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八日目 午後六時

なんとか魔草の群生地の崖まで気絶せずにつくことが出来た。酔い耐性にレベルがあるならここ最近で急激にレベルアップしている筈だ。

ぐるんぐるんと視界の回転が収まるのを待ちながら私はそう思った。



相変わらず高い崖を下から眺めながら私は魔石を手に持つ。

持ち、呪文を唱える前に腹に圧迫感を感じた。


「え?」


「キュ?」


私の肩でぐったりとしていたウォンが顔を上げる。傍から見たならその顔は私とよく似ていたことだろう。


「このくらいの崖なら登れるわよ」


私とウォンを抱えながらハルは足を崖の土に、半ば突き立てるようにしながら登っていく。生きた心地がしなかった。異世界人怖い。


どんどん地面が離れていくのを呆然と見ていることしか出来なかった。ほんとなにこれ。


そんな私達の隣を籠を咥えたヴァイアスが一気に駆けていく。見たところ体調はそれほど悪くなさそうだ。

一瞬だけ見えた籠の中身は恐怖からかおしくら饅頭の団子状に固まっていた。ゆ、ゆっくり走ってやってください……。



崖上につくと相変わらず変わらぬ幻想的な草原がそこにはあった。

ヴァイアスが荒れた場所があった筈だが、今ではその痕跡を見つけるのが困難なほどだ。


ヴァイアスがゆっくりと口に咥えたていた籠を下ろす。

籠から飛び出してきた六匹の子供たちが駆け出す。一匹だけは籠の中に残っているようだった。


それを眺めながら私はハルとともに解毒剤の作成に取り掛かる。


ハルには魔石を粉にする作業を、私は魔草をすり潰しながら、同時並行で水を加熱する。

途中でウォンが魔石の粉末を舐めたりしていたが、それ以外は特に何事もなく下準備は終了した。

一応、万が一の可能性も考えて多めに用意しておいた。


聖水の温度が変わる前に取り掛かろう。



沸騰した聖水を1、常温ものも1、冷えたものも1の割合で用意した。

魔草と魔石を混ぜ合わせたものに、それらを加えていく。


前に焼き鳥もどきを作った鉄の棒でそれらをかき混ぜていく。右回りに十回。


左回りに適量回、無心で回す。余計な邪念があると完成するものも完成しないかもしれない。無心になれ、私。ぐるぐる。


数百回ほど回しただろうか。まだ色は赤くならない。そこが見えるほど透き通っている。透明のまま変わらない。


……え、なんで出来ないんだ。


見落とした、なんてことは無いはずた。

瞬きすら惜しんで色が変わらないか見ていたというのに。


「……変わらないわね」


ハルの目が少し疑惑を帯びる。視線の先には薬の書いてある紙だ。……嘘が書いてあるのでは、とそう言いたげな目をしている。


私は手を一旦止めると、紙をもう一度目を皿にして見た。一度見た文章だ。念には念をとその紙をひっくり返す。


特に何か気になることは……。


「……なんだ?」


小さな文字だ。そしてとても乱雑だ。

よくよくそれを眺め、解読する。


「あ、あい……あい、を、こめ」


一文字ずつ文字を追っていく。が、途中で思わず言葉が詰まった。


「……」


無言で、書きなぐられたその文字を見詰める。ハルが私の持つ紙を後ろから覗きこんだ。


「愛を込めて?」


それだ。


私は思わず顔を抑えた。何言ってるんだこの紙の持ち主は。解毒剤はメイドカフェのオムライスじゃないんだぞ。




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