#1 月より降りた戦士達
西暦3072年9月某日
俺の20回目の誕生日
この日俺たちは地球に降下する
人として生きるための戦いをするために
こんなに緊張するのは凛菜に告白するとき以来か
頭を囲む脳波コントロールユニットが邪魔に思える
「はぁ」
「おい、翔 聞いてるのか?」
「あ、すまないヴィル 起動……正面、上下左右、後方サブモニター異常無し……」
初陣ではないとはいえ実戦は一回しか経験がない。ベテランの勘なのか、そんな翔のことを嘉山ヴィルジリオは気にしていた。
「じゃ、先に行くぜ 援護頼むな」
格納庫のハッチが開き、朝日が機体を照らし、前方に茶色と緑の大地が広がる。
「嘉山ヴィルジリオ リエズ・フェヒター 出撃する!」
ヴィルジリオの乗るR.R.リエズ・フェヒター、そして、灰色のバステルタ二機が母艦「アイリス」から出撃した。
敵である国連軍はすぐにR.R.部隊を展開し攻撃を仕掛けてきた。さすが場馴れしているだけ手際が良い。
しかし、先行したヴィルのリエズ・フェヒターに攻撃が集中するが当たらず、全て綺麗に回避されてしまった。
アイリスのカタパルトに、翔の乗るビームマシンガンと超振動ブレードの複合装備を装備した青と灰の機体、リエズ・バヨネットと、リエズより一回り小さくコンセントのようなゴーグルアイと背中の大きなブースターが特徴の黒とサンドブルーの機体、バステルタ・プラス[スカイスター]が出撃直前の状態で待機していた。
「帯熱量クリア……熱反応炉戦闘出力へ……クリア じゃあ翔ちゃん私達もいくよ!」
日立凛菜の明るい声が響く。
幼馴染みだからか恋人だからか、凛菜と翔のコンビネーションは軍のなかでも屈指の強さを誇る。
覚悟を決め、翔は左右の操縦桿を握り、そっと出力ペダルに両足を掛ける。
「おう! 池上翔、リエズ・バヨネット、出るぞ!」
「日立凛菜 バステルタ・プラス[スカイスター] 行きます!」
カタパルトの急加速による負荷が一気にかかり、空中に飛び立つ。
空中にいる敵めがけ急降下していく。
その最中、翔は主武装のブレードマシンガンをソードモードに変更する。
そして、すれ違い様に切り裂く。
「一つ!」
「さすが! ヴィルを援護するよ」
「了解! 出力、熱量問題なし……ロックオン……」
凛菜のスカイスターと翔のバヨネットは加速し銃器を構え…放つ!
放ったビームがヴィルの乗るリエズ・フェヒターのすれすれを通るが、確実に敵機を撃破する。
翔と凛菜はもちろんヴィルに当てないように狙っている。
「っな!あっぶね この野郎! 殺す気か!」
「ひどーい! 私はレディなんですけどー!」
「ちゃんと当たらないように撃ってんだよこの刀オタク!」
「んだとぉ! この撃つことしか脳のない乱射狂が!」
「あーもう! 二人と……ってしまった! うし ……きゃっ!」
凛菜の背後に敵機が2機急接近していた、が。
翔とヴィルは即座に対応し翔はすぐさまソードモードに変更し、左右の出力ペダルを違う強さで踏み込む。
そして、左のソードで腰を、右のソードで敵機の武器を機体を回転させながら切り落とす。
ヴィルは十字を刻むようにコックピットごと縦に、そして、敵の武装ごと横に切り裂いた。
「あ……ありがとう……」
すると急に「アイリス」から通信が入る。
三人とも誰からの通信か、それと内容がすぐにわかった。
『戦闘中に私語は慎めと何度言ったらわかるんだこの馬鹿者ども!』
アハトワ・アニーシャ、この部隊の隊長兼アイリスの艦長からのお怒りの言葉だった。
過去に中隊編成後の模擬戦で幾度となく注意されていた。キレるのも当然だ。
アハトワがガミガミ言っている間にも敵は次々と墜ちていく。
空中の敵が片付き地上に地上の敵に掛かろうとしたが、ヴィルと同時に出撃した灰色のバステルタ二機が既に片付け終わっていた。
「あれ、エルさんとリョウさんじゃない?」
「ほんとだ 姿が見えないと思ったら地上でやってたんだ」
「翔に凛菜ちゃんか 遅かったな」
「リョウさんが速いんですよ」
「お前程じゃないさ さっきの見たけど、お前の反応速度速すぎるだろ なあ、エル」
「うちらじゃ到底出来ないな そろそろアイリスが着陸するそうだから配置に着こうか」
翔、凛菜、エル、リョウの四機は散開しアイリスを囲むように配置につく。
着陸体勢の間にほとんどの機体が着艦し、早急に整備が開始された。
そして、赤紫の大きな汎用戦艦、アブルフェーダ級7番艦「アイリス」がゆっくりと着陸した。
アブルフェーダ級はカタパルトも含めば500mを越す戦艦で、居住区とブリッジのあるメインブロック、R.R.の格納庫と倉庫のあるハンガーブロックを2つ、戦闘モジュールを2つの計5つのブロックで構成されている。
メインブロックは欲を言わなければ不自由なく快適な生活ができる。
戦闘後、翔たちはそのメインブロックの食堂に集まって一息ついていた。
「とうとう戦争が始まったな」
唐突に翔が呟く。
「だね」
「仕方がない やらなきゃ俺たちは人のように生きられなくなるかあのまま殺されるだけだ それに……」
「「それに?」」
「いや、何でもない」
二人は歯切れの悪い返答を不思議に思った。
それを掻き消すかのようにヴィルが翔に突っかかった。
「そういえば翔! お前なまた乱射しやがって! この乱射狂!」
「なんだと! ちゃんと狙って撃ちましたよ!」
翔が売られた喧嘩を買おうとした瞬間……。
「二人とも… いい加減にっしなさいっ!」
凛菜の強烈な膝蹴りが翔とヴィルの腹に加えられた。
悶絶してる二人の光景は艦内ではいつものことだ。
そうして普通の時間が過ぎていく。
この後はこの基地を利用するために重機ではなくR.R.が復旧作業を行う。
そう、パイロットが駆り出されるのだ。