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ACT.6 離れて分かったこと

巴とちょっとケンカをしてしまった。

理由は些細な事で、あまりテンションの高くない時に巴にいじられたからだった。それで俺は頭に来て彼女をシカトしてさっさと家に帰ってしまった。そうしたら口をきいてくれなくなったのだった。


家に帰ってから、激しい後悔に襲われた。真っ先にLINEしたのは由乃。共通の知り合いで、尚且つ仲直り云々について頼めるのは彼女しかいなかった。

《何バカなことしてるのさ!》

《すいません(。•́_ก̀。)》

とりあえず、本人同士で話し合わないことには話にならないと言われた。当然と言われれば当然なのだが、やはりケンカした以上は気まずい。由乃には、巴に言い分を聞くだけ聞いてあげるようにと言ってもらった。

《あとは自分でやりなさい。それでダメだったらまた協力してあげるから》

《うん》

仲直りのマナーは、ひと言目はまず謝罪である。俺は真面目な文面で謝罪の言葉を送信した。親や教師を怒らせたときの様な気分で返信を待つ。なんと言われようと、仲直りするにはひたすら頭を下げ続ける以外に解決策は無いのだ。それに宿泊研修も近いため、同じ班のメンバーと気まずいのは避けたかった。


しかしいくら待っても返信が来ない。そうこうしている内に1時間が経った。

「…」

嫌な予感が脳裏をよぎる。俺は巴のプロフィールからタイムラインを表示させた。

LINEにはブロック機能がある。ブロックされたユーザーにはその知らせ等はこないが、待てど暮らせど既読がつかなかったり、タイムラインが表示されなかったりと、判断材料はそれなりにある。

この状況で既読がつかないとなれば、真っ先にブロックを疑う。ケンカするまでタイムラインは見れていたから、何もしていなければ表示されるはずだった。


「クソ…」

5cの画面には、カバー画像と投稿されていないとという表示だけが写っていた。

想定こそはしていたが最悪の事態だった。こうなるとコンタクトを取るのは極めて困難となる。直接会うにしても、クラスに仲介を頼める人材はいない。

こうなると、あとは由乃による説得しか残っていない。俺に残された最後の希望であった。ただ、既に由乃から巴に声はかけられているはずで、説得が効かなかった可能性も高い。

《ブロられたっぽい》

《え⁉︎》

《うん》

《待って、聞いてみる》

食欲は失せていた。この気分で飯を食う気にはならない。周囲からはいじられキャラとして定評のある俺だが、メンタルは比較的弱い方である。ある程度の大きさのショックには耐えられるが、それを超えてしまうと想定不能なショックを受けてしまう。

それにメンタル面で何か引きずると、学習にも多大な影響が出てくる。まだ前期中間テストの追試が一つ残っているのだ。もっとも赤点から2点程落としたところで、提出物等に不備が無ければ単位を落とす事はまずなかったが。


《なんだよ。何に謝ってるの?》

俺は思わず生唾を飲み込んだ。巴から遂に返信が来たのだ。それとほぼ同時に、由乃からもLINEがくる。

《ブロックしてはいないってさ。ちゃんと自分が伝えたい事を伝えるんだよ。》

《とにかく、頑張る》

戦いが始まった。

《なんでって…そりゃ、黙って帰っちゃって。あんな大人気ないことしなくても良かったと思って》

《別にいいじゃん。不快な思いさせたのはあたしの方なんだし》

《いや、そうだけど…でもさ、》

《うん。だったらお互い話してもなんの得もないよね?話すだけ無駄だよ》

俺は思わず頭を抱えた。

「マジか〜…こいつ揚げ足とってくパターンか。」

合理主義で少々自己中心的な面があるのは、今まで話していた中でなんとなく知っていた。だが、関係が最悪になってそういった部分が露わになったのだ。

《いやでも、ちゃんの話し合えば分かり合えるっていうか…》

《そんな事に時間使わないで他の事して遊びなよ。どーせあたしは宿研行かないし》

《待て待て待て、セーラーの件はどうなるの》

《由乃ちゃん家で着れたから別に》

かなり厄介、話が通じないのである。LINEで思いが伝わるなどと浅はかな事は考えていないが、それでも伝えようと必死に効果的な文章を考えた。今まで見聞きした小説や漫画やテレビドラマやアニメ、そして映画など、ありとあらゆるものから引用できるものは全て引用した。それでも巴からの返信は、それをシャットアウトする内容ばかり。良くここまで否定的な考えを出せるなと感心するほどだった。


結局その日は平行線で終わった。さすがに眠いと言い出したため、これ以上粘るのは逆効果だと判断した。携帯を充電器にさしてベッドに体を投げ出す。ジーンズにTシャツと下校した時の格好のままだったが、寝巻きに着替えるが物凄く億劫だった。


朝顔 巴の正体____

といえるほどのものは見えていない。だが望まない形とは言えど、離れてこそ見えてくる事もある。彼女は合理主義者であった。それも自己中心的な。

自分にとって得するもの、あるいは最善と言える道のみを選び、矛盾や冒険することを嫌うのである。前々から気づいていたものの、こういった事態に陥ると良くわかる。屁理屈を捏ねていると言われればそれまでなのかも知れないが、彼女のような者の論理を突き崩すのは俺にはできない。

その時その時の感情で物事を考え、好奇心で動く俺には分からない性格だった。確かに冒険して色々厄介な目にあったり、何人かとは関係が最悪になった。だが引き換えに、色々な状況での流れを読めるようになった。どこまで役に立つかは知らないが、人間関係においてどの場面でどうするかと考える時の手助けにはなるだろう。


それはそうと、今は巴との関係修復に全力を尽くさなくてはならない。宿泊研修の班が同じである以上、それは急務である。学年全体の一大行事である以上、彼女も参加するという前提で物事を考えなくてはならない。

かなり厄介な問題をかなり厄介な時期に起こしてしまった。後先考えないのも俺の短所である。


俺はもう一つ、不思議な事があった。

今まで友達と仲違いしたことがない訳ではない。普通にケンカしてしまうこともあったし、付き合っていたころは由乃ともケンカした。だが、ここまでメンタル的にショックを受けた事はそうそう無い。もちろんそのほとんどが中学生の頃の話だったりした事や、大抵翌日には何もなかったようになっている事がほとんどだった。由乃と別れた時は自然消滅に近く、受験も近かったためむしろ喜んだ。今回は何もない。

とは言え、この感情は言い表せないような、何とも感触の悪いものだった。ポッカレモンのような酸味の強いものを、大量に飲み込んだ時のような感じだった。胸かお腹辺りが変な感じだった。だが初めての感覚という訳でもない。俺はこの感情をかつてどのようなシチュエーションで感じたか、記憶を辿った。


「あ…」

急に悪寒が走る。胸の妙な感触を以前に感じた時の感情を思い出したからだ。首を振り、そんな筈はないと自分に言い聞かせるが、それが何の解決にもならない事は俺自身が良く分かっている。

「冗談じゃねーよ、そっちの気は無いから。」

抱いた感情そのものに対する気色悪さと、それを抱いた自分への苛立ちを覚える。しかし一度気づいてしまった以上、それを紛らわせるしか今は出来ない。万が一巴との関係がこのまま途切れてしまえば、この感情もすぐに薄れ行くだろう。


財布から百円玉を取り出し部屋の明かりを豆電球にする。オレンジ色の小さな明かりが部屋を暗く照らす。大きめの窓を開けると、俺は側の床に置いてあったクロックスを足につっかけて窓の外に飛び降りた。一階にある俺の部屋は、窓から簡単に出入りできる。

「とりあえずカフェイン様に頼みますか…」

今年は気温が高くなるのが遅いのか、夜中に吹くそよ風はまだ肌寒い。もっとも、あれやこれやで気を焼いた俺にとっては心地よい空気だった。

砂利を敷き詰めた庭を、なるべく音を立てないようにすり抜ける。敷地を出た俺は、 ジョージアの缶コーヒーを買いに、自宅の裏にある自動販売機へ歩いて行った。



結局巴と仲直りしたのは、それから約一週間後の事であった。

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