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アレイとイチャつく

 アレイの次の言葉に、ぼくは手にしていた蜘蛛鍋を取り落としそうになった。

「子には父親も必要かと思ってな。一度は承諾しようかと考えたこともある」

 アレイがそんなことを考慮に入れていたなんて。

 頭が真っ白になる思いだ。

 ぼくが顔面を蒼白にし、何も言えずにいるのを見て取ったアレイは慌てる様にして「しかしな。アレだ。お前があまりにもあの男に対して悪感情を抱いていたのでな。あの冬の時にお前を邪険に扱ってしまったのも、お前が我の弱みであると察せられることを防ぐためでな。うむ。だからだな。我は断ろうとそもそも思っておったのだ。ただ権力関係のアレでな。単純に断ればいいという状況でも無かったわけでな。つまりそのなんだ」とそこで言葉を区切って―――ぼくに向かい深々と頭を下げた。

「すまん」

 またアレイに謝らせてしまった。

 ぼくは学習しないよな。

 嬉しいとか思ってしまっているところが度し難い。

『我の弱み』とか言ってくれた時点でチャラだ。チャラ。

「こちらこそ変な顔をしてごめん」

 お互いに頭を下げ合う。

 軽い謝罪をする時に、お辞儀をするという習慣はアレイに無かったはずなので、ぼくの影響を受けているのだと思うと、素直に喜ばしい。

 謝っているのにニヤけるぼくを見て、怪訝な表情を浮かべるアレイ。

「まあしかし、お前がズィズィを生かして帰したおかげで、ことを荒立てずに済んだ。本当に感謝する」と再び頭を下げられるので、「いえいえ、とんでもない」とぼくも下げ返す。

 しばらく無視されていたからこんなやりとりだけでも、天上に昇る気分だった。

 そして例の二人もきっと今頃は通じ合っていることだろう。

 ぼくがアレイを想うように、針金男とまだ見ぬ閣下は恋仲だったそうな。

 針金男の片腕を失わせたぼくに対し、当初、閣下はこの世全てを破壊せん勢いで全ての兵力をグンヌダルグへと投入しようとしていた。

 何それ、怖すぎる。

 寸でのところで、ズイズィが止めたらしい。

 しかしそんな怒り狂うくらいに彼が好きなら、何でアレイと結婚しようとしたんだよ、とつっこみたいところだったが、まあ同性同士と言うのは、こちらの世界でも色々と問題があるのだろう。

 世継ぎ出来ないし。

 アレイと結婚をさせたかったのも、閣下よりもさらに上の人間からの指示だったそうな。

 臣下の臣下は臣下でない。

 ぼくらの世界にあった言葉だけれど、こちらの世界もご多分にれず、どろどろとした権力構造に塗れている。

 今や閣下はその命令を下した人との関係がこじれに拗れ、所領同士の内紛一歩手前。

 アレイへ協力を打診してきているほどに切迫している状況になっていた。

 これだからファンタジーは。

 昨日の敵は今日の友って漫画かよ。

 そうは言いつつも、針金男や閣下がアレイを本気で狙っていたんじゃないと知ってからは、彼らに対しての怒りなどはわりと収まっていたので、個人的に助けることはやぶさかでない感じだった。

 ぼくは蜘蛛鍋をアレイの皿に盛り、彼女が美味しそうに、本当に美味しそうに舌鼓を打つのを見てから、席に着く。

 今回はミルには遠慮して貰った。

 二人きりの食事。

 しかし、会話は弾まない。

 食事に手を付けると、自然と口数が減る。

 しかも料理はカニ鍋ならぬクモ鍋。

 彼女は殻ごといけるので、もぐもぐと、ぼくは殻を取る作業にいそいそと。

 ちょっとした沈黙が続いた。

 というかこのまま何事も無く終わったら、二人きりにしてもらった意味が無い。

「アレイ」

 改まったようにぼくが呼ぶと、彼女は一つ大きく体を震わせて「な、何か」と言いよどむ。

 分かっている癖に。

 とぼけないで欲しい。

「返事を聞かせて欲しいんだけど」

「な、何か」

「こないだの」

「な、何か」

 お前は壊れたレコーダーか。

 そのリアクションは愛らしいのだけれど、誤魔化されるのは少し傷つく。

「告白の返事」

「な、何か」

「今のは分かるだろーよっ」

 そのつっこみには、さすがに何かとは聞き返せなかったようで、アレイは気まずげに、俯き押し黙る。

 え?

 なにその反応?

 ひょっとしてコレ振られちゃうんじゃないのか?

 ぼくはきっと高いところから飛び降りそうな顔をしていたに違いない。

 俯き加減にこちらを見ていたアレイが「ち、違うぞ。別に嫌いと言うわけでは無い」と言うので、首の皮一枚つながった感じだ。

 しかし、嫌いじゃないって。

 前世含めての初告白だけれど、この反応は『優しい人なんだけど』とか『友達として好き』とか、そういった類にしか思えない。

 ぼくは恐る恐る、情けなくならないよう声を作りながら「つまり?」と先を促す。

 アレイは再び俯きつつもこちらを上目づかいに見て、何やら前髪やら角などを触りつつ「し、しかし我とお前は親子だ。そういった、その、付き合うというのは何か違うのではないか」

 よし。

 死のう。

 ぼくは幽鬼のように立ち上がって、食堂を出ようとし、椅子に足を引っかけて顔面から倒れた。

「大丈夫かっ」

 椅子から跳ね上がって、ぼくの傍らに来てくれるアレイ。

「なぜ跳ねるように席を立ち上がる。危ないであろう」

「いや、だって振られたから、顔合わせ辛くって……」

 うわー。

 ださい。

 今のぼくは完膚なきまでにカッコ悪い。

「我とお前は家族だ。振るとか振らないとかそういう問題では無い」

「眼中に無いって?」

「そうは言っておらんというに」

 アレイはぼくを子供を立たせるようにして、身体を起こし、埃を払う。

 優しいんだけど。

 その優しさが辛い。

「ぼくら親子って言っても、アレイがお腹を痛めて産んだわけじゃないよね?」

「当たり前であろう。我はまだ誰とも契りを交わしておらん」

 その発言にぼくはすこぶる元気になる。

 アレイたち魔族は見た目若く見えたりするが、実年齢がとんでもないということはズィズィを見て分かっていた。

 ズィズィのことを知っていた高弟ホモも、姐弟子と言っていたことだし。

 だから、アレイも言葉遣いの通りに妙齢で、ただ見た目だけが少女なのだと、美人だからきっと何人かとはもうお付き合いしているのだと、血の涙を流す想いでそこらへんは諦めていた。

「アレイっていくつなの?」

「何だ藪から棒に」と言いながらも話がそらせると踏んだか素直に「我は今年で十になる」とかとんでもないことを言い出してしまった。

 すこぶる元気になった気持ちが、混乱の渦に呑み込まれる。

 え?

 あれ?

 おいおいおい?

 それはさすがに告ったこちらの立場がまずかろうよ?

 いやまあ、こっちの世界に刑法だの条例だのは無いだろうし、ぼく自身、今の年齢は一歳なんだけどさ?

 道徳的にヤバいだろ、これ?

 腰が引けまくる。

 ぼくが目を白黒とさせていると、何を勘違いしたか、ぼくが落ち込んでいるとでも思ったのか。

「我はお前を子だと、そう思ってしまってる。しかしな。我を想って、あのズィズィに対峙し、しかも勝つなどと―――我は真に嬉しかった」

 ぼくと目線の合ったアレイの目が潤んでいるのは気のせいだと信じたい。

「そ、そっか」

「益荒男であるとも感じた」

「うん。ありがとう」

「お前に対する見方が変わったやもしれん」

 いつの間にやら立場が入れ代わってる気がする。

 こちらが慌てて席を立って逃げ出そうとした時から、なんだかぐいぐいとアレイが積極的に。

 ぼくは慌てて首を横に振った。

「きっと我が子、可愛さのひいき目だと思うよ」

「謙遜することは無い。とても凛々しかった」

「そりゃあぼくはアレイの子供だからねっ」

「うむ。それなのだがな」

「やっぱり無理だよね」

「そうは言っておらん」

「親子は結婚できないよね」

「血肉を分け与えこそすれ、我が産んだわけでは無し、問題は無かろう」

「やーでも年齢がね。ほらぼく一歳にまだなってないし」

「それは人種の理屈だな。我ら魔族の成長は早い。生後八か月で子を身籠った者もおる」

 魔族は子鼠ハムスターかなんかか!?

 確かにぼくの成長速度も著しいけれども!?

 少女の形をしたアレイが言うと生々しすぎる!!

「お前が望むのならば、我は―――」

 決定的な発言をされる前にぼくは「アレイ!」とぶった切るように声を張る。

「何か」

 決死の覚悟を持って言ったであろう、その言葉を遮られたアレイは大層、不機嫌そうに問いかけるが、知ったことでは無い。

「アレイ! アレイはぼくのことを子供だからと、恋愛対象に見れないと、そう言うんだね!?」

「いいや、我は―――」

「アレイ! 八年! 少なく見積もっても六年待って欲しい! それまでにぼくはアレイに相応しい男になって見せる!」

「いいや、今すぐにでも―――」

「アレイ! 君のことが好きだ! だからぼくはきっと諦めないよ!」

「いいや、だから―――」

 喧々諤々。

 ぼくと彼女の押し問答。

 今回は口を挟むゲテも、フォローをしてくれるミルも居ない。

 ぼくたち二人はまるで夫婦めおとのようにボケてはつっこむ波の様。

 笑い泣き怒り悲しみ、また笑う。

 くだらなくも楽しい会話の応酬。

 このやり取りが翌日の朝になるまで繰り返されることを、ぼくたちはまだ知らない。


 なお、会話を止めるきっかけになったのは、彼女が腹に子を宿すのは神様の力だと勘違いしていたことに対して、懇切丁寧に男女の営みについて説明をしたからだった。


 年相応に顔を茹でらせた少女は叫ぶ。

「そうと知っていたら、お前の父親を見つけようなどとは思わなかった!」

 だろうね。

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