七日目 正午
砂っぽくて暑い……最早熱いと言ってもいい。
転移した先は森とはまるで気候が違った。
頭上から燦々と降り注ぐ太陽の光が無防備な目を焼く。
切実に、サングラスが欲しい……。
肩の上に乗っていたウォンが、いつの間にか日陰になる反対方向の肩に移動していた。
手で顔に影を作ると、何とか視界が確保できるようになる。
どこまでも広がる砂漠。
ところどころで砂埃が巻き上がっている。口の中がジャリジャリするのは、きっとアレのせいだ。
私は魔法袋から携帯電話を取り出した。
そしてメール画面を開き、過去に優矢に送られてきた画像を表示した。
「……完全一致だな……」
そういえば、『アメサスタなう』みたいなメールが優矢から届いていたのだ。
色々あったからか、すっかり忘れていた。
「それは何なの? 随分変わった箱ね」
背後からハルの不思議そうな声が聞こえてきた。
携帯電話、って言っても伝わらないしな。
「……同郷の人からの貰い物?」
……としか、言い様がない。
「変わった物は世の中沢山あるのね」
ハルはしげしげと携帯電話を見詰めると、感心するように頷いた。
確かに携帯電話はハルにとって物珍しいだろう。かくいう私も、最初異世界でこれを見た時は驚いた。
……っと、そうじゃない。
「アメサスタはどこなんだ? 見当たらないようだが……」
見渡す限り砂漠しか見当たらない。これの何処に街があるのだろう。
「えーっとね、見えないだけで直ぐ近くにあるのよ」
何もない虚空を指差すと、ハルが砂漠を歩き出す。……まあ、ハルがそう言うならば信じるべきだろう。それに此処は異世界だ。
どんな事があってもおかしくない。
砂が暑いのか、モナが足をぱたぱたしている。
私はモナを持ち上げて、ウォンとは反対の肩に乗せた。
今は猫に変わっているヴァイアスも乗せようとしたのだが、見た目が変わっても重さは変わらないらしく、全く持ち上がらなかった。私の筋力が足りなかったのだ。
……もっと鍛えるべきか。
ヴァイアスが呆れたように私を見た気がする。
……呆れられてもいい。少しでも、ほんの少しでもヴァイアスの気分が和らげばいいと思った。
子供を連れ去られて、冷静で居られるはずもないのはわかるつもりだが、暴れても今は解決しない。ならば、少しでも。
私は随分小さくなったヴァイアスの頭をわしわしした。
一層不機嫌そうな顔で睨まれた。最早、猫の顔じゃないな。
……大丈夫。子供は必ず助ける。
世の中絶対などなくても、助けてみせる。
そんなことを考えながら、私達はハルの後ろをついていった。
「あったわ!」
ハルはそう言うと、砂漠に小さく立っていた石の前にしゃがみこんだ。
白っぽい石だからか、遠目からではまるでわからなかった。
……何をするのだろう。
ハルはギルドカードを取り出すと、その白石に翳した。
白石を中心に青い紋様が広がっていく。
淡く光っているので、恐らく魔法関連のものなのだろう。
「キュ?」
ウォンの声に、私は白石から目を離し顔を上に上げると、先程までは存在しなかった巨大な『街』が姿を現していた。
「アメサスタ……?」
砂漠の中に突如出現した街に、私は我が目を疑った。
「魔物除けの為にこういう風になってるのよ。……にしても、まさか人と魔物が仲良く一緒に入るとは、コレを作った人も思ってなかったでしょうけどね!」
こういう時、ハルはものすごく嬉しそうな顔をする。悪戯好きと言うべきか、子供っぽいと言うべきなのか……。まあ、悪質な悪戯はしてないし、可愛いから問題ないな。
そう頷きながら、私達はヴァイアスの子を取り戻す為、アメサスタに足を踏み入れた。




