#10 月の涙
全員が驚愕していたところにアハトワから通信が入る。
『鬼ごっこというのは冗談だ』
実際の内容は普通の試験プログラムだったのだが、それはそれで退屈だ。
一通りこなし全機帰投した直後、敵の接近を知らせる警報が鳴り響いた。
『敵はチャンネル諸島沖、西南約50km 高速戦闘艦1隻、フライトモジュール装備5機』
「これ、おかしくない?」
「少ないな 偵察かな」
「いや偵察にしては多い 罠としか思えんな」
なにも音沙汰無いまま1時間が過ぎた。
敵部隊は攻撃も撤退もする様子はなく、その周辺を動き回りやがて洋上で停止した。
そのまま7時間が過ぎた頃、ようやく動きだした。
敵はそのまま転進し撤退していった。
「アイ、奴らがどこから来たかわかるか?」
「どこまで追えるかわかりませんがやってみます! ここをこうしてっと」
追跡はコンピューターに任せ、アイは自前のPCで画像解析を始めた。
解析にすぐに済み、所属が判明した。
所属はハワイ基地。規模は大きいものの、時代遅れな兵器が多く、国連軍内では、動く骨董展覧会としてバカにされている。さらに、左遷されたものがよく配属されることから、[人材の墓場]又は、[文字通りの孤島]など、評判は散々だ。
「実績作ろうとして焦ってるんですかね?」
「かもな あんな戦力で来ても無駄死にするだけなのにな……」
アハトワが呆れた声で呟いた。
「そういえば、予定では今夜打ち上げるんだったな 光博、天候と物資の状況の確認頼む」
「了解! 物資積み込みの方の確認いってきます」
「ほんとここの食料プラントが生きててよかったですね!」
月面国家軍は戦うよりも重要な任務がある。それは、故郷の月へ物資、主に食料を送ることだ。
ラッセル戦闘の後、月各地の食料プラントが不調になり、今では虫の息だ。
輸送シャトルは各艦に一機ずつ搭載されており、今後、各地の月軍基地で打ち上げられる。その数は約20機ほど。
軍人が一人、基地が一つ、そしてシャトルが落ちるごとに月の人の死は近づく。
打ち上げは23時。皆、敵が来ないことを祈っていた。
22時30分、敵は来なかった。
「総員、シャトル打ち上げにより第一種戦闘配置!」
「打ち上げ準備開始します」
「各作業、全て完了 熱反応炉冷却完了」
オペレーターたちが打ち上げ作業を速やかにこなしていく。
「熱反応炉、運転開始 出力を0から7%へ」
「異常無し 出力を7から19まで上昇」
徐々に出力が上昇していくのと共に周りの温度も上昇していく。
出力が50%を越えた頃、外はサウナ並に熱かった。
そして、打ち上げ5秒前、4……3……2……1……0。
大きな光を放ちながら輸送シャトルは月に飛び立つ。
誰もが見上げ、見守っていた。
シャトルは順調に飛行し続け、やがて大気圏外に出た。
アイリスのコントロールから異常無く離れたところで基地中が歓喜に湧いた。
「うまくいってよかったですね!」
「本当に! あと二回、うまくいってくれるといいですね」
「だな 第一種戦闘配置を解除、警戒レベルを平常時へ 皆、お疲れさま ふう……」
肩の荷が降りアハトワは珍しく顔が緩んでいた。
ハンガーには第一種戦闘配置が解除されたにも関わらず、パイロットスーツを着た翔と凛菜、そしてヴィルもいた。
「今夜当番じゃん……めんどい」
「まあそう言うなって、凛 なにも無ければこの涼しい空間でのんびりできるからさ」
「そうだぞ、凛菜 それにこれはパイロットとして必要な……って聞いてない……」
ヴィルが珍しく年長者らしく説こうとしていたが、凛菜には完全に無視されていた。
「(明日、槍でも降るんじゃないか?)」
翔はもちろん、冗談のつもりで思った。
今夜は何事もなく朝を迎えた。
しかしその朝、翔の冗談が現実になってしまった。
槍ではなく総数200以上のミサイルがこの基地を襲った。
「直撃コースのミサイル 数30!」
「右舷武装モジュール、ミサイル発射管80門全て開け! 迎撃ミサイル装填! 一斉発射!」
三隻から一斉に放たれたミサイルは直撃コースのミサイルをほとんど落とした。
しかし、アブルフェーダ級に搭載されているミサイルは、サイズ、威力共に国連軍より低いため数だけではどうにもならなかった。
「残存14! 数発がいまだ直撃コースです!」
「CIWSをレッドモード! 全主砲、拡散モードで照射開始!」
「やってます!」
ブリッジクルーたちは、残りのミサイルを死ぬ気で追い撃墜していく。そのお陰で被害は奇跡的に無かった。
その直後、西海岸沖のブイ型レーダが海中を航行する物体を5つ発見した。
「称号結果、国連軍所属 一等潜水艦 5隻のみです」
「今の攻撃は間違いなくこいつらですね」
「だな、総員に通達しろ 第三種戦闘配置と」
この翌朝、再び大量のミサイルによる攻撃を受けた。
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