アルマン 【弐】
――ドライアス山岳地帯――
輸送機が通信のあった場所に降り立つとアルマンらは即座に大地へと降り立った。そして輸送機内で確認した自分たちの捜索区域へと駆け出した。
担当区域にたどり着くとアルマンは自分を中心に正方形の陣形を取った。左前にレギオス、右前にリース、左後ろにチャック、右後ろにロベルトという感じだ。お互いに2メートルほど距離をとりながら彼らは敵が隠れていないか全ての感覚を研ぎ澄ませていた。
捜索を開始してから半刻が過ぎないうちに第一小隊の小隊長から通信が入った。どうやら敵は自分たちとは反対方向に逃亡したようだ。
通信を終えるとすぐさまアルマンたちは第一小隊の担当する区域へと向かった。
ほどなくして現場に到着するとすでに現場では銃撃戦が始まっていた。しかし、敵の姿は捉えられない。
「第二小隊、ただいま到着した。至急援護を行う。しかし、敵さんはいったいどこだ?」
アルマンはそう第一小隊長に尋ねたがどうやら彼も大体の位置しか把握できていないようだ。こちら側はほとんどの小隊が到着していたが既に四人もの兵士が息絶えていた。むこうの兵士はよほどの腕の持ち主と考えていいだろう。しかし、どうやらそれだけではないようだ。どうやら敵はかなり高性能な暗視ゴーグルを装備しているようだ。こちらも暗視ゴーグルは着用しているのにもかかわらず敵を捉えられないのだから可能性は十分にある。
アルマンは一瞬考え込むと咄嗟に全ての兵士に暗視ゴーグルのスイッチを切るよう促した。兵士たちは何のことやら分からなかったが考えるよりも先に体が反応したかのように一斉にスイッチを切った。
アルマンはそれを確認するよりもさきに星空目掛けて銃口を向けた。
ボシュ――――、パンッ!
アルマンが放った弾丸は空高く上昇するといきなりとてつもない光を放ちだした。発光弾である。アルマンはすぐさま敵の姿をとらえると愛銃であるカスタム突撃銃ジークの引き金を引いた。敵はあっけなくバタバタと倒れていく。アルマンに少し遅れて他の者たちも次々に敵目掛けて銃弾を放つ。今度は発光弾によって発生した擬似太陽の光によって敵をはっきりと捉えることが出来た。数分後、アルマンらは敵の半分を一掃することに成功していた。
彼らが何故こうも敵をたやすく一掃できたのか?それには暗視ゴーグルの仕組みが深く関わっている。暗視ゴーグルは光量を増幅する装置でそれによって暗黒の中でも視界を得ることができる。しかし、もしそんな状態で太陽ほどの強い光を見てしまうとどうなるか? 答えは簡単、暗視ゴーグルは視界を失うのだ。たしかに数分も立たないうちに視界は回復するがアルマンたちにとってはその数分で十分なのだ。
「半分は逃げたか、どうやらまだ十人ほどはいたようだが……。よし、とにかく先を急ごう。奴らを逃がすな!」
アルマンの掛け声と共に第三中隊は一斉動き出した。どうやら先ほどの行動によって自然的にアルマンが指揮官の位置に就いたようだ。
第三中隊は彼の指揮の下、残りの敵の討伐へと向かった。
――キヌマス遺跡――
「どうやら敵はここに隠れて可能性が高いな」
アルマンは遺跡の入り口を見ながらつぶやくように述べた。
キヌマス遺跡――この遺跡は彼らの文明が築かれる何万年前に存在していたと言われる文明の遺跡でその文明の技術力は彼らが持つ技術力よりも高いとされている。このような遺跡は他にも点々と存在し、多くの学者の関心を買っている。通称、この文明のことを彼らは超文明と呼んでいる。
遺跡は断層をくり抜いて存在しており、その入り口は斬層と一体化している。しかし、内部の壁はどうみても人工的な素材でできている。
「よし、第一小隊と第三小隊、そしておれら第二小隊はこの遺跡内部に入り敵を捜索しよう。他の小隊はこの近辺の捜索に当たってくれ」
アルマンはそのように告げると部隊を引き連れ遺跡へと入っていった。
内部は床に非常灯のようなものが点灯しておりかろうじて足場が見える程度の光しかない。またその通路の横幅は人二人分ほどしかない。入り口から内部に入ってから間もなくして通路が三手に分岐している場所にたどり着いた。そこでアルマンはそれぞれの小隊で捜索するようにした。第一小隊は左の道を、第三小隊は右の道をそして第二小隊は正面の道を進むことにした。
しばらくしてアルマンたちは遺跡の外のものたちと全く通信ができないことに気づいた。どうやらこの遺跡は電波を遮断しているようだ。(内部にいる者たちにはちゃんと電波は届くようだ)そのまま進むこと数分、アルマンたちは一つの空間にでた。何やら変わった機器が置いてあり、何かの作業を行う場所のようだ。更に奥には一つの道がある。
アルマンが進もうとした時、チャックが皆を止めた。
「待ってください。ここから先は道が分かりません」
「分からない?」
「はい、ここから先はまだ調査が済んでおらずデータがありません」
アルマンは困ったという顔をしてその場に止まったがすぐさま行動に移った。つまり先に進みだしたのだ。
「道が分からないのは敵さんだって同じさ。要は同等の視点にたっただけさ」
そういうと皆も納得してか黙って先に進みだした。ただし、道が分からないということは敵が隠れそうなところも分からない、つまり敵がどこにいるのか全く予想できないということで奇襲にあってもその対処が難しくなったということを意味する。隊員たちはより一層神経を尖らせながら進んだ。
内部に入って間もなく半刻が経とうとしていた。敵は未だに出てこない。突然、第三小隊から通信が入った。
『こちら第三小隊、敵に遭遇、交戦状態にある。しかし、旗色があまりよろしくない。くっ、こいつら予想以上に手ごわい。もはや、オレを含めて隊員は二人しかいない。お前たちも十分に注意し……バンッ、ぐっ……』
通信はそこで途絶えてしまった。どうやら第三小隊は全滅したようだ。その通信を聞くや否やアルマンは彼らの元へ向かおうとした。次の瞬間、前方より複数の銃弾が迫ってきた。
すかさず、アルマンたちは壁のくぼみに身を隠す、だが最後尾にいたロベルトは一瞬判断に遅れ、まともに銃弾を浴びてしまった。ロベルトは無残にも地面に崩れ落ちた。
「ちっ、この野郎…よくもロベルトを!」
アルマンはすぐさま飛び出すと銃声を頼りにジークを放った。奥のほうで人の苦痛の声が聞こえた。どうやら命中したようだ。アルマンは間をおかず敵の方向へと突進した。
「バカッ、早まるな、アルマン!」
レギオスはそういいつつも他の隊員たちを引き連れアルマンを追った。アルマンに追いつくと目の前には既に息絶えた敵兵士の屍が倒れていた。どうやら先ほどの銃弾は彼の急所を射抜いたようだ。
しかし、彼はそんなことを考えるより先にアルマンに警告した。
「ロベルトの後を追うつもりか? お前は隊長なんだぞ、アルマン! もし、こいつが死んでいなければお前がこいつのようになっていたかもしれないんだぞ!?」
その言葉にアルマンはあっさりと言葉を返した。
「安心しろ、レギオス。おれはお前たちを置いて死にはしない。それに先ほどの銃撃でこいつが倒れる音を聞き取ったんだ。別に何も考えずに突進したわけではないよ」
レギオスはこのとき改めてアルマンがギルガネスの一族であることを思い出した。彼の身体能力は我々より数倍高いのだ。だから我々に聞こえない音もアルマンには聞こえている場合もあるのだ。レギオスはやれやれという表情でアルマンを見た。
「なるほど。確かにお前の言うことはよく分かったがお前が隊長であることを忘れるな。隊長はただ単に戦う兵士ではない。兵士たちを動かす指揮官なんだ」
「そのくらい分かっているよ」
二人のやり取りは一向に収まる気配がない。二人のやり取りを止めたのはやはり彼女だった。
「こら、こんな時にケンカしてもしょうがないでしょ。それにいくら悔やんだってロベルトは生き返らないわ。それよりどうやってロベルトの仇討ちをするかを考えるべきよ。それこそ、死んでいったロベルトが浮かばれるはずよ」
アルマンとレギオスはリースの言葉を聞き終えるとお互いに向き合い苦笑した。そうだ、今はこんなことをしている余裕はない。いつ何時、敵に奇襲されるか分からないんだ。
「確かにリースの言うとおりだ。おれが悪かったよ、レギオス」
「こちらも言い過ぎた。許せ、アルマン」
気がつけば彼らの士気はより一層高まっていた。ロベルトの死が彼らの闘争心火を点けたというのもあるがやはりリースがメンバーの意思をまとめたからであろう。リースという女性はそれだけ彼ら第二小隊において重要な存在であったのだ。
――キヌマス遺跡(最深部)――
そうこしているうちに彼らはかなり奥へと足を踏み入れていると感じた。先ほどと比べてかなり多くの部屋に出くわすようになったからだ。今となっては道から部屋へ、ではなく部屋から部屋へ、になっている。
移住区域のような部屋を出た彼らの前に再び分岐地点が見えた。道は二手に分かれていた。
「また、分岐点か。よし、おれとリースは左に、レギオスとチャックは右に進んでくれ」
「しかしそれでは戦力が半分になってしまうぞ」
「だからといって敵を逃がすわけにはいかない。大丈夫だってレギオス、敵と遭遇しだい連絡をとればいいだけさ」
アルマンの案に少々反対ではあったがレギオスも彼の考えに納得したため分かれて行動することに決めた。アルマンは後ほど、この選択に非常に後悔することになろうとは当時のアルマンはこれっぽっちも思っていなかった。
レギオスたちと別れてアルマンとリースは更に奥深くへと進んだ。だが敵の気配は全く感じられない。アルマンはリースのほうへ顔を向けてみると彼女の表情が不安の色に染まっていることに気づいた。
「リース意識を敵の気配へと集中させろ。ロベルトの二の舞を踏むことになるぞ。そう心配するな、レギオスなら大丈夫さ。君の兄さんの実力は唯一の肉親である君が一番知っているはずだろ?」
リースはアルマンの言葉に幾分安心したようで彼女の表情には明るさが戻っていた。彼女ら兄妹は早いうちに両親を亡くし、兄妹力をあわせて今まで生きてきたのだ。その絆はとてつもなく深い。レギオスがいつも妹のことになると性格が豹変するのもこういう事情があってのものだ。(だからといってシスコンであることには変わりはないが…)
その時、アルマンの通信機に信号が入った。どうやら送り手はレギオスのようだ。
「あぁ、レギオスか。どうだ、そっちのほうは……」
『アルマン、こちらはビンゴだ。敵とばったり遭遇してしまった。しかもかなりの数だ。これでは太刀打ちできるのも時間の問題だ。今すぐ他の部隊に連絡をとって応援に来てくれ』
「分かった、今すぐそちらに向かう。それまで耐えてくれ!」
アルマンはレギオスと通信を終えると急いで分岐点まで駆け出した。そして第一小隊に応援要請の通信を取ろうとした。だが、事態はとてつもなく深刻であるということにアルマンは気づかされた。
第一小隊との通信が出来なくなっていたのだ。