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第二話~魔王とスライムと勇者~


『自分で決めたこととは言え、俺、どうしてこんなのと旅しなきゃなんねぇんだろう。』


そう思いながら、勇者は青々と茂る草を踏みならす。

かさかさ、と音がなっては、若干歩きにくそうだ


勇者はふと、隣の蜥蜴頭を睨み上げる。

蜥蜴頭の表情は読めず、いかにも我関せず、

と言った顔だ。


それを見て、勇者はまた一つため息を付いた。


『…そもそも、舗装された道ではなく、こんなでこぼこ道なんて歩かなきゃいけないのはおまえのせいだぞ?』


そんな恨めしげな勇者の目線を、魔王は毛ほども気にせずにもくもくと歩いていた。




ここはどこかというと、インプレビット=テラと王都ジャハルを結ぶ農作物を届けるのにも使われる、安全を約束された新プレビット街道………

………ではなく、しばしば魔物が出ると言う危険で遠回りな旧街道である。


近道になると言うならいざ知らず、遠回りな上、魔物が出るとあらば旧街道を通る者は久しくなく、整備すら全くされていない程で、今となっては旧プレビット街道は通称“お化け道”とさえ呼ばれているような道だった。


どうしてこんな道を通らなければいけないか、と言えば、魔王は背が非常に高いので、どんなにフードを被っていても、小さい人には下から顔が見えてしまう。


しかし、街を歩いているときに勇者は気がついた。

なんと、アジエス人は皆、背が低い。


成人と認められる16歳一歩手前で、背の高さは平均的であると言われている勇者ですら164cmしかないのに、魔王は彼よりも頭一個以上飛び抜けているのだ。


つまり、魔王よりデカい奴なんて、アジエスの国には殆ど居ないのだ。

…つまり、どんなに上から間深くフードを被ろうと、この国の国民には魔王の蜥蜴面が丸見え状態。


魔王が現れた、とされるこのご時世、蜥蜴頭なんかつれて歩こうものならあっと言う間に魔王の手先にされてしまうだろう、と勇者が配慮した結果だった。

…いや、似たようなものと言うか、正にその魔王そのものなのだが。


そんなこんなで、危険な旧街道を通り、大農場“インプレビット=テラ”を目指しているのだ。

…次の街では、もう少し顔を隠す物が必要だな、と勇者はため息をついた。


「しかし、なんでまたインプレビット=テラなんだ?…あそこ、畑しかないぞ?」

「矮小なるお前達人間の事など知らぬわ。

あの土地がどういったものかも理解せぬまま暮らすとは…これだから人間は浅ましい。

そこいらで跳ねているダニの方がまだマシと言うものよ…?」


そんな事を話していると、がさり、と不自然な草の音が聞こえる。

魔王はそちらを見てその裂けた口を吊り上げた。


「ほう、これはこれは...」

「!」


そっちを見れば、それはなんのことはないスライムだった。

一応、魔物の中では低級にあたるがしかし、魔物には代わりはない上、体液で鉄を溶かしてくることもある。


油断をすればあっという間に武器や防具を溶かされてしまうだろう。


「言わんこっちゃない!さがれ、俺がやる!」


そう、意気揚々に勇者が叫ぶと、ふん、と魔王が鼻を鳴らした。


「何をしておる、勇者!剣を引けィ!

それは魔物の間のアイドル、スライムであるぞ!」

「あ、あいどる...?」


ポカンとする勇者を余所に、そう言って魔王はフードを取りスライムに腕を広げて笑った。


「スライムよ、我は魔物の絶対の王、魔王である!

我が強大なる闇の力に膝まづけ!!

そして我に絶対の忠誠を...」


べちゃ、


効果音をつけるならまさにそれである。


魔王が偉そうにふんぞり返り、尊大な物言いをしているのを余所に、スライムはまるでおまえのことなどいらん、という風情で襲いかかった。


「...。」


今までさんざ偉そうにしていた癖に、とでも言いたげな勇者の冷たい目線がささるが、魔王はそれどころではない。


「あ、こら、話を聞かんか、スライム!ほれ、こないだ主らの首長と契約を交わしたまお、いや、こらこら!だからやめんかっ!!

これ!!私の鱗を溶かそうとするんじゃないっ!」


尊大な態度はどこへやら。

よもや襲われるとは思いもしなかったのだろう、分かりにくいが若干素だ。


勇者は大きなため息を付く。


『スライムに襲われる魔王って...

...そう言えば、魔王って言う割りには能力低いよな、コイツ...。』


勇者はお得意の“真実の瞳”で魔王の能力を見抜いていたが、あまりに低い能力に驚いたのは先の出来事。


『てっきり俺に悟られまいと力を制御しているのかと思ったが...それとも違うのか?』


そう思いながら勇者はその成り行きを見守る。


一方魔王はスライムを大慌てで振り払ったところだった。


「こ、こら!全く!力は弱まれど、オマエ達を従えた魔王であることには変わりないと言うに!!スライムちゃんは厳しいの!!


ほれ、堪忍して私にしたが...こらーっ!!言うておる側から襲ってくるんじゃないっ!!」


また襲われそうになっている魔王に、勇者は呆れて剣を抜き炎を纏わせる。

そうしてから、魔王とスライムの距離が開いたのを見計らって颯爽と走りだし、魔王を背にしてスライムを切り払う。


「ぴぎゃっ」

「ああぁあ!!?何をするっ勇者ーーっ!!?」

魔法攻撃を苦手とするスライムにはこれはひとたまりもなかったようで、あっと言う間に切られたところから溶けてしまった。


スライムちゃんがっといいながら魔王はスライムに駆け寄るも遅く、すっかり溶けてなくなってしまった。


「勇者、オマエ何をするっ!!かわいいスライムちゃんをこの様にするとは非道なやつめ!!」

「...かわいいか?それ...。」


魔王には、あれはそこそこ可愛く映るらしい、その事に勇者は信じられない思いだった。


何故ならどこぞのクエストのように可愛らしくデフォルメされているならいざ知らず、このスライムは濃い緑の半透明で不定形。辛うじて厚みのある水滴のような形があるかないかだ。


その上べちゃべちゃとした粘性の高い半分水分の様なさわり心地で、それが通った後には蝸牛が這った後のような湿り気が残ると言うおまけ付き。

王都の人間の間では、その鉄を溶かす特性も相まって、一番触りたくない魔物、とされているからだ。


勇者にはその感覚はにわかに信じがたい。


「ふん、スライムちゃんのかわいさが分からぬとは所詮人間。その眼球は只のガラス玉よりも価値がない!」


そういきり立つように言う魔王だが、今のこの状況では、勇者でなくともこの魔王を恐ろしい、と言う者はいないだろう。


勇者はため息をつきながら、魔王を横目で見つつ、歩きだす。


「うるせえな。オマエに一から十まで付き合ってたらいつまで経ってもつきゃしない。大体、こんな道を何時間もかけて歩かなきゃいけないのはオマエのせいなんだからな?全く...。」


物のついでに小言を付け加えつつ、勇者は歩きだす。

魔王は「あっ!!こら、オマエと言う奴は!!いいか、スライムとは...!!」とスライムに関するうんちくを延々と話し出す。


勇者は、この先の冒険は大丈夫なのか、と若干の不安を覚えつつ、草を踏みしめた。


空をあおげば大分日が傾いてきている。

勇者は、今日は野宿だな、とまたため息をついた。


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