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第7話 バンビーナ

 古典は簡単なガイダンスで終わり、その後の数学と物理は俺もアマンダも死んだような顔で乗り切った。そして待ちに待った(?)昼食の時間がやってくる。アマンダの要望で机をくっつけることになり、向かい合わせで座ると、彼女はバッグからラップに包まれたサンドイッチとペットボトルのコーラを取り出した。


「ん、アマンダのご飯はそれか」

「はい。ダーリンのご飯は……?」


 そうして俺は、家で母親が作り置きしてくれていた弁当箱を取り出す。そのふたを開けると、アマンダはおおっ、と声を上げて笑顔になった。


「なんかいっぱい入ってます! お弁当ですね!」

「ん、まあそうだな。母さんに作ってもらってるからあんまり偉いこと言えないけど……」

「アメリカでもお弁当、ちょっとだけ流行ってるんですよー! ダーリンのお母さんに料理教えてもらいたいです!」


 弁当の中に入っているのはご飯、唐揚げ、玉子焼き、スライスされたキュウリと茹でたブロッコリー。流石に冷凍食品も入ってはいるけど、あの忙しい中でも色もしっかりと考えて弁当を作ってくれているのだから頭が下がる思いだ。


「そのサンドイッチは?」

「これはマミィ直伝の特製サンドなんです!」

「直伝?」

「アメリカでマミィが教えてくれたスペシャルソースを使っているのです!」


 そう言ってサンドイッチをラップから出してアマンダはそれにかぶりつく。そして、目を閉じ、金髪セミロングヘアを揺らしながら幸せそうな唸り声を上げた。


「んーっ!」

「中には何を挟んでるんだ?」

「ベーコン、レタス、トマト、そしてスペシャルソース……何使ってるかは秘密ですよ?」


 さすがにそこは教えてもらえないらしい。


「教えてくれないかー」

「でも、ダーリンが本当の『家族』になったら、その時は教えてあげられますねー!」


 そこまで話をしていた時だった。ふと教室の外がざわざわと騒がしくなる。

 そして、アマンダと同じ金髪の女子学生が一人教室に入ってきた。


「Amanda…oh!」

「Emilia! Why are you here?」


 そこに立っていたのはなんとエミリアさん。アマンダと同じようにコーラとサンドイッチが入ったバッグを持って、俺とアマンダがくっつけた机の上にトンと置いてしまう。


「あー、私、アマンダと大和が、心配?」

「え、あ、ちょっとエミリアさん、ここで食べるんですか?」

「エミリア、こうなると人の言う事聞かないです」


 がっくしと肩を落とすアマンダの横で、教室の隅に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきたエミリアさんがくっつけた机の横の方に座る。

 腰まで伸びる金髪ロング、そして妹にも劣らぬ大きさの胸……更に見た目も美人となれば男子生徒の視線が釘付けになるのは自明であって。かくいう俺もうっかりすればエミリアさんのセーラー服越しおっぱいをじっと見つめてしまう。


「んー、サンドイッチ、みんなで食べると美味しいね……」

「エミリア、どうしたの?」

「私のクラス、野郎いっぱい、うるさい、ファァァック!」

「Oh…それ辛かったね……」


 エミリアさんの独白を聞いて、さっきまで「また美人さんが来た」「あれがアマンダさんのお姉さん……」とうつつを抜かしていた奴らが全員はっとした表情になる。うん、エミリアさんはこういう人なんだ。見た目だけに釣られたら駄目だったってことだね……


「大和、優しい。アマンダもいる。だから、ここで食べる」

「いいよー! エミリアいれば面白いよー!」

「えぇ……」


 相変わらずの振り回されっぷりだった。だけど、こういうのも案外悪くないと思い始めている自分がいる。活発な姉妹が来たことで、去年まで波一つ立たなかった俺の高校生活が面白い物になりつつあることを確かに感じていた。

 そして、俺が弁当を食べ終わった辺りでアマンダが時計をちらと見る。まだ全然時間は残っていた。五時間目は体育だったけど、これに関しては特段事前にやっておくこともない。


「エミリア、ダーリンは英語へたくそです」

「へたくそ……?」

「イングリッシュスキルがプアーです」

「プアーッ……!」


 流石にそれくらい俺でも意味が分かる。しかしプアーとはなんだ、かわいそうなのか。

 エミリアさんはアマンダの言葉にクスクス笑った後、少し恥ずかしそうにしていた俺の顔をじっと見て、なんとも意地悪そうな笑みを浮かべる。うっかりしたらこのまま食われてしまいそうなほどの笑顔だ……


「大和、英語のプラクティス必要だね」

「はい……」

「ん……We’ll teach you to speak English. Allight?」

「オーライ……」


 そうして、俺が姉妹から英語を教えてもらうことが半ば確定してしまったのだった。





 そのまま昼休みを姉妹の英会話講座に費やし、五時間目、体育の時間になった。

 クラスの男子が皆楽しみにしていたであろうアマンダの体育着姿……体育着がないかもしれないからダメだと思っていたけど、そんなこともなく無事に拝むことが出来た。体育館に集まった俺たちは、授業の最初の時間に任意の人とのストレッチを行うことになっている。


「ダーリン、一緒にストレッチです!」


 体育着のTシャツの下でその巨乳をたぷたぷと揺らしながらアマンダがこちらへ走り寄ってくる。半袖短パンから伸びる白い腕と眩しいばかりに輝く太もも、そして弾けるような笑顔が魅力的でたまらない。


「アマンダさん可愛いなぁ……」

「くそぉ、大和の奴、羨ましすぎるぜ……!」


 そんなことを傍から言われながらも両手を握って身体を横方向に伸ばしあう。そうやって気が付いたが、アマンダは結構運動が出来るっぽいのだ。あまり授業以外で身体を動かすことのない俺とは違って、こういうことに結構慣れている顔である。


「ほら、ダーリン、背中くっつけて」

「お、おう」


 背中をくっつけて腕を絡ませ、アマンダがぐいっと俺を持ち上げる。あんまりにも強くやる物だから背中がピキっと音を立ててしまった。ガチガチになっていた身体がぽくぽくとほぐれていく。


「ダーリン……?」

「わ、わかったよ、今やる」


 そう言って今度はこちらがアマンダを持ち上げる。


「わー!」

「ぐっ……?」


 女の子の身体は軽いとかそういう話を聞いていたけど、アマンダに限ってはそんなことはなかった。確かにアマンダの身体からは重みを感じ、更に、ぴったりとくっついている背中からは彼女の暖かみも伝わって来ていた。む、もしかしてこの重みの正体は彼女の大きなおっぱい……?


「アハハ、ダーリン元気いっぱいですねー」

「アマンダこそ……」


 そうして今度は座って後ろから押してもらうストレッチになる。最初はアマンダが座って足を延ばし、俺が彼女を後ろからそっと押してあげることになった。女の子の暖かい背中に手を当て、痛くなりすぎないようにそっと押し続け……ん?


「んにゅー」

「わ、アマンダさん凄い!」


 俺たちのストレッチを見ていた他の女子がアマンダの様子を見て叫んだ。

 身体を前方にしっかりと曲げ、つま先をちゃんと両手で掴んだアマンダはそれでもまだ余裕が残っているような顔をしていた。そして確信する。アマンダは身体を動かすことも好きなのだ。映画鑑賞からインドアのイメージがついていたけどあながちそうでもない。


「次はダーリンの番ー」

「あ……」


 嫌な予感がして今度は俺が座る。そして足を延ばし身体を前に倒した。ちょっと。


「……ダーリン?」

「は……い……」

「もしかして、もうダメですか?」


 震える首でこくこくと頷く。そんな俺を彼女は可哀想な人を見るような目で見てきた。いやそんな目で見られても……本当にこれ以上動かないんですよ……!


「仕方ないですね、手伝ってあげます!」

「え゛っ」


 アマンダはそう言うと俺の後ろに来て、そのまま両手を俺の背中に当てる。そのまま体重をかけて、前の方へ向かってぐいぃぃぃぃあぁっぁああぁあぁ――


「あ゛ああああああーーーーっ!」

「ダーリン! もっと身体やわらかくなるです!」

「いぎぃぃぃぃ! おおぉぉぉぉぁぁあ゛ああぁぁぁああああーーーーー!」


 やめて、と言おうにも声が言葉にならない。

 そして地獄のような数分を、こうやってアマンダのスパルタ指導で過ごしたのだった。勿論この後に控えていた肝心の授業では身体はボロボロになっていたわけで……

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