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優しい嘘に隠された、残酷な真実 1

 腹も満たされたということで、アレイは湯浴みをすることになった。

 当然のようにぼくを誘って。

「親子なのだから、一緒に入っても問題はあるまい」

 そう言ってくるアレイに対し、ぼくはそれを頑なに拒んだ。

 何度でも言おう。

 ぼくの見た目は子供なれど、頭脳は高校生なのだ。

 まして、相手は幼女のような、頑張っても少女にしか見えないアレイ。

 反応なんてしてしまった日には、ぼくはきっと立ち直れないだろう。

 今のこの身体にしたって、性の芽生えには早過ぎる。

 諸々(もろもろ)の事情により、当然の如く、ぼくは断るという選択肢を取る。

 しかしアレイ相手に普通に断っても効果が薄いのは知っていたので「料理は片付けるところまでが料理だよ」と言い訳してみる。

「そのような雑事。ミルに任されば良い」

 食い下がって来るアレイに関しては予測できたこと。

 だから。

 ここでこれまでの経験を踏まえての一言を付け加える。

「アレイの為に最後まで妥協したく無いんだよね」

 殊更に『アレイの為』の部分に強いアクセントを置く。

 ぼくがつらねた言葉に、アレイは眉間に皺を寄せつつも、口端くちはを緩め「ならば仕方が無い」と一人で風呂場へと向かってくれた。

 その少女の可愛い表情を見、もったいなかったかな、と頭をぎりつつも、いいや、ぼくはノーマル、ロリペド好きじゃないと必死に自身を説得した。

「本当にお手伝いは必要ありませんか」

 そう言ってくれるミルに対しても「アレイが喜ぶ顔が見たいので」と首を振ってその申し出をお断りした。

 湯浴みを避けたかったというのもあるが、今の言葉は間違いなく本心。

 作った料理がああも喜ばれ、それを見ることがこんなにも気持ちがいいことだなんて、まったく知らなかった。

 こんなことならば、死ぬ前に一度でも家族に料理を作れば良かったな、と少しだけセンチな気持ちになる。

「トータ様?」

 ぼくの様子の変化を訝しく思ったのであろうミルの問いかけに「洗って来ますね」と空になった皿を積み重ね、ぼくは調理場へと顔を隠すようにして戻って行った。

 元気にしてるかなあ、みんな。

 後輩なんかは気にして無ければいいな、と心配に思う。

 調理場へと戻ると、明日の朝の仕込み中であろう、料理番がいた。

 ぼくが戻って来るなり突風の如き慌てようで、速やかに部屋から出て行った。

 あまりな態度だ。

 ぼくは猛獣か何かか。

 いやまあ、その例えを使ってしまうと、『誰あろう手出しは許さん』宣言をしたアレイが必然的に猛獣扱いになってしまうので自重。

 流し台に食器を置き、そういえば鍋も洗っておかないとな、とかまどへと近づく。

 三人分に掬い分ける時にほぼ空っぽにしていたはずだったけれど、鍋の内側に付いていた滴の幾つかが重力によって落ちたのだろう。

 鍋を手前に傾けると、鍋底にほんの一口分だけスープが集まった。

 蜘蛛鍋なんて食べる気は無かったけれども、二人があんなにも一心不乱に力強く平らげようとする様を見ていたら、試してみたくなった。

 うん。

 今後の料理の参考にもなるだろう。

 そうして、ぼくは底に溜まったスープを指で掬い上げ、口に含んだ。

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