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潜入 【五】

――バベル基地・地上――



 ケンたちを乗せた床は最後の防壁を通過すると地上へと到達した。太陽は西へと傾き、空は紅色に染まっている。

 辺りには障害物と呼べるようなものはほとんどなく、滑走路のように思えた。ただ先のほうに目をやると倉庫や建物らしきものもあり、どうやら機動戦車の動作をチェックするためのスペースなのだろう。

 隊員たちが周囲に意識を回していた時、先ほどまでプツリと聞こえてこなくなった声が再びスピーカーを伝って響いてきた。


「どうだね、貴様らの死に場所としては大層な場所だろ? ありがたく思いたまえ」


「そいつはどうも。だが肝心の執行人を忘れているのでは?」


 アルマンの言うとおり周辺には彼ら以外の誰もいなかった。隠れているということも考えられたが辺りには隠れるような場所はなくそれは不可能であった。

 するとその返答を待っていたかのように声の主は再びその不気味な笑い声を響き渡らせた。


「ふふふ、はははははははははっ! 貴様らの目は節穴か? いいだろう、そんなに死にたいならさっさと殺してやる。起動せよ、ユーファング!」


 男の掛け声とほぼ同時に突如、目の前の機動戦車から低く重いうなり声のような音が響きだした。そして機体の装甲が小刻みに振動し始め、頭部にある三つのカメラアイ不気味に点灯した。

 それは機動戦車の起動を意味していた。


「う、動いた!? オレたちが来る前から既に搭乗していたのか!?」


 ケンたちの意表を完全に突いた機動戦車はその狂気の目で彼らを睨みつけると、腕部に備えられたアームガトリング砲の銃口を彼らに向けた。


「やばい、皆散れ!」


 アルマンの掛け声と同時にアームガトリング砲は火を噴いた。間一髪、ケンたちはその健全な体を穴だらけにせずに済んだ。しかし、機動戦車の銃撃音はまだ続いており、彼らは全速力でその場から立ち去った。その時、部隊はちょうど二手に分かれる形になってしまいケン、アルマン、ケネスはちょうど機動戦車に追われる形に、レイナ、マック、レオンの三人はその魔の手から一応逃れるという形になってしまう。

 ユーファングの搭乗者もそのことを意識することなくアルマン班を追跡しだした。

 突然の危機を何とか回避できたレイナたちはケンたちを心配しながらも少しほっとした。しかし、それもほんの一瞬の出来事であった。

 再び、今度は別の地面が割れたかと思うとそこから新たなユーファングが飛び出してきた。型には02と記されておりどうやら二号機のようだ。


「げぇ〜、もう一機あったのかよ!? 反則だぜそりゃあ!」


 マックの批判の声を気にすることなく、ユーファング二号機は彼らの姿を捉えた。こうしてレイナ班も狂気に満ちた新兵器に追われることになる。

 とにかく現状のような障害物のない場所での戦闘は不利と判断した彼らは目先にある障害物の群へと逃げ込むことにした。アルマンたちは模擬戦闘用の市街地へ、レイナたちはコンテナ群へと。

 二機の機動戦車はそんな彼らを追い込もうとはせず、一定の距離を保ちながら当たるか当たらないかの瀬戸際に無数の銃弾を放つのであった。その姿はまるで野うさぎを追いかけるライオンのようであった。




――アルマン班――



 追跡する速度を落とすことなく追ってくる一号機にアルマンとケネスは逃亡しながらも銃弾を浴びせた。銃弾は的確に機動戦車の装甲にヒットするのであったが一つとしてその厚い装甲を傷つけることはなかった。


「くっ、予想はしていたがやはりこの銃ではあの装甲を貫くことは難しいか…」


 アルマンは他にも打開策を考え出してはいたがやはりそのどれもが決定打となるものではなかった。一瞬、彼は自らにかけられたリミッターを外そうと考えたがすぐにその考えを振り払った。彼の頭の中にはあの時の惨劇の画がはっきりと残っているのだ。

 ふとアルマンはケンの姿が見られないことに気づいた。隣のケネスも気づいたようでお互いに顔を見合わせる。そしてどうやら同じ考えを浮かべたらしく。同時に後ろを振り返った。そこには追撃してくる機動戦車を向かえ撃つべく、仁王立ちでユーファングと向き合うケンの姿があった。


「ケ、ケン!?」


「ありゃま〜!?」


 予想が的中したらしく二人はそれぞれの言葉を漏らした。当本人のケンは二人の視線に気づいたらしくアルマンらのほうへ顔を振り向けると確実に何かをしでかすつもりである表情で笑ってみせた。


「隊長、ケネス、ここはオレに任せてください!」

 

 ケンはそのように言い放つと迫ってくる機動戦車のほうへと視線を戻し、手を腰の刀へと回す。そして一度深呼吸をすると足元に力を集中させ、目を閉じる。

 精神を集中させ、中から湧き出る力をぎりぎりのところで体内に押し止め、機動戦車が間合いに入ってくるのを待った。

 そんなケンをモニター越しで見ていた敵搭乗者は笑い飛ばし、何の警戒もせずにケンへと迫った。

 そしてついにユーファングがケンの間合いに入った。


「天魔無双流奥義〜竜の太刀〜奥義…火竜!」


 ケンは追撃してくるユーファングの脚部に急加速で突進すると、激しい連撃を放った。それは燃え盛る炎のように強く、激しい連撃であり、ケンは相手に反撃の隙を与えないほどにひたすら刃を喰わせ続けた。

 するとユーファングの足は急に止まってしまった。装甲には傷はついていなかったがどうやらケンの放った連続斬りが効いたようだ。しかしケンの表情は喜んでおらずむしろ起こった出来事に信じられないようで唖然としている。


「火竜を食らって無傷だって!? なんて装甲だ!」


 その言葉を聴いたアルマンとケネスは至極当然の結果であるかのような目でケンを見つめた。


「あいつ、機動戦車の装甲を斬ろうと考えていたのか……。それにしてもまずいな…あの戦車とまともにやりあっても勝ち目はないぞ。かといってこのまま逃げ続けても先は見えている。何か知恵はないか、ケネス?」


「うーん、そうですなー。もし基本構造が従来の機動戦車と変わらないのなら方法はありまっせ♪」


 ケネスは先導してケンたちを狭い路地に誘い、機動戦車をかく乱すると手ごろな建物に身を潜め、ささやくようにケンたちに策について話した。


「なるほど…。確かに理屈としては成り立つな。よし、やってみよう。おれとケンはやつをひきつけるぞ!」


 アルマンとケンは建物から飛び出すとユーファング目掛けて威嚇攻撃を始めた。後ろにいるケンたちに気づいた搭乗者は機体を方向転換させ、彼ら目掛けて反撃を行った。しかし、さすがはケンとアルマン、自らに向かってくる弾丸を刀で弾いたり、すれすれのところでかわしながら相手を自分たちに集中させた。

 その隙にケネスは建物の屋上へと向かうのであった。




――レイナ班――



「おわっと!? あの野郎、コンテナごと俺たちを踏み潰すつもりかよ!」


 当然、マックの罵声など敵搭乗者に届くはずもなくレイナたちは依然追撃の足を止めない機動戦車を背に迷路のようなコンテナ群を駆け回っていた。


「それにしてもこう逃げ続けていただけじゃワタシたちの体力がもたないわ。ねぇレオンあの機体について何か分かったことはないの?」


 レイナの言葉は冷静さをまとっていたがその表情には疲れが見え始めていた。マックはまだ罵声を投げれるほどの余裕はあたが彼女に質問を投げかけられたレオンに至ってはそろそろ限界といった感じである。

 それでもレオンは残りわずかなエネルギーの一部を脳へと回すとフル回転で頭の回路を回し始めた。そしてものの数秒で一つの案を導き出した。


「…先ほど邪魔が入って50%ほどしか手に入りませんでしたがこれらの情報から考えるに上級魔法ならあの機体を破壊することができるかもしれません。ですが上級魔法を発動させるためにはかなりの時間が必要です。その時間をどうにかして作らなければ僕らが生きて帰ることはできません……」


 レオンの返答にレイナはしばらく黙り込む。そしてその案が今考えられる中で最も有効な方法であると判断した。


「分かったわ、その案でいきましょう。ワタシとマックでやつを引きつけるわ。レオンはその間に上級魔法を発動できるようにしておいて。マック、行くわよっ!」


 直後、レイナとマックは90度転回し、後ろから追撃してくるユーファングの股下を上手く駆け抜けた。完全に不意をつかれたユーファングの搭乗者はどちらの敵を狙えばよいのか判断に迷った。その間にレオンは機動戦車の死角へと隠れ、更にレイナたちが威嚇射撃を放ち、完全に搭乗者の意識を自分たちへと向けさせる。レオンの姿を見失ってしまったユーファングは仕方なくレイナたちに標準を合わせた。

 無数に放たれる銃弾、間一髪のところでレイナたちはコンテナに身を伏せることができた。休む間ものなく、コンテナから身を乗り出すと再び威嚇射撃を行う。


「くっ、なんど撃っても同じことを〜!」


 彼らの挑発に見事にかかった敵搭乗者は自らが敵の罠にはまっていることなど思いもせず、彼らのシナリオの上を駆け走る。

 レイナたちが機動戦車を追いかけさせている時、レオンは上級魔法発動のための詠唱を唱え始めていた。不気味に響くそのつぶやきのような詠唱は周囲の温度を急激に下げ始める。空気は重くなり、まるで全てを拒絶する壁がレオンを取り囲んでいるようである。

 黙々と詠唱を唱える彼の額からは無数の汗が噴出し、ダラダラとその繊細な頬を通りながら足元へと落ちていく。上級魔法がどれほど発動者に負担をかけるのかが正に見て取れる状況であった。呼吸も荒くなり、その目は虚ろになりつつあったがそれでもレオンは気力で意識を保たせ、詠唱を続けた。

 全ては自分を信頼し、命をはってくれている仲間のために…。





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