七日目 午後五時
詠唱と共に発生した稲妻が、空気を切り裂いて追跡者を襲う。
……初級魔法では有り得ない程の破壊力をもって。
「ぐギャッ!」
高濃度の魔力が込められた電撃を受けた追跡者は、奇妙な呻き声を上げて地面に崩れ落ちた。
私も倒れたいが、そういう訳にはいかなさそうだ。
今倒した追跡者を含めて三、四人が追いかけてきていたらしい。
ヴァイアスやハルがそれを相手に戦っていた。
今の所、此方が押しているようだが、ヴァイアスは病み上がりどころか、まだ完治すらしてない。いつガタが来るかなんてわからない。
ヴァイアスが崩れれば、今度はハルがその人数を一人で相手取ることになる。
そう考えれば、今、私が倒れるわけにはいかなかった。
私は痛みに耐えながら、腹に刺さった刀を一気に抜く。
「ぃ、あがッ、ッツ!!」
尋常ではない量の冷や汗が額を伝う。前に白梟のフェリスに掛けてもらった魔法を使い、傷を塞ぐ。フェリスほど上手くはいかなかったが、塞がっただけでも上出来だろう。
どうやら血が流れすぎたのか頭がふらふらするが、無視出来る範囲だ。
傷が塞がったところで、ハル達の加勢をしようと動き出した瞬間、頭に疑問が沸いた。
今、倒した追跡者の服装が、まるで普通の武器屋の男性だったからだ。
店の名前らしきロゴが入っている。
追跡者、としてはおかしくないだろうか。
通行人に紛れ込むにしても、もっと他の目立ちにくい服装などがあっただろうに。
だが、それを悶々と考える時間など無く、一旦それを頭の隅に押しやって私は走り出した。
「ライラック! 傷は大丈夫なの?」
ハルは私が向かうと戦う手を止めぬまま、傷の具合を尋ねた。
「治療はした。大丈夫だと思う」
まだ皮膚が引き攣る感じが残っているが、傷が開いている様子はない。
「それは良かったわ。……にしてもキリが無いわね」
ハルはそう言って、追跡者の頭に踵落としを決めた。
確かにハルが言うように、三、四人しかいなかった筈が、十人超えそうなほど増えていた。
そして、その誰もが武器を持って襲いかかってくる以外は至って普通の人々なのだ。
エプロンを着た母親らしき女性、鉢巻を巻いた男性、老眼鏡を掛けた薬草の匂いがする薬屋らしき老婆などだ。
「何処かで撒かないと、こっちの体力が尽きるわ……!」
私達はもう一度追っ手を撒く決心を決め、互いにアイコンタクトを取った後に走り出す。
ヴァイアスも、その背にしがみついているウォンとモナも一緒にだ。
今度は走りながら、後ろの追っ手を魔法で攻撃しつつだ。
とはいえ、私が走りながら詠唱するのは楽ではない。
ハルは攻撃向きの魔法が得意ではないらしく、時々背後に何かを投げつけていた。なんだろうか……生卵?
そんなことをしながら、曲がり角を曲がると私達は強制的に足を止めざるえなくなかった。
ーー行き止まり!?
撒くつもりが袋小路に追い込まれていたようだ。
塀は高いが、魔法を使えば登れないほどではない。
もしかしたら、パルクールなどをしたことあるひとなら掛け上がれるかも知れない程度の高さだ。
だが、私達にそんな時間があるわけなく。
絶対絶命に陥っていた。
……この街は本当におかしい。
まだ私達は何もしてないのに何故追いかけられて、挙句の果てに殺されそうになってるんだろう。
追っ手は魔法こそ使わないものの、身体能力が高く、逃走しながら放った魔法は殆ど避けられていた。
それに全く喋らずに機械的に私達を追いかけてくるものだから、余計恐ろしい。
「……グ、ガ……ガァッ!」
ヴァイアスが突然血を吐いた。
殴られたわけでも、切られたわけでもない。
もう限界だったのだ。
ヴァイアスに切りかかろうとする老婆に魔法を放ち、退ける。
ついにヴァイアスが離脱してしまったが、敵はさらに増えていた。
「……まずいな」
「本当にね」
私は最初の追っ手から奪った刀を持ち、ハルは今すぐ攻撃できる構えをとりながらぼやく。
「確かに、随分追い詰められてるな……ルビストン……と、餓鬼」
何処かで聞いたことのある声がして、上か人が降ってくる。二度目だから初めほどの驚きはない。
……餓鬼、は私の事か。凹む。
「……まさかこんなとこで再会するとは思わなかったわ……ガルド、だったわよね」
襲いかかってきた追っ手を投げ飛ばしながら、ハルが言った。
この中では一番余裕のあるハルもそれなりに疲れが溜まってきているようで、首筋に一筋の汗が流れた。
彼の後に塀から降りてきたのは、つい先程喧嘩したばかりの……優矢だった。
……正直、心の準備をしてない。
一瞬、追い詰められているのも忘れるほど、頭が真っ白になった。
……人間関係の記憶が抜け落ちている私にとって、これが初喧嘩なのだ。
言い訳にもならないが、本当に耐性がないのだ……。
祝! 五十話記念!
読者の皆様、本当にありがとうございます!!
『魔物の守護者』はかなり長くなりそうですが……凍結するつもりはないので、どうか宜しくお願いします!




