目覚めよ演劇部員より魔族へ 1
目が覚めると、ぼくは舞台装置には無い豪奢なベッドの上へと寝かされていた。
舞台装置どころか、客席も暗幕も音響照明調整席も、相手役の後輩すらいない。
そもそもからして、ぼくの容姿がおかしい。
伸ばした手はもみじのよう小さく丸っこい、まるで水にふやけた形をしている。
肌は真夏の太陽の下で遊び呆けたように浅黒く、ところどころに赤い文様が刻まれていた。
なんだこりゃ、そう言葉にしたつもりが、赤ん坊が話す喃語のように意味を成さない。
舌が上手く回らない。
稽古で使われる白秋の詩『五十音』を諳んじようと、口蓋を上げ、声帯を意図的に開こうとして、ぼくは咽込んだ。
あめんぼあかいな、の『あ』すら満足に言えない。
声を発する。
ただそれだけのことなのに。
呼吸をするように日常的にしていたことが、上手くいかない。
ぼくの体はどうしてしまったのか。
不安がこみ上げてくる。
この歳で泣くつもりなんて無かったのに、堪えることが出来ず、あっさりと涙が溢れ出した。
えんえん。
あんあん。
口から漏れだす声は、まさに赤ん坊のそれであった。
「さすがだ。もう目覚めたか。異界の人種よ」