十二日目 午後五時
「アンフィスエバナねえ……ええ、知ってるわよ。だってアタシも元 魔王軍だもの」
薪を囲んで街で買った干し肉をおやつがてらに炙りながら話しているとハルがふとそう言った。ぎょっと優矢がハルを見て、ついでに私も見た。すまんが私に聞かれても困る。
「……へ?」
間抜けな声を漏らす優矢にハルは炙り終わった干し肉を噛みちぎると口を開いた。
「アタシ奴隷だったの。アイツらにとって奴隷は足のつかなくて便利な実験体だったんでしょうね。……アメサスタにもいたでしょ、人とは思えないような『何か』が」
「……アンフィスエバナの使徒」
優矢は深く考えこんだ後にぽつりとそう漏らした。その答えにハルがぱちんと指を鳴らした。
「そう、それ。通称使徒……人と、魔物の『混合物』」
言い終えるとハルの姿が黒に染まった。桃色の髪は黒に染まり、肌も何処か仄暗い。耳は尖り、白目は黒へと反転し、瞳孔だけが唯一蛍の光のように発光していた。あの日見た異形の姿。
「アタシはその中で実験体六十五号と呼ばれていたわ」
「……その話、詳しく頼む」
すっかり二人とも手を止めてしまった串刺しの干し肉たちの様子を見ながら、私は無言でその会話に耳を傾けていた。人と、魔物のキメラ。
頭の中で攫われた魔物の末路を考えるとじっとりと嫌な汗をかいた。
「とは言ってもアタシが知ってる事はそう多くないわよ。ちゃんと言えるのはアタシ自身のことぐらいね。
……アタシと同化してるのは太古の魔物、妖精。あたしの場合は防御力に難のあるけど、あらゆる闇魔法を網羅した原始の魔物の一種らしいわ」
悲しげにハルが目を伏せた。
私はあの日、アメサスタで出会った紋章入りの『人』達を思い出していた。赤髪の女性は確実に鳥型の魔物混じりだろう。
あの少女は……黒い角と蜘蛛の巣のように張り巡らされた影を持っていた。なんの魔物なのかすら想像出来なかった。
「ああ、暗雲のピクシーか……。お伽噺によく出てくるアレだよな」
異世界にも御伽噺はあるらしい。それはそうか。
「不吉の象徴で悪戯好きの妖精らしいわ」
「不吉の象徴……?」
話を聞くだけのつもりが不穏な単語に思わず言葉が漏れた。
「ええ、もっとも有名なのは『黒いピクシーを見たら死が近くにいる』とかね」




