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第18話 バッド・ガール

「アマンダ、大分落ち着いたよ。今は眠ってるね」

「ありがとうございます、エミリアさん」


 風呂場でのぼせたアマンダの一件が終わった俺はきちんと着替えなおした後ウォーカー家のソファに腰を預けていた。隣に座っているエミリアさんと二人で棒アイスを舐めていると、彼女は時計をちらと見た。もう午後十時である。


「大和」

「どうしましたか?」

「シャワー浴びてくるから待っててほしいよ」

「ん?」


 そう言ってエミリアさんは残ったアイスを口に放り込むとそのまま脱衣所に向かってしまった。時間が時間だったから帰ろうと思っていた中、エミリアさんに待たされる事約三十分。ソファに身を預けてうとうとしていると脱衣所から彼女が姿を現した。


「Sorry, 待たせたよ」


 そう言って居間へ出てきた彼女は水色の長ジャージのズボンを履いて上には黒い無地のTシャツを身に着けていた。部屋着としては至って普通の格好ではあるのだが、いかんせんエミリアさんが着ると胸の辺りがかなり強調されてしまい、さらに、ジャージであるためか彼女の尻のラインも分かってしまう。


「エミリアさん……!?」

「大和、どうしたの? 顔真っ赤だよー」


 彼女は分かっているかのような笑みを浮かべながらこちらへ歩み寄ってくる。そして、慌ててソファに座り直した俺のすぐ隣に腰を落ち着けた。くっ付いてしまうのではないかと思う程に近い位置にいるエミリアさんの身体からはふんわりとした石鹸の匂いが漂ってくる。


「え、ええっと、エミリアさん?」

「んー、大和、やっぱりスケベ?」


 そう言いながら彼女は俺に腕にその豊満な胸をむにむにと押し付けてくる。どうしたらいいか分からずに戸惑っているとそのままエミリアさんは俺を抱いて腕で拘束してしまった。


「え、エミリアさん、ダメですよ……!」

「ダメ?」

「アマンダがこのことを知ったら、何て言われるか……」

「んー」


 少し考えた様子を見せたエミリアさんだったけど、その後にとっても悪いことを考えた表情になる。それを見た俺はこの状況が変わることがないことを悟ってしまった。


「アマンダの事、好きなんだ」

「は、はい、ってええ……!?」


 エミリアさんはそっと目を伏せると、そのまま何の予兆もなしに俺の頬にそっとキスをしてきた。それも、今日俺が六花さんにされたようなべちょべちょと貪欲なキス……!


「ぁ……ちゅ、んっ、むちゅ……」

「あああっ」


 突然の行動に何も対処できないまま時が過ぎていく。そして、一度彼女から頬を吸われるごとに、俺の心がちょっとずつだけどエミリアさんの方にも傾いてきてしまっている……いや、俺にはアマンダがいるのは分かってる、だけど……!


「大和、私の事、好き?」

「えっ」

「アマンダの事、分かってるよ? でも、私の事も好き……?」


 耳元でエミリアさんはそう囁いてきた。ドクリと心臓が大きく跳ねる。

 腕には彼女の胸が押し付けられており、今にもそこが溶けてしまいそうだった。


「そ、それはぁ」

「大和……?」


 エミリアさんに理性を溶かされる。もうダメだ。そう思った瞬間、居間の戸がほんの少しだけ開いていることに気が付いた。そしてそこには……


「Emilia…」

「Oh, Amanda?」

「ヒッ」


 とても不機嫌な様子のアマンダがそこには立っていた。着替えてきたのだろう、ピンク色のパジャマに身を包んだ彼女は制服の時よりも愛らしかったが、今はそれどころではない。アマンダは俺が何か言おうとするよりも先にエミリアさんに思いっきり叫んだ。


「Emilia, what are you doing !」

「Sorry, I did…」

「He is MY boyfriend!」


 何はともかくアマンダがエミリアさんに憤っているのは伝わってきた。

 つまらなさそうに唸ったエミリアさんは俺の頭を一度優しくなでた後、そのまま俺から離れて部屋を出て行ってしまった。アマンダはすぐさま俺の所に駆け寄ってくる。


「ダーリン、変な事されてない?」

「あ、ああ。大丈夫だよ……」


 危なかった。もし「エミリアさんの事も好きです」なんて言ってたら――

 先程の剣幕はどこへ行ったのか、アマンダはとても安心した顔で俺の隣に座る。そしてそのまま、先程エミリアさんがしていたようにぎゅっと腕を回して抱き着いてきた。相変わらず腕は大きなおっぱいに包まれてしまった。


「ダーリン……ダーリンは私の物だよ……」

「うん」

「私も、ダーリンの物だからね?」


 そんなことを言ってアマンダは俺の顔を見上げてくる。彼女の表情は少し切なそうだった。自由に動く方の手を回して彼女の頭にのせ、そのまま優しく頭を撫でる。先程エミリアさんがそうしていったように。


「ん……さっきはありがとね、ダーリン?」

「あんまり無理はするなよ」

「ごめんなさい」


 アマンダは俺の肩に頭を乗せると、ついにうとうとし始めてしまう。

 時間はもう十一時が近い。こうなってしまっては、今日もまた帰られないな……





 普段は自宅の設備を使って映画鑑賞を行っていたが、今日はアマンダから映画館で見ないかとお誘いが来た。次の活動日である金曜日が祝日の為、ゴールデンウィーク前日となる木曜日の今日、学校帰りに俺は片腕にアマンダをくっつけながら霞の浦デパートに向かって歩いていた。


「えへへー、ダーリン英語ちょっとだけ上達してたですよ」

「ん、そうか? そういうアマンダは古典大分覚えてきたんじゃないか?」

「そんなことないですよー、ダーリンのおかげです!」


 お互いに謙遜し合いながら相手を褒め称え合う。最初は慣れなかったけれど、こういうバカップルじみたやり取りも最近はようやく少し出来るようになってきた。渡辺辺りからはその辺り驚かれてるけど、それも徐々に気にならなくなってきたのがちょっと怖い。

 アマンダのおっぱいの感触を腕で受け止めながら歩いているとデパートが見えてくる。そして、その外壁に貼ってある様々な映画の告知用ポスターを二人で眺め始めた。


「何か惹かれる物はあるか?」

「ん……私、あれ気になります」


 彼女が指差したのは最近実写化された恋愛漫画原作の作品だった。俺も名前は聞いたことあるけれどどういった作品かは全く知らない為、何とも答えようが無かったが。


「高校生の恋愛映画……かな?」

「あんまりそういう映画見なかったです」

「行ってみるか?」

「はい!」


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