第5話 新学期のキセキ
家に帰った後、なんとなく気になって家にある映画を漁ってみた。父さんが趣味で集めていた物から勘で二作選び、夕食後に誰もいなくなった居間のテレビでそれを見る。こうしていたら、もしかしたらアマンダやエミリアさんとのお話に役立つかもしれないからだ。
冷蔵庫から持ってきたコーラを飲みながら見た映画は本当に面白かった。今回見た物はアクションとコメディーの二つだったが、どれも序盤の伏線がうまく回収されていたり、役者の演技ではっと息を呑まされたりと、どちらも見ている人を飽きさせない。
(……これ、アマンダと一緒に見られたらもっと楽しかっただろうな)
一つだけ注文を付けるならそこだった。
朝に出会って俺のガールフレンドになった謎の外国人の少女、アマンダ。ぐいぐいと俺を引っ張って新しい世界に連れて行ってくれる彼女がいれば、きっと更に面白くディープな場所へ行くことが出来るに違いない。
そんなことを考えていると、今日新しく入れたSNSの方にアマンダから通知が一通届いていた。
〈今日、ダディとマミィにボーイフレンドが出来たって連絡しました! 二人とも喜んでくれました! 今度写真送りたいです! 明日私の家の前で会いましょう!〉
アマンダはとても優しい子だ。言葉の一つ一つがそう思わせてくれる。
俺自身も何が起きたかよくわかってないけど、アマンダのような人をガールフレンドに出来たのは本当に素晴らしい事だった。明日からは彼女と共に高校に行くのだ……
(……不安があるとすれば、な)
どうにもならないことだった為、俺は自分の部屋に戻った後ベッドで横になった。
※
翌日。今度はしっかりと余裕をもって家を出ることが出来た。
昨日訪れたアマンダの家の前まで何の問題もなく辿り着き、SNSで着いたよとメッセージを飛ばす。少し経って、アマンダから「今行きます」と返事が来た。そして家のドアが開き、そこからセーラー服姿のアマンダとエミリアさんが出てくる。アマンダは肩までの金髪を、エミリアさんは腰まで伸びる金髪を輝かせていて、目を見張る程に綺麗だった。
「おはよ、ダーリン。一緒に学校行くよー!」
「Good morning, 大和」
「おはようございます。それじゃ、行きましょうか」
アマンダに片腕を取られ、少し後ろをエミリアさんが歩く。そのような体制で向かっていると、道中何人かの男子学生がこちらの羨ましそうに見ては通り過ぎて行った。
「ダーリン、どうしたの?」
「ああ、いや、何でもないよ」
「ふふーん、秘密は良くないんですよー?」
「本当に何でもないんだって。それに、アマンダには秘密は作りたくないし」
後から思い出して恥ずかしくなりそうな言葉をつい口にしてしまう。でも、アマンダはそれを聞いてとても喜んでくれていた。片腕にむにむにと大きなおっぱいを押し付けられながら、好奇心旺盛な彼女の手綱を握るような感じで学校に辿り着く。
「んじゃ、私とエミリアは用事あるから行くよー」
「お、それじゃあまたどこかで」
「じゃーねー!」
「See you!」
アマンダとエミリアさんは職員室に用事があるということで俺とは別れて行ってしまった。アマンダのおっぱいの感覚を思い起こしながら新しいクラスが書かれた名簿を見る。すると……
「お、大和、お前もこの時間に来てたのか」
「渡辺じゃないか。そういうお前こそ」
「なーに、ほら、お前の番号はあそこだ」
そう言われてクラス表を見てみる。すると、同じクラスに渡辺の番号もあった。
「お前と一緒か」
「忘れ物したときに借りられなくなるのはちと辛いが……そら、見てみろ」
渡辺に促されてもう一度クラス表を見る。俺のクラスの所に「編入生」と書かれた欄があった。誰が入ってくるのかと思ったが、よく考えてみればそこに誰が来るかはほとんど確定しているようなもので……
「かわいい女の子だと良いなぁ!」
「……そう、だな」
「お、そう言えばお前、あの時はよく聞けなかったがあの子とはどこで出会ったんだよ、なあ、なあ?」
新しい教室に向かう途中の廊下で渡辺にそう絡まれる。
ええと、アマンダの事はどこまで話してよいのか……
「ちょっとこの街の案内をしていてだな……」
「街の案内か、成程それであの場所に」
「前に一度来たことがあったみたいなんだがな」
そう答えている内にも渡辺の顔はでへへと邪な笑みで染まっていく。まあ、アマンダは可愛い子だからな。思い返しただけでそうなっちゃうのは俺もあまり言えない……
「お、ここが新しい教室か。席順はさてさて……」
「渡辺だから一番後ろに決まってるだろ。さて、俺は……ん?」
右から二番目、一番前の席が俺の席。そして、その右に「編入生」とだけしか書かれていないところを見てぎょっとする。もしかして、ここまで俺の予想が合っていたとするなら、高校生活は波乱万丈の物になってしまうのでは……
「どうした、大和? 顔が青いぞ?」
「あ……いや……」
「んじゃ、俺は新しい席からの景色を堪能していることにするぜ。じゃあな!」
そして渡辺は一番左後ろの席へと向かって行ってしまう。震える手を抑えながら俺も自分の席へと座り、編入生が来ると言われている右隣の席をじっと見る。
そうしていると、教室に見たことのある誰かが入ってきた。
「あ、大和さん、いたんですね」
「六花さんもこのクラスでしたか」
「はい。知ってる人がいるクラスで良かったです……」
目の前でほっとしたように一息つく黒髪長髪の女子学生の名前は撫子六花。同じ中学を上がった俺の数少ない旧友だ。優しい顔つきで立ち振る舞いもしっかりしている今時珍しい「日本人らしい女性」であり、前のクラスでは男子から圧倒的人気があったという話も聞く。
そして、彼女は何よりセーラー服がよく似合っていた。ついうっかりしたらずっと彼女を見ていられる程に頭からつま先までが整っているのだ。
「そう言えば、大和さんの隣って編入生なんですね」
「らしい……です」
「大和さんなら仲良くなれますよ。大丈夫です!」
胸元で手を合わせてそう言ってくれた六花さんはキラキラと輝いて映った。ああ、これならクラスの憧れになるのもわかるような気がする……
「みんな席に着いてくださいね、ホームルームが始まりますよ」
直後、教室に新しい担任となる女性教師が入ってくる。お、今年は雪乃先生か。
「雪乃先生今日も綺麗ですね!」
「こら、大人をからかわないの。座って座って」
教室の後ろの方から渡辺がちょっかいを出してやがる。まぁあいつは前からああいう奴だった。しかし、雪乃先生も息を呑むほどの美人さんなんだよなぁ……背が高くて胸も大きめでちょっと灰色がかった髪をポニーテールにしているから、下手すれば同世代の女子よりも人気があるかもしれない。雪乃先生が何歳かは……うーん、三十路入ってるよね?。
クラスがあらかた落ち着いてきた所で先生が話を始める。この辺りのまとめ方がうまいのは雪乃先生の経験があるからだろう。
「皆さんはもう知っているかもしれませんが、このクラスには編入生が入ってきます」
その一言でまたクラスがざわめいた。
「可愛い女の子ですか!」
「ふふっ、それはお楽しみに。それじゃ、入ってきていいですよー」
雪乃先生がそう言うと教室の扉ががらりと開く。
そこに立っていたのは……
「よ、よろしくお願いしま……ダーリン!?」
「ダーリン!?」
予想通り、そこにはセーラー服姿のアマンダが立っていた。いや他に誰がいるんだと。そして、彼女がすぐ傍にいた俺を「ダーリン」呼ばわりしたことに教室の皆が凍り付いていた。
さようなら……俺の安らかな高校生活……