村の外れのそのまた遠く
村の外へと出た。
それはいい。
実践をもって学ぶならば、魔術を行使する対象が必要になるだろう。
初めて戦闘を行った草原地帯に出てくるのは当然の理。
けれど、ゲテはぼくに立ち止まるなと言い、さらに遠く、草原の外れへと進んでいく。
村が霞んで見えなくなった。
それでもまだ前に進むゲテに、ぼくは疑問を呈する。
「どこに行くんです?」
「僕が言うとでも?」
いや、そこは言えよ。
そう言ったところで、ゲテは答えてくれないだろう。
無駄な口を叩くのはやめる。
疲れるだけだ。
しかし、まさか拉致はされないだろうなと、出発前にアレイが話していた危惧を思い返した。
「師は一度気に入った玩具―――もとい、気に入った人間や魔族は何時までも手元に置いておきたいと、そう考える」
今、とても嫌な言い換えがあった。
人を玩具扱いとか。
如何にもゲテらしい表現で、はまり過ぎだ。
彼女を信用できないことは、アレイに言われるまでも無く気付いてはいたけれど、アレイ自身の重々しい声音から聞くと一層に真実味が増してただただ怖い。
「師は収集癖のようなものを持ち合わせていてな。だからこそ、様々な種族の弟子を残そうと、人にも魔族にも、それ以外の者にも。分け隔てなく魔術を与える。トータは人の魂を持ち、かつ、我の血肉にて創られたこの世に唯一の存在。希少な者だ。命に危険が及ぶような真似はしないだろう」
最後の言葉にぼくは安堵の息を吐く。
それをぼくの油断と見て取ったのか、叱責するように舌鋒鋭く、アレイは警告を発する。
「封ぜられた書庫を見たろう。アレら全ての魔導書が、我が兄弟弟子たちだ。師は己に施した本への変態魔術を、彼ら全員に掛けている。人種からも魔族からも最低の魔導師と呼ばれるのは、それが由来だ」
この時点でぼくはゲテとの二人きりの外出は避けたいと思っていたのだが、しかし、アレイの言葉には続きがあった。
「空恐ろしいことに、弟子全てが本にされたことを喜んでいる。人種最低の魔導師ゲテ所有の本になる。これは魔導師の中では栄誉なことであり、自身が生み出した魔術が世に認められたに等しい。トータがそういった名誉に疎いのは知っておるので、それを理由にお前が本にされるのを望んだりはしないと理解してはいるが―――師は人心の掌握に長けている。決して心を許さぬように。万一のことあれば、我を呼べ。何を置いても飛んで行く」
ぼくは最後の言葉に、どうやってとは問い質さなかった。
それが冗談では無いことは、彼女がそういった類のことを言わないと知っていたからだ。
純粋なのだ。
彼女は。
箱入りと言っても良い。
自身に必要なこと以外は知らない。
偽ろうにも、偽ること自体に聡く無いのだろう。
だからこそ、ゲテに対しての危惧も本物と判断するべきだった。
アレイが言った通り、いざとなれば彼女が、文字通り飛んで助けてはくれるんだろう。
しかし、忙しい彼女の手を煩わせるわけにはいかない。
自身の身は自身で守るべき。
ぼくは終始、周りを見回しつつ、いつでも逃げ出す心構えだけはしておいた。
「二人きりであることを確認したいのかい? 僕を押し倒そうとでもいうのかな? いけないよ。君が僕をお姉さまと呼ぶようになってから、僕と君とは姉弟なんだ。姉をそういう目で見てはいけないよ」
ぼくは延々と悪ふざけを続けるゲテに対して、頑ななまでに相手をせず、絶対に見てやるものかとばかりに、ますますもって周囲を見回し続ける羽目になる。
―――どうあってもゲテの手の平の上で転がされている感が、否めなかった。




