやマミィにもよろしくね」


 ポケットからスマートフォンを取り出し、アドレス帳の母親の欄から電話を掛ける。耳に当ててしばらく待つと向こう側の声が聞こえてきた。


〈大和、どうしたの?〉

「ええっと……帰りが遅くなることを言いたくて」

〈帰りが遅くなる? 変なことしてるんじゃないでしょうね……〉


 怪しんでいる様子の返答にこちらは少し考えてしまう。果たして、アマンダたちの事を言うべきかどうか。それに、言うとしてもアマンダとどんな関係だと説明するべきか。アマンダの事を「彼女」と言い切ることが出来るのなら楽なんだけど、ちょっと恥ずかしいというかなんというか。

 いや、でもそれだったらいつまでも前に進めない。俺がちゃんとアマンダの事を説明できるようにならないといけないんだ。


「彼女が出来た。手伝いで彼女の家に行きたいんだ」

〈か、彼女!? 大和に彼女!?〉

「ダーリン……!?」


 俺の言葉を聞いてアマンダが目を輝かせる。その横ではエミリアさんも面白そうな目で俺の事を見ていた。そう言えば、俺がアマンダの事をガールフレンド、彼女だと他の人に伝えたことは今まで一度もなかったような気がする。

 それに、母さんもめちゃくちゃ驚いているようだ。まぁ、今まで色気づいた話が何一つなかったから、突然こんなことを言われたら驚くよな……


〈ど、どどど、どんな人なの!?〉

「同じクラスの編入生。アメリカから来た女の子」

〈アメリカぁ!? あ、アメリカってあの、ニューヨークとか……〉

「そ、そうだよ。そのアメリカだよ」


 逆に他に何のアメリカがあるというのだ。まさか南アメリカ大陸から来たとかそういう勘違いをしているのか? そこまで慌てなくてもいいと思うんだけど、うん。


〈大和ったらいつの間にそんなグローバルな人材になってたのかしら……! いいわよ、いくらでも手伝ってやりなさい! ちゃんと向こうの家に迷惑かけないように気を付けるのよ! そして帰ったら詳しく聞かせて〉

「わーかった、わかったから、帰り遅くなるから、じゃーね!」


 半ば強引に話を終わらせて電話を切る。そして、電話の内容を楽しみに待っていた二人に笑顔で親指を立てて良い結果であったことを伝えた。アマンダは俺に抱き着いてくるとそのままドラマのヒロインのようにくるくると回ってしまう。


「ダーリン、お買い物しよー!」

「そ、そうだな。確かコーラがなかったんだっけ?」

「焼き鳥だけじゃなくていろんな物も買うよー! スシとか天ぷらとか」

「アマンダ、私、ピザ食べたいなー」


 いつの間にか夜のパーティーの主役から焼き鳥が引きずりおろされそうな会話になっている中、二人はきゃっきゃとはしゃいでスーパーの中に入っていく。俺は少し早足でその二人について行った。


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