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魔物の守護者 〜もふもふハーレムの同士達~  作者: 流土
始まりの洞窟 プロローグ
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二話

何故、直ぐそう思ったかと言えば、単に最近テレビで『ウォンバット』を見たからだ。そっくりである。

たった一つ、違うところは、このウォンバットの顔に昨日口にした、あの青い琥珀のような小石が埋まってる事ぐらいだ。


……この小石は一体何なのだろう。謎だ。


推定ウォンバットは気がつけば私の腕の中で眠っていた。

くぴーくぴー、と寝息が聞こえる。随分気持ちよさそうに寝ているものだ。気の抜けた寝息につられて、私は病み上がりということもあり、眠たくなり始めていた。


その時に私がに考えていたのは「どうして此処に来たのか」でも、「此れからどうすればいいのか」でもなく……名前、何にしよう……という、ウォンバットの名前であった。



すとん、意識がブラックアウトする。



***



次の日、洞窟の中に刺す光で目を覚ました。


……眩しい。


数日ぶりの光はあまりにも眩しすぎて直視できなかった。網膜が焼ける。



……体調が回復して、記憶を整理する中でわかったことが二つある。


一つ目は、此処は恐らく地球ではないという事だ。


昨晩、夜中に目が覚めた私が洞窟の入り口から見たものは、二つの月と深い木々だった。それと、熱に魘された時にいたあの梟。あの梟の額にも、ウォンバットと同じ様な石があった気がする。此方は熱に浮かされていた為に、曖昧だが。


そして二つ目は、私は此処に来る日までの記憶がなくなっているということ。もっと正確に言うならば、私と関わりのあった人間や私自身に関する記憶が殆ど存在しないのだ。それ以外は大体覚えているのだが、それらだけがない。大切なものだけが私の中から消え失せている。


理由は何と無く察している。


数日前のあの体調不良だ。大切な何かが欠けていくのを私は『死』という形で感じていた。



そう、あの日。


私を構成する大半が、確かに死んだのだ。今の私は、中身が破かれたノートの様なものなのだろう。悲しいというより、胸にぽっかりと空いたような空虚な穴を感じた。


……にしても、どうして人に関する記憶ばかりが抜け落ちているのだろう。

それだけは、どう考えてもわからなかった。





光を遮るために、片手で顔を覆いながら立ち上がる。どうやらウォンバットは私の腹の上で寝ていたらしく、私が立ち上がった拍子にころころと転がり落ちていった。


転がっていったウォンバットは、ぐでーと地面に横になったまま惰眠を貪っていた。私はウォンバットの前にしゃがみ込むと、出来心でその頰を指で軽くつついた。ふにふにと凹む頰。


「ググ……グキュ……」


少し苦しそうな声。私はつつくのを止め、ウォンバットの腹をわさわさと撫でた。


「ギュ……キュ! キュー!」


分かり易すぎるだろう……!

甘えるように頭を腕に擦り付けるウォンバットを更に撫で攻撃を繰り返した。すると瞬く間にに脱力していく。ウォンバットの口が何処となく緩んでいる。


「っぷ、く、ははは……! 」


遂に耐えきれなくなって笑いが零れた。突然笑い出した私にウォンバットが「?」マークを浮かべている。



「……何かもう、何でも良くなった……! 」


私はウォンバットを抱き抱えると、硬い地面に寝っ転がった。土の匂いが体を包む。





異世界に来てしまったものは仕方ない。無くなってしまったなら、……それも仕方がない。


だけど、私は一人ではないのだ。



一人と一匹、右も左もわからない新天地で、私は一歩を踏み出す決意をした。



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