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八日目 午前六時

予想外の台詞を受け、ぽかんと呆ける私に優矢は言葉を続けた。


魔物ヴァイアスの子を取り返しに来たんだろ? なら、大方の目星は既に付いてる。……それにそこ、元々俺らも行く予定の場所だしな」


「本当か!?」


ヴァイアスの子供がどこにいるか。その可能性だけでも知れることは有難い。

道行く人に聞くわけにも行かないからな。


「ライラック……どうする? アタシは攫った相手の規模もわからない今、戦力は多いに越したことはないと思うわ」


少し考え込みながらハルが言ったその言葉に私はそうだな、と頷いた。


この街に起こった異常事態を踏まえると、ヴァイアスに起こったことはただの単独犯による犯行とは思えなかった。


――アメサスタの旗の記された釦。


――襲いかかってくる人々。


――街自体に漂う淀んだ空気。



何故魔物の子を盗んだのか。

その意図すらも未だわからないが、必ず見つけ出して取り返す。それだけは変わらない。


「……ありがとな」


優矢がどこかほっとしたように息をついて、私に礼を言った。寧ろ礼を言うのは私の方だろう。

私が口を開く前に、壁に寄りかかって話を聞いていたガルドが、がしがしと髪を掻きながら言葉を放った。


「決まったならさっさと向かうぞ。……アメサスタの中心地、領主の館にな」




***



移動は昨日と同じく屋根から屋根へと飛ぶ、あの移動方法だった。

そんな走り方など出来るわけが無い私は、再び担がれての移動な訳だが、悲しいことにハルに横抱きにされての移動だった。


何か大切なモノに壊れた気がした。


絶対に森に帰ったら木から木に渡る訓練をしよう決意した。人間の限界を超えてみせる。


腕の中にいたウォンが、無理をするんじゃないとでも言いたげに私の手をぺしぺし叩いた。癒された。







二度目ということもあるのか、酔いは昨日ほど酷くはなかった。

少し目が回る程度で数秒じっと耐えると次第にそれも消えていった。



まだ陽は昇っていないこともあり、辺りは暗い。

街ならばちらほらと灯りがと持っていても良いのに、と思うのは現代人の名残か。


それと街自体に漂う異様な雰囲気は、領主の館に近付くにつれてより濃厚になっていた。

鳥肌が立つような、皮膚の下を無遠慮に撫でられているような、そんな気味の悪い空気だ。


ヴァイアスもそれを察しているのか、時々威嚇するような低い唸り声と、かちかち歯が噛み合う音を鳴らしていた。

その背に、埋もれるようにしてモナが乗っていた。振り落とされてはいないようで、ほっとした。



「……あそこに建ってるのが領主の館だ」


領主の館か五十メートル近く離れた地点、建物の影に隠れながらガルドが領主の館に向かって指を指した。


真っ白の外壁を持ち、高く聳え立つ正に城と言うに相応しい館。




だが、私の目は一瞬、白い筈の館が・・・に染まったように見えた。

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