#12 夕月の悪魔
翔たちに囲まれて浮遊している機体、月面国家軍ではコード666xと呼ばれている。一機で一個中隊を殲滅できるほどの驚異的な性能を持つ。
そんな機体を操っていたのは、まだ幼さの残る少女だった。
「月面国家軍の皆さん、はじめまして 時間が無いのでさっさと伝言を伝えるね」
内容はこうだった。
皆さん まずは、私の実験場にようこそ
なかなかやるようだね アハトワのお陰かな?
それはさておき、今まではすぐに潰れて役立たずばかりだったから久々にやり甲斐を感じているよ
しかし、少し強すぎるかな 予定が少し狂ってしまったよ
それに、君たちはやり過ぎた
現在の技術を使うのは、さすがに見過ごせないかな
だから罰を与えないとね
「罰ってなんだ……」
「答える義理は無いかな?」
「そうか」と言ってヴィルが熱反応炉の出力を一気に上昇させた。そして主武装の超振動ブレード、両手に構える。
「じゃあせめて……腕の一本でも置いていけぇ!」
ヴィルはブースターの出力ペダルを踏み込み急加速していく。
「凛! ヴィルに続くぞ!」
「本気でいくよ!」
翔も凛菜も急加速して敵に突っ込む。
凛菜は、ライフルを捨てシールドに付いている超振動ブレードを展開した。ヴィルのリエズのそれよりは性能が低いが、対R.R.戦闘では十分な威力を持つ。
「……やめろ……」
小声でアハトワが呟く。しかし、仇にあたる物を前に興奮した翔たちには届かない。
一気に距離を詰めたヴィルの攻撃が届く……はずが、無駄の無い動きでそれを回避した。
少なくとも、ヴィルは今の一瞬で三回攻撃を行っている。これを模擬戦で回避できた者はいない。できて防御の姿勢をとるくらいだ。それが現用機の、そして人間の限界である。
しかし、それを666xは容易く回避した。つまり、こいつはリエズを大きく凌駕した性能と、人間を超えた操縦技術を持つということになる。
「凛! 援護頼む!」
「まかせて! 反応炉、第一安全装置解除! いっくよー!」
安全装置を解除すると、通常十数時間ある活動限界時間が十数分にまで縮まる。いわば諸刃の剣だ。
バステルタの放熱フィンは熱で微かに赤く発光し始めた。
そして、赤いラインを引きながら急上昇し666xの頭上を取る。
「主武装のリミッターを解除!熱反応炉、出力上昇 実体ブレードに電磁バリアを展開 いくぞ!」
翔はトリガーを引きビーム刃を展開する。そして、ペダルを踏み込み一気に加速する。
翔の乗るリエズ・バヨネットの主武装であるブレードマシンガンは腕と直接装備されている。そして、重心が腕側にあるため、ヴィルの超振動ブレードより取り回しが良い。よって、より素早い攻撃ができる。
翔は666xに突撃し回避されたところを凛菜が斬りかかるはずだった。
翔が666xに攻撃を加える瞬間、666xの腕からビーム刃が展開し翔の攻撃を受け止めた。
「は!?」
「あなたの攻撃は軽いね」
瞬間、押し返され両腕を肩から切断されてしまった。
「まあ生かしてあげるよ 今日は殺すなって言われてるから」
「な、なんだと…… うわっ!!」
666xは翔のリエズを蹴り地面に叩きつけた。周りには破損した装甲の欠片が散乱していた。
「翔ちゃん! おまえぇぇ!」
「うるさいよ あなたはもっと軽いね」
頭上から来る凛菜のバステルタ、スカイスターの攻撃を最小の動きで回避し、回し蹴りを正確に決めた。
あまりの衝撃で凛菜は気絶し、コントロールを失ったスカイスターが落ちていく。
「凛!」
翔はスラスターを巧みに使い機体を起き上がらせ、スカイスターの方へ全速力で飛んでいき下敷きになった。
しかし、衝撃を和らげることに成功した。
「だから……やめろと言っただろ…… この大馬鹿共……」
目の前に広がる光景を見て、ヴィルは冷静さを取り戻し、アハトワの言葉が耳に入った。
それと同時に最悪の記憶が脳裏に浮かび、声にならない叫びを放った。
「また一人じゃねぇか…… なにも変わって無いのかよ……」
「ヴィル…… 二人のバイタルは安定している 生きてる……」
「そうか……」
「あのぉ、水を指すようで悪いけど 気は済んだかな?」
敵ながらとても申し訳なさそうに話していた。
「済むわけ無いだろ……」
「まあ、そうだよね でも今の君たちじゃ私には、いや、私達には敵わないから仕掛けてこないでね? 無駄に殺すのはすきじゃないんだ」
「一つの部隊皆殺しにしておいてか」
「あれは命令だったからね そういうわけだから私はおいとまさせてもらうね」
誰も阻止しようとはしなかった。いや正確にはできないからしなかった。
666xはあっという間に見えなくなっていた。
「あれを追えるか?」
「ステルス機能でもあるのかまったく追えません……」
「来るときは敢えて見つけさせたのか…… とりあえず出来るだけ解析してくれ」
「了解です」
「リエズ・フェヒター着艦しました」
「わかった 後は任せた」
アハトワはハンガーブロックに向かった。
格納庫は、翔と凛菜を心配する者や、翔のリエズ・バヨネットと凛菜のバステルタ・プラス[スカイスター]の損傷具合を見てすぐさま作業に係る整備兵などで騒がしかった。
そこに、ヴィルの姿は見えなかった。




