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襲撃

 宣言と、ただの三つの言の葉。

 たったそれだけで、周り一体の全てを吹き飛ばした。

 ぼくの周りを囲んでいた木人も、大木人も、ただの木々も、ぼくが行使していた形状を持たないはずの光ですらも。

 爆発するような勢いで巻き起こった豪風ごうふうは、空を覆っていた枝葉えだはを消し去り、闇の底に沈んだ森の一部が、日の光によってさらけ出された。

 男を中心とした風に振るわれたぼくは、遠く離れた木に背をしたたかに打ち付けている。

 少し意識が飛んでいた。

 にも関わらず、ぼくが生きているのは針金男の気まぐれに他ならない。

 自分の間抜けが嘆かわしい。

 高弟は責められない。

 ぼくは言っていなかった。

 針金男の声は金属的で耳障りだと、高弟たちには説明していた。

 けれど、それは彼の声質によることばかりで、ぼくは彼が日本語を使っていることに気付いていなかった。

 思えば男は出会った時にアレイのことを子爵と、時間が欲しいと言っていた。

 自身が魔導師であることを予め牽制に使うかのように。

 日本語で。

 それをぼくはきちんと聞き取れていたじゃあないか。

 二百年を超えてなお生き続けているのならば、上位者との関係性は如何ほどのものか。

 あんなにも短い言葉で、これほどの威力。

 実力をつけた気になっていた自分が恥ずかしい。

 勝てるのか。

 こんな化物。

 心の中で悪態を吐く。

 しかし、頭では長く真摯に心の底からの称賛を火の上位者に送り始める。

 敵に気取らせず、魔術を行使する一歩手前で、針金男の隙を窺い見た。

 しかし男は金属片同士がかち合うような笑いを上げて「見ていたぞ。詠唱無しの魔技。雑ざりモノに似つかわしい弱者のすべよ」と、こちらの意図を看破する。

 風が砂塵を蒔き上げ、ぼくは思わず目を瞑る。

 その瞬く間の一瞬で、コマ落としのように男はぼくを見下ろせる距離に近づいていた。

 驚異的な身体能力に加えて、あの魔術による技巧。

 勝てる気がしない。

 でも。

 心の中で唱えていた魔術を行使する。

 心構えの出来ていた男は、大木人を幾人連なろうがつらぬき抜ける火槍かそうを両手で挟むように消し潰した。

 事前に来ると分かっていれば戦闘のド素人でも躱せるとは、蜘蛛を初めて狩った時に、自分で思っていたことだった。

 ましてそれが歴戦の戦士であれば明白。

「貴様の芸は割れていると。そう言った」

 この距離で防ぐかよ。

 予想はしていたことだけれども、実際に目の前でやられると絶望的な気分になる。

 秘密の特訓が、見事に裏目に出た。

 ゲテはいない。

 ネタも割れた。

 この身ひとつで応じなければいけない。

「あんた何でぼくを殺そうとするんだ」

「笑止。先ほどは俺を誅する鍛錬だろう。普段よりああも睨みつけられてはな。己が身を守る為には是非など無い」

 よく言う。

 ぼくを尾行けて来た癖に。

 その結果、ぼくの訓練を見たというだけであり、そもそもの尾行した理由にはなり得ない。

「人気が無いところで襲うつもりだったんだろう」

「俺が襲うなどありえない。閣下が交わした子爵との約定に反する。お前はあくまでも森の住人によって倒されなければならない。そもそも俺はここにはいないのだ。どうしてお前を殺せる」

 いけしゃーしゃーと嘘を吐く。

 現場不在アリバイは仕込み済みなのだろう。

 けれど、そんなことはどうでもいい。

「約定ってなんだ」

 アレイの浮かない顔と関係があるのか。

 きっとあるだろう。

 あるに違いない。

「彼女に何を言った」

 ぼくの睨みつけるような視線に、しかし、針金男は意に介した風でも無く、意外そうに眉根を上げるばかりだった。

「聞かされていないとは。貴様、よほど可愛がられているらしい」

 そうして、男の目が薄く細められる。

 目の前を飛び回る羽虫をわずらわしいと言わんばかり。

「貴様の青くさい叫びで、子爵の身内であると分かってからと言うもの、貴様を殺すと彼女に再三に渡って伝えたならば。あの売女ばいため、ようやく婚姻書に判を押したわ。我が主である閣下のご交情を頑なに辞した理由が、まさかこんな餓鬼と比べられていたとはな。不愉快に過ぎる」

 ぼくは深く鋭く息を吸い込み。

「糺す」

 ぼくの言葉に針金男が右腕を振り下ろす。

 寸前に。

 ゲテの声を真似て叫び続ける。

「火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢火矢―――――」

 さながら機関銃のように、針金男の振り下ろされる腕に、身体に、足に、目に。

 弾幕という弾幕を張り続け、痛む自身の足腰を奮い立たせる。

 叫びを上げ続けながら、爆ぜる火の粉と燻るけぶりにその身を隠し、ぼくは仄暗い森の中へと逃げ込んだ。


「速い。そして、誰ぞの猿真似をして神をたばかるか。よほどの魔導師の威を借りているのだろう。威力が基礎魔術とは思えない質を有している―――が、しかし俺には通じん」

 

 矢の射出は続けている。

 火と煙渦巻く中で、影となって映る男は超然とそこに立ったまま、言葉を吐く。

「親が親なら、子も子だ。逆らっても無駄と知りつつ抵抗を続ける」

 火矢の弾幕など蚊の指す程度だとばかりに、その一歩を踏み出す。

「蠅のように鬱陶しい」

 踏み出された一歩は、彼自身が吹き飛ばした円の外縁へと男を運んだ。

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