第3話 ステイ・ウィズ・ミー
「え、二人暮らしなんですか?」
「いぇす! ダディもマミィも許してくれました!」
「それじゃあ、アマンダさんは明日から高校に……?」
アマンダが英語で替えてエミリアさんに伝えていると、突然エミリアさんが口を開く。
「Me too」
「え?」
「エミリアも学校行くよ。一つ上の三年生? だったかな?」
どうやら話を聞くに、この姉妹、明日から俺と同じ高校に通うのだそうだ。アマンダは俺と同じ二年生、エミリアさんは一つ上の三年生として編入してくるらしい。エミリアさんのセーラー服姿を想像してニヤニヤしてしまい、それをエミリアさんに見つかってしまう。
「ん……?」
「……あ、その、これは」
「キョーミ……あるの?」
エミリアさんはそう言って笑うと自分の着ているシャツの襟元をつまんでぱたぱたとさせてしまう。そのせいで彼女の胸の谷間がちらちらと見えるようになってしまい、息が詰まってまともにコーラさえ飲むことが出来なくなってしまった。
それを見ていたアマンダはむくれたような表情になるとエミリアさんの方を向く。
「エミリア! ダーリンは私の物!」
「アハハハ……!」
アメリカ人らしく笑いに笑ったエミリアさんはハンバーガーの残りを口に放り込んで飲み込んだ後、ポケットからスマートフォンを取り出して何やら弄った後に画面を見せてきた。とあるSNSのプロフィール画面らしい。
「大和、交換、しない?」
「あっ、エミリア、私も……!」
「ん……すいません、ちょっと僕のスマートフォンにそれ入ってないみたいで……」
それを聞いたアマンダの顔がカチコチに固まった。そして、俺が言ったことをアマンダがエミリアさんに説明すると、エミリアさんも同じようにカチコチに固まってしまう。
「Oh, fu〇k」
「日本だとこれ、ポピュラーじゃない?」
「そうだな……俺たちが学校でよく使うのはこれ」
それを見せると二人は競い合うようにそのアプリをダウンロードし始める。そしてほぼ同着で新しく作ったプロフィール画面を見せてきた。こちらもスマートフォンでプロフィール画面を開き、そこから「友達追加」と書かれた場所をポチって二人の連絡先を登録する。
見よう見真似で二人も同じようにやってなんとか出来た。俺の連絡先が入ったスマートフォンを見て二人とも嬉しそうにしている。特にアマンダは目がキラキラとしていた。
「そうだ。さっきのアプリ、俺のにも入れさせてください。もしかしたらそちらでも繋がってたら片方何かあった時便利ですし」
「お、分かったよー! それの名前はね……」
アマンダさんからレクチャーしてもらいながら新しいSNSアプリをスマートフォンにダウンロードする。そして、二人からいろいろ教えてもらいながらやっと新しい連絡先をこちらでも二つ登録することが出来た。
二人が今までにタイムラインにあげた画像を辿ることが出来るらしく、そこにはおそらくアメリカのどこかの空港の写真、日本について最初に食べたであろう寿司、新しい家の内装を映した写真、と二人が新しい環境でのびのびと暮らしている様子が想像できる物がたくさんあった。
「あ、そうだダーリン! 家に来るとイイよー!」
「え、い、家?」
「ピザもポップコーンもコーラもあるから映画見よーよ!」
おお、実にアメリカ的な映画鑑賞だ。今日は夕方まで学校にいるつもりで家を出てしまったからアマンダとエミリアさんの家に行っても何も問題はない。だけど。
(女の子の家に上がる……どうしたらいいんだ、しかも相手は外国人だし)
「大和、大丈夫?」
エミリアさんが襟元を指で下げて谷間を見せつけながら、笑顔でそう囁いてきた。
そこまでされたら……ああっ、断れないよぉ……
※
エミリアさんのおっぱいの誘惑、いや、アマンダたちとの映画鑑賞の誘惑に負けた俺は二人の家の前に立っていた。住宅街の中に立つ一軒だけど、他の家と比べて結構でかい。とても二人暮らしをするにはもてあそんでしまう部分が出る程だ。
玄関に入った時、ふと脳裏に「外国人は玄関で靴を脱がない」話を思い出した。だけどアマンダは律儀に玄関で靴を脱ぎ、そのまま学校指定の二―ソックスでぺたぺた歩いていく。エミリアさんもなんだか慣れてない様子で靴を脱いで上がっていった。勿論俺もそれに倣う。
「映画鑑賞はよくするの?」
「そーだよ。私も、エミリアも、映画大好き!」
ご機嫌な様子でコーラをグラスに注いだアマンダは俺の分を手渡しで寄こしてくる。映画の話をする時の喜びようを見るに、本当に彼女は心の底から映画の事が好きなのだろう。
「はいこれ、映画ならポップコーンはマストだね!」
「ありがとう、じゃあもらうよ」
「えへへー、ダーリンと映画ー」
アマンダは俺にポップコーンの吐いたボックスを手渡した後、自分の分のコーラ片手に映画のDVDボックスが入った棚の前に立って人差し指でボックスの背表紙をなぞり始めた。
「ダーリン、映画いっぱいあるけど何にするー?」
「お、聞いたことあるアクション映画がいっぱい」
「マイフェイバリット、これ!」
そう言ってアマンダが指さしたのは、日本で多分知らない人はいないんじゃないかというレベルの知名度を誇るホラー映画。テレビの中から女の人が出てくるアレ……
「お、おう、そうか」
「一緒に見よー?」
「ぁ、アマンダ」
ふとエミリアさんの声がしてそちらを向くと、対面式キッチンの陰に隠れてエミリアさんが顔を真っ青にしてこちらを伺っていた。先程までの強気な態度はかけらも残っていない。もしかしてこういう映画が駄目なのだろうか……俺も駄目だけど。
「エミリア、あんまり怖くないよ!」
「NO!」
「んー、大和は一緒に見てくれるよネ?」
媚び売るような声でアマンダに誘われてしまい、断るに断れない状況になってしまった。いやしかし、ここは日本男児、やらなければいけないのだ。もしかしたら苦手なジャンルを克服するチャンスかもしれない……!
「イエス!」
「ヤッター! それじゃ一緒に見るよー!」
「OH GOD!」
悲痛な叫び声をあげるエミリアさんをよそに、アマンダはワクワクしながらDVDをプレーヤーに挿入していった。