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第一話~最初の仲間がラスボスだと!?~

アジエス国。

元々は四季の彩の美しい、豊かな土地。

その広く、肥大な土地を利用した、農耕の国だ。


しかしてその豊かさは、それを狙う国々により戦火を招いた。


農耕民族で、真面目さが取り柄のアジエス国は、国が一丸となってその豊かな食料や資源を盾に戦った。


今、この国はようやくの終戦を迎え、民は疲弊しながらも希望を持って生きていた。

しかし、一度ついてしまった争いの火は未だ消えず、終戦を迎えたとは言えいつ戦争が再び始まるかわからない。


そんな状況下ではあるものの、それでも今、この国は平和だ。




民等のささやかな幸せを脅かすなんて、と、勇者は空を見上げた。

暗雲は空を覆い、重い空気を放っている。

まるで光を通さないそれに、勇者は目を細めた。




「…まぁ、俺としては、良かったのかも知れない。」


そう、ぽつりと呟いて、彼は酒場へと足を向けた。

もちろん、魔王退治を命じられている以上、酒を呑みに行くわけではない。

酒場は色々な人が集まる場所。それこそ、傭兵や旅の魔法使いが居ることだってある。

そう言った人達は酒場で仲間を集ったり、仕事で人を雇ったりするのだ。


今、勇者に必要なのは、共に苦難を共にし、魔王と最後まで戦い抜いてくれる人材を集めることだった。


良い人が居ると良いけれど、と勇者は小さく漏らし、勇者はため息をついて扉を開く。


勇者には“真実の目”と言う力が生まれつき備わっている。

これは目を凝らせば相手の今の状態や強さなんかがわかるというもので、魔力を使えば弱点や経歴等から、相手が現在嘘を吐いているかまでわかるという優れものだ。

この力を使えば強い人は勿論、魔王退治への意志を確認することができるので、見分けることは簡単だ。


しかし、いくら見分けがついていても、そもそも仲間として適している人がここにいるとは限らない。

何故ならここは人は集まりやすいが、酒を扱う分、柄の悪い連中も集まってくる。

素行の悪い奴を仲間に入れては評判が落ちかねない。


評判なんて、と言う人間も居るだろうが、それは勇者にとっては命取りになりかねない。

何故なら、今、現在として戦争をしている国があるからだ。


そんな自国に余裕がない状態なのに、別の国の人間に容易に国土を踏ませるか、と言えば答えは決まっているだろう。少しでもきな臭い人間であれば、国にすら入れてもらえない可能性もある。



そう、こうして酒場にきたのも、王宮の兵や魔術師達を借り、そんな風に兵を動かしたとあらば他の国に侵攻の為の行為だと取られる可能性を否定できなかったのだ。

そうなれば、このアジエスも、あっと言う間に戦火に再び包まれてしまうだろう。



手を貸せない代わりにせめてもと、王からは資金の援助を多少はして貰ってはいるものの、余り大々的にサポートされると、仲の良くなかった国を助ける際に入国を断られる可能性を上げることになる為、その金額もたかが知れていた。


勇者と呼ばれ、世界を回るには、出身の国の力を大々的に借りるわけにはいかない。

そう、勇者は王に魔王討伐を命じられはしたものの、それは正式的なものではなく、…あくまで、勇者は個人で世界を救う為に旅立つ必要があったのだ。



そんなこともあり、仲間となる人はどうしても制約が多くなってしまうのだった。


厳しい条件を飲んでくれ、かつ、魔王との戦いに賛同してくれる人間が居なかった場合、最悪、一人で旅立たねばならないだろう。


どうか、と小さく呟いて彼は分厚い木で出来た扉を意を決して開く。

それは、重そうに見えたが予想よりも、軽い力で動く。


一気にぎぃ、と音を立てて開いたドアの向こうには、予想外の光景が広がっていた。


「な…。」


なんだこれは、と言いたかったのだろう彼は、そこで言葉を切った。

いや、切らざるを得ないような光景が、彼の前に広がっていたのだ。


扉を開けばそこは、人々が集まり賑わう酒場のはずだったのに、何故かそこには、気を失い山積みになっている戦士や、魔法使い等の本来この酒場で賑わいを見せているはずだった人々と、余裕そうにテーブルの上に腕を組んで立つ、見るからに場にそぐわないトカゲ頭に角を生やした、小型のドラゴンだった。


そのドラゴンは勇者を見つけるなり、その鋭いエメラルドの瞳を持つ目を細めるのが見えた。


「やっときおったか、待ちくたびれたわ。


私は魔王。勇者よ、早速だが私に手を貸せ。

…そんな顔をするな、貸すだけでよい。この時勢だ。互い、仕方が無かろうよ。それに、協力せし暁にはオマエにも損はさせぬ。

共に破壊神を討った後、この崇高な私と公平に一対一で戦う許可をやろう。

そして、勝った方が世界を好きにする。あまり本意ではないが、それを条件の一つとしようじゃないか。」


ぼんやりと揺れるランプに照らされて、その黒い鱗が所々青く光る。

蜥蜴頭の鰐の様な口で、ドラゴンは自らを魔王と呼んだ。


ニヤリと余裕そうにしているそれに、勇者は、ぽかん、と口を間抜けに開くより無かった。


何で仲間を捜しに酒場に来たら、魔王が居るんだ?

そう、彼は思わずには居られなかったが宿敵の存在にいつまでもそうしては居られない。

はっ、と気を引き締めて、彼はとう。


「まっ魔王!?なぜ此処に!?」


そう、勢いはあるが若干声を裏返がえった声で勇者が聞くと、魔王は呆れたようにため息をついたのだった。

その情けない声に呆れたのだとは思うがしかし、勇者にしてみれば流石に魔王退治に出て数時間で魔王に遭遇する、なんて誰が想像できようか。


勇者の反応は至極当たり前のことだった。

しかし、その元凶はと言えば、やれやれ、と言わんばかりに明らかに相手を見下した態度で顔をしかめた。


そのおおよそ人間の言葉など喋るように見えない、その鱗が生え揃った顔は、以外にも器用に動いている。


「…何故、とは。オマエ、この怪しき様が目に入らんのか?


まさか、これが私の仕業とでも思ったのか?愚か者め。

…これは破壊神によるもので口惜しいが私の仕業ではない。


大体、私ならまず、攻めやすい所から奇襲して、そこから勢力を伸ばすように堅実的にやるわ。この様に無計画に攻めては支配できるところも支配できぬ。」


勇者はその言われた言葉に目を白黒させた。

それも当然で、彼は今、目の前の存在に、考えることを根底からひっくり返されたのだから。

勇者は眉根を寄せ、若干その横暴で見下した物言いに苛つきながらも状況を理解しようと口を開く。


「破壊神は創造神と対を成す存在。我ら人間に味方するのが創造神であれば、破壊神は魔物側の存在だろう?何故、それが魔物の王の邪魔をする?」


それは、人間に組みするものとして当然の疑問だった。

長らく、人間の間で信じられたその事柄は、魔王の言葉を信じる事に違和感を持たせる。


…勇者とて、ただ剣を振るって育っただけではない。

勇者として正しい正義や、困難に立ち向かうための知恵を教え込まれて育てられたのだから、決して彼が物知らずな訳ではない。


だが、それでもなお、魔王はさも勇者が物知らずであるように馬鹿にした言葉を吐いた。


「なるほど、オマエは私が思っておる以上にボンクラだな。状況を一切理解していないと見える。

…まったく、これだから浅ましい知恵しか持たぬ人間は…特別に育てたと言っても、やはり、崇高なる種である我らドラゴンには遠く及ばぬ、地を這い蹲るばかりしか脳のないゴミクズだな。


一から状況を説明せねばならんとは、やはり状況も正しく理解できぬ人間等というカスの一人と手を組むなぞ、仕方のないこととは言え不名誉の極み…。


しかし、状況も状況だ。仕方ない、この私が説明してやるから良く聞け。一度で覚えられねば捨て置くぞ。」


その物言いには勇者は怒りを覚える…が、元々ドラゴンとは自らが生きとし生ける物の頂点に君臨し、他の種…特に人間を見下している。

本来ならば人間をまるで害虫であるかのように思っている彼らは人間に好んで接してくる者などいない。

まして、こうして自ら人里に降り、人間と言葉を交わすことすら奇跡に近い。


何故なら人間だって、誰も好き好んで見るからにムカデやクモが密集する場所になんて行きたくは無いだろう。

中にはもしかしたら見たこともない美しい蝶がいるかも知れないが、その中につっこんでは此方に害を及ぼすかも知れない。


そんな場所に来て、ましてやその害虫に語りかけるなどとよっぽどの物好きか、追い詰められて仕方がないかのどちらかであろう。


その事に勇者は気づいていたが、しかし、その物言いに黙っていられるほど、勇者は大人しい性格ではなかった。


「…物凄い勢いで貶されたのは分かったが、状況がさっぱり見えてこないぞ。


…オマエにとって、本来人間が話しかけるのを戸惑う様な存在であるのはわかるが、それでも人間の一人である俺の協力が欲しいのであればさっさと説明しろ。

…ただし、協力するかは内容次第だがな。」


勇者は魔王を睨みつけた。

牽制の意味も含めたそれは、しかし、魔王の裂けたような唇の端がつり上がる余裕によって意味を無くす。


「…偉そうに。何の経験も積んでいない今のオマエなど私の足下にも及ばぬ。私のブレスにてこの酒場ごと一息で灰に変えてくれる。


よく聞け。我ら魔物の神は破壊神ではない。オマエ達と同じ創造神だ。」

「は…?」


それは、思っても見ない言葉だった。

教わったことと全く違うその言葉に勇者は顔をしかめる。


「そもそも破壊神とはその名の通り、破壊、死、および無を司る男神。創造神が創造、生、および有を司る女神である事を考えると、道理であるが…。此処までは分かるな?」

「あぁ、それは分かっている。…魔物は破壊神を崇め、世界を破滅へ導くんじゃないのか?」

「そこが間違っている。…長くなりそうだ。やれ、そこの椅子にでも座れ。この酒場の者は皆伸したからな。…どうせ誰も聞いとらん。」


そう言って魔王は今まで座っていたテーブルから腰を上げ、近くの無事な椅子に座った。

酒場の椅子やテーブルは、本人曰く、“伸した”時にでも一緒くたに壊したのだろう木の残骸が散乱していたが、それでも無事なテーブル達もちらほらと見かけた。


魔王は人間と比べれば大きいが、それでも人型をしており、大きく作られている酒場の椅子にもキチンと座れるようだった。


勇者は宿敵の言うことを聞くなどと、本来ならあまり誉められたことでは無いのだが、聞いたことのない話に興味をそそられ、言われるがままに向かいの席に着く。


「そも、魔物とて命有るものだ。創造神は人にも魔物にも、我らドラゴンにすら平等にお命を授けて下さる。今生きていることに喜びがあるなら、人間が創造神に感謝を捧げるように、魔物もお命を与えて下さった創造神に感謝をするのだよ。

その対となり、世界の文明を滅ぼすと言われる破壊神を畏れ、敬うことは事はすれ、積極的に崇め、破壊神に恵みを斯う者などいない。


…人間は愚かで矮小な生き物だ。今まで一方的に害を成すものとして見下してきた者の事など知りもしなかっただろう?


そう、その破壊神が今の世界にある文明を滅ぼそうとしている。

私はそれをなんとしても阻止したいのだ。」


ふむ、と勇者は顎に手をやり目を細め、じ、と集中する。

魔王は一瞬怪訝な顔をするものの、あまり気にしないことにしたのか、それともそれを悟られたくなかったのかすぐに偉そうな顔に戻る。


「…何故、阻止したいのか聞いても?」


それは、静かな水を思わせる様な声。

その質問に今度は馬鹿にしたような声色がクラウンをいくつも作るように答えが返る。


「オマエの頭には何も詰まってはいないのか?いくら何でも馬鹿すぎるだろう。


…私の目的は世界征服だ!私が征服する筈の世界を破壊されてしまっては非常に困るのだ!!


だから、世界征服をするため、この世界を破壊神から守らなくてはならぬ。

…だが、破壊神は普通の手口では決して倒せぬ。

何故なら、創造神と破壊神は双子の姉弟。同等の力を持つというその片割れに創られた我らは本来神を倒すようには創られてはおらぬ。


しかし、彼らも想定しなかったイレギュラーが起きたならば?

不規則で、不完全であるが故に思いも寄らぬ成長を遂げる人間が、奇跡を起こしたとしたならば?


…随分と絶望的な状況ではあるが、それでも、可能性を求めるならば我ら、魔王と勇者が手を組んだ、等というイレギュラーを起こすのがもっともふさわしいと私は考えた。


…どうだ。」


魔王は手を差し伸べた。

その手は鱗に覆われたは虫類のそれだったが、それでも指の数は人間と同じだった。


「勇者よ、破壊神を倒した後、一騎打ちをするという条件の元、私と一時的に手を組め。

…此方とてオマエのような屑と手を組むなど不本意ではあるが、そんな事は言ってられぬ。


我らが手を組み、戦わねば世界の文明は滅ぶ。…それは互いに良いことではないはずだ。


さぁ、手を取れ、勇者よ。」


勇者はため息を吐いた。

まるで仕方ない、とでも言うように。


勇者は一瞬自分の手を見つめて、それから、そのは虫類の手を取った。


「…嘘は吐いていないんだな。わかった。仕方ない、協力しよう。


背に腹は代えられないのはお互い様、と言うのは事実のようだ。」


一度振って、すぐに手を離した勇者は、すぐに魔王を睨みつける。


「そうと決まればさっさと行くぞ。取り敢えず、ここを出よう。

…ついでに、オマエ、何か羽織るものはないのか?まさかその姿で城下町を闊歩するつもりじゃないだろうな?」


魔王はふん、と鼻を鳴らして腕を組む。

余裕のある、偉そうな態度は始めから変わらない。


「私はオマエ達のような阿呆出はないからな。フードの付いたローブくらい持っておるわ。ホレ。」


そう言ってさっと暗い灰色のそれを着込むと、魔王は意気揚々と酒場のドアに手をかける。


「ゆくぞ、と言う割にはオマエには宛がないのだろう?ならば私についてこい。

まずはインプレビット-テラとオマエ達が呼んでいる土地に行く。何故かの説明は追々でかまわんだろう?」

「…わかった。信じよう。」


魔王はその扉を勢いよく開けるとさっさと歩き出した。

まるで相手の事を考えないかのようなその行動に勇者は顔をしかめつつ、しかたない、と呟いてその大きな背を追いかける。


…密かに、この酒場の事は面倒なので知らない振りをしようと心で決めながら。




ーーーーーーまぁ、嘘は言ってないんだ。信じるしかないだろう。

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