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師は弟子に似るのか、弟子が師に似るのか、それが問題だ

 一頻り説教をくれた後に、アレイは「我がどれだけ心配したか」と顔を両手で覆って嘆く。

 ぼくは本当に申し訳ない気持ちになった。

 何が子供の外見に引っ張られているだ。

 中身は十八だろ。

 自重しろよ。

 アレイにあんな顔をさせて。

 くそ。

 もう二度と自分の行動であんな顔はさせないぞ。

 固く決意するぼくの肩に、慰めるが如く一つ叩くようにして、その体を預ける一冊のゲテ

「親に心配を掛けるのは、子の仕事の様なものだよ」

「あんたにだけは言われたくない」

 とうとう、初対面にして敬語を使わない第一号が誕生した。

 しかし、ぼくの言葉遣いの変化にゲテは気にした風も無い。

「弟子と師の関係は家族も同然。もっとフランクでなければいけないよ。どうかな、今後、僕は君のことを愛すべき弟と呼ぶから、君は僕のことをお姉さまと呼んでくれないか」

 と、むしろ歓迎するような構えだ。

 こうなってくると、敬語を使いたくなるのだが、さすがにそれは意地が悪い。

 ただアレイを相手にしている時のように気遣って敬語をやめるくらいなら、気遣いたくないゲテに対しては、うっかり出る分には丁寧に話すのを止めるようにしよう。

 ん?

 で、結局、ぼくはどう話せばいいんだ?

 なんだか自分の頭の中でもこんがらがって来た。

 まあ、いいか。

 自然に任せよう。

 ぼくはこれ以上ゲテのお遊びに患うのは嫌だとばかりに、深々と溜め息を吐く。

 そうして、嫌々ながらもぼくはゲテに向かって頭を垂れた。

 魔術の教えを請う為に。

「では、よろしくお願いします」

「なにをかな?」

「…………」

 いかんいかん。

 腹を立てたら負けだ。

 落ち着け、ぼく。

「魔術を教えてくれるんですよね?」

「なんで?」

 大きく。

 大きく呼吸をするんだ、道端答他。

 ぼくはやれば出来る子。

 そう。

 安い挑発なんかには屈しない。

「貴方がぼくを弟子に誘ったんですよね?」

「そうだっけ」

「そうだよっ」

 何で最初はなっからとぼけてんだ。

 少しは話を進める努力をしろ。

 安い挑発に乗ってしまっただろーが。

「僕のキャラ的に話をスムーズに進めると面白くないだろう?」

「誰に対して媚びだ、それっ」

「僕らの上位世界に住む住人にさ」

 まったくもって意味が分からない。

 神とか精霊とかでも言うつもりだろうか。

 たとえそれらが実在したとして、あんたのキャラなんか気にしないだろ。

 ばかじゃねーの、そうぼくは喉が張り裂けんばかりに罵倒を繰り返した。

 しまいには息切れを起こし、膝に手をついて項垂れる。

 安い挑発に乗ってしまう自分の弱さが憎い。

 頭を垂れるぼくを見、ゲテはようやくおちょくることに満足したようだ。

 自身の体である魔導書を持つよう、ぼくに指示を出す。

 そうしてぼくが胸に抱え上げると「なにを本番前に息切れしてるんだい。僕のような美人を抱えられて、興奮するというのはあるだろうけれどね」とのたまう。

 ぼくに。

 ぼくに力さえあれば、こんなことには……。

 具体的にどうするかと言えば、ゲテの唇を縫い付けるとか、簀巻きにして川に流す、薪代わりに暖炉へくべるなどの妄想が頭の中で取られた。

 思い浮かべるばかりで実践はしない。

 アレイが勝てないという相手に、無駄な労力だ。

 ぼくのそういった思いを知ってか知らずか、終始笑みを浮かべっぱなしのゲテは、余裕たっぷりに今日の方針を決めた。

「魔術は座学より実践で覚えた方が万倍早く習得できるんだ。天気も良いし、今日は外へ出かけるよ」

 こういうところばかりは、アレイと師弟関係なのだと納得する。

 歩ける様になって間もないぼくをアレイは外へと連れ出して、いきなり戦闘とか、今思い返しても無茶が過ぎる。

 そうは言っても、最弱の魔獣に次いで弱い蜘蛛などとしか戦わせてくれなかったので、過保護と言えば過保護ではあるのだけれど。

「僕はアレイより厳しめさ。覚悟するといいよ」

 厳しい、というよりは、自身が楽しいければ何でもいい、そういった風に捉えた方が、あとあと落胆しなくて済むだろう。

 ぼくはゲテへ過剰な期待をしないよう心に留め、彼女と共に村の外へと出発することにした。

 心構えなど意味が無いとばかりに、ゲテに苛められるとも知らずに。

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