反対周りの時計
勇者視点の番外編になります。
一部ではありますが、本編との関わりもあります。
優矢は領主の住まう館へ向かう途中、ふと異世界に来たばかりの頃を思い出していた。
言葉が全く通じず、途方にくれていたあの頃だ。
寝て起きたら異世界にいた。
優矢の異世界トリップはまさにそうだった。
受験真っ盛り、大学に向けて自分なりに勉強に励んでいた。
そんなある日、優矢は親の強い勧めもあり合格祈願の御参りをしにいく途中だった。
久しぶりの家族旅行ということもあり、テンションの高い優矢の両親と妹の声を聞きながら車の中で微睡んでいた。勉強しようにも揺れる車の中で文字を見見続けていられるほど、酔いに強いわけではなかったからだ。
助手席にいる妹が楽しそうに運転席にいる母に話しかけていた。お土産や、地域限定の食べ物について、パンフレットを広げながら身振り手振りを使って表現している。それをぼんやりと眺めていた優矢は突然激しい衝撃に襲われ、家族の悲鳴を最後に、記憶は……途切れた。
目が覚めると首が鞭打ちしたかのようにじんじんと痛みを訴えていた。視界が際限なくずっと回っており、そんな視界の中、金髪の少女がちらほらと移り込んでいるのに気が付くまで優矢は暫くの時間を要した。そして、この場所が夢ではないと気が付くまでの時間は、生憎その時はなかった。
彼女が誰か分かる間もなく、優矢は突如押し入った憲兵らしき人々に連れていかれたからだ。回り続ける万華鏡のような視界の中にいた優矢には、周りの出来事などやはりまるでわからなかったが。
なんだか臨場感溢れる夢だなぁ、と本人ばかりが呑気に考えていた。
そして漸く眩暈が落ち着き始めた時、優矢はとある国王の前にいた。
「……え、ええ? は? いや、え?」
正に混乱の極地。ハテナマークの乱立。
その声に、いつの間にか後ろに控えていた鎧を着た男が、その手に持つ槍を威嚇するように鳴らした。
その時はわからなかったが、国王の前で許可なく口を開いたことが、忠誠心の高い男には許しがたかったらしい。
民主主義国家生まれの、忠誠心など漫画の中か歴史上でしか見たことないような平成人にはさっぱりわからなかった。
それに気付いた国王が手で制し、優矢に向かって仰々しく言葉を放った。
「……! …………!」
だが。
「……!」
わからなかった。
「…………!」
何を言ってるのか。
「………………!!」
さっぱり。何一つ、わからなかった。
ぽかんと国王を見上げる優矢と、返事を待つ国王。
固唾を呑んで見守る大臣やら諸々。
幾多の視線に耐えきれなくなった優矢が戸惑い勝ちに言葉を返す。
「え、えーっと、ここって、どこ……ですかね?」
今度は国王側が唖然とする番だった。
***
言葉が通じないなら仕方が無いとばかりに、説明無しで色々と連れ回された優矢は気が付けば『勇者』になっていた。
意味がわからなかった。受験はどうなったんだろう。ニートは勘弁して欲しい。
ニートに世知辛い世の中なんだ。
恐らく何故か台座に刺さったままだった剣を抜いた辺りで、何かが変わったんだろう、と優矢は思った。
彼は、自由に異空間から出し入れ出来る聖剣、正式名称は『聖竜剣』を持ちながら、城の一室書庫の日向で日向ぼっこをしていた。
割と鈍感でぼんやりした優矢にも、聖剣を抜いた辺りで流石に気が付いた。
ここが異世界で。
所謂、剣と魔法の世界だと言うことを。
そして、優矢は異世界召喚された『勇者』であることも。
何の気なしに、本当に冗談で呟いた「ステータスオープン」が本当に目の前にステータスを表示した時にそれは確信に変わった。
名称 神崎 優矢
年齢 18歳
種族 異世界人
種族レベル 999Level
所持スキル 勧善懲悪
スキルポイント 1000000P
「…………なんだこれ」
***
スキルポイントとやらで異世界言語術、というものを取得してからは意思の疎通が大分できるようになった。(周りからは随分驚かれたが)
だが、その頃には勇者という役職を辞退することはできなくなっていた。辞退するには既に周りに知られすぎていた。
その時は幸いなことに本人も勇者を降りる気はなかった。少しワクワクしていたことも理由にあったのだろう。
第四代目勇者は、良くも悪くも子供っぽいところがあった。
幸いなことに、ゲームなどで良くある「さあ勇者、直ぐ様旅に出ろ(意訳)」ではなく、きちんと剣の使い方や、魔法の使い方がそれなりになるまで、王宮勤めの兵士や魔法使いから指導があった。
少々、いやかなりスパルタではあったが。
時々勇者自体を快く思わない人からは嫌がらせらしきものも受けたが、気分の上がっている勇者はそんなものではへこたれなかった。
チートはメンタルも強い。
だが、座学だけは頂けなかった。
そう多くのものを学ぶ訳ではないが、受験漬けの毎日から開放された受験生の頭はストライキを起こしていた。
どう頑張っても何も中身が入らない。
そんなことより体を動かしたい。
そんな勇者も自分の持つ聖剣に関しては真面目に聞いていた。
憲法の内容は覚えられないが、昨日やったゲームの中身は覚えている、そんなタイプなのだ。
「聖剣は、初代勇者と共に戦った白聖竜が力の全てを注いで造ったと言われます。そして力を失った白聖竜は、勇者の元を離れたそうです」
聖衣を纏ったシスターが教本片手に講義をする。勇者に纏わることは大体教会の人が来るのだ。
「そして聖剣は白聖竜の別名、再生竜の名の通りの力を得ましたが、不安定な力なので再生竜自身が亡くなればその力は無くなります。そして同時に強大すぎる力故えに、扱えるものが限られてしまいました。
そして、その聖剣を使える者こそが勇者様、貴方様なのです」
教会は勇者信仰、を掲げているらしく、盲信的な目で見られるため、優矢にとって教会の人々は少し苦手であった。
勇者に相応しくない行動を少しでもとると、烈火の如く怒るからである。勇者だって人間だっての、と時々ボヤきたくなる。
シスターの言葉をメモしながら優矢は手を挙げた。シスターがどうぞとばかりに微笑んだ。
「ということは、白聖竜はまだ生きているのですか?」
バイトもそこそこしてきたので敬語は、まあ、完璧とはとてもじゃないが言えないけれどそれなり使える。自信はないが。
シスターはそんな勇者の疑問に少し困った顔をしながらこう答えた。
「ええ。どんな姿になっているか……はたまた長い時を経て如何程の記憶を失っているかなどは分かりかねますがね」




