八日目 午前九時
前話修正点
・「あらあら、あなたがたはおきゃくさま〜」→「あらあら、ゆうしゃさま。 おひさしぶりでございます」
勇者……? あんふぃすばえな……?
『勇者』の方は前に行った街で聞いたことがあるような気がするな。それがどうかした、って、え? 勇者?
一一誰が?
言葉を発した異形の少女の視線は優矢に向いている。ということは。
ーー優矢が?
当の優矢といえば、歯軋りし始めそうなほど苛立った表情をしている。こ、これは勇者の顔じゃない……。というか、そんな顔出来たんだな。引いている私を差し置き、世界は進んでいく。
「……この街の異変はお前等が仕組んだってわけだな」
「ずいぶん怖いかおをしてますね。ひつようだったからわたし、がんばったんですよ?」
「こうやって」
異形の少女が手を振りかざすと、私達が入ってきた扉から何十人もの生気のない人間が入ってきた。街の彼等と同じように手にはそれぞれ凶器を手に持っている。
先程まで光の一つもなかった少女の瞳が、紫に怪しくゆらゆらと輝いている。
ガルドは舌打ち一つ零すと大振りの剣を手に持ち、地を蹴った。鈍い色したその武器を異形の少女目掛けて思い切り振り下ろす。
だが、ガキンッと大きな音を響かせ、呆気なく弾き飛ばされた。
二振り三振りと何度もその刀身を振り上げるが、それが少女を傷つけることはなかった。
「そんな剣じゃきずひとつつきませんよ?」
「……魔力盾か……」
少女を守るように薄い壁が何重にも包んでいたからだ。
ヴァイアスも飛び掛り、薄い壁に牙を突き立てるがやはり傷一つ付くことは無い。
最早この街で変装する意味がないからと、元の姿に戻っているのにも関わらず、だ。因みに、モナも体当たりを仕掛けていたが跳ね返されていた。
優矢は部屋に乗り込んできた人々を、傷一つなく気絶させ終わると、異形の少女を見て言った。
「じゃあ、『これ』ならどうなんだ?」
そうして何も無いはずの空間から、一振りの白刀を取り出す。
気が付くと優矢は少女の前に立っていた。
少女の喉笛には白剣が突きつけられていた。
細身の、レイピアのような形をしたそれは、魔力盾を意図も簡単に貫いてみせたのだ。
私はその光景に対する驚きよりもその刀自体から目が離せなかった。
絢爛豪華な装飾が施されてはいないが、刀身自体が美しいその『刀』から。
そしてある風景が脳裏にフラッシュバックする。
ーー水に映る、白い竜が翼を広げている、その姿をーー
「懐かしい……」
ぽつりと気が付けば言葉が口から漏れていた。……今、何を。
「おいッ! テメェらは先に行け! 俺らは『コイツ』に用がある!」
目的を思い出せ! と、ガルドから鋭い言葉が飛ぶ。その次の瞬間、ガルドに異形の少女から立ち上る影が襲いかかった。それを剣で逸らす。……そうだ。
「……え、ええ」
この部屋に入ってからずっと無言だったハルが小さく呻くように呟き、私の手を引いた。
そして、私はその手が小刻みに震えているのに気付いた。
ウォンも気付いたらしく、心配そうにハルを見上げた。
私達が入ってきた扉は未だに虚ろな人々が犇めいており、出れそうにない。他の出口は少女の後ろにしか存在しなかった。
「道なら俺が作るから、走れ!」
少女と相対しながら優矢が叫ぶ。
刀を喉笛に突きつけられ、命を握られたままのはずの少女は、それでも顔色一つ変えることなく、影を私達の方へも伸ばしてくる。
無数に湧き上がるそれを優矢は振り払い、そうして作った一瞬の道を通って、私達は少女の後ろの扉へと駆け込んだ。
通り過ぎる時、一瞬だけ異形の少女と目が合った気がした。




