第2話:未来変化図1
「涼森さん、どうかされましたか?体の具合でも悪いのでは?」
・・・うっさいわね。
「あの・・・聞いてます?」
聞いてないわよ。てゆーか、うっさいつってんでしょーが。黙りなさい。
「ちょっと・・・涼森さん!?」「だから、うっさいって言ってんでしょ!!何回言ったら分かるのよ!あたしはね、今暑くてイライラしてんのっ。あんまり怒らせないでくれる!?」
あ、しまった。思わず声に出ちゃったじゃないの。あんたのせいよ、このイケメン二ヤケ面野郎。
「『何回言ったら分かるのよ!』って、まだ一回も言ってませんがね。それに怒らせないでって言う前に既に怒ってらっしゃいますよ。それでは、こちらもどうしようも無いですよ?」
ほんとにウザイ奴ね。あ、すいません。なんか最初から機嫌悪くて。知ってる人もいると思うけど、あたしは涼森未来、16歳。二年前の春まで普通の高校生だったんだけど、突如現れた謎の『組織』の人達によって強制的にその『組織』に入れられた。
その中の一人だったのが、イケメン二ヤケ面野郎こと、甲斐田咲兎。自慢じゃないけど、あたしは今まで一度もコイツを名前で呼んだ事がない。
いつも呼ぶとしたら、甲斐田。最悪の場合は「そこのキモいニヤケ面(野郎)」・・・ね。
不思議と甲斐田はそう呼ばれるのを嫌がらない。いっつもお得意の爽やかスマイルで「はい?」とか「何でしょう、涼森さん?」って返事する。
相当のMなのか、もう慣れたのか。まあ、どっちでもあたしには関係ないけどね。
「どうしたんです?また黙り込んで・・・。今度こそ気分でも害されたのですか?」「気付いてると思うけど、あたしはあんたといる時で気分が良かった時なんてないわよ。むしろずっと悪かったわ」
すると何でか甲斐田はクスッと笑みを零した。吐きそうだわ。普通の人から見たら、イケメンが笑ってる様にしか見えないだろうけど、あたしからしたら、これ以上の地獄はないわね。
「・・・・・・今、僕のこと、キモいって思いましたね・・・?」「!!」
あたしは十二指腸が口から飛び出そうなくらい、驚いた。「な、何よ!いきなり!ビックリするじゃない!!今あたしの十二指腸が口から飛び出しかけたわよ!」
「あぁ、そうですか?でしたら今すぐ十二指腸を元の位置に戻された方がよろしいと思いま「わかってるわよ、そんな事!!」」
はぁ・・・つくづく思う。神様・・・
あたし、あなたに何かしましたか?
そんな事を頭の隅で考えていると、あたしと甲斐田の携帯が同時に鳴った。
「うぉわッ!!」「・・・・・・」
あたしは今まで言ったことない声で悲鳴を上げた。
「え・・・何?まさか、指令!?」「・・・どうやら、その様ですね。しかも今までに無い程急速に時間が迫って来ています。土地柄からすると、その人物の一番近くにいるのは僕達のようです。どうしますか?」
は!?何言ってんだ、こいつ!
「どうするって・・・何をどうするのよ!」
「僕達には選ぶ権利があります。その人物を救うか、救わざるか・・・。その事を今あなたに問いているのです。もう一度聞きます。どうしますか?」
こいつ・・・時間が無いって時に慎重になりやがってぇ・・・・・・!!
「慎重になっている訳ではありません。その人物を助けても僕達の脅威になる可能性も考えられなくはない。そう言っているのです。それに、こうしている間にも、その人物にはどんどん危険が迫って来ています。早く答えを出した方がいいと思いますがね」
うるさい。・・・大体そんな事、聞くまでもない事でしょ。あたしは・・・
「・・・・・・甲斐田。あたしはあんたと組んだ時、言ったはずよ・・・」
それを言った瞬間、甲斐田が薄く笑ったのが見えた。だからキモいって言ってんでしょ。
「あたしは・・・相手が誰だろうと、悪の組織だろうが、そのうちにあたし達の敵になる奴だろうがかまわないって。その人は今危険な目に遭いかけてる・・・だったら、あたしはその人を救うまでよ!!その為の『組織』でしょ!?あたし達が所属してる『組織』は・・・・・・!!」
「・・・はい。全くおっしゃる通りですね。論理的には僕の完敗です。・・・まぁ、どう答えるか分かってましたけどね」
・・・・・・・・・は?
「・・・じゃあ、何できいたのよぉー!!!これこそ時間のムダじゃない!!」「だって、いっつも一字一句間違えず言うものですから。面白くて、つい・・・」
「しかも私情ッ!!?何よ、それー!!」すると甲斐田は、またクスッと笑った。
「はいはい。申し訳ありませんでした。それより、もう時間がありませんよ?あと3分ですね」「3分!?こっからどのくらい距離あるのよ!?」
甲斐田は携帯を見て、「およそ1キロですね。まぁあなたなら大丈夫ですよ。何たって100mを3秒で走るんですから」「走るかー!!!」
現場に着いたのは16時32分。出発したのが16時31分30秒だからホントに30秒で着いちゃった・・・。甲斐田が言ってたのはマジだったのね。
甲斐田はにっこり笑って言った。「僕はいつも大いにマジです」
あっそ。あんたの意見なんか聞いてもないけどね。
あと1分30秒。
「あっ!いた!!」
あたしは危険が迫っているひとがすぐに分かった。あ、そうそう。言い忘れてたけど、あたし達は危険が迫ってる人が何処の誰だか分かるってことになってるから。
「ちょいとお兄さん!!」「はい?」「そこにいると危ないですよ!上の看板落ちてきますよ!」「は?何言って・・・」
あたしはその人にタックルして場所を移動させた。その次の瞬間、看板が落ちてきた。
周りの人とか、その本人のその時の記憶は自動的に消去される。だからあたし達は安心して何でもできるってわけ。
「ふう・・・・・・何とか間に合って良かったわねぇ」「何とかって言うより、全然余裕で間に合ってましたけどね。あれは本当に凄かったですよ」
全然凄いって表現になってないわよ。
「いえいえ。本当にですよ。今回ばかりは肝を抜かれました。褒めたたえてもいいくらいですよ」
「別に褒めたたえてもらわなくても、どーでもいいわよ」
・・・あたしの事、どうせ嫌いなんだし。
そう言うと甲斐田は一瞬悲しそうな顔をして、すぐに無表情になり、真面目な顔で真面目に言った。
「・・・好きですよ。一人の女の子としてね」
「・・・・・・・・・・・」
「・・・?涼森さん?」
「・・・・・・・ぐぅ・・・」
「・・・・・・人が勇気を振り絞って告白したっていうのに、告白された張本人が寝てるってどんな展開ですか・・・・・・ッッ・・・」
すると未来は甲斐田に寄りかかって寝始めた。「!」
「・・・まぁ、いいですかね。今回は・・・。未来もがんばったことですし・・・・・・」
その後あたしは魘されながらいい(?)夢を見た、と思う。