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冬来たりなば春遠からじ

 ぼくが生まれて二度目の冬に入った。

 例年通りの寒さに身の縮まる思いをして、暖炉の前で仕事をする。

 体温を捧げていなくとも、ぼくは元々、寒がりだったようだ。

「君は生まれてから三日経った時点で、言葉が話せるようになっていたんだよね」

 ぼくが本を書いているとゲテが唐突にそんな話を振って来た。

 頷いて返事をすると「いい加減に君に気付いて欲しいから言うけれど」とゲテは前置いて続きを話す。

「君はなぜ、僕の愛弟子が、大魔導師になりたいと言った君に、魔術では無く、剣を教えたと思うね」と問いかけてくる。

 いつもの押し問答でもやらされるのか、と若干うんざりした。

 ズィズィとの死闘から一年が立ち、いよいよ内紛の緊張がピークに達したようだった。

 ぼくらは彼らの陣営に付くことになる。

 しかし、戦力が足りない。

 アレイが閣下殿との婚約を受けようと考えた一因である。

 つまりこれは、彼女の仕事を手伝うことよりも、何よりも最優先すべき、そして最速で行わなければいけない解消すべき問題だった。

 そんな理由で結婚などされてたまるか。

 では、閣下殿と愛し愛されならば良いか?

 もっと駄目に決まっている。

 ということで、ぼくは現地の言葉を魔術言語に翻訳したり、村人向けに魔術の講義を行っている。

 みな苦戦をしているが、『火矢』は全員が打てるようになってきた。

 後方からの援護に役立つことだろう。

 水系の魔術も何人かが出来るようになっていて、どこへ行こうとも飲み水の心配はしなくていい。

 矢と水の都合がつくというのは、必要な荷が減るので、行軍速度を飛躍的に上げることが出来る。

 最初は億劫だった教材作りも、生徒たちがすくすく学んでいく姿を見るにつれ、苦にならなくなった。

 だから今もこうして教材を作っていたのだけれど、しかし、アレイのこととなれば、たとえゲテの面倒くさい問答でも付き合わざるを得ない。

 それに確かに気になっていたことだった。

 なぜ、彼女がぼくに魔術を一切、教えないのか。

 アレイのことは無心で信じているところがあるから、こうして指摘されなければきっと気付かなかっただろう。

 信じると言っても―――男関係を除いてなんだけど。

「生まれたばかりですからね。剣を使わせたのは、体を慣らすと言ってました」

「確かに魔術よりも剣を振り回す方が健康には良いだろうね。では、なぜアレイはその後、僕と出会い、僕が魔術を教えるまで、君に学ぶ機会を与えなかったと思うね」

「忙しかったからでしょう? いつも執務室にこもり切りでしたから」

「アレイはそうだね。けれどミルはどうかな。彼女が魔術言語を繰るのは、君との会話が成立している時点で分かっただろう? しかも、アレイはミルを君の側付として置いたのだ。君のように聡い子供の身の周りの世話などたかが知れているよ。教える時間などはごまんとあったろう。つまりアレイは君に学ぶ機会を与えてはいたが、ミルに率先して、君へ魔術を教えるよう指示は出していなかったことになる。大魔導師になりたいと言っていた君が、学べる環境は用意していても、積極的に教えようとはしていなかった。さて、変わり種君。君はこれをどう読み取るね」

 ぼくはゲテの持って回った言い方に飽きて来て、そろそろ教材作りを続けたかった。

 なので、適当に答える。

「たまたまでしょう」

 頭をゲテの角でどつかれる。

 ズィズィに吹き飛ばされた時よりも痛かった。

 憤懣ふんまんやる方ないといった様子で、彼女の幻影がぼくの前に仁王立つ。

「考え得る限り最低の答えだね。僕の弟子ならば、今後そう言った思考停止に等しい返答は控えたまえ。そうでなければ、君を本にした後、その身を焼いてしまうよ」

 などと猟奇的な脅しを仕掛けてくる。

「ぼくがゲテに所有されるのは決定済みなんですね……」

 まあ、アレイと歩む人生が終わった後ならば、それはそれで良いかもしれない。

 仕方なく、ぼくは持っていた本を机の上に置き、ゲテの言ったことを再考する。

 しかし、いくら考えても答は出なかった。

 偶然以外に何があるって言うんだ。

 彼女はぼくが大魔導師になりたいと信じ、その願いを叶える為に、こっちへ呼んだのだから、ぼくを魔術を勉強するのを邪魔する理由が無い。

 せいぜいが根を詰め過ぎない様にと釘を刺されたくらいだ。

 それは真に迫る表情だったけれど、それだけぼくのことを心配してくれたというだけの話。

 そうして、ぼくがゲテの問いかけに答えられず唸っていると「助言ヒント」と指を一つ突き立てた彼女は言う。

「愛弟子は魔導師ではあるが、大魔導師とは呼べず、つまり君が彼女を上回れば、彼女が行使した魔術を、君も使えるようになる」

 ゲテに鍛えられた為か、そこでぼくは、ああなるほどとすぐに合点がいった。

 至極簡単なことだった。

 アレイがぼくを大切に、我が子のように、思ってくれていたのならば、ぼくが魔術を学習して彼女を超えてはまずい理由がたった一つだけあった。

 あの風呂での告白を終えてもなお、彼女がぼくに対してよそよそしくしていた理由がこれか。

 ぼくは椅子を蹴立てて部屋を出る。

「どこへ行くんだい?」

 ゲテは既に分かり切っているだろうに、笑みを浮かべて、扉を勢いよく開いたぼくへと問い質す。

婚約者アレイに会いに」

 そう言う間も惜しんで、ぼくは執務室へと走り出した。

 愛しい彼女にこう告げる為に。


 たとえアレイがぼくをこちらへ呼んだ様に。

 世界を渡れる魔術を身に着けたとしても。

 アレイの下を離れはしないよ。

ここまでで一巻分と言いますか、

一章分ということになります。

ワードに貼り付けると、賞に応募するだけのページ数は出来ましたし、

表立った伏線も回収できたと思います。

ただ今まで書いた作品の中で一番ポイントの伸びが良いので、

女々しくも完結設定はちょっと置いておこうかと……(汗)

余った時間でちょこちょこ書いていくつもりです。

お気に入り設定は読者様にお任せします。

優しい読者様などは外すのに気が咎める方もいらっしゃるかと思いますが、他に読みたい作品がありましたら、どうぞ切って下さいませっm(__)m


おそらくそれを見て、自分の作品がまだまだだと考え、

新しい作品の糧となると思われるのでっ(^O^)/

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