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第10話 繰り返し一幕

「ダーリンと見てみたかったんです……」

「アマンダ、この映画好きだから」

「何回も見てるのか?」

「そうです! サムライの生き様がかっこよくて……」


 熱心に語りだしそうになってしまうのをアマンダ自身が踏みとどまる。


「あうちっ、これから映画が始まっちゃうから、ダーリンにお話できない……」

「だ、大丈夫だよ。見終わった後にいっぱいお話しよう」

「わかったよー!」


 そんなこんなを話している間にDVDについている他の映画の予告編は全部終わったようだ。本編が始まり、枯れ木と枯れ葉が埋め尽くしている昼の森が映し出された。そこに二人の剣豪と思しきサムライが立っていて、向き合ったまま何かお話をしている。


「かっこいいです……」

「おおっ……」


 片方のサムライ、おそらくこの作品の主人公と思われる者の名前は「大蛇おろち」。しばらく相手と台詞を交えた後に両者同じタイミングで刀を抜き、枯れ葉を踏みしめながら円を描くように回って相手の様子を伺い合う。迫力のあるカメラワークも手伝い、俺もアマンダもエミリアさんも映像に魅入られてしまっていた。


〈貴様だけは生かしておけぬ、覚悟を決めい!〉

「きゃぁぁぁぁ……!」


 大蛇さんが言葉と共に距離を一気に詰めて勝負をつけに行く。初めて聞いた彼の言葉は想像以上に渋くて、それでいて迫力があって、何度も見ているはずのアマンダも黄色い声を出して魅了されてしまっているようだ。

 そして、相手は何度か切り合いを耐え抜いたものの、大蛇さんの一太刀によって倒される。ただの一人だけになった中、大蛇さんは風に吹かれて刀を鞘に納めた。


〈我の罪……この程度では償えん〉

「Oh…cool…」


 エミリアさんも思わず母国語で感想を漏らすほどのかっこよさ。日本男児の俺からしても彼はとてもかっこよくて憧れてしまう。決して若い男性ではなかったが、年相応に落ち着きや渋みがあって魅力に満ち溢れている。自分にはこのような年の取り方は出来るだろうか、とつい考えてしまっていた。


「あぁぁ、ダーリン、終わったらもう一回最初のシーン見るです!」

「うん……」


 その後は、大蛇さんが街で聞いた様々な事件を解決する為に奔走し、時には相手を切り殺しながらも人助けを重ねていく。まさに時代劇の王道とも言える内容だったけれど飽きることもなくアマンダ、エミリアさんの三人でワクワクしながら見ることが出来た。

 そして終盤、なんと物語以前に大蛇さんの妻子を殺したと言う黒幕が現れる。黒幕が送り付ける何人もの刺客を切り倒しながら真実へ近づいていき、そして遂に大蛇さんと黒幕の一騎打ちになる。場所は最初のシーンと同じ場所だ。


〈我が妻子を守れなかった罪……貴様の命を散らして償おう!〉

「AHHHHHHH!!! 大蛇さああああああん!」


 アマンダが惚れ惚れとした声をあげる。直後、大蛇さんは刀を抜いて相手へ切りかかった。無論黒幕もただで倒れる相手ではない。お互いに一進一退の攻防が続き、瞬きをする時間すら惜しくなる。

 俺もアマンダもエミリアさんも画面に釘付けだった。ドキドキしながら大蛇さんを見守っていると、相手が振り下ろした刃がそのまま大蛇さんの右肩に入ってしまった。事前に突進のような動きで相手に張り付いていた為、傷は深くならなかったのが幸いか……!


〈終わりだ、大蛇……!〉

「Oh…」


 アマンダが悲痛な声を上げる。大蛇さん、負けちゃうのか……?


〈……どうかな〉


 年季の入ったサムライの一言が空気を変えた。腰の右側に差していた脇差が左手で抜かれ、そのまま宿敵の腹部に深い一閃。先程受けた傷が響いた為か右手で持っていた刀はそのまま床に落ちたが、左手で持っていた脇差が確かに相手に致命的な一撃を与えたのだ。


〈ぐ……大蛇ぃ……!〉

〈悪は滅びねばならぬ。我が身と引き換えにしてでも……!〉


 最後の最後に相手は刀の刃を食いこませ、大蛇さんの身体に斜め一文字の傷を作り上げた。そして腹部から血を流しながら倒れ、続けて大蛇さんも仰向けに倒れてしまう。


〈ああ、これで……〉

「Ah…ここいつ見ても悲しくなります……」

「大蛇さん、死んじゃうねー」


 アマンダとエミリアさんがぽつりと感想を述べる。俺は言葉にはしなかったものの、この映画で確かに心動かされていた。自分もこのように魅力のある大人になりたい、誰かの為に戦える程強い人間になりたい、そう思わずにはいられない作品だった。

 そしてエンドロールが流れ始めると、アマンダは俺の右腕に抱き着いてそのまま頬ずりしてくる。抱き着かれるついでにおっぱいがむにっと押し付けられてさっきまでの映画の感動が少しだけ薄れてしまった。ううっ、おっぱい恐るべし。


「ダーリン、この映画どうでしたか……?」

「凄く引き込まれた……こんなサムライになりたいって思っちゃったよ」

「ダーリンならなれますよ! ダーリンは私のサムライになるんです!」

「アマンダー、聞いてるこっち、恥ずかしいよー」


 エミリアさんが茶々入れるもそれに全く構わずにアマンダは俺に微笑みかける。本当にずるい笑顔だった。こんな笑顔をされたら、彼女の要望を何一つ断ることが出来ない。


「分かったよ。アマンダのサムライになれるように頑張る」

「嬉しいです! 刀は使えないですけどかっこいいサムライになってください……」

 そしてアマンダは少し首を伸ばすと、ほんの少しだけ唇を合わせるキスをした。

「アマンダ……!?」

「えへへー、今日はしてなかったですね?」

「私、ピザ焼くよ、アマンダ」


 あまりにアマンダといちゃいちゃしすぎたのか、エミリアさんがソファから立ち上がって台所の方に向かって行ってしまった。思った以上に自分が大胆になっていることを自覚していると、机の上に置いていた俺のスマートフォンに電話が入る。誰だろう?


「……もしもし?」

〈あ、大和君? 今大丈夫かな?〉


 同じクラスの六花さんからだ。もう夜の八時近いというのに何の用事だろう?


「どうしたですか?」

「六花さんから電話……あー、それでどうしたの?」

〈今から大和君に直接お話したいんだけど……どこにいるの?〉


 そう聞かれて言葉に詰まってしまう。


「あー……アマンダの家」

〈……ご、ごめんなさい、お邪魔しちゃったかな?〉

「いや、大丈夫だけど……」


 アマンダが頭に疑問符を浮かべながらこちらを見ている。

 電話の向こうから六花さんはか細い声で訪ねてきた。


〈あの……直接言いたいんだけど、アマンダさんの家、行っていいかな?〉

「こっちに来る?」

「どうしたですかー?」

〈大和さんとアマンダさんがよろしければ、ですけど……〉

「え、ええと、ちょっと待って」


 一旦保留にして、きょとんとしているアマンダにしっかりと説明してあげる。すると、丁度ピザが焼き終わったのか、調理されたピザを持ってエミリアさんがこちらへ戻ってきた。


「六花さんが、俺に用事があるらしくて、それでアマンダの家に来たいって……」

「六花さん……ああ、あの人ですか! いいと思いますよ!」

「その子、大和の友達?」

「はい、そんなところですが」

「いいと思う、一緒にご飯、食べられる?」


 エミリアさんは口の端を上げながらそう聞いてくる。流石にご飯までは分からないが……アマンダは何気に乗り気である。二人とも、六花さんがこれから家に来るのは大丈夫なようだ。勿論、俺の方にも断る理由はない。

 保留を切り、再び六花さんとの通話に入った。


「ええと、大丈夫、みたいです」

〈よかった……それじゃあ、今から行くね〉

「え、アマンダの家を知ってるんですか?」

〈教えてもらったからね。それじゃ、また〉


 そう言って電話が切れてしまう。

 とりあえずアマンダに、六花さんと仲が良いかなどの質問をしてみた。


「六花さんとは……?」

「体育で着替えしてる時にお話をして仲良くなったよー!」

「おぉ……」

「ついでに家の場所も教えてから多分来れるよ?」

「そういうものかな……?」


 胸を張って自信満々に言うアマンダに首をかしげる。六花さんは頭がいいからちゃんとここまで来られるとは思うけど……というか、既にそれほど仲良しになったんだな。学校ではずっと俺から離れようとしなかったから他に友達が出来るか心配だったけど六花さんなら安心できる。


「あー、そう言えば焼き鳥あんまり食べてなかったね……」

「あっ」

「Oh」


 ふとテーブルに目を向けたアマンダがそう呟いて、さっきの映画に夢中になって食べることを忘れていたことに気が付いた。そして今更の如く腹が鳴り始める。


「六花さん来るまでゆっくり食べるよ、ダーリン」

「まずは温めなおさないとな」

「OK」


 そう言ってアマンダは焼き鳥の皿をもって電子レンジへと向かって行った。

 六花さんが来るのか……一体どうなるんだ? そして彼女の用事とは……


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