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大失態

 地下から上がると、今から帰るのだろう針金男と鉢合わせてしまった。

 幸先が悪いと見るべきか、明確な目標を得た後での邂逅かいこうに奮起すべきか。

 ぼくは後者を選び、廊下を通り行く男を下からめつけた。

 しかし、ぼくがいつもと違うように、男の様子も明らかにおかしい。

 いつも悠然と、ゆったりとしていた足取りが、床を踏み抜くようだ。

 しなやかで風を流すような動きが、今は優雅さの欠片も無く、空間を切るように鋭く尖っている。

 何よりも、決定的に違ったこと。

 男はぼくとすれ違う時に、確かにぼくを横目で見下ろしていた。

 その白磁のように白く無機質な目がぼくの姿をはっきりと映し出す。

 それはアレイの前に立ち塞がった時と同様。

 いや、それ以上の敵意が感じ取れた。

 ぼくを認識してしまったことを屈辱に感じたのか、男はほんの少しだけ眉間に皺を刻み―――そこから先の表情はぼくの横を通り過ぎて行ったので分からなかった。

 勝ったわけでは無い。

 勝ったわけでは無いけれど。

 心の底からざまあみろと、閉じられた扉の向こうに歩み去る男を想像してニヤけた。

 モチベーションがうなぎ上り。

 この気持ちを維持したままで訓練を行えば、きっと結果に繋がるだろうと、ぼくは自室へと準備に向かう。

 と。

 ぼくが向かう先には執務室があり、そこには二つの人影が立っていた。

 アレイとミル。

 その視線は、ぼくと針金男がすれ違った辺りを見ていた。

 針金男が玄関まで出て行くのを見守っていたのか、見張っていたのか。

 後者であると信じたい。

 ぼくが二人の方を見やると、アレイはいつも通りに顔を背けて部屋へと逃げ込み、ミルはミルで廊下を駆けて行き、ぼくの視界から消えてしまった。

 その対応に心が落ち込みかけたが「きっと聞こえていたんだろうね。二人とも顔が真っ赤だったよ」と、ぼくの後を追って来たゲテ。

 小鳥のように羽ばたかせたその体を休めるため、木の枝に留まる具合にぼくの肩にページを食ませる。

「どういうことです?」

 単純に疑問を呈した時、ゲテは往々にしてまずは自分で考えるようさとしてくるのだけれど、この時ばかりはその逆で、唇を表紙満面に歪ませながら、詳しく事細かく、もう良いと言いたくなるくらいに、事情を説明してくれた。

 人種最低の魔導師。

 その名に恥じない厭らしさだった。

「君は二人に当てつけるように扉を強く閉めたよね。屋敷全体に響くように。部屋の扉は勢いよく閉めすぎて開いていたよね。僕とハグが入れたから。君、部屋で叫んだよね。長々と。それはもう大きな声で」

 その言葉が脳に染み入った後。

「それは扉を閉めた音よりも、ずっと煩かったと思うよ」

 ぼくは屋敷全体に響き渡るほどに叫び声を上げ、あまりの羞恥に酸欠、昏倒した。

 薄れゆく意識の中で。

 ゲテの大爆笑が。

 高らかに。

 高らかに。

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