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初任務 【弐】

――ディーベルク前線基地施設内――



「…うまく陽動してくれたみたいだな」


 アルマンがささやくように述べた。


「我々も行動を開始しましょう!」


 ケンが小声ながらも気合の入った声で述べる。


「情報局の情報ですと司令室はそこから北にあるエレベーターを乗って三階の北にあるそうです」


 リリスが少し不安そうに述べた。


「ふむ、情報は現地調達するしかないな。よし、ではこの先の角まで行くぞ」


 アルマンの合図と共に三人は影のごとく十数歩先の角へと移動する。

 アルマンチームはレイナチームと別れた後、司令室のある前線基地施設内に侵入していた。

 施設内の敵兵はかなりの多勢だったがレイナチームの陽動によって現在は常時の半分以下になっている。


「ここも出払っているみたいだな…」


 それでもアルマン達は敵兵士がいないか厳重に警戒している。


「…隊長、数歩先の部屋に向かってくれませんか?」


 レオンがささやく様に述べた。


「何故だ?」


 アルマンが尋ねる。


「…良い事を思いついたのですよ」


 レオンは微笑みながら述べた。それは彼が何か策を思いついたという表れだった。


「…いいだろう。その顔はよほどの自信と見える。行くぞ」


 アルマンチームは敵がいないか警戒しつつも目的の部屋の前に向かった。しかし、着いたのは良いものの肝心の部屋のドアにはロックが掛かっていた。


「おいおい、鍵が掛かっているじゃないか。これじゃ、中に入れないな」


 アルマンは参ったなぁという様子で述べた。


「任せてください隊長! 自分の刀でこのドアを……」


 ケンは刀に手を掛けようとしたがレオンに止められる。


「やめたほうがいいよ。敵兵に見つかりたくなければね…」


 レオンはためいきを吐きながら述べた。

 それから彼はバトルスーツの左腕の手首からひじに掛けて装着してある腕輪状の装置のボタンを押した。そして収納されてあるプラグを取り出しドアの横にあるカードリーダーにつないだ。


「それは何? レオン」


 ケンはレオンが自分にはない装備を持っていたので質問した。


「これは《ハグノーン》という僕が作った万能コンピュータだ。まぁ、見ていて…」


 そういうとレオンはパネルを開き、キーボードを叩き出した。


 ガチャッ


 数秒も経たない内にドアのロックは解除されてしまった。


「これはすごい。やるなレオン!」


 ケンはその早業に感銘を受けた様子だ。


「別に…たいしたことじゃないよ」


 レオンは何食わぬ顔でプラグを装置内に収納した。


 部屋に侵入する。中には机やベッド、本棚などがある。どうやらここは個室らしい。ベッドの上には雑誌が開いたまま放り出されている。


 レオンは何かを探している様子だった。そしてどうやらお目当てのものを発見したらしい。


「ん、それは…」


 ケンがレオンの後ろからその様子を覗いている。どうやらレオンの探していたものは端末だったようだ。


「これを使って施設内のコンピュータに侵入します。この施設内を歩き回って司令室を探すよりよほど楽でしょう? まぁ、見ててください……」


 そういうとレオンは左腕のキーボードを叩き出した。一分も経たないうちに施設内のマップを手に入れた。


「リリス、今から基地内のマップのデータを送る。そのデータを副隊長達に転送してくれ」


 レオンはそういうとデータをリリスが乗るオルフィスへとマージを経由して転送する。


「敵兵に傍受される心配はないのか?」


 アルマンが心配そうに述べた。


「心配はいりませんよ。この我々が使用している通信方法は元来の電波とは全く異なるものですから」


 そう言い残すと彼は再び作業に入る。どうやらまだやることがあるらしい。数分後、レオンは端末からプラグを外した。そしてこちらを向いて微笑みながら一言述べた。


「隊長、これで我々は“透明人間”になれますよ」




――西ブロック格納庫屋根上――



「ありがとう、確かに受け取ったわ」


 レイナが寝そべって銃を構えたまま暖かい声で述べる。


『いえ、わたしはただレオン隊員の指示に従っただけですから』


 リリスが照れた口調で述べた。よほど役に立てたことがうれしいらしい。


『姐さん、準備のほう出来ましたがな。そちらのほうもオッケーでっか?』


 ケネスの気の抜けた声が通信機を通して聞こえてくる。


「えぇ、こちらも準備オーケーよ。あら、かわいいねずみさん達が走ってきているわ」


『それはまた駆除が大変なことで。と、では後ほど♪』


 ケネスからの通信が切れる。レイナは深く深呼吸をした。


 次の瞬間、重い銃声と共に一人の敵兵士が倒れた。どうやら脚を打ち抜かれたようだ。

敵兵士はどこから撃ってきたのか警戒している。が肉眼では狙撃主の姿は確認できない。


 再び、レイナの狙撃銃、《ディパルサー》が火を噴いた。


「ぐぁっ!」


「はぅっ!」


 敵兵士は次々に倒れていく。っがそれでも数に任せて着々とこちらに向かってきている。


「ケネス、そろそろお願いね」


『はいな♪』


 レイナの合図と共にケネスが手元のスイッチを押す。


 ドォォォォン!


 巨大な爆発音が格納庫から北に数キロ離れた場所から響き渡る。


「ちぃ、侵入者が向こうにも! 仕方がない、部隊を半分に分けるぞ」


 そういうと敵部隊の半数は爆発音の鳴ったほうへと進路を変えた。


「ふふ、うまくいったわ。そちらのほうは頼んだわよ」


『了解っ、まぁ、期待しておいてくださいな』


 そう言い残してケネスは通信を切る。次にレイナはマックに連絡を入れる。


『マック、前方の敵が見える?』


「えぇ、ばっちり見えますぜっ! うじゃうじゃいやがる。う〜ん、暴れ甲斐があるぜ!」


 マックは気合を入れて背中に掛けてある機関銃を構える。その大きさは巨漢なマックが持っても大きく見える。


「隊長!前方に大柄な男が一人たたずんでいます」


「一人だとぉ!? 我々をバカにしているのか。くそっ、蜂の巣にしてくれるわ!」


 そういうと一斉に敵兵士たちは銃口をマックに向ける。っが次の瞬間彼らは鬼を目撃することになる。

 

「吼えろ、《バルスト》!」


 ズガガガガガガガガッ!


 マックの雄たけびと共にバルストの口から何百という銃弾が敵兵士らを飲み込む。


「ぐあぁぁ!」


 次々と倒れていく敵兵士、彼らも必死に反撃するも目の前からやってくる銃弾の壁の前においては彼らの弾は砂粒にすぎなかった。


 機関銃をぶっ放しながらマックが吼える。その姿は正に闘鬼そのものであった。


 敵の中には迂回して攻撃を仕掛けようとする者もいたが彼らは彼らでレイナの餌食となった。

 激戦は長きに渡って続いた……。




――西ブロック格納庫北の倉庫付近――



「侵入者は見つかったか!?」


「はっ! 残念ながら未だに発見されたとの通信は入ってきたおりません」


「くそっ、何処にいる?」


 敵兵士たちは必死にケネスを探していた。


 ドォォォン!


 再び爆発音が響き渡る。今度は西側からだ。


「侵入者は向こうか!」


 敵兵士らは急いで現場に向かう。だが彼らは気づいていなかった。

 敵兵士が一人消え、一人増えたことを……。


 爆発現場にたどり着いたもののやはり侵入者の影は見当たらない。


「くそ、我々をおちょくっているのか? えぇい、さっさと探さんか!」


 敵兵士の隊長の怒りは頂点に達していた。部下の兵士らは八つ当たりされるのを恐れて必死に探している。が、やはり侵入者は見当たらない。


「やはり、侵入者は別の場所にいて。我々をかく乱しているのでは?」


 これ以上の捜索は無駄だと判断し、副隊長が隊長に撤退を提案する。


「むぅ、止む終えんか」


 隊長もさすがに諦めかけていた。っがその時…、


「侵入者、発見! 侵入者、発見!」


 大声で叫ぶ兵士の声が響き渡る。残りの兵士たちは急いで声の聞こえた方向へ向かう。


「はっ、ついに見つけたかぁ! 今までおちょくられた分、晴らしてくれるわ!」


 敵の隊長は待ってましたと言わんばかりに駆け出した。そしてついに声のした場所にたどり着いた。そこは 無数にある倉庫の一つだった。何故か扉が開いている。


「隊長、ここです! この中に奴は潜んでいます!」


「よし、でかした。突撃っ!」


 敵兵らは内部へ勢いよく突撃する。しかし、そこには人っ子一人存在しなかった。


「どういうことだ!?」


 辺りを慎重に見渡す。しかし、どこにも人の気配がしない。彼らは警戒しながら奥へと入っていく。


「誰もいないではないか。いったい何処に侵入者がいるというだ?」


「いますよ、確かに」


「だから、何処にいると言うのだ?」


「…ふぅ〜、ほんまに勘の鈍い方々やな、あ・ん・さ・ん・ら・は」


 部下の兵士は呆れたように述べた。


「あ・ん・さ・ん・?」


 隊長はいきなり部下の口調が変わったためキョトンとしている。


 次の瞬間、その兵士は倉庫の入り口へと走り出した。突然のことに他の兵士たちも動揺して目をやるので精一杯だった。

 入り口までたどり着き、その兵士は軍服を高らかと天に放り投げた。


「「「「あっ!」」」」


 他の兵士たちはやっとその正体に気づいた。そうその兵士こそが彼らが探し求めた侵入者、ケネスその人だった。


「ほんまにあんさんらのまぬけっぷりには笑わせてもらいましたがな。おかげで大分時間を稼ぐことができました、おおきに♪」


 敵兵士たちは怒りよりも驚きが強すぎて一瞬固まってしまった。が、隊長の合図と共に一斉にケネスのほうへ向かってきた。


「貴様っ、よくも我々をコケにしてくれたなぁ! ひねりつぶしてくれる!」


 だがケネスは余裕の表情でニコニコしながら笑っていた。


 そして右手のスイッチを押した。


 ドォォン! ガラガラグヮシャーン!


 爆発音と共に倉庫の天井が爆発。無数のガレキが落ちてきて倉庫の入り口を塞いでしまった。


「最後までおもろいもん見せてもろてありがとな♪ では、さらば!」


 そう言ってケネスはその場を立ち去ったのだった。


「リリスちゃん、ほんまかいな。姐さん達が危ないって……」


『はい、徐々にではありますが押されつつあります』


 通信を終えるとケネスはレイナたちの元へ一心に駆け出した…………。


「……隊長、どうします?」


「どうするって……」


「俺たち、本当にアホですね……」


「やめろ、ますます落ち込む……」


 彼らが救助されたのはそれから数時間後のことだった。彼らにとってその時間は一生のように感じられただろう……。





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