十二日目 午後七時
「他には……そうね。組織のトップは男ってことぐらいかしら。ずっとフードを被ってたし、声も出すことなんてなかったから年齢はよくわからなかったけど……確かに骨格は男だったわ」
話を聞きながら優矢はすっとメモを取り出した。何処から出したそのメモ。鉛筆も瞬きした次の瞬間に握っていた。何処から出てきたその鉛筆。
「……そいつが魔王本人の可能性は?」
「確信は持てないけど、魔力の質が同じだったのよね。本人又は血縁者ってとこかしら」
ヨーデルとニィドがうとうとし始めた。少し離れた位置にいたニィドを起こさないようにそっと持ち上げ、ヨーデルの隣に寝かせた。すやすやと寝息が規則的で気持ちいい。
ウォンは私の肩に乗り、ふむふむきゅーきゅーと頷いている。理解しているというよりは、多分、優矢の真似をしている気がする。
すっと柔らかい菜っ葉をウォンの口元に差し出すともっもっと頷く仕草のまま食べ始めた。もっしゃもっしゃ。
……なんだろう、なにか忘れているような?
……。
「あ、そういえば変な奴とあったな」
「変な奴?」
「なにそれ?」
顔を突き合わせ情報交換しあっていた二人が私の方を見る。
「いや、なんというか、普通だったんだが、普通じゃなかった。……アルバイトで、解毒剤のレシピ? くれたな、そういや」
……多分良い人だった。多分。なんでアルバイトしているのかよく分からないが。とにかく普通で変なやつだった。
「ちょっと待って、まるで意味がわかんないんだけど?! 何そいつ!? アルバイトでやばい宗教団体入るヤツとか聞いたことないってマジで」
私も聞いたことがない。世の中変わった人がいるものだ。
「あるばいと?」
きょとんとした顔でハルが首をかしげて居る。肩でウォンがこてんと首をかしげ、ようとして転げ落ちた。
「アルバイトって……」
「アルバイトだよなあ」
和製英語だから伝わらないのだろうか。短期雇用、非正規雇用、本業の兼業、……ふむ。
ハルは暫し考え込んだもののやはり再び首を横に振った。
翻訳機能が仕事していない。てっきりあの少年も使っていたから伝わるとばかり……
……ってことは、え?
思わず優矢の方を見ると優矢も私の方を見ていた。
「……なあ、ライラック。もしかしてそいつ、同郷じゃね?」
「だな……そんな気がしてきた」
数少ない同郷が魔王軍でアルバイトしてる疑惑が発生した。
……にしても、アンフィスエバナか。魔物と人の混合物を作り出す魔王宗教団体でハルの過去で勇者の敵。
キメラの話を聞いた時、ショックも怒りも悲しみも感じたが、同時に元から分かっていた気がする。
使徒達に実際に会ったあの時に、きっと分かっていた。それにわざわざ目隠しをして気付かないように、自分が傷つかないように、思考停止していただけだ。




