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潜入 【四】

 ほぼ半年ぶりの投稿です。読者のみなさん大変お待たせしました! そして半年も待たせてしまい申し訳ありません。^^; 今後このようなことがないよう気をつけたいと思います。m(__)m

――とある場所、ある男の独り言――



「まさかここまで上手くいくとは……」


 飾り気のないほろ暗い小さな個室で一人の男がブツブツとつぶやいている。その表情は小学生が教室の扉に仕掛けた黒板消しの罠に先生が見事引っかかるのを待ちわびているかのようにニヤニヤと笑っている。ただ、違うところは彼は子供でもましてや小学生でもないという点だ。男はどうみても成人であり、もうそろそろ初老を迎えてもおかしくない外見だ。男は先ほどから目の前にある光を放つ物体を見つめながらうれしそうに笑っている。光の正体は無数のディスプレイであり、それが唯一の部屋の照明になっている。画面には黒い点が六つ、固まって動いている。その点の延長線には何やら巨大な人が立っている。


「ふ、今に見ているがいい。アルフォードの犬め。最後に笑うのはこの私だ! ふふふ、ハハハハハハッ!」


 男の笑い声は幾重にも壁にぶつかり不気味にこだまするのであった。まるでこれから起こることを誇示しているかのように……。




――バビル基地・地下格納庫――



 そこは思ったよりも大きな空間だった。実際にどれほど降りたのかは分からないが確実に日の光が届かないところであるのは確実だ。格納庫の天井には大量の照明が地下であると感じさせないほどの光を放出している。

 ケンたちはエレベーターを出れば何人かの敵兵と戦闘になるだろうと予測していた。しかし、結果は全く正反対なものであった。

 全く人がいないのだ。監視の兵も、整備員も、科学者も、人っ子一人その空間には存在しなかった。それは異常な光景であり、余計にその空間を巨大なものに感じさせた。


「これはどういうことだ…。まさかオレたちの侵入がばれたのでは!?」


「いや、それはないだろう。もしそうであったらとっくの昔に敵兵に囲まれているはずだ。しかし、確かに妙だ。各員、周囲の警戒を怠らずに進むぞ」


 アルマンの合図とともにケンたちは弧を描くように隊形を組んだ。しばらくすると次の格納庫へとつながる扉が見えてきた。扉には厳重なロックが掛かっていたがレオンはそれをものの数秒で解除してしまった。天才ハッカーにとってこの厳重なロックも軽いパズルに過ぎないのだろう。

 扉を通り次の空間へと入るとそこには先ほどの空っぽな空間とは打って変わって様々な機材がひしめき合っていた。そしてその奥に一体の巨大な人の形をしたものが威厳たっぷりに佇んでいる。


「これが例の新兵器ですか? 何と言うか今までの機動戦車とあまり変わらないような気がするのですが?」


「確かにそうだな…。どうやら詳しく調べる必要がありそうだな」


 ケンの述べたとおり、その機動戦車は外装が少々異なるだけで従来のものとさほど変わらないように見える。アルマンが言うようにシステム面におけるデータをみないことにはその違いを発見することはできないようだ。

 隊長の指示の下、ケンたちは各々の調査目標へと向かった。ケンとアルマン、レイナとマックは機体の外装を詳しく調査。レオンとケネスはシステムデータを調べるため北東にある制御コンピューターへ。

 周囲の外装をくまなく見渡したケンたちであったが結果は思ったとおり、収穫なしであった。ただ、背面に巨大な翼状の形をしたブースターがあったことと通常の機動戦車に比べ胸部が異様に厚いことが気に掛かった。

 その答えはすぐに分かることになる。


「隊長、みなはん、至急わいのところに来てくれまへんか〜? 大変おもろいもん見つけましたがな!」


 ケネスの気の抜けた声が制御コンピューターの方向から聞こえてきた。しかしその声はいつもとは違い、若干ハリがあった。

 急いで向かってみると画面には目の前にある機動戦車の設計図が表示されていた。


「…簡潔に述べます。この機体は自由に空を飛ぶことができます……」


「ん〜? それのどこがすげぇ〜んだ? 飛行能力を持つ兵器なんて山ほどあるじゃねえか?」


「はぁ〜、これやから頭悪いんは面倒なんや〜」


「なんだと〜!?」


 レオンの説明する意味がまるで理解できていないマックはケネスが言うほど頭が悪いわけではない。確かに彼が言うように現在の技術で飛行能力を持つ兵器はたくさん存在するのだ。しかし、肝心なのはその飛行能力を現在の戦争で主戦力となっている機動戦車に搭載したということにある。


「まぁまぁ、落ち着きぃやぁ〜。わいは今からあんたのためを思ってやさし〜く説明してやろうと思っとるんやから♪ ええか、現在において戦争の左右するんは機動戦車や。しかしこの機動戦車は単独で飛行ができんため運送に当たっては専用の輸送機が必要になってくるっちゅうわけや」


「なるほど…。つまりこの機体は単独での行動範囲が急激的に広くなるというわけだな」


「それだけじゃないわ、現在の機動戦車は機動戦車同士が戦うことを想定して設計されているため空からの攻撃に対して防御手段がないわ。つまり、もしこの機体に空から攻撃されたらワタシたちの機動戦車はいともたやすく蜂の巣にされてしまうわ」


「さすがは隊長に姐さん〜♪ どこかのアホとはえらい違いやなぁ〜」


「へっ、どうせ俺はアホだってんだ!」


「…そんなことよりももっと重要なことがあります。これを見てください……」


 レオンの一言に引かれて皆、モニターに注目する。そこには飛行能力の事実が吹き飛ぶようなものが映し出されていた。


「こ、これは……!? ま、まさかっ!」


 モニターに映し出されたものにケンは自分の目を疑ってしまった。いや疑いたかったというべきだろうか…。そこには彼にとって最も衝撃的な兵器の名が記されてあった。


「【オーバー・デス】……! オレの町を…家族を奪ったあの兵器が、こいつに!?」


「…疑いたくなる気持ちは分かるけどこれは紛れもない事実だよ、ケン。この戦車は胸部にオーバー・デスを搭載している……。しかもケンの町に放たれたものより更に威力が強くなっている。これが量産されてしまったらアルフォードは…、地図から消えてなくなってしまう………」


 この事実にケン以外の者たちも心の底から恐怖が湧き出てくるのを感じた。何せその兵器は紛れもなく今自分たちの目の前に存在するのだ。

 動揺を隠し切れない隊員たちにアルマンは隊長としてまず落ち着くよう促した。本当は自分も動揺していたわけだがここで隊長までも冷静さを失っては任務の遂行に支障をきたし更には隊員の生存にもかかわってしまう恐れがあると考えたためである。

 彼は一通り皆が落ち着いたのを見計らうと次にレオンに何か対処法がないか訊ねた。


「…あるとすればまずコンピューター内にあるこの戦車のデータを全て消去し、ここにある完成品も破壊することです。今のところ製造されているのはこの一機だけのようですから恐らくこれで対処することができるはずです……」


「よしレオンは早速データの消去を始めてくれ。他の者はおれと一緒にこの戦車を破壊するぞ」


 アルマンの掛け声と共に一同は行動を開始しようとした。その時である。四方から不気味な笑い声がひびいてきた。

 ケンたちはすぐさま構えたが辺りには誰もいない。しかし未だに笑え声は聞こえている。


「ふふふ、は〜ははははっ! 無駄だ、アルフォードの犬ども! どこを見渡そうが私は貴様らのいる格納庫にはおらん」


「っということはスピーカーか…。どこからかおれたちを監視しながら放送しているようだな」


 すると声の主は先ほどよりも大きく笑ってみせた。どうやらアルマンの推測は正しいようだ。


「その通りだ、戦神よ。貴様らには見えないだろうが私からはお前たちの姿がはっきりと見える。さてさて貴様ら行動はこの基地に潜入してから拝見させてもらっていたわけだがよくぞこの格納庫までたどり着いたものだ。誇りに思っていいぞ!」


「なんかわいら褒められてる?」


「馬鹿、ナメられてんだよ!」


「んなこと分かってますがな〜。全くこれだから頭固いやつは〜」


「いちいちカンにさわるやつだな、お前は!」


 ケネスとマックの漫才を見ていたかどうかはよく分からないが声の主はそのやり取りがなかったかのように話を続けた。


「そんな貴様らに褒美をやろうと思っている。是非とも受け取ってくれたまえ。ちなみに拒否権はないぞ」


「ずいぶん一方的なプレゼントね〜。それじゃ女の子にモテないわよ?」


「ふふ、ご忠告ありがとう。だがいつまでその余裕が続くか楽しみなものだ…」


 レイナの挑発に全く乗ることもなくむしろ更に余裕を感じている声の主はその後ぷっつりと返事をしてこなくなった。

 皆が不思議がっている時、突如床の下からはっきりと聞こえる金属音が聞こえた。その音に続けとばかりに今度は格納庫が揺れ始めた。


「いったい何が起ころうとしているんだ!?」


「……!? …隊長大変です。何者かによってデータの削除を中断させられました。再度アクセスしましたが…拒否されました」


 レオンの発言が大きな意味を示していることは分かっていたがアルマンは先ほどからの揺れに気を取られていた。

 今度は天井が中央から左右にゆっくりと別れ、次第に彼らに近づいてくる。いや実際のところは彼らのほうが天井に近づいているのだ。彼らを乗せた床は先ほどまで天井があったところを通過すると更に勢いを増し上に向かって上昇していく。何枚目かのプレートが開け放たれた時、頭上より閃光が迸る。

 そして戦いの場は彼らの意思に関係なく地上へと向かうのであった。




――戦艦オルフィス・ブリッジ――



「それにしても遅いですね…。大丈夫でしょうか?」


 ケンたちの帰りを待つリリスは予定通りなら既に帰還している彼らから未だに連絡がないことに不安を隠せないでいた。


「確かに…、いくらなんでも予定より遅れているのに連絡の一つも寄越さんのは変だな。恐らく連絡を寄越す余裕がないほどの状況が彼らを覆っているのだろう」


 困惑するリリスとは逆にヒッターは冷静に彼らの状況を推測した。そんな冷静な司令の言葉にリリスは余計に不安を積もらせていた。


「そんな!? それじゃ、すぐに救援にいかないと!」


 手足をあたふたとさせながら叫び声に近い声を出すリリスを取り合えず落ち着けと言わんばかりにヒッターは彼女を手で制した。


「取り合えず落ち着け、リリス君。何も彼らが死ぬと決まったわけではない。それに今すぐに向かったところで彼らの助けにはならんだろう。とにかく十分ほど待ってそれでも連絡が来ない場合は救援に向かうとしよう」


 ヒッターの言葉に取り合えず落ち着きを取り戻したリリスは艦内クルーに発進の準備をするよう艦内アナウンスの準備に取りかかった。

 一方ヒッターは、隊員たちの無事を信じ、ただじっと先を見据えていた。




 

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