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第14話 愛のままにわがままに

 何とか落ち着いたアマンダ、ちゃんと学校指定のセーラー服に着替えてきたエミリアさん、少し不機嫌ながらもついてくる六花さんの三人に囲まれ、俺は台所の一角に立っていた。どうやらこれから朝と昼御飯用のサンドイッチを作るらしく、その手伝いをすることになったのである。


「ダーリン、食べられないものありますか?」

「んー、特にないな。奇抜過ぎなければ大丈夫だと思う」

「それじゃあ定番のBLTサンドにしましょう!」

「BLT、簡単だねー」


 アマンダとエミリアさんの提案で作るのはBLTサンドに決定。六花さんの視線も感じながら俺は買い置きされていた食パンの耳を包丁で切り落とす作業に入っていた。その間に隣ではアマンダがベーコンを焼き、エミリアさんがレタスをちぎっている。

 手が空いている六花さんは何かしたくなったのだろう、エミリアさんに尋ねた。


「ええっと、私に出来ることは……?」

「んー、スペシャルソース出しといてー?」

「スペシャルソース……?」

「冷蔵庫にあるよー」


 ちらと冷蔵庫の方を見る。六花さんが開けた戸のすぐ裏の棚に分かりやすく「Special sauce」と書かれた缶の入れ物が入っている。そのふたを開けると中には昨日サンドイッチの中に挟まっていたものと同じソースがたくさん入っていた。

 手順としては、ベーコンの両面にスペシャルソースを縫って、そこをレタス・トマトで挟み、その上にマスタードを軽く塗ったパンで挟む。規定枚数分切り終わった俺はパンにマスタードを塗り付ける作業に入った。アマンダも鼻歌を歌いながらベーコンを焼き進めていく。


「小さい頃から、私もエミリアもこのソースでサンドイッチを作ってました。いつもマミィの作り置きしてたソースがあったです」

「マミィ、なかなかレシピ教えてくれなかったねー」

「一家秘伝のソース……なんだかちょっと気になります」


 ソースを巡って女性同士の会話に華が咲く。特に介入することなくそれを聞いていると、アマンダがベーコンを焼き終わり、エミリアさんもレタスをちぎり終わった為、ついにサンドする時間になった。


「あと挟むだけだよ。みんなでやるよー」


 アマンダがそう言い、皆で自分の分のサンドイッチを作り始める。ベーコンにしっかりと「スペシャルソース」を塗り、工程を思い出しながら一つ一つ間違えないようにサンドイッチを作り上げる。そうして完成したそれはお弁当にするにはたいへんもったいない物だった。


「まだパンも残ってるからいっぱい作るよ、時間あるよねダーリン?」

「そうだな。時間もまだ残って……ん?」


 そこまで言いかけて気が付く。

 俺は昨日家に帰っていないのだ。ということは、時間割が……


「あ」

「ダーリン?」

「教科書取りに帰らないと……!」

「ああっ、私も忘れてました!」


 同じく六花さんも大変な表情になる。俺たちの事情を察したのか、エミリアさんはアマンダの頭を撫でながら仕方なさそうに呟いた。


「教科書、大事だね。取ってくるとイイよ」

「二人のお弁当、作ってクラスに持っていきます! それは朝ごはんにしましょう!」

「あ、ありがとう、アマンダ、エミリアさん!」

「申し訳ございません……」


 二人に謝った後俺と六花さんは慌てて家を出る。家の方角は同じだ。六花さんも自転車で来ていた為、二人で一列になりながら冷や汗をかいてペダルを漕いでいた。勿論、そのカゴには先程アマンダ、エミリアさんと一緒に作ったサンドイッチがラップにくるまれて置いてあった。





 家に帰って親からの質問攻めを乗り切り、教科書の整理を終わらせた俺はそのままUターンするように自転車を漕いで高校に辿り着く。丁度校門の辺りでアマンダとエミリアさんが歩いていて、それにやっと追いつく形となった。その数秒後に六花さんも合流する。


「あぁ、今度から遅くなる時は、明日の時間割を……」

「はぁ、ここまで頑張って漕いだの、久しぶりです、はぁ、はぁ……」

「二人ともお疲れだよー!」


 自転車を自転車置き場に置き、サンドイッチもちゃんとカバンに入れた俺たちは並んで教室まで歩く。すると、玄関に入った辺りで渡辺に会った。


「お、大和か……ってええっ!? なんで六花さんも一緒!?」

「あー、こ、これはその……」

「え、ええと、私は、そのええと……」


 不意にそのような事を尋ねられて俺も六花さんも何も言い返せなくなってしまう。アマンダも妙に黙り込んでしまい、渡辺の奴はそれを見てまたよからぬことを想像してしまったらしい。


「ま、まさかお前、アマンダさんに飽き足らず六花さんまで……!」

「ち、ちげーよ! そんなこと」

「ははぁ、成程分かった! これからお前はクラス中の男子の敵だ! だが安心したまえ、この俺、渡辺聡はそんな中でもお前の友達だ!」

「頼むから落ち着けって……」


 俺の声が届くことはなく、渡辺は高笑いを上げながら教室に向かって行ってしまう。後からやってきたエミリアさんは何が起きたかよくわかってないような顔で首をかしげた。


「三人とも、何かあったの?」

「あー、ちょっと俺の悪友がな……」

「アクユウ? さっきの人はアクユウって言うんですか?」

「ん、まぁ、面倒くさいけどいい友達、みたいな感じだよ。名前は渡辺だ」


 そんなことを解説しながら廊下を歩く。そして、エミリアさんは別の教室に行くため途中で別れて行った。相変わらず男子生徒たちはエミリアさんやアマンダの胸元に惹きつけられてしまっていたけど……


「ええと、大和さん、私は委員の仕事があるので、これで」

「あ、分かりました。頑張ってくださいね」

「それでは……」

「頑張ってねー!」


 六花さんは突然何かを思い出したようにいなくなってしまう。そうして、俺はアマンダと二人で教室に向かうことになる。その途中でアマンダは俺の片腕にひょいと抱き着いてきて、彼女のおっぱいがみっちりと押し付けられた。ああっ、やわらかひっ。


「授業は大丈夫か?」

「ええと、心配です」

「分かったよ、そこは俺が頑張って教えるから……」

「ありがとーだよ、ダーリン!」


 そんな会話をしながら教室の戸を開ける。今日もまた穏やかではない日なんだろうなぁ、と心の中で思いつつも、何が起きるか少し楽しみにしている自分がいた。





 アマンダから英語を教えてもらい、現代文と国語はこちらが教え、共に数学と物理で泣きを見て。そんな生活がしばらく続いていくうちに彼女も霞の浦という場所に慣れてきたらしく、俺が教えることも徐々に少なくなっていった。それが嬉しくもあるんだけど、なんだか寂しいような気もする。

 ゴールデンウィークを一週間後に控えたある日の放課後。エミリアさんを含めた三人で帰っている途中、なんとなく皆が気分よく日々を過ごしていたことに疑問を感じたアマンダが俺に尋ねてくる。


「ダーリン、なんだか皆さん楽しそうですね。何かあるんですか?」


 もうアマンダから「ダーリン」と呼ばれるのも慣れてしまった。クラスの中でもそう呼ばれるのは最初は恥ずかしかったけど、なんだかそれが公認になってしまったようでそれが逆にプレッシャーに感じられることも。


「ゴールデンウィークが近いんだ」

「ゴールデンウィーク?」

「日本の祝日があの辺りに集中していて連休になっているんだ。今年だと土日の休みを入れて五連休が取れるから、それが楽しみなんだろうな」

「Wow!」


 アマンダがそれを聞くと嬉しそうにぴょんと跳ねる。ついでにその胸もたゆんと揺れる。


「連休取れたらどこか行きたいです!」

「今月はずっと街でデートしてたからな……少し遠くまで行ってもいいかもね」

「……Oh, Amanda. 聞きたいことあるよ」


 さっきからずっと黙っていたエミリアさんが何かを思い出したような顔をした。


「エミリア?」

「アマンダ、部活決めた?」

「Ah…部活?」


 それを聞いたアマンダはきょとんとする。そうして俺も気が付いた。

 俺は帰宅部だから何も考えてなかったけど、そうだよ。高校には部活があって、という部活うんぬんの話をアマンダにしなかった。入るならそろそろ決めないといけない時期だ。


「ダーリン、部活ってなんですか?」

「あー、それは話してなかった俺が悪い、ごめん。放課後とかにみんなで集まってスポーツとか何か文化的な活動をすることを言うんだ。俺は何も入ってなかったから忘れちまった」

「んー、みんなで映画見たいです! 特にダーリンと一緒に!」


 アマンダの答えを聞いた俺はしばらく頭を回してみる。この高校に映画関連の部活はあっただろうか。映像関係だと確か放送部があったような気がするけど、放送部はまた違うはずだ。アマンダの想像しているような物ではない。


「みんなで映画を楽しむような部活はないな」

「ううっ、残念です……」


 それを聞いたアマンダはしばらく空を仰ぎながら歩き続ける。そして、ふと口から漏らすように俺にこう聞いてきた。


「ダーリン、部活を新しく作ることってできますか?」

「作る?」

「映画を楽しむ部活を作るんです! そしていつかは私たちで映画作りましょう!」


 意気揚々とまくしたてるアマンダに気圧される。やはり映画に関するアマンダの情熱は本物だ。それに、エミリアさんも俺の事を見ながらニヤリと笑っている。こ、この状況で断れないように俺に釘を刺しているんだ。


「部活を作るとするなら五人は必要だな。俺とアマンダと……エミリアさん? あと二人は……」

「一人は六花さんで決定です! あと一人は大和が何とかしてください!」

「何とかって言われても……!」

「Ah, 六花は私が『来ない?』て言えば来ると思うよ」

「えぇ……」


 そもそもこの場に六花さんがいない中、彼女を部員に決定してしまうのもちょっと難しい。一応後で聞いておく必要があるだろう。幸いにも、少し前のウォーカー家での出来事以降話しかけることが出来る程の間柄ではある。

 そしてあと一人は……いや、俺も友達が多い訳じゃないからな。でも……おおっ。


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