十三日目 午後
「流石にもう帰らねぇとやべえかな」
陽が山に隠れ始め、朱色に辺りが染まるのを見た優矢はそう言い、手にしていた茶碗を置いた。米粒一つどころか米が入っていた形跡すら残ってない、だと……。
ウォンやヨーデルをブラッシングしていた手を止め、優矢に目を向けた。
「情報が分かったら連絡頼む。……それと地元ネタなら付き合うから疲れたらまた来たらいい」
「……」
返事がすぐ返ってこないがその理由はすぐに分かった。優矢の肩が震えていたのだ。
「……お、お祖父ちゃん……!」
「誰がお祖父ちゃんだ」
震える声で絞り出した言葉に私は、木の実と一緒に拾っていた草をハリセンのようにして叩いた。ばしん!と派手な音はするが柔らかい草なので痛くはないだろう。それに防御力高そうだしな。
田舎のちょっと頑固だけど動物に優しいお祖父ちゃんにクリソツだ!
フェイント混じりの小突き合いをしつつ、言葉の応酬を交わす。手元にいたヨーデルが顔を上げ、もごもごしていた。何か食べてるのだろうか。ウォンの姿がいつの間にか見えないと思ったらヨーデルの腹の下にいた。
どうやらこの状態は不本意らしく、解せぬ、という顔をしていた。
優矢はそんな彼らに一瞬手を伸ばしかけて、戻した。
「あら、もう帰るの?おにぎり持っていく?」
奥で料理を作っていたハルが笹のような葉っぱにくるんだおにぎりを手に持って、優矢に差し出した。
「お、お婆ちゃ」
「死にたくなかったらそれ以上は辞めた方がいい」
ばしっと危ないことを口走る優矢の口を手で閉じる。だが、残念ながらハルには聞こえていたらしい。
「別に良いわよ。こんな大きな孫を持った覚えはないけどね」
随分さっぱりとした反応だった。
……ん?確か女性に年齢は禁物じゃなかったか?だってーー……
「ちょ、冗談だからな!?んじゃ、ありがとう!またな!」
そう手を振って優矢は消えていった。転移石も持たずに。こんなところまでチート。
ヨーデルの前足を持って振りながら私はお騒がせな勇者を見送った。ハルはくすくす苦笑している。
ウォンは元気に跳ね回っていた。ひっそりと隠れていたニィドは転移の光をきらきらした目で見つめていた。びびりだけど意外と好奇心は強いのだ。
小さい子達は割とそういう子が多い。モナは、ちょっと血の気が多かった気がする……ような、いやでもびびりな部分も……あったような……モナは例外だ。
優矢がパーティーメンバーのもとに帰宅し、日もすっかり暮れてしまった。無駄に焚き火を焚くほどの薪はないから、日が暮れたら寝る時間だ。
そうして皆寝たはずだが、私が夜中ふと目を覚ますとハルとニィドが見当たらなかった。また何かあったのかと思い、サーチを使って周辺を捜索すると、月の良く見える開けた崖の近くにふたりはいた。
小さな鳴き声とハルの囁き声が微かに聞こえてくる。
剣呑な感じはしない。かと言ってやけに親密な雰囲気というわけでもない。
静かで落ち着いた、月夜に照らされる真夜中の泉ようだ。
私は少しだけ頬を緩め、その場を静かに後にした。ハルならきっと大丈夫。




