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初任務 【壱】

――特殊戦略艦オルフィス艦内にて――


 

「以上で本作戦の説明を終了する」


説明を終え、ヒッターは一呼吸入れる。


「何か質問がある者はいるか? 」


「司令、作戦ポイントまで小型船で向かうのは分かったのですがこれでは敵のレーダーに引っかかりませんか?」


 アルマンは首をかしげて質問した。アルマンだけではない、そこにいたメンバーのほとんどが疑問に感じていた、一人を除いて…。


「そんなに心配しなくてもいいですよ、隊長。我々が搭乗する小型船『マージ』にはステルス機能が付いていますから」


 レオンが当たり前のように述べた。


「ステルス機能? なんじゃそりゃ!?」


 マックが素っ頓狂な顔をしている。


「ステルス機能っていうのは要はレーダーを欺くシステムのことですがな。あんさん、軍に入って何年になりやす? こんな言葉、一般人でも知ってますがな?」


 ケネスが少しあきれた様子で答えた。


「うるせぇ、俺はそういう知的なことが苦手なんだよ!」


 マックは開き直った様子で答えた。


「レオンやケネスが述べたようにマージにはレーダーに反応しないステルス機能が搭載されている。マージだけではない、このオルフィスにもステルス機能は搭載されている。その他にも通常艦にない様々な特殊な装置を搭載している。いわばこの艦はアルフォードの最先端技術の塊のようなものということだ」


 ヒッターが少々誇らしげに述べた。その後、数点質問などを済ますと隊員たちは解散し作戦準備にはいった。




――小型船マージにて――



 あれからどれほどの時間が経っただろうか。ブリーフィングが終了して格納庫にあるマージに搭乗してからというものの皆、口を開かずにいる。隣にはレイナが座っている。彼女は愛用の狙撃銃を黙々と整備していて、こちらを振り向こうとはしない。正面を向くとレオンが読書に耽っている。こちらも自分の世界にのめり込んでいるようだ。(いったい、何の本だろう?ずいぶん古い本のようだが…)その隣にマックが座っているがよほど退屈なのだろう、ぼんやりと天井のライトを眺めながら時折、大きなあくびをしている。(そういえばケンはまだ搭乗していない、一体どこをほっつき歩いているのやら……)機内の空気はどんよりしていて重い。


(まぁ、無理もないかぁ、なんだかんだ言って初任務だからな……)


 そう思いながら自分自身も緊張していることにアルマンは気づいた。本来なら隊長である自分がこの場の雰囲気を改善しなければいけないと思ったのだがどうすればよいのか分からず、ただ首から垂れ下がっているお守りを手のひらにのせ、眺めていた。それは不思議な色をした首飾りだった。大きさは手の甲よりひと回り小さく、金色の円形のふちの中に球体の宝石が輝いている。その宝石は常に定まった色を持たず、少量の光を放ち、アルマンの心を引き込んでいた。が、すぐにアルマンは現実の世界へと連れ戻された。原因は搭乗口の方向から聞こえてきた一筋の声だった。


「特戦にとっての初任務、張り切っていきましょう!」


 機内の異様な雰囲気を知ってか知らずか、ケンが気合の入った声で搭乗してきたのだ。機内の空気は一瞬にして軽くなった。


「おぉ、ケン、気合が入っているじゃねぇか!」


 マックが待っていましたとばかりに声を上げる。


「別に気合が入っているのは良いことだけど、あまり力み過ぎてもだめよ」


 レイナが続いて穏やかにケンの方を向いて述べる。が、その手はまだ愛銃の調整を行っていた。レオンは一瞬、ケンの方を向いたがまたすぐに本を読み始めた。一瞬にして機内の空気が軽くなっていた。


「しかし、我々だけで敵の前線基地を占領するなんて司令も大胆な作戦を考えますね」


 そういうケンの表情はうれしそうだった。


「それだけ我々が信用されているということだ。我々一人一人の力は兵士何十人にも匹敵するのだ。それに我々の成功は何千もの同胞の命を救うことにもつながる……」


 アルマンが自分に問いかけるように述べた。


「それだけ我々に課せられた責任は思いということですけどね……」


 レオンがさりげなく述べる。その言葉は隊員達に重く圧し掛かったがそれ以上に彼らに活力を与えたのだった。


『皆さん、マージ発進まであと五分です。各員準備に入られてください。健闘を祈ります。がんばって下さい!』


 リリスの明るく透き通った声が機内に響き渡るのだった。




――ミルバーク森林地帯にて――



「よし、行くぞ」


 アルマンの合図と共に皆が一斉に動き出した。今回の作戦は二チームに分かれて行われる。

アルマンチームには隊長のアルマン、ケン、レオンの三人、レイナチームには副隊長のレイナ、マック、ケネスで構成されている。

 レイナチームは陽動を、アルマンチームは司令室の占拠を目指す。

ミルバーク・ジャングルは敵前線基地の西に存在する。アルフォード軍は東側から攻撃を行っているため、西側には敵の基地の警備も手薄になっている。

 その東側に存在する森林地帯から敵前線基地に侵入し、敵前線基地の司令室を占領する。これによって敵軍の指揮系統を混乱させるという普通では考えられない大胆な作戦だ。


「理屈は分かったけど本当にこの作戦は成功するのかしら?」


 レイナが半信、疑いの念でつぶやいた。


「大丈夫です。計算上では本作戦の成功率は八割を超えていますから」


 レオンがさりげなく述べた。


「まぁ、何とかなりますよ。そのために我々がいるのですから」


「おっ、いいこと言うじゃねぇか、ケン!」


 ケンが述べると共にマックが同意の念で述べた。そうこうしているうちにあたりが明るくなってきた。森林地帯の出口が見えてきたのだ。

 森を抜けると目の前に巨大な鉄壁が現れた。


「でかいな…」


「簡単には入らしてもらえそうにないわねぇ」


 アルマンとレイナはその巨大さに驚き呆れてしまっている。


「へっ、やりがいがありそうじゃねぇか」


「さてと、やりますかね」


 マックとケネスは返ってその巨大さに燃えているようだ。


「よしっ、がんばるぞ。リリス、オペレートのほうよろしく!」


 突然の声掛けにリリスは動揺してしまった。


『は、はいっ、こちらこそ。些細ながらもオペレートさせていただきます!』


 少し、間を置いたのだがその動揺は隠し切れなかった。アルマンが深く息を吐いた。

 

「…やるか」


 一同が眼で同意した。


「作戦開始ッ!」


 アルマンの声が小さくも辺りに響き渡る。

 開始の合図と共に森に潜む影達は飛び出した…。




――敵前線基地西ブロック格納庫付近――



「ふぁぁ、つまらねぇ…」


「本当だよな、こんな所を巡回するぐらいなら前線で戦いたいぜ」


 小柄な兵士と長身の兵士が愚痴をこぼしながら格納庫周辺を巡回している。

 彼らがここの担当になってから、いや、この前線基地が建設されてから一度としてこの西ブロックから侵入してきた輩はいない。よってこのブロックの警備を任せられるというのはこの基地内では大変不名誉なこととされていた。


「早く、交代の時間にならねぇかなぁ。くそっ、俺はこの格納庫をぐるぐる回るために軍に入ったわけじゃねぇっての」


 小柄な兵士はうんざりした顔で述べた。このブロックの警備を担当してまだ浅いのだろう。顔には不満の文字が浮かび上がっていた。


「ふっ、まぁそう怒るなよ。これも大事な任務さ」


 長身の兵士はなだめる様に述べた。その気の抜けた声からこのブロックを担当して長いのだろう。完全に気が抜けている様子だ。


「けっ、よく言うぜ。こんな所、警備したところで何になるってんだ」


 小柄な兵士は更に愚痴をこぼした。


「あ〜っ! アルフォードの兵士がこの基地まで来ねぇかなぁ。そしたら俺も一肌脱いでやるっていうのによぉ」


 小柄な兵士は自動小銃の標準を除きながら誰もいない正面に銃口を向けた。


「はは、何ありえねぇ事をぼやいているんだか」


 長身の兵士は小ばかにするように述べた。


「…………」


「おい、何いきなり黙り込んでんだよ。腹痛か?」


 長身の兵士はいきなり小柄の兵士が黙り込むのでどうしたものかと思った。


「…いる」


「はぁ?」


「数十メートル先に、アルフォードの兵士が一人突っ立ってやがる……」


「はっ、何だ、新手のジョークか?」


 長身の兵士は意外な返事が返ってきたため思わず笑ってしまった。


「違うっ、ジョークじゃねぇ! 本当にアルフォードの兵士がいるんだよ。よく見ろ!」


 そう言われるがままに長身の兵士は数十メートル先をのぞいた。

 一瞬、長身の兵士は止まった。そして次の瞬間、即座に肩に掛けていた自動小銃を構えた。

 そこには確かにいるはずのないアルフォードの兵士がいた。よく見ると女兵士のようだ。こちらを向いて笑いながら手を振っている。


「な、何者なんだ、あいつは!?」


 長身の兵士はあまりにも予想していなかったため、未だに現状を理解できていなかった。


「知るかっ、とにかく本部に連絡だ。基地内に敵兵士が侵入したってな!」


 長身の兵士は小柄な兵士の言うとおりに本部に連絡しようと胸ポケットの無線を取った。


「本部、本部、こちら西ブロック警備兵W04。A−3にてアルフォード兵士を発見! 至急応援をッ! ……」


 次の瞬間、長身の兵士は地面に倒れこんでしまった。


「!?ッ」


 長身の兵士が倒れるのを見て、すかさず小柄の兵士は相棒の方を振り向く。しかし、気づいたときには彼も同じく地に這いつくばっていた。

 意識を失う間際、小柄な兵士は二人の男の姿を見た。





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