生まれたての主人公、羞恥を知る
最初の一日は本当に辛かった。
考えても見て欲しい。
体が赤ん坊であっても、心は十八歳。
思春期まっさかりだ。
それが着替えから食事、下の世話に至るまでもが、甲斐甲斐しくミルによってなされるのだ。
年頃の若い女の子であるミルに、である。
アレイほどでは無いけれど、彼女とて、十把一絡げのアイドル以上の美貌を持つ。
これが恥ずかしくなくって、何を恥ずかしいと言えるだろう。
人によっては羨ましがられるかもしれないが、生憎とぼくはそういった状況で喜べるほど女慣れしていない。
モテなかったのだ。
ぼくは。
一日目が経った時点で、一刻も早く喋ろうと喉が嗄れるのも無視して懸命に発声を繰り返した。
ぼくの体は人間のそれでは無くなっているようで、成長が著しい。
生後一日にして、体は一歳児と変わらない姿になっていた。
同時に発声器官も発達し、舌が回り、口蓋が動き、声帯の開閉を思う様に扱えるようになる。
意味を成していなかった喃語が、理解できる言語へと移り変わる。
淀みない成長は心地よく、自身の意欲を一層に掻き立てた。
そうして、二日目が終わり、ぼくは言葉らしい言葉を使うことはおろか、以前のように会話することも可能になった。
もっと言えば、昔よりも流暢に操れる。
不得意だったはずのサ行を使った早口言葉すら、噛まずに延々と唱えられた。
ミルはぼくの目覚ましい成長に驚きながらも、都度都度、褒めそやす。
それもまたぼくの学習意欲を引き上げた。
そして、三日目の朝。
ぼくの習熟度合を鑑みて、ミルはアレイに引き合わせても問題ないと考えたのだろう。
「ご主人様をお呼びして参ります」
そう言って部屋を出て行った。
三日目ともなると、ぼくの体は走れるまでになっていたので、入り口まで付いていき、手を振って見送った。
ミルがぼくを振り返って見ては、目じりを緩ませ、頬に手をあて、「ほぅ」と満足げに嘆息をつくのは何なんだろうか。
ちょっと怖い。