優しい嘘に隠された、残酷な真実 2
夏休み。
真夏の太陽が照り付ける中、ぼくら演劇部は合宿と言う名の旅行へと出かけていた。
場所は新舞子海水浴場。
わりとマイナーな場所で、他の海水浴場に比べてずっと人がいない為に、ぼくらは毎年のようにここに来る。
あれは二年目の夏だった。
ぼくと後輩は、ビーチバレー勝負に敗れた。
二人して砂浜に寝転がされ、バインバインの悩ませボディを作られる羽目になる。
燦々と輝く太陽は眩しく、身動きの取れないぼくらの水分を容赦無く奪っていく。
渇く喉が貼り付き、呼吸が苦しい。
後輩も辛そうだ。
そろそろ勘弁して下さいと、勝者である部長たちに声を掛けると、毎年の恒例だから後三十分は粘る様にと厭らし気に笑う。
悪しき慣習だ。
来年にぼくが三年生になったらば必ずや廃止しよう、そうしよう。
そして、三十分後。
ぼくと後輩は木乃伊のように腐乱死体のように、ふら付きながらも立ち上がった。
互いに視線を交わし合い。
ぼくら、生きてるんだよね、と声なき声を上げた。
もはや涙も枯れ果てたぼくらに、先輩から差し出されるペットボトル。
「よく。頑張ったね」
部内一の美声を持つ部長が、ぼくらの健闘を褒め称えた。
「さっ。ぐっと一息に」
そして、砂漠でオアシスを見つけた遭難者の如く、ぼくらはそれを求め、飲み干した。
「かぁぁぁッッッらぁぁっぁあああああああああああああああああッッッ!?」
辛い!
辛い辛い辛い!
いや!
辛いなんてもんじゃない!
痛い!
痛い痛い痛い!
激痛だ!
もはやこれは凶器と言っていい!
舌の上に刃を置いて、それを一気に引き抜かれたような鋭い痛みが襲って来る!
実際の刃物ならば、舌を一度、寸断すればそれで終わりだが、しかし、ぼくの舌は健在で、つまり、空想の中でぼくは何度も何度も舌を切り刻まれる感触に苛まれた。
悶絶し、台から足を踏み外して地面へと落下、その衝撃でぐらついた大鍋がぼくへと襲い掛かって来る。
わずかに残った滴がぼくの肌へと飛び散った。
それは無数の極小な針で突き刺されたようで、数滴が浸み込んだだけだというのに、腕全体に痺れを走らせる。
傷口に塩を塗り込むなんてもんじゃない。
血管の中に入り込んだ熱を持つ虫が、這いずりのたうち回るよう。
ぼくは踏み台を移動させる手間すら惜しみ、流し台へと跳び上がって、延々と水が流れ続ける筒へ、その身を投げ出した。
水をかっくらい。
腕に浸み込んだ滴を取り出そうと、爪でその皮膚を裂く。
芋虫のように丸まって、水を被り続け、全身から噴き出る熱にぼくは堪え続けた。
どれくらいそうしていただろうか。
風呂から上がってきたアレイが調理場を覗いてこういった。
「湯浴みが待ちきれずにそんなとこにおるのならば、やはり片付けはミルに任せ、我と一緒に入れば良かったのではないか?」と。
ぼくは熱と水と体の震えによって、何度も何度も繰り返し、反射的に頷いていた。