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遁走(とんそう)

「落ち着け」

 アレイのことアイツ、売女と。

「熱くなるな」

 おまけに婚姻を結んだだと。

「冷静になれ」

 これが落ち着いていられるか!

「いいから静まれ!」

 心の声を抑え込もうと発した声は、言葉とは裏腹に荒く、怒りに満ち満ちていた。

 アレイを侮辱された瞬間に、頭が真っ白になった。

 そのせいでまだネタが割れていなかっただろう、滑舌による連続射出と、物真似による成りすまし、その両方が明るみに出てしまった。

 なんて間抜け。

 バカすぎる。

 そう分かっているのに、未だに腹の中では憤り続けていた。

 背後を振り返る。

 場所が森だからだろう。

 林立する木々が邪魔で、男はすぐに間合いを詰められないでいる。

 最初に森の一部を吹き飛ばして、戦いの場を均したのは、それが理由。

 ぼくの後を追うに、針金男はその腕を持ってして木々を撫でる。

 男に触れられた木々は、ギロチンで首を飛ばされるように、根から上を刎ね上げられていく。

 推測するに、風の魔術を使用した真空状の刃で刈っているのだろう。

 やっていることはぼくが訓練でしていた時と同じ。

 けれど、長く熱心に頭の中で唱えなければいけないぼくに対して、針金男は一言二言を軽々(けいけい)と呟くだけで木々を薙いでいる。

 木人たちは森を荒らす男へと向かって行くが、彼はそこらに生えるただの木々と大差なくあしらっていた。

 ふざけた存在だ。

 だからといってアレイに対してふざけたことを言ったことを許せるはずもない。

 ゲテとの問答で培った自問を繰り返す。

 考えろ。

 この実力差を覆す術を。

 敵は何だ。

 五百の蛮族を一人で誅したと記される化物。

 どういった方法で殺した。

 おそらく風の魔術を行使しての斬首。

 なぜ五百人も殺せたか。

 一歩で彼我の距離を詰める機動力と、眼前で撃たれた『火槍』を防ぐことのできる瞬発力。実際に体験したアレは、針金男を想定して訓練をしていなければ絶対に避けられないし、逃げられないし、当てられない。

 では、そんな相手をどうやって倒す。

 分からない。

 敵は不死身か。

 違う。ぼく渾身の魔術である『火槍』を手で潰した。食らって平気ならば『火矢』のように体で受けるだろう。その数に避けられなくとも、防御くらいはするはず。

 火矢を撃ち続けてダメージは蓄積するか。

 分からない。少なくとも百発以上は当てているが、動きに変化は見られない。望み薄。

 なら火槍を当てられるか。

 難しい。読まれていたとはいえ、眼前に立たれた状態で撃った。それを防がれたのならどうしようもない。

 当たってくれるように仕向けることは可能か。

 挑発には乗るだろう。けれど、それは事前に撃つことが読まれていることと同義。潰される。

 ゲテの魔術を借りる。

 短文ならば可能だけれど、長い文章となると発音に齟齬が出て上位者にばれる。よって、強力な魔術の行使は不可。

 目まぐるしく回る頭の中で出される質疑応答は、しかし、どれも良い結果を出さない。

 徐々に狭まる彼我の距離。

 直線上に逃げなければ追い着かれる為に、そろそろ森が途切れそうだった。

 考えろ考えろ考えろ。

 巡る思考の中で、幾つもの策が、案が、瞬時に浮かんでは消えて行く。

 死が近づく。

 二度目の死が。

 と。

 そこまで来て、ようやく閃いた。

 ああ。

 そうか。

 実際に出来るかどうかは分からない。

 これは練習しようにも出来ない。

 ぶっつけ本番になる。

 けれど。

「やってみる価値はあるよな」

 そう決意する。

 ぼくは森の外へと一目散に飛び出して、燦々と輝く太陽を背に、襲い来る針金男に戦いを挑んだ。

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