料理
帰ってこないあの人の帰りを待ちながら、私はことことシチューを煮込む。
ことことことこと。
ことことことこと。
いつのまにか肉も野菜も溶けてしまい、残ったものはどろどろの、得体の知れない濁った液体。
まるで私の中に残された、愛という名の感情みたい。
「……うそつき。」
いつの間にか呟いていた言葉が耳に届く。
――煮込めば煮込むほど美味しくなるから。
そういったのはあなたなのに。
「うそつき。」
どろどろの液体は、私の心を重苦しく沈めていく。
「もう食べられないね。」
私はあなたに、心の中で囁きかける。
せっかく煮込んだのに、こんな姿になってしまったら、きっともう食べられないよ。
それでも湯気を上げながら、シチューはますます煮詰められていく。
ことことことこと。
ことことことこと。
いつしかお鍋の底も溶けてしまいそう。
ことことことこと。
ことことことこと。
もう煮込むのをやめてしまえばいい。
そんなことは分かっているのに。
私はいつまでたっても動き出せず、お鍋の中を見つめ続けるだけ。
料理の材料についてはご想像にお任せします。