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アルマン 【四】

――それから一週間後――



 一週間後、彼の体は完全に回復し、退院を果たすことが出来た。しかし、レギオスはまだ半分も回復しておらず、最低でも一ヶ月は掛かるだろうとのことだ。

 退院早々、アルマンはブラウ司令に出頭命令を出された。彼は軍服に着替えるとすぐさまブラウ司令の元へ向かった。

 執務室に入るとブラウ司令はアルマンに満面の笑みで声を掛けてきた。


「おぉ、奇跡の男が見事に復帰したか!いやぁ、退院おめでとう!」


 アルマンはそう言われると司令に軽く敬礼した。しかし、その表情は硬かった。

そんなアルマンを気にもせず司令は話を続けた。


「アルマン、君に伝えなければならないことがある。いや、君は非常に有能な兵士だよ。これは君がもらうに相応しいものだ。受け取りたまえ」


 ブラウ司令は机の引き出しから木箱を取り出すとそれをあけて見せた。中には階級を表すバッジが入っていた。色は銀色で三つの横線の上に星が三つ存在した。


「アルマン・ギルガネス、本日付をもって貴公はドライアス山岳地帯国境警備の任を解かれ明日よりアルフォード軍本部への転任を命ず。また、貴公のこれまでの軍に対する貢献とその忠誠心を評しここに大尉の階級を送る」


 そう言い終えるとブラウ司令は木箱をアルマンに渡した。アルマンは木箱を受け取ると中の階級バッチを取り出し、軍服の襟元にある少尉バッチと付け替えた。


「うむ、よく似合っているぞ、大尉。私の意見を素直に言えば君を失うのは大変痛い。だがこれは君の力を軍が認めた証拠だ。それを否定するわけにはいかん。本部でも君の活躍を期待している」


 ブラウ司令は手を差し伸べるアルマンの手を力強く握った。それはほんの数秒の握手ではあったが彼にとってはとても長く感じられた。




――アルフォード軍本部基地――



 明日、アルマンは軍本部へと足を踏み入れていた。彼が配属されたのはアルフォード軍の兵士の中でも精鋭が集まったエリート集団、『フォークス』だった。彼には今後、一人前のフォークスの隊員になるための地獄のような厳しい訓練が待っている。

 彼は自分があのフォークスの一員になったことで胸がいっぱいだった。いつのまにかレギオスやそして彼女の記憶は薄れていった。

 一ヶ月が経過した。アルマンは以前に増して更なる高みに到達していた。彼は今やフォークスで最も強い兵士へと成り上がっていた。それはアルフォード軍で最強ということを意味した。また彼は自分の身体にリミッターを掛ける必要もなくなっていた。もはや彼は完全にギルガネスの力を制御できるようになっていた。

 よく見ると彼の首からは不思議な光を放つ首飾りが掛けられてあり、また左胸のナイフフォルダーには銀色に光る刃に模様の入ったナイフが収められていた。どちらもギルガネス一族で最強の者だけが持つことを許される代物だ。彼はアルフォード軍一の兵士だけでなく、ギルガネス一の戦士にもなっていた。




――アルフォード軍本部兵士墓地――



 アルマンは一日の訓練を終えると即座にこの場所へと向かった。別に彼は墓地が好きといった変わった趣味は持ち合わせていない。彼には行かなければならない理由があったのだ。

 途中、町の花屋によって注文していた花束をとりに行くと彼は早歩きで墓地へと向かった。兵士墓地はその名の通り、様々な理由で殉職された兵士たちの墓がある場所だ。何故アルマンはこの場所へと足を運ばなければならなかったか? それは今日、ある者の墓が新たに加わったためだ。

 彼は目的の墓の前に来ると花を静かにその前へと置いた。彼は花を供え終えると一時の間、墓を見つめた。そこにはこう記されていた。

 

 《リース・ザルバン少尉、ここに眠る 1308〜1326》


 ふとアルマンは背後に気配を感じた。アルマンは気配の感じたほうへと向く。そこには一人の軍用コートに身を包んだ男が立っていた。


「私に御用ですか?」


 アルマンはその見知らぬ男性に不信感を抱きつつ声を掛けた。(彼が敬語で話したのはその男性が彼よりも年上に見えたというのもあるが階級バッチが少佐を示していたためである。)


「あぁ、そうだ。実は君に伝えたいことがあってね」


 アルマンはいったい何のことだろうと考えた。だが彼と自分とに何の接点もなかったので考えるのを諦めた。


「ふっ、その様子じゃ分からないといったところだな。いいだろう単刀直入に尋ねよう。君はその墓の下で眠る兵士の死因を知っているかい?」


「…どういうことですか?」


少佐と思われるその男はアルマンの質問を無視し、話を続けた。


「彼女の死に至らしめたのは心臓に打ち込まれた一発の銃弾だ。その銃弾を調べてみたところとんでもない事実が発覚した」


 男はそういうとニヤリと笑みを浮かべた。アルマンの胸の鼓動は何故か徐々に速くなっていった。彼はとてつもなく嫌な予感がした。


「銃弾には線条痕という肉眼では見ることの出来ないものがあってね。それは指紋と同じで全く同じものはないんだよ。つまり、銃弾が放たれた銃の識別が可能というわけだ。そこで調査班の者が調べた結果アルフォード軍に登録されている銃の一つと一致した…」


 アルマンは自分の内側から何か悪寒のようなものが湧き出てくるのを感じた。アルマンはこの場から立ち去りたかった。だが、体はこの場所に留まろうとして動かない。

 そして少佐と思われる男の口から一言述べられた。


「その銃の名はジーク……、そう君が最も信頼を寄せている愛銃だ。彼女を撃ったのは君なんだよ」


  アルマンは凍りついた。リースを殺したのは自分? 最愛の女性を銃弾で撃ち殺した? 辺りを沈黙の闇が覆った。アルマンはこのまま沈黙が続けば確実に発狂してしまうだろうと感じた。だが沈黙の闇は少佐と名乗る男によって終焉を迎える。


「この事実を君が知らないのは無理がない。軍はこの事実を隠蔽しているのだから。だってそうだろう? そんなことが公になったら国民に対する軍のイメージが悪くなってしまう。ごく自然的措置さ。だけど私はそれが気に入らなくてね。せめて関係者には伝えようと思ってここに来たというわけさ」


 アルマンはあまりに衝撃的な事実を前に、ただその男の話を聞くことしか出来なかった。


「己が仕出かした罪は決して消えることはない。その罪は死ぬまで付きまとうことだろう。だが、それも仕方がない。何故なら、君は罪を犯したのだから……」


 男はそう言い終えるとその場を去っていった。アルマンはただ呆然と墓の前に立ちすくんでいた。もはや彼は何も考えることができなかった。




――数日後――



 結局、あの男が何者だったのかは分からないが報告者には確かに彼が言ったとおりのことが書かれていた。

 彼はいつもの通りに訓練に励んでいたがそれでも彼の心には何重もの鎖が絡まっていた。今や新たなる出発点としようとしたリースの墓は一転して彼の懺悔場と化した。

 彼は一生消えることのない罪を背負いながら生きていかなければならなかった。彼は何度も死のうと考えた。しかし、その考えを踏み止めたのは赤いバンダナだった。そのバンダナは彼に死ぬことは罪からの逃避行に過ぎないと訴えてきた。

 彼は誓った、生きると、生きて罪を一生背負い続けると、そして二度と同じ惨劇は繰り返さないと…。

 新たなる決意の元訓練に励んでいると上官か来るようにと促された。

 いったいなんだろうと思いつつ彼の元へやってくると上官はアルマンに聞こえる程度の声で話し出した。


「実はこれは上層部のものでも何人かしか知らないことなのだがお前には深く関係のあることなので心して聞いてくれ」


 アルマンは、今度は何だと思いつつもそれを表情には出さずに聞いていた。


「レギオス・ザルバンが昨日、第四大隊基地より脱走。すぐさま捜索隊を出したそうだが結局見つけることはできなかったそうだ」


 リースの件がつい先日知らされて間もないというのに今度は友の脱走。アルマンは胸が重たくなるのを感じた。頭はほとんど回転していない。


「彼の部屋には手紙が置いてあり、あて先はお前宛だったそうだ。俺が持っているのがその手紙だ。読んでみろ。まだ、誰も読んでいないんだ」



 恐る恐るアルマンは手紙を封筒から出し、手紙をゆっくりと開いた。

そこには一言こう書かれていた。


 ≪貴様だけは許さない、我が最愛なる女性を奪った罪は重い。その代償、貴様の血で払ってもらう≫


 アルマンは悟った。あいつだ、あの少佐と名乗る男が彼におれがリースの命を奪ったことを話したに違いない。そしてそれを軍が隠蔽しようとしているという事実も……。

 彼はたった一人の肉親である妹を殺した自分とその事実を隠そうとするアルフォードに復習するために軍を脱走したのだ……。

 アルマンとレギオスがその後、再び出会うことになるのは戦場であった。

 一方は【アルフォードの戦神】として一方は【ディーベルクの赤鬼】として…………




――オルフィス・アルマンの部屋――



「これが、おれが長年の間心の中に閉まっておいたレギオスとの関係だ」


 話が終わったと同時に辺りには非常に重い空気が立ち込めていた。アルマンの話した内容はそれほどのものだということだ。誰も口を開こうとはしない。再びアルマンは話を続けた。


「おれはレギオスに復讐されて当然だ。あいつには復讐する権利がある。そしておれにはその復讐を受ける義務がある。まぁ、仕方がないがな」


 再び沈黙が続いた。今度もまたアルマンが口を開いた。


「すまないが一人にしてくれないだろうか。話し終えて色々と思い出したことがあってね、その余韻に浸りたいんだ」


 そういわれるとケンたちは即座にアルマンの部屋を後にした。

 ケンたちは帰る途中自分たちの考えを述べ合った。


「まさか、隊長にあんな過去があるなんて思いもしなかったよ」


「ケン、人には一つや二つ、心の中に秘めていること何ざぁ誰にでもあることだぜ」


 ケンの驚いたという意見にマックがすかさず大人らしいことを述べた。


「ふ〜ん、なら聞くが、あんさんにも一つや二つ、心に秘めるもんがあるっちゅんか?」


 ケネスがすかさずマックに追求した。予想通りマックは何も言うことはできなかった。


「今度からものを言うときはよく考えてから言いやあ。口は災いの元ともいうしな♪」


「うぐぐっ…」


 今回の口ゲンカもケネスの圧勝のようだ。(おそらく今後もマックが勝つことはないだろう。もし、あるとすればそれは天地がひっくり返った時だろう…)


「う〜ん」


「どうしたの、レオン。悩んだ顔して。何か引っかかることでもあったの?」


 レイナはレオンに質問したのは彼が悩んでいたのもあったが様子がいつものレオンにもどっていたからだ。


「少々、気になることがありましてね…。何、たいしたことではありませんよ……」


 レオンは意味深な発言を言い終えるとスタスタと自室のほうへと帰っていった。他のメンバーも次々に自室へと戻っていき、ケンはリリスと二人きりになっていた。ケンは自室につくまでアルマンが話した内容を振り返りながらリリスと議論した。そのひと時は何故か安らぐとケンは感じた。ケンの自室の扉が見えるとリリスはそれじゃ、といった感じで帰ろうとした。しかし、ケンは彼女を引きとめ、リリスの部屋までお見送りをすると言い出した。

 リリスはそれがとても驚いた様子であった。また非常にうれしかったのだろう満面の笑みでケンに笑って見せた。リリスを部屋まで送るとケンは彼女にまた明日と言って返ろうとした。 今度はリリスが彼を止め、一言ケンに述べた。


「ありがとう、うれしい。優しいのね、ケン」


 その一言にケンは思わず頬を赤らめてしまった。それが見られるのが恥ずかしかったのでケンは手を振りながら即座にその場を後にした。




――ケンの部屋――



 ケンは再びベッドに横になった。そしてアルマンの話を思い出していた。最愛の女性と親友を失ってしまった男、アルマン・ギルガネス。彼は未だに背中に罪を背負いながら生きているんだなとケンは深々と感じた。そして悲惨な過去を持ち合わせているのは自分だけではないんだ、と感じアルマンに一種のつながりのようなものを感じた。

 意識はもうろうとし始めケンは深い闇へと落ちていった。




――アルマンの部屋――



 アルマンは先ほどと同様にベッドの上に座っていた。しかし、その手には何かが持たれていた。赤い色をしたバンダナ…そう、それは紛れもなくリースのバンダナだった。彼女の遺品でもあるこのバンダナは結局レギオスの元へ渡らなかったのだ。

 レギオスはバンダナを手で握り締めながらポツリと独り言を放った。


 「リース、君への罪は償うよ。そして約束しよう、もう二度と仲間を死なせたりはしないと!」


 戦士たちの夜は永きに渡り続いた。夜明けはまだ来ない……。






一部主な登場人物の紹介


〜アルフォード王国〜


―特殊戦略部隊―


ケン・シュナイダー:第一部の主人公:16歳:男性:紅色の短髪:黒色の瞳:アルフォード王国の機動歩兵として前線でその自慢の剣術を巧みに使って活躍していた。その腕が買われアルフォード国王直属の部隊で特殊戦略部隊、通称『特戦』に配属される。彼が軍に入隊したのには悲しい過去が関わっている。彼が使用する剣術は天魔無双流と呼ばれるものでそのあまりに巨大な力のために神にも魔にもなれると言われている。またその所持する剣もこの世界で流通している両刃の剣ではなく、片刃の剣、刀である。情に熱い男でこの情こそが彼の長所でもあり短所でもある。



アルマン・ギルガネス:隊長:26歳:男性:黒色の中髪:茶色の瞳:人柄がよく誰にでも好かれる人物。任務のために冷酷になろうと努力しているがいざとなると人命を優先してしまう。ギルガネス家の人間で超人的な運動能力を持つ。その運動能力は発射された弾丸を簡単に避けられるほど…。刃物から銃までありとあらゆる武器を使いこなすエキスパートでもある。【アルフォードの戦神】(もしくは戦神)という二つ名でディーベルクの兵士に恐れられている。以前、リースというレギオスの妹と恋人関係にあったが任務中誤って彼女を殺害。これによってレギオスの恨みを買い、親友から敵へと変わってしまう。



レイナ・フランク:副隊長:25歳:女性:紫色の長髪:緑色の瞳:隊の中では頼れるお姐さん的存在。狙撃の名手でその集中力は三日間、同じ射撃体勢でいられるらしい。



マック・エイガー:ムードメーカー:20歳:男性:茶色の短髪:青色の瞳。大柄で長身。細かいことは気にしない豪快な性格。基本的にバルカン砲などの重火器を使用して戦うが他にも白兵戦用に大薙刀を使用する。



レオン・マッケイン:天才:17歳:男性:水色の中髪:銀色の瞳:IQ200を越える超天才。言葉数が少なく、無愛想。その頭と魔法で数々の戦いを勝利へと導いてきた。また、ハッキングを得意とし、セキュリティー解除や、情報の奪取なども行う。



ケネス・フロイド:曲者:20歳:男性:黄土色の中髪:黒色の瞳:妙な言葉遣いをするお調子者だが任務の時には隠れた冷酷さを見せることがある。爆弾に関しては確かな腕を持つ。特戦の曲者的存在。



リリス・クラフト:オペレーター:16歳:女性:朱色の中髪:水色の瞳:性格は非常に明るく、特戦のマスコット的存在。彼女の存在が隊員の戦場で受けた心の傷を癒しているのは疑いようがないだろう。オペレーターとしての腕も確かなものを持っている。




―その他の人物―


リース・ザルバン:亡者:18歳:女性:金色の中髪:茶色の瞳:レギオスの妹にしてアルマンの元恋人。アルマンからもらった赤いバンダナを常に身に付けている。任務中、誤ってアルマンに射殺された悲劇の女性。彼女の存在はアルマンとレギオスの関係に多大な影響を与えている。




〜ディーベルク王国〜


―ツイン・バルベルト―


レギオス・ザルバン:赤鬼:26歳:男性:金色の長髪:茶色の瞳:バルベルトと呼ばれる槍と両刃の斧を合わせたような武器を巧みに扱う者。性格は非常に冷静でどんな窮地に陥ろうとも理性を失うことはない。唯一、アルマンのことになると感情を表に出す。通称、【赤鬼】と呼ばれアルフォードの兵士から恐れられている。リースとは兄妹関係にある。妹を殺したアルマンに復讐心を燃やしている。




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